第4章6 紅と赤
第四章
六 紅と赤
「うわっ! 誰!?」
咄嗟のことに声を上げて後ずさる。
「誰? だってさ、ガハハ」
「この辺は美人が多いって聞いてはいたが、大当たりだな」
茂みをかき分けて現れたのは体格の良い男達だった。
人数は五人ほど。
体格が良いと言っても、格好や風貌からも騎士や憲兵では無い。
かと言って、一般的な村人や行商人でも無さそう。
どれかって言うと、以前王都の繁華街で絡んできたチンピラに近いものを感じるけど、もっと強そうだ。
「――山賊なのか?」
つい口を吐いてしまった。
でも恐らく正解だろう。
伸びた髪をまとめたり、雑に切ったりしていて、服も動物の皮を鞣した物や恐らく旅人から奪ったであろうバラバラのデザインの物を適当に重ね着していて一貫性が無い。
そうか、コッチの世界ではそう言う輩も割と普通に居るんだな。
そりゃあ、オレのいた元の世界だって地域によっては未だに居るのかも知れないけど、居た国では聞いたことが無い。
「お嬢様は山賊なんぞ見たことが無いか、ガハハ」
「まぁ、これからいくらでも分かることになるぞ。……捕まえろ」
「!!」
ヤバい!
中央に居る一番髭を伸ばした奴が親分なんだろう。
子分達が一斉にオレに飛びかかってくる。
踵を返し皆の所へ走り出す。
皆が居る馬車までここから歩いて約十分。
本気で走れば五分かからないだろう。
このお姫様も体力無さそうに見えても、儀式の練習やらなんやらで最低限の体力もあるし、運動神経も別に悪くは無い。
――だけど、それはあくまでお姫様にしては……と言う話。
「痛っ! 放せ!」
石と土と草が混在する足場の悪い場所でそんなに早く走れるわけも無く、三十秒も経たないうちに山賊子分の一人に右腕を掴まれる。
「――あっ!」
容赦なく掴まれた拍子に、右手で持っていたコンパクトが地面に落ちる。
丁度石に当たってしまったのだろうか、カツンと堅い音が響く。
だがそれも、山賊達の下卑た笑いにかき消される。
コンパクトにはこの身体の本来の持ち主であるお姫様の魂が入っているのに。
キッと睨むと、手を掴んでいる山賊が黄色い歯を覗かせながらニヤリと笑う。
「お頭~、売っ払う前に遊んじゃっても良いっすか~?」
「そうだな、その方が大人しくなるだろう。早く済ませろよ」
「へへっ、ラッキー」
「ちょっ! 止めろ! 放せ!」
親分の許可が出ると、別の子分がオレの足を掴み、地面に引き倒す。
今までも散々、ロッソを始め色んな奴らに彼方此方掴まれたり、撫で回されたりしてきたけど、彼奴らはオレを傷つけるつもりが全然無かったのだなと、こういう状態に追い込まれて思い知る。
手加減せずに掴まれた手足は今にも折れそうで、山賊達にとっては別に折れたって良いのだろう。
そう考えた途端、恐怖に身がすくむ。
こんな悪意、前世でも今世でも受けたことが無い。
でも、諦めるわけには行かない。
けれど、四肢を押さえつけられ、五対一。
一体どうしたら――
――ドン
何か大きな物がぶつかったような音が真上で響く。
誰かが山賊を蹴り飛ばした?
「え?」
覆い被さっていた山賊が視界から消え、
――ドン
更に、足を押さえていた山賊も同じように蹴り飛ばされて吹っ飛んでいった。
拘束が解かれたので、身体を起こすと――
――ドサッ
吹っ飛ばされた二人の山賊が上半身に剣を受け、同時に後ろへ倒れた。
そして、オレと吹っ飛ばされた山賊の間に立ちはだかっていたのは、
「レオーネ様?」
――紅い瞳
暗紅色の瞳が紅く鋭く光ったように見えた。
「一人も逃がすな!」
見たことの無い険しい形相で指揮を執るロッソの姿。
あまりの疾さに理解が追いつかない。
「当然です」
直ぐ後ろから両手にそれぞれナイフを構えたエミリィちゃんとルーカが全速力でオレたちを通り過ぎる。
エミリィちゃんは逃げ出した山賊のうち二名に走ったままナイフを命中させると、山賊達はそのまま左右へと大きな音を立てて倒れる。
「エミリィちゃん、一人は生かしておかないと」
エミリィちゃんと併走していたルーカは、エミリィちゃんがナイフを投げたタイミングで大きくジャンプし、他の二名の前に立ちはだかる。
いつもと同じ軽やかな口調とは裏腹に、一切の迷い無く子分の方を倒すと、そのまま親分の首元に剣を当て、
「どっちが地獄か分からないけどね」
チェックメイト。
「レオーネ殿に続けー!」
「「おおー!!」」
ほんの少し遅れて王国騎士団達も駆けつける。
王国騎士団達の足が決して遅いわけではなく、この三人が速すぎたのだろう。
ルーカから山賊の親分を引き取り、しっかりと縄で拘束する。
「ヴィオーラ、起きられるか?」
山賊の拘束を確認したところで、ロッソは剣を鞘に収め、オレに手を伸ばす。
「あっ……ああ」
もうさっきまでの険しい顔つきでは無い。
お礼の言葉も何も出ず、おずおずとその手を掴む。
――ぐいっ
力強く引き寄せられて、そのまま強く抱きしめられる。
力は入っているけど、やっぱりさっきとは全然違う。
痛くないし……怖くも、嫌でも無い。
……嫌でも無いというか……
「怖い思いをさせて、すまない」
軽装なこともあり、ロッソの体温をダイレクトに感じる。
温かさを感じて、涙が零れる。
「……こっちこそ、ごめんなさい」
慌てて涙を拭おうとすると、更に腕に力がこもる。
「周りからは見えないようにしているから、我慢せずに泣いて良い」
「そんなこと言われたら我慢できなくなっちゃうだろ……うぅ」
「我慢する方が引きずるから、しない方が良い」
遠くで山賊への尋問が聞こえる。
でも、それよりも鼓動が五月蠅くて何を話しているのか分からない。
この五月蠅い鼓動はオレの物なのか、それともロッソの物なのか……。
分からないけど、今はもう少しだけこの温かさと鼓動を感じていたい。
◆ ◆ ◆
「ヴィオ様、コンパクトの外側は少し傷ついてしまいましたが、中身は無事でした」
「エミリィ、ありがとう。大事な物だから中身が無事で良かったよ」
暫くしてオレが落ち着いたのを見計らって、エミリィちゃんが落としたコンパクトを綺麗にしてから手渡してくれた。
併せて場所も、山賊達の身体が見えない場所へと移動した。
エミリィちゃんの言うとおり、外側の細工が若干傷ついて取れてしまっているが、中の鏡は無事だ。
お姫様はこちらから見えない死角に隠れているようで、エミリィちゃんにもバレずに済んだ。
「ヴィオ様、本当に申し訳ないッス。俺が花の事なんて話したから……」
「セルジョのせいじゃないから、頭を上げて! この辺の治安が分かって無くて、軽率だったのはこっちなんだからさ」
エミリィちゃんとコンパクトを確認していると、後から駆けつけてきたセルジョが気の毒なほど頭を下げるので、何とか押しとどめる。
「……お気遣い、ありがとうございます。ですが、本当はこの辺は田舎で普段は山賊なんて殆ど見掛けない地域なんスよ。実質、賢者の森で行き止まりだからって」
セルジョの言葉に村からの従者達も頷く。
「あの山賊達は普段は帝国に通じる山道の方で活動していたらしいよ」
ルーカが手首を回しながら、茂みから戻ってきた。
どうやら尋問は一段落したのだろう。
「ノルド村もVIPが来るという噂で賑わっていたんだ、それに釣られて余計な者まで着たという所か」
ロッソの言葉にルーカが首を縦に振る。
ロッソは尋問に加わらず、ずっとオレの側に居た。
流石にオレの涙が治まったのを確認して、抱きしめるのは止めたけれど。
ってか、泣いてるのは他の人から見えなかったかも知れないけど、ガッツリ抱きしめられているのは皆に見られてしまったわけで、今更ながら恥ずかしくなる。
そんな場合じゃ無かったのは分かっては居るんだけどさ。
「そうみたいだね。別に大きな組織にも所属したりして無さそうだし、ヴィオちゃんのことも誰だかは分かっていなかったみたいだね」
「こんな短時間にそんなことまで聞き取っちゃったの?」
オレも大分落ち着いたので、会話に加わる。
「うん。僕、こういうの得意なんだよね」
いつものようにキラキラと絵画から飛び出した天使のように微笑むルーカだけど、よく見ると何か手から赤い物がしたたっているんだけど……
「あはは、ソウナンダー」
きっと詳細は知らない方が良いな。
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またコツコツ更新していくので、続きも読んで貰えると嬉しいです。




