45. 手がかりを探せ
Oh, Jingle Bells, Jingle Bells, Jingle all the way, ……♪
不意に聞こえてきたクリスマスソング。
振り向けばトナカイの格好をした女の子が、「クリスマスケーキは如何ですかー!」とコンビニ前で道行く人に声をかけている。
ケーキか……。明日はクリスマス・イブだからな。
佐々木さんが食べたいと言うなら買って帰ってもいいかな。
あとで聞いてみよっと。
今僕たちがいるのは神田駅の駅前。
佐々木さんによると、相州さんが失踪したときに仕事していたのがこの周辺だということなんだけど、
出入りしていたお店も分からなければ、何時頃いなくなったのかも分からないんだよね。
スマホで調べてみると、神田駅の駅前にはネットカフェが10軒ほど存在している。
手がかりを探すために僕はお菊を連れ、駅前にあるネットカフェをしらみつぶしにあたり聞き込みを行なっていた。
そして、相州さんの行方を追うと共にある人物を探していた。
有吉松子。
この辺で幅を利かせているマツコEXという半グレ集団の女総長である。
相州さんが以前話していた『先輩ともめていた人物』。それがこの有吉松子なんだそうだ。
そのように佐々木さんから聞いた僕は、すぐさまもなかに照会をかけた。
有吉松子、31歳、女、身長176センチ、体重141キロ(推定)。
顔デカ、黒髪結上げ、黒い服、20時~22時にかけて神田駅、駅前付近にて出没情報多し。
さすがはもなか、頼りになる。
でもこれって熊の出没情報じゃないよね? こんな人、本当にいるんだろうか?
年末の東京は寒い。それで僕の恰好なんだけど。
まずは基本のヒートテック(下着)。
これは年末のコミケ用に買ったものだけど、とても温かいんだ。
え、おやじ臭い?
そんなこと言ってられないんだよ『冬コミ』は。並ぶの朝6時からだよ。5時間ちかくはじっと待っていなくちゃいけないんだよ。それにビッグサイトは海のそばだからピューピュー海風が吹き曝すんだよ。なめてると、とんでもないことになるんだからね!
話がそれました。すんません。
インナー代わりに裏起毛のトレーナー。ジーンズにオーバーパンツ。
で、わざと目立つようにとシャア・アズナブルパーカー(フード付き)を上から着込み、顔を隠すためにシャア・アズナブルサングラスを掛けております。
実は僕、シャア推しのガノタだったりするんです。再販されたシャア・シュタールヘルムと目元を覆うヘッドギア(マスク)も持っているんだけど、それをはめて外に出る勇気はないんです。ただ家でかぶって鏡の前でニヤニヤしてるだけなんです。ほんとすんません。
それでもしもの時のために、コンバットブーツとタクティカルグローブは装着しているんだけど……。
これってどっから見ても厨二病だよねぇ。ハハハ。
聞き込みを行っているものの有力な手がかりは一つも得られず、それでもめげずに淡々と店を回っていたところ、
突然、路上で声を掛けられた。
「ちょっとそこのサングラスをかけたボク? わたしのことを探してるみたいだけど」
声を掛けてきたのはマツコと思われる力士のような女だった。ドスコイ。
そして周りにはいかつい男が三人。こちらはマツコの取り巻きだろうか。
「ああっ! あなたがマツコさんですよね!」
「あら、よくご存じなのね。わたしも有名になってるのね嬉しいわぁ。それで何かご用かしら?」
「人を探してるんです。セイラっていう長い黒髪の子なんですけど、ご存じありませんか?」
「あなたは何、その子の彼氏だったりするの?」
「いえいえ、めっそうもない。僕はただの使いっ走りですよ。ただセイラさんにお金を貸していて、今日返してもらえるはずだったんですが連絡が取れなくて。それで探していたところなんです」
「ふーん、そうなのね。でも、なんでわたしにそんなことを聞くのかしら?」
「ああ、それはですね、この辺の元締めであるマツコさんなら何か知ってるんじゃないかって、知人が言うものですからね。それでマツコさんを探していたんですよ。やっと出会えてほんとに良かったです!」
「へぇー、その知人ていうのもすこし気になるわね。ま、それは後でいいとして。ええっとセイラだったわよね? わたし居場所を知ってるから今から案内してあげるわ」
「ええ、そんな悪いですよ。場所さえ教えてもらったら僕ひとりで行けますから」
「まあまあ僕ちゃん、この辺夜は物騒だからよ、俺たちみんなでついて行ってやんべ」
取り巻きの一人、ガタイのいい短髪ツーブロック男がへらへらしながら肩を組んでくる。
「あっ!」
吉十の側から駆けだしていくお菊。
「あ~あ、ワンちゃん逃げていってしまったか。まあ、そんなに心配すんな。後で俺たちも一緒に探してやっから。それよりも先にセイラに会いに行こうや」
同じく取り巻きの一人、背の高いドレッドヘアの男が短髪ツーブロック男の反対側にピタリとついた。
二人の男に挟まれ逃げ道を塞がれた僕。マツコの後ろをドナドナされていく。
ちなみに逃げ出したお菊はというと、さっきのはまったくのフリであり、光学迷彩で姿を消し吉十の後ろにピタリとついていた。
歩かされること10分。たどり着いた先は人もまばらな裏通りにある空地だった。
ビルとビルとの間にあるその空地は、解体されたばかりなのだろうか立ち入り禁止用の赤い三角コーンがきれいに並べられている。
空地に引き込まれた僕は、いきなり背中を蹴られて地面に転がされた。
「いたたた、ちょっと何するんです。ひどいじゃないですか!」
転がされた地面から身を起こすと、マツコが腕を組んで目の前に立っていた。
「あーら、ごめんなさいね。うちの子たち少し荒いとこあるから」
「セイラさんはどこですか? 僕ご飯食べられなくて困ってるんです」
「あなたまーだそんなこと言ってんの? 頭は大丈夫? 周りをよく見てみなさい」
いつのまにか取り巻きの数が増えていた。今は7~8人はいるだろうか。
「あなたみたいなのにいろいろ嗅ぎ回られると、わたしたち困っちゃうのよ。だから二度とこの辺うろつかないようたっぷりと教育してあげるわね」
「そんな~、僕なにも悪くないですよね!」
「そうね、運が悪かったのね。せいぜい可愛がってもらうといいわ」
マツコの後ろから男が三人進み出てきた。
「そんじゃ、悪く思うなよっと!」
男の一人が鋭く踏み込んで殴りかかってくる。
なかなか重そうなパンチだけど、あたらなければどうということはない。
それを皮切りにパンチやキックと、三人入り乱れての攻撃が続く。
殺気の乗ってない攻撃なんてぬる過ぎるだろ。
これならゴブリンの方がまだましかもしれない?
遊んでいても仕方がないので、いいパンチがきたところをわざと肩で受け、弾きだされた感じでマツコの前に飛び出した。
「いてててて、もう勘弁してくださいよぉ。こっちの方には二度と来ませんから。もうこの町にセイラさんはいないんですよね?」
「そうね、もういないわね。あの子たち今頃どうなっているのかしら、フフフフフッ、アーハハハハハハハッ!」
太鼓腹を抱えて大笑いしているマツコ。
顔をあげると周りには誰もいなかった。
「はぁ―――?」
あわてたマツコは目を細めながら周りを見渡している。
するとうっすら見える暗闇の中、自分についてきた取り巻きたちが一人残らず転がっているではないか。
「ひいっ!」
マツコは小さく悲鳴をあげると、腰を抜かしたのかその場にへたり込むのだった。
ブックマークありがとうございます。U•ɷ•)ฅ
次回をお楽しみに!




