4. 夏休みが明けて
――2学期始業式の朝――
「お菊、それ僕の靴だろう? いったいどこに持っていくつもりなんだ?」
行ってほしくないのはわかるけど、僕の靴を隠すのはやめてよね。
以前もそれで、あやうく遅刻しそうになったんだから。
僕は学園指定の夏服に着替え、餌やり器と給水器の中身をチェックする。
「じゃあ僕は学園に行ってくるけど、知らない人が来てもマンションの中に入れちゃダメだぞ」
「クゥ~ン」
最近は頭がまわるようになったせいか、セールスマンにも勝手に対応するので困ってしまう。
つまり、オートロックの自動ドアをお菊が勝手に開けてしまうのだ。
まあ、まだ玄関のカギは開けられないから、変なヤツを部屋の中まで引き入れることはないんだけど。
周りに迷惑をかけてしまうからね。
自宅のマンションを出たら学園までは自転車で通学している。
僕が乗ってるのはクロスバイクと呼ばれるものだ。
バーハンドルに変速機が付いたタイプで、街中でもよく見かけるお手頃な自転車だ。
クロスバイクを学校の駐輪場に停めたら、昇降口にて上履きに履き替え校舎の中へ入っていく。
向かう先は1年生の教室。
夏休みを終えた新学期、この3階にある教室にもだいぶ慣れてきたところだ。
僕の席は窓際のいちばん後。
スクールバッグを机の横にかけたら、僕はポケットからスマホを取り出す。
さーて今日は何を聞こうかな。
曲のライブラリーに目をやっていると、
「おはよう林、今朝も早いじゃん」
声をかけてきたのは隣の席に座る佐々木 優里さん。
誰もが認めるバリバリのおギャルさまである。
夏服の白シャツは第二ボタンまで開け放たれていて、
胸のリボンは外してあるから、開いた胸元から柄物のブラジャーが少しのぞいていたりする。(ゴクッ)
「お、おはよう佐々木さん。佐々木さんの方こそ早くない?」
佐々木さんとは、この学校に来て初めて会ったはずなのに。
入学してからこっち、やたらと僕に絡んでくるんだよね。
まあ、席がとなりだから、話しやすかったのもあるかもしれないけど。
でも、僕は見ての通りのチビデブだよ。まわりからは『肉丸くん』とか呼ばれているんだよ。
かかわらないでくれ光線だってめいっぱい出しているのに、事あるごとに話しかけてくる。
いったいなんなの?
ギャルが持つ社交性ってやつなの?
それとも、やっぱり僕をパシリにするつもりなの?
謎は深まるばかりだ……。
ちなみに顔はめっちゃ美人。
いや、かわいい系の美人といったほうが正しいだろうか。
身長は160㎝。
アッシュブラウンの髪に、前髪ありのロングボブ。
切れ長の目にスッと通った鼻筋。瑞々しい唇は弾けるよう。
それでもって手足は細長くモデル体型ときている。
ついでに言うけど、お胸もそこそこ大きいんだよね。
それでもって第二ボタンまで開けているでしょう。
面と向かって話されると、大きいお胸とそれを覆うブラがチラついて、とてもじゃないが平常心ではいられない。
綺麗な顔を見れば頭に血が上って緊張してしまうし、胸元を見れば違うところに血が上って緊張してしまう。
僕はいったいどうしたらいいの? 教えてよセイラさん。
『大丈夫、あなたならできるわ』
そんな僕の気もしらないで、佐々木さんはいつも楽しそうに話しかけてくる。
「おう、あーしも気合い入れて早起きすることにしたんだわ。昔から言うじゃん早起きは三十文の得って」
「三文だよ! 三十文って、どんだけ儲けてるのさ」
「カカカ、男がこまかいこと気にしてんじゃねぇし」
「…………」
「ん、なんだ林? あーしに惚れた?」
「ちがうよ! 髪型を変えたんだなーと思って……」
「お――っ、よく気づいたし。暑いから短くしようと思ってさ。どう、似合ってる?」
「…………似合ってると思う」(小声)
「はっ、声ちいさいし! もっかい大きな声で言ってみ」
「…………やだよ」
「かーなんだよ、つれねーし。それに林も…………」
「……僕もなに?」
「林もなんか変わったし! なんてーの、雰囲気とか?」
「…………??」
「背も少し伸びてるし」
夏休み明けに会った林 吉十は、どこか以前とは違う雰囲気を纏っていた。
そのとき、教室後ろの引き戸が開いた。
「ユリちゃんオッハー! なんしよっとー」
「…………おはよろ」
おお、ようやく来てくれたか。
教室に入ってきたのは、佐々木さんが仲良くしている友人のお二人。
『なんしよっとー』と、博多弁丸出しなのが可藤 綾香さん。
身長はかなり低めの146cm。
金髪ツーサイドアップの可藤さんは、このクラスで言うマスコット的な存在の、ちみっこギャルだ。
こんな陰キャな僕であっても、普通に接してくれるやさしい子。
それでお胸の方はというと、
これまた、ちみっこギャルにあるまじき、推定Fカップの爆乳なのだ。
身長が低いため、上から見下ろす双丘は圧巻の一言。
一方、「…………おはよろ」と控えめに声をかけてきた方がミキ・ポーラ・クウディーさん。
身長なんと172㎝。高身長を誇る黒ギャルさんだ。
ていうか、ラテン系黒人である彼女は、名前でわかるとおりの外国人留学生。
綺麗な白銀のロングヘアーに、鳶色の瞳。
目鼻立ちがはっきりしていて小顔。
スタイルも抜群だし、パリコレのランウェイなんかを歩いてそう。
ただしお胸のほうはというと、……う~ん残念。
――ギロンヌッ!
クゥーディーさんは首だけをこちらに回し、鋭い眼光で僕を睨んでくる。
僕の邪な思考は強制的に停止させられてしまった。
「よっ! アヤカもミキポラもちょりーっす! あっ、ミオも来たじゃん。こっちこっち………………」
いま姿を見せた相州 美桜さんも佐々木さんのギャル友の一人だ。
相州さんは身長159cm。
艶々ロングの黒髪はお胸に届くほど。
ちょっとつり目なんだけど、佐々木さんに負けないぐらいの美人さんだ。
お胸のほうはCカップぐらいかな。
結構遊んでいるという噂もあるけど、本当のところはどうなんだろう。
「ちっス優里。あんたは朝から元気だよねー」
「うん、ギャルも最後は体力勝負だかんね」
ふぅ、ようやく解放されたか……。
となりの佐々木さんの席を囲み、夏休み中に起こった話でワイワイ盛り上がっているギャル4人組。
そんなギャル達を横目に、僕はワイヤレス・イヤホンを取り出し両耳に装着した。
スマホに映るプレイリストから楽曲を選択。
指をスライドさせボリュームを上げていくと、周りの喧騒は薄れていき僕だけの空間が出来あがる。
お読みいただきありがとうございました。
どうぞ、次回をお楽しみに!




