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第一章

 コツリ、コツリ――

 規則正しい音が、回廊に細く響いていた。

 硬いものが床を打つ乾いた響きと、わずかに何かを引きずる掠れた気配。


 王太子セドリックは、あえて靴音を立て、その存在を知らしめるように音に近づいた。

 短く整えられた髪は漆黒。

 王太子としての威厳をまといながら、薄い青灰色の瞳の奥には確かな優しさを静かに宿していた。


 音の先には白い人影。

 人影は静かに動きを止めた。


 ――セドリックの双子の兄、第一王子セラフィール。

 しかし、双子でありながら、その姿には重なるところがない。


 薄い光の中にかすかに浮かび上がる、床に届くほどの白い髪。


 その面差しは、人でありながら、まるで人ではないかのように玲瓏として美しい。

 しかし、造り物めいた顔を飾る両の瞼は閉ざされたままで、人の世界を映すことは決してない。


 「兄上。聖堂までご一緒いたします」


 セドリックの声に、セラフィールはその位置を探るように顔を上げた。


 「ありがとうございます。ですが、それには及びません」


 穏やかな声はやわらかく拒絶する。

 そのやわらかさの底に沈む頑なさを、セドリックはよく知っていた。


 「行き先は私も同じです」


 セラフィールは答えず、手にした杖を握り直した。

 床を打って足を少し引きずり、セドリックに答えず歩きだす。

 先ほどと同じ硬い音。


 細い身体は消えてしまいそうなほど頼りないのに、不思議なほど深く静かで、他人の手を拒む気配をその身にまとっていた。


 「兄上」

 ふと、セドリックが立ち止まり、声を落とした。

 セラフィールは頑なにセドリックを拒む。子供の頃からずっと。

 ――正しくは、あの時からずっと。


 「私は、もう子供ではありません」


 一拍遅れて立ち止まったセラフィールはわずかに首を傾げた。


 セドリックは一歩だけ、兄との距離を詰める。

 「あの頃とは、違います」

 低く言葉を重ねる。

 「私はもう、何も知らない子供ではない」


 セラフィールは何も言わない。

 下ろされた白い睫毛の向こうで、閉ざされた世界が微かに揺れた気がした。


 「兄上が神の器であることも、知っています。ですから――」


 ――神の器。


 その身に神を降ろすことのできる、唯一の存在。

 この世の色を持たず、この世を映さず。

 時満ちし時、人に過ぎたる魔力を身にまとい、王家に現れる――。


 セラフィールは王家に言い伝えられてきた、神の器そのものだった。


 セドリックはさらに一歩、近づいた。

「どうか、私に、触れてください」

 セラフィールの呼吸が震えるようにわずかに乱れた。

「……もし、また私が――」


 兄が何を怖れているのか、セドリックは知っていた。

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