3. 熊ゴローとお菊
僕が今住んでいるところは、東京都墨田区にある1LDKのマンション。
えっ、贅沢だって?
うん、それは僕も認める。
もし言い訳させてもらえるなら、
この部屋は僕のおじさんが『まあ、ここで良いだろう』と勝手に決めて契約したところなんだ。
だから、僕にはなんの責任もないと思う。
えっ、そのリッチそうなおじさんは何をやってる人なのかって?
まあ、ふつう気になるよね。
おじさんの名前は吉田五郎。年齢は31歳。
職業は『ダンジョン探索者』を生業とする個人事業主。
それも、日本にまだ数人しかいない1級探索者。
五郎おじさんは亡くなったお母さんの弟で、僕からしたら叔父にあたる人なんだ。
僕とお菊のために、こんな立派なマンションをさらっと用意してくれるし、
家賃や生活費はもちろん、高校の入学金や授業料、さらにはスマホやパソコン、自転車、毎月のお小遣いに至るまで、一切合切、まるっと全部おじさんが出してくれているんだ。
そんなやさしくて頼りになる五郎おじさんは、両親がいない僕の保護者でもある。
えっ、ダンジョン探索者ってそんなに儲かるのかって?
そりゃあもう、
江東区にほいっと一戸建てをキャッシュで建ててしまえる程にはね。
だけど、すべての探索者が裕福というわけではない。
ダンジョン探索者協会が定めた等級は7段階。
各等級への格付けは、日本ダンジョン協会への貢献度によって決まると言われているけど……。
ぶっちゃけ、ダンジョン産の物資をどれだけ日本ダンジョン協会へ納めたかだよね。
そんな中、五郎おじさんは年間で数億円は稼いでいるみたい。
これは直接おじさんに聞いたわけではないよ。
この前書店で買ったダンジョン関連の雑誌に、五郎おじさんのインタビュー記事が大きな顔写真付きで載っていて、
その記事の中で記者さんがちらっと漏らしていたんだ。
『相当稼いでいらっしゃるんでしょうね。億単位で』ってね。
おじさんは身体が大きくて、髭はもじゃもじゃだし、見た目がほとんど熊なんだよね。
それに名前が五郎だろう。
だから僕はおじさんのことを熊ゴローと呼んでいる。
そのものズバリだと思うんだけど、本人を目の前にして言ったことはない。
ここで僕の愛犬である、お菊も一緒に紹介しておこう。
お菊はゴールデンレトリバーの雌で、今は1歳半になる。
生まれたときから一緒にいるんだけど、甘えん坊のお菊は部屋にいるときはつねに僕の後をついてまわる。
机で勉強しているときは隣でお座りしているし、お風呂に入るときは湯舟の方まで見に来るし、トイレに行くときだって出てくるまでドアの前でじっと待っている。
とにかく片時も僕の側を離れようとしない。
さすがに寝る時だけは、
「お菊ハウスっ!」と強制的にケージへもどしているけれどね。
そうしないと、一緒に寝てたらお布団が毛だらけにされてしまうから。
そんでもって夜が明けると、
お菊は部屋の扉を器用に開け、僕が寝ている布団をボスボス叩いて起こしにくるのだ。
はいはい起きましたよ。しっかり起きましたからね。
「よしよし。お菊いつもありがとうね」
僕はベッドの上で体を起こし、お座りして待っているお菊の頭を優しくなでてあげる。
『もう起きたから大丈夫だよ』と、ここでしっかりアピールしておかないと、
お菊はベッドの上まであがってきて、僕の顔をペロペロペロペロ舐めまわすのだ。
その結果、僕の顔は朝からでろんでろんの涎だらけにされてしまうというわけ。
なめてくるのは犬の愛情表現だから嫌いじゃないけど、
一緒に枕や掛け布団まで汚されるから困ってしまう。
忙しい朝の時間帯は洗濯している暇がないのである。
そんなお菊は五郎おじさんから貰い受けた、大切な僕の家族。
おじさんの家ではパンチとジョンという2匹のゴールデンレトリバーを飼っているんだけど、
そのうちのジョンが二年前に妊娠して、4匹の子犬を出産した。
子犬はみんなもふもふころころしてて可愛い。
僕もよく子犬たちと一緒になって遊んでいた。
するとどうだろう。
その中の一匹が僕のことを気に入ったらしく、僕の後を付いてまわるようになった。
まだ生まれて間もない子犬。さんざん動きまわっていたから限界がきたようだ。
落ちてくる瞼を必死に開いて、よたよたと僕の前までやってきたかと思ったら、
安心したようで、コテンと倒れて眠ってしまった。
――なんなのこの子!?
僕の両手のひらに乗った、ずっしりと重いもふもふ。
ハハハハハハハッ、僕の手のひらの上に天使がいるよ。
「おい、よしぼう」
その光景を見ていた五郎おじさんが僕に話しかけてきた。
僕は高校生になるまで、五郎おじさんの家で一緒に暮らしていた。
「なーに、五郎おじさん」
「いやに気に入られてるじゃないか。良かったらそいつを飼ってみる気はないか?」
「なにいってんだよ五郎おじさん。僕はまだ中学生だよ」
「いやそうしろって。そいつはもうよしぼうから離れないと思うぞ」
「えー、でも……」
「なーに必要なことは俺が教えてやるし、これもいい経験になるからやってみろ。高校に入ったら一人暮らしを始めるんだろう? 用心棒にはもってこいじゃないか」
「高校生に用心棒は必要ないと思うけど」
「そりゃまあ、なんだ、念のためだ。念のため」
ん、これってもしかして何かのフラグなの!?
それから、しばらく経ったある日。
「一人暮らしじゃ犬の世話だって何かと大変だからな……」
おじさんのすすめでお菊は『避妊手術』を受けることになった。
当時の僕はまだ中学生。
事の重大さに気づくことはなく、言われたことに『うんうん』とただうなずくばかりだった。
それが最近になって、ようやく理解できるようになってきた。
『これって、お菊はもう子供を産むことができないってことだよね……』
ああ、なんてことだ。何故あの時もう少し考えなかった?
『お菊…………』
訳も分からず、重大な決断をしてしまっていた自分。
そのことが今になって重く心にのしかかる。
その夜は、お菊を抱えて泣いてしまった。
『お菊は僕の大事な家族だからね。最後まで責任をもって面倒をみるからね』
泣きはらした顔で、僕がそう誓っていると、
『クゥ~ン?』
心配したのか、お菊は僕の顔をじっと見つめてペロペロと舐めまわすのだった。
ブックマーク、リアクション、ありがとうございます。
作者にとりまして、大きな力となっております。
これからも「ギャルといちゃこらしていたらダンジョン探索がはかどった件。うちのお菊がもふもふで可愛すぎる♡」をよろしくお願いいたします。φ(ΦωΦ )




