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底辺配信者はお金がない。深層で攻略Wikiを拾ったので、これから金策を始めます  作者: 水一乃


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第4話 救うと言った相手に、いきなり魔法をぶっ放す

 ――グゥオァァァァァァオオオッ!!


 怒り狂うヴォルガドゥグの咆哮が炸裂していた。


 ルナを狙う敵の前脚や尻尾が、ダンジョンの壁や床を勢い任せに破壊しまくっている。


 弾け飛ぶ破片を背中に浴びながら、けれども振り返らない。

 まるで、背後から向こうが別世界であるかのように、聖は目の前の少女を凝視していた。


「それでしたら、救って差し上げましょう!」


 早く称えろと言わんばかりの態度。


 頭上からパラパラと天井の破片が降り注ぐ。


 すぐそこでヴォルガドゥグが暴れているのに、少女は眉一つ動かさない。

 衣服を見ると、地下45階層の奥から現れたというのに白い修道服がおろしたてのように汚れていない。


 違和感しかない。

 胸の奥から嫌な熱が沸き上がった。


 ――新種のモンスター。


 握りしめた拳が、自覚なく震えていた。


 ――それも、庇護すべき対象の姿を模した、人の心をあざ笑うような悪意の塊。


 折れた剣を投げ捨てた。

 聖は震える手を、さっと前にかざす。

 湧き上がる怒りを冷徹な殺意に転換させ、魔力を限界まで高める。

 

 一発しか放てない爆裂魔法。

 けれども、油断しているこいつなら、今の自分でも倒すことができる、と聖は踏んだ。


 魔力を高める聖。

 胸を張り続ける少女。


 ヴォルガドゥグの咆哮と破壊音を背景に、数秒が経過した。


 少女型モンスターは長い沈黙に異常を感じたのか、薄く片目を開く。


 ――まずい。敵が目を覚ます!


 魔力の充填は完全じゃない。しかし、このチャンスを流すわけにはいかない。


「くらえ! バースト・ドライヴ――」


 少女型モンスターのまぶたが跳ねあがる。


「ちょ、ちょっと!! 待ってぇーっ!」


 必死の形相で手のひらを向ける。


「――な」


 集中させていた魔力が淡い光の粒となって周囲へと散っていった。


「くそっ!」


 すぐに意識を戦闘状態に引き戻そうとするが、敵の心底ほっと胸をなでおろす仕草に集中力が散らされてしまう。


「死ぬかと思いました――って、ほっとしちゃいけません!」


 白いヴェールの隙間から、怒りの感情を露わにする。


「何でいきなり攻撃してくるんですか! 救うって言ったじゃないですか! 救われたいって言ってたじゃないですか!」


 手足をじたばたさせながら詰めてくる少女風モンスターに、聖は後ずさりする。


 ズゥン……ズゥン……と、相変わらず背後では、ヴォルガドゥグの破壊音が鳴り響いていた。


「ま、待って……少しだけ時間をくれ」


 少女風モンスターを手で遮る。

 すると少女は、むぅと頬を膨らませて素直に待機した。


 聖はとりあえず深呼吸をしてみた。

 

 少しだけ冷静になれた気がしたので、目の前の事実だけに注目して、思考を巡らせてみる。


 会話ができる。つまり、上手くコミュニケーションを取れば、戦闘を避けられるかもしれない。


「モンスター……ですよね?」


「わ、わたし、そんなに変な格好してますか!?」


 少女は一気に顔を真っ赤に染め上げ、目元に涙を浮かべだす。 


「ち――違う。似合っている。かわいいよ。うん」


『誰と喋ってんの』

『かわいいって誰に言った』

『ついに壊れたか』


 咄嗟にでた言葉に、少女の顔から笑みがこぼれだす。


「えへへ。そうですか」


 純粋に褒められて喜んでいるようにしか見えなかった。

 その無垢なかわいらしさを前に、聖の中にあった警戒感がゆっくりと、しかし確実に溶けて消えていく。


 ズドォォォォン!


 鼓膜を震わせる轟音。

 足元が激しく揺れた。

 瞬時に地面がひび割れ、牙を剥くようにせり上がる。


 あまりの衝撃に、少女は激しく体勢をくずす。


「わ――」


 よろめいた少女の身体が、真っ直ぐに聖へと倒れ込む。


 聖はとっさに、その華奢な肩を受け止めた。


 気づけば少女を腕の中に完全に抱きしめるような形になっていた。


『え、今なんで急に抱きつく体勢』

『瓦礫よけたんだろ』

『相手誰?』


「あ、ありがとうございます」

「いや……気にするな」


 腕の中で、うるうるとした瞳の少女が、恥ずかしそうにこちらを見上げていた。


 その無防備な上目遣いに、聖の胸は激しく高鳴ってしまった。

 何を照れているんだ、と自制しようとした瞬間――頭上から容赦なく巨大な岩が降り注いだ。


 さらにすぐ横を、崩落した壁の質量が猛スピードで通り過ぎていく。


 少女を抱きかかえたまま、聖は背後のヴォルガドゥグへと振り返る。


 少女のほんわかした雰囲気に吞まれかけていたが、今この瞬間も、ルナのおかげで時間を稼げているだけの絶体絶命の状況。

 

 完全に味方だと決めつけることはできないが、今は動くしかない。


「本当に、この状況から救ってくれるんだよな?」


 聖の問いかけに、赤らめていた少女の顔から一瞬で表情が消えた。

 凛とした顔つきになり、正面からその視線を見つめ返してくる。


 何も答えない。


 その瞳の中心に、必死な顔で縋ろうとしている自分の姿が映り込んでいた。


 言葉なき眼差しが容赦なく、心の奥底へと潜り込んでくる。

 

 ――あの時の月乃と同じように。


 手に思いきり力を入れ、歯を食いしばった。


 腕の中にいた少女の肩へと手を移す。

 そして、疑念を無理矢理引きはがすように両腕を突き出し、その身体を引き離した。


「助けてくれっ!」

「わかりましたっ!」


 間髪入れない返事に、少女は聖の腕を離れて振り返り、暗闇が広がるダンジョンの奥へと駆けだした。


「おい! どこ行くんだ!?」

「ついてきてください! この先に安全な場所があるんです」


 少女の姿を暗闇が呑み込んでいく。


 一瞬、背筋が凍りつくような恐怖が走った。


 ――いや、だめだ。 


 頭を激しく振り、よぎる弱音を力任せに振り払う。


 疑うな。今はただひたすらに、少女についていく。


「ルナ――っ!」


 名を叫んだ瞬間――ゴンッ! と後頭部に激しい衝撃が走る。


「痛っ――!?」


 涙目で振り返ると、ルナがすぐ後ろで、本体を前後左右に細かく傾けながら、せわしなくホバリングを続けていた。


 さらにその背後では、ヴォルガドゥグが派手に壁をぶち破って深々とめり込み、完全に足を止めていた。


「浮気者!」


 ルナが鼻先まで急接近する。


「人が必死に時間稼いでいる間に、女と抱き合うってどういうことだー!!」

「何言ってるの! ってか、見てたのかよ!」


 鋭いモーター音とともに、レンズが細かくズームとピント調整を繰り返す。


「全部配信しているからね! お兄ちゃんの非道を!」

「誤解だって! つか、お前――」


 少女のことをおかしいと思わないのか? そう口にしかけて――


 あれ?


 なんで俺は、そんなこと気にしているんだ?

 月乃が少女の正体を気にしていないのなら都合がいいじゃないか。


 妙にすっきりとした思考に押し流される。


 まあ、いいや。


「――いや、それより。今すぐあの子を追ってくれ」

「はぁ!? 人のお兄ちゃんをたぶらかす女を!?」


 聖がルナを両手でつかみ、カメラに向かって真っすぐに顔を近づける。


「たのむ! 今は俺の言うことを聞いてくれ!」


 聖から離れようと、ルナはプロペラの回転数を上げて激しく抵抗する。

 

 だが、逃がすまいと本気で抑え込んでくる腕の強さを感じたのか、やがて観念したようにゆっくりと回転数を下げた。


「……わかったよ。お兄ちゃんの言うとおりにするよ」

「――ルナ!」

「でも、どうするのあれ。すぐに追いかけてくるよ」


 ルナから手を離す。

 機体に遮られていた視界が開けた、その向こう側。

 

 壁に深くめりこんだ体を、後ずさりで引き抜こうとしているヴォルガドゥグの姿が見えた。


 たしかに月乃の言うとおりだった。


 背中を向けて逃げている最中に、あの巨体に後ろから襲われれば、少女を信じる信じないは関係なしにやられてしまう。


 手が熱を帯びていた。

 聖はその熱の根源を目で追う。

 薄く光が灯っている。

 

 一発分には届かない。けれど――


「大丈夫だ。お前は先に追ってくれ。今度は俺が奴の足止めをする」


 不思議と恐怖はない。


 高速で暴れ回る尻尾を捉えたという事実が、時間稼ぎぐらいならできる、という確かな自信につながっていた。


 こちらを見つめるルナのカメラが、まるで月乃自身の瞳のように、聖の表情を確かめていた。


「わかった。今のお兄ちゃんなら大丈夫そうだね」


 ダンジョンの奥へ移動を始めるルナ。聖を通り過ぎてしばらくすると、後から音声だけが聞こえてきた。


「でも! 絶対に死んじゃだめだからね。死んだら私も死ぬから! 死因、兄死だから!」


 遠ざかっていく音声。


『は? 画面真っ暗』

『え、置いてった?』

『一番いいところで』


 聖の口元が自然と緩む。

 ルナがこちらの声を拾えない距離だとわかりながらも、はっきりと答えた。


「もちろんだ。絶対にお前を死なせはしない」


 バラバラと瓦礫が落ちる。

 完全に体勢を持ち直したヴォルガドゥグが、確かな殺意で目標を定めていた。


「かかってこい。今度は俺が相手だ」


 にらみ合う時間もなく、ヴォルガドゥグが一気に踏み込む。


 前脚は上げていない。

 確実に、一瞬で仕留めるために、口を広げて身体ごと全体重をかけて襲い掛かる。


 聖は更に口角を上げた。

 輝く手を振りかぶる。


「やっぱり今日は、運がいい!」


 迫りくるヴォルガドゥグの巨大な顔面。

 それを目掛けて全力の魔力を叩き込む。


 グゥオァァァァァァオオオ!!!!!!


 接触寸前で爆発が起きた。


 その衝撃に聖は後方へ吹き飛ばされる。

 ヴォルガドゥグは怯んだだけだが、狂ったように周囲の壁や地面を攻撃し始めた。


 地面にたたきつけられた痛みを堪えながら、聖は急いで立ち上がる。


「――やった!」


 目の前で放った魔力の強烈な光。

 狙い通り、ヴォルガドゥグは視力を一時的に失っている。


 暴れ回るヴォルガドゥグを背に、聖は少女とルナの後を追う。


 しばらく走ると、ヴォルガドゥグの破壊音が遠ざかり、ルナの駆動音が近づいてきた。


 その先に、白い修道服がぼんやりと浮かんでいる。


 広い袖を持て余しながら小刻みに手を動かす少女と、アームを限界まで伸ばしてブンブンと振り回すルナ。


「お兄ちゃん! こっちこっち!」

「こっちですよ聖さん!」


 ちょっと間抜けに見えるその動きに、聖は無意識に顔がほころんでしまった。


 地面をより強く蹴り、速度を上げる。

 

「ルナ! ヒナ! 待たせ――」



 違和感が脳裏をかすめた。


 あれ? 今、何かおかしく――


 だが、違和感が形を成すよりも早く、無事2人に追いついた嬉しさが頭の中を塗りつぶしていく。


 ――まあ、いいや。

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