16. マジですか!?
――月曜日の放課後――
「佐々木さん、これってどういう事?」
「そのままの意味だし」
「…………」
「朝言ったじゃん、あーしは探索者になるって」
「あ、うん、それは聞いたけど。それでどうやったら僕の家に来ることにつながるの?」
「それはアレだ。アレのこと聞きたくて」
「アレ?」
「探索者の装備。ネットで見たんだけど、いまいちわかんなくて。こういうのは実際に使っている探索者に聞くのが一番だし、お菊ちゃんにも会いたかったしで、一石二鳥じゃね」
「なるほど」
「林は菊川に住んでるんだっけ?」
「そうだね」
ちょっとまって。ちょっとまって。
話が遮れない。
佐々木さんのペースにはまって、話がどんどん進んでしまう。
「駅からマンションまでどのくらいかかんの?」
「歩いて10分かからないと思うけど」
「10分か……。とりま今から菊川駅まで行くし、林は駅の外で待機……でOK?」
微笑みながら口元でOKサインをつくって舌出す佐々木さん。
――おふっ!?
僕の身体は電撃魔法をくらったかのように硬直してしまう。
おおい!
そのサインは、ここにいる男性すべてに効くからやめろー。
わかってやっているのかな?
いや、それにしても……。
ようやく硬直が解けたので、周りを見回してみたが、
すでに教室の中に佐々木さんの姿はなかった。
「ああ、置いていかれた……。マジかよ」
教室を出た僕は急いで昇降口へ向かったんだけど、結局、佐々木さんを捉えることはできなかった。
もしかしたらトイレかもしれないと、この時すこし思ったのだが、
トイレ前で出待ちなんかしていたら、間違いなく女子から変態呼ばわりされてしまうだろう。
佐々木さんを引きとめるのを諦めた僕は、クロスバイクにまたがり菊川駅へ向かうことにした。
〈LINE〉
――菊川駅にて待機中 林、
――新宿線へ乗り換え 佐、
――どこから出るの? 佐、
――南側A4出口です 林、
――了 佐、
――いま向かってる♪ 佐、
駅から出てきた佐々木さんは学園の夏制服ではなかった。
今日の佐々木さんの装いは、スキニージーンズにODの長袖トップス。
そして足元にはライトベージュの厚底ハイカット。星のマークが入ってるからコンバースかな?
後からもチラッと見たけど、腰高っ! 足長っ!
「佐々木さん。うちに来るのはいいけど、時間は大丈夫なの?」
「あーしの家は特に門限とかないし。ただ、あまり遅くなるとばあちゃんが心配するんだよね。なにか時間かかることでもあんの?」
「ああ、いや、できればだけど、お菊の散歩を先に済ませてもいいかな? というのも、散歩してからじゃないとご飯があげられないんだよ」
「もち、お菊ちゃん優先でいいし。あーしもお菊ちゃんと散歩したい!」
「僕はそれで構わないよ。お菊も喜ぶだろうし」
「そうだ! 江東ポータルまで行ってみようよ。ここからなら、すぐそこだよね」
「うん、いいよ。散歩はそのコースにしよう」
マンションのエントランスを抜け、佐々木さんを我が家へと案内する。
玄関を開けたら、一足先に僕が上がり、靴を揃えて佐々木さんをお迎えした。
「さあ、上がって。リビングは散らかってると思うけど、すぐに片付けるから」
「うん、それじゃあ、おじゃましまーす!」
そして、リビングへ続く扉を開けると、お菊がお座りして僕たちを迎えてくれた。
お澄まし顔をしているけど、後ろの尻尾は豪快に振られている。
僕に飛びつきたいのを必死で我慢している感じだ。
それを察した僕は、その場でしゃがんでお菊を招き入れた。
べ~ろべろべろべろべろべろべろべろべろべろべろべろべろ……。
「よ~しよしよし、お菊ただいまー。今日はお客さんがいっしょだぞ」
「えへへ、お菊ちゃんこんにちは。ご主人さまにいっぱい甘えて可愛い!」
佐々木さんは僕と一緒になってお菊をなでまわしている。
「じゃあ、僕は着替えと片付けをしてくるから、佐々木さんはソファーに座ってお菊の相手を頼むね」
「えへへ、おけまる。がってん承知の助。お菊ちゃん行こ!」
お菊は佐々木さんの横にピタリと付いて、ゆっくりと尻尾を揺らしている。
うん、お菊は落ち着いているな。お菊を佐々木さんに任せておいても大丈夫だろう。
僕は自分の部屋に入り、着替えを終わらせた。
いつもなら、部屋着のスエットか黒つなぎの2択になるのだが、
今日は佐々木さんがいるので、ブルージーンズにオレンジのポロシャツをチョイスした。
あらら、これもぶかぶかになってるよ。そろそろ買いに行かないとまずいよな?
身長も伸び、体も引き締まってきている、なかなか発展途上の吉十の身体である。
「おまたせ! 佐々木さんがお菊の面倒をみていてくれてたから、片付けが早く終わって助かったよ」
「それよりも林、見て見て! お菊ちゃんがおもちゃとかいっぱい持ってきてくれたの」
佐々木さんが座っているソファーには、お菊が持ってきたと思われるボールやおもちゃ、ぬいぐるみなどがたくさん並べられていた。
「ハハハッ、それは遊んでほしいというサインだよ。どうやらお菊に気に入られたみたいだね」
「あーしもお菊ちゃん大好き! これからもいっぱい遊ぼうね!」
「じゃあ、お菊にハーネスを付けるから、佐々木さんは玄関で待ってて」
「あいあい。お菊ちゃん先に行ってるよー!」
――――――
マンションを出た僕と佐々木さんは、お菊を連れて江東ポータルがある木場公園を目指している。
お菊のリードは佐々木さんが持っているので、
僕は佐々木さんから預かった布製のトートバッグを肩に掛け、散歩用のミニバッグを手に持っていた。
お菊はというと、
リードを持つ佐々木さんの右サイドに体をピタリとくっつけて並んで歩いている。
ときどき佐々木さんの方を見ては歩調を合わせている感じだ。
――偉いぞお菊。
僕はそんなお菊の横を歩いている。
佐々木さんとの間にいるお菊が邪魔なのではないか?
とんでもない!
お菊がいなかったら僕は緊張してしまって、佐々木さんの横をまともに歩けなかったと思う。
佐々木さんって、本当に犬好きなんだな。
お菊のリードを引きながら上機嫌で歩いているんだけど、
その笑顔がキラキラ輝いてて眩しいよ。
なんでも昔、家でトイプードルを飼っていたそうだ。
家族同様、大事にしていたそうだけど、それでも別れの時は来るわけで……。
家族みんなで泣いてお見送りをしたのだとか。
今でもトイプードルを見かけると、当時を思い出して泣いてしまうこともあるそうだ。
あの時、『まさかのトイプードル?』と言っていたのは、そういう事だったんだね。
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次回をお楽しみに!




