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006.技能検証


「おぉ、三つも増えたんだ」


 そう感嘆の声を上げたのはアイリスだ。アイリスはお風呂上がりなのか髪が少し湿っていて、シャンプーのいい匂いを放っている。昼食のパンを口に頬張ってなければ目が釘つけになってもおかしくないほどの色気を放っていた。


「ああ。俺もはじめて見た時は驚いたよ」


 因みに口調だが、初めはアイリスには敬語で話したのだが、何で私だけ! と喚かれたためみなと同じ口調に落ち着いた。


「テイムしただけで三つも技能が増える、か。不遇どころか正直、強いと思うんだけど?」


 アイリスとは違い、マグナスはパンを千切って口に運ぶ。


「残念ながら、そのメリットを帳消しにしちゃうくらいのデメリットがそのジョブにはあるんだよ」

「へー。どんなっすか?」


 アイリスの答えにカイザーは首をかしげる。


「うーーん……。そうだね。メイナ。テイマーって基本、パーティーを組んだときにどういう役割を担う?」

「役割? うーん……味方のサポートとか?」

「そ。サポートとか、テイムした魔物を使って辺りの斥候とかもしたりするね。でも、テイマーのファイターだと、それに使う一部の技能が弱体化対象になっちゃうんだよ」

「ほう。例えば?」

「サポートの定番である、『ビルドアップ(筋力上昇)』『ヒール(回復)』『レジスト(状態異常回復)』とかだね。あと斥候系で言うと、『聴覚共有』『念話』『夜目』あたりかな。まあ、これは軽く上げただけだけど、他を上げればもっとあるよ」


 ここまでアイリスが言えば、皆の反応はかなり薄くなっている。


「うーん。でもそれ、テイムした魔物の技能で補えばいいんじゃないの?」

「そう上手く行けば、不遇なんて言われないよ。まあこればかりは見てもらった方が分かりやすいからね」


 そこまで言ってアイリスは食事に戻った。これ以上、話すつもりはないらしい。ここにいる皆は仕方なく、アイリス同様食事に戻った。

 因にだが、このクランのメンバーはここにいるエンバーを除いた五人と、現在護衛依頼にて帰っていない者のみで構成されており、世間的には少数精鋭という認識である。


 * * *


 食事を終えたエンバーと共鳴の方舟(レゾナンス)の五人はクランハウスの裏庭に出ていた。裏庭とはいえどもその広さは凄く、このクランハウスがもう一つすっぽりと収まってしまうほどの大きさがある。


「さてさて。じゃ、先ずは『光合成』の技能から検証していこうか。自分のタイミングで発動して」

「わかった」


 アイリスがそう言うとエンバーは頷く。

 一応、はじめる前に技能が使えそうかを試している。その結果、発動事態は出来そうだとエンバーは判断した。

 エンバーはふぅーと一息着き、技能を発動させる。

 すると、エンバーから緑色のオーラが溢れはじめた。


「おぉー。それで発動してるの?」

「ああ。ギフトは使ってないけど」

「それで、どう? 体感としては」

「……光合成に使う魔力と、光合成で回復する魔力が釣り合ってない。効果があるどころか、魔力が無駄に減っていってる」


 光合成。太陽光と自身の魔力を使い、体内に『魔力』と『体力』を生成する技能だ。今のエンバーの場合、光合成に魔力を10使ったとすると、回復しているのは7程度となり、無駄に魔力を使っていることになるのだ。


「技能を使って無駄に魔力が減るのか……」


 そう呟いたのはマグナスだ。マグナスは気になり、二人の検証を端から見ていたのだ。因みに、他の皆は各々別々のことをしており、カイザーはハウス内で鍛冶仕事。リングはクランハウスの影でお昼寝。ゴードンとメイナは同じ裏庭で鍛練に励んでいる。


「まあまあ、ここまでは予想通りだよ。それじゃ、次はギフトを使ってやってみて」


 エンバーはコクりと頷くと、光合成にギフトを掛ける。


「っ!」


 技能にギフトを掛けた途端、エンバーの身体に異変が起こる。身体中に魔力が溢れだしたのだ。

 咄嗟にエンバーは技能を停止させる。


「おろ? やめちゃったの?」

「ああ……ギフトを掛けた途端、身体中に魔力が溢れ出したような気がして……これ以上やったら不味いなって、咄嗟に」

「ふむふむ……」


 アイリスは腕を組みながら考える素振りをする。やがて何かを思い付いたのか、手のひらを拳で叩き、遠くからゴードンを呼んだ。


「おーい! ゴードン、カモン!」

「カモンて……どうした?」


 呼ばれたゴードンは渋々といった様子でこちらに歩いてきた。そんなゴードンにアイリスは悪びれもなく言った。


「これから君には、サンドバッグになってもらいます」

「「ハッ?」」


 エンバーとゴードンの二人の声がハモる。何かを言っているんだこのバカはと言いたげな表情である。


「なに言ってんのアイリスさん。俺はただ、光合成のテストをしたいだけなんだが……」

「だからだよ。君の状態はつまり、過剰に回復した分の魔力をどうにかしたいって訳でしょ? つまり、過剰にならないくらい魔力を消費すればいいんだよ」

「「……」」


 なんたる脳筋理論だ、と二人の感想が被る。だが、言ってること事態は的を得ているところを考えると二人は腹立たしく感じる。


「ハァ……まあ、百歩譲って殴られるのはいいとして、やるんなら模擬戦形式だろ? だったら、他の技能を見てからでもいいんじゃないか?」

「うーん、それもそうだね。それじゃ、光合成はこれで終わり。次は、『加速』の技能、いってみよう!」


 アイリスは元気良く片手をあげる。そしてその手には、何かが握られていた。


「加速の検証は至ってシンプル。技能を使ったときと使ってないときのタイムを比べるよ。これを使ってね!」


 アイリスは手に持っているものをシャキーンッ!と構えた。どうやら自慢したいようである。


「それは?」

「カイザーお手製、『ストップウォッチ』って魔導具だよ。ボタンを押すだけで時間を計れるって代物さ」


 まあ、完璧って訳じゃないらしいけどね、と続けるアイリス。

 エンバーはこの魔導具の凄さはよく分からなかったが、カイザーの作ったこの魔導具、実は世界規模で見ても作ったのは両手で数えられる程度であったりする。仕組み事態は異世界から来たという人物が広めたのだが、構造は分かっていなかった。さらに言えば、カイザーを除いた他の作ったものたちは国が抱える人物が作ったものだ。何気に、民間でストップウォッチを、しかも独学で作ったのはカイザーが初なのである。


 * * *


 エンバーは膝に手を着き、息を整える。

 そんなエンバーを横目に、アイリスは手元のストップウォッチで測定したタイムを見る。


「いやー……ギフトってスゴいねー」


 『加速』の技能の検証をするために用意したものは50メートル走である。始めのギフトなしでの加速を使った時のタイムは6.65秒だったのに対し、加速にギフトを掛け再度計ったところ、タイムが5.46秒まで増加した。

 エンバーは自身に光合成(昇華)を掛け体力と魔力を回復させる。それを見たアイリスは溜め息ながらに口を開いた。


「しかも、減った体力と魔力は光合成で即時回復ときた。どこまで君は突っ走るんだよ」

「でも、光合成は太陽の出てない時は使えないし、加速は体力の消耗がかなり激しいからな。あんまり無理はできん」


 ふーん、とアイリスは手元のストップウォッチをいじりながらゴードンを見る。もしかして、ゴードン負けんじゃね? という目をしてである。エンバーの歩き方やら視線を見て、アイリスの目利きだがエンバーはそれなりに武術の心得があるように思える。テイマー(ファイター)のジョブを得て弱体化はされたかもしれないが知識は健在である。もし仮に、万が一にも負けるような事があれば大変よろしくない。ゴードンを煽るネタができるのは面白いが、それ以上にデメリットとしてクランの評判がガタ落ちしてしまう。曰く、「あのクランの人、素人の10歳に負けたんだってよ」と。そうなれば、あとは噂が独り歩きし、最悪はアイリスの計画が台無しになる。


「それは、不味いよねぇ」

「? なんか言ったか?」

「んーや、なんでも。それよか、三つ目の技能を試してみようか」


 エンバーはその言葉に頷き、集中し始める。


「さっきと同じように、はじめはギフトなしでやってみよう」

「わかった」


 エンバーは屈み、地面に手を着く。

 エンバーはふぅーと息を着くと、技能を発動させた。

 すると次の瞬間、地面から勢いよく草のツルがが飛び出してきた。そのツルはうねうねと動いている。


「おぉー。これが『ウィップ』だね」

「ああ。ギフトなしじゃ、これくらいだな」


 エンバーはその場で尻餅を着き、光合成(昇華)を発動させる。それを疑問に思ったのかアイリスが問いかけた。


「もしかして、魔力の消費がマッハ?」

「そうっぽい。今ので魔力が半分消えた」


 うわー、という顔をするアイリス。それに対しエンバーは言葉を続けた。


「しかも、多分光合成で回復する量も上回ってるから無限に使える訳でもないし……使えても足止めとか、フェイントぐらいだな」 


 そういいながら、エンバーは立ち上がる。

 エンバーは恐る恐るという感じでアイリスに聞いた。


「それで……合否は?」

「合否? なんの?」


 アイリスは本気で分かってないような声色で返した。それに呆れたエンバーが溜め息混じりに口を開く。


「……クランに入れるかどうかってやつ」

「ああ! そうだったね、それを見てたんだっけ」


 内心、忘れないでくれよとも思うが、アイリスの性格を考えると妥当なのかなと思ってしまうエンバーである。


「うーん、そうだねぇ……うん。それは、ゴードンとの模擬戦を見てからということで」

「なるほど……わかった」

「よーし。それじゃ、ゴードン! 出番だよー!」


 呼ばれたゴードンがこちらまで歩み寄ってくる。その背中には、リングをテイムしに行ったときとは違う、木製の大剣を携えていた。


「来たね……なんか、装備がガチじゃない?」

「いや、ガチってほどでもないが……一応、入団試験なんだろ? なら、持てる全てを俺にぶつけてほしくてな」


 ゴードンはエンバーを見据える。


「この際だ、坊主。出来るだけ本気でやれ。お前の技量を見てやろう」


 エンバーはごくりと唾を飲む。ゴードンの目がガチであったからだ。この目が、本当にこれが入団試験なのだと自覚させる。


「エンバー君。武器はどうする? やっぱり剣?」


 アイリスはいつの間にか並べられていた様々な武器をエンバーに見せ選ばせた。

 そして、エンバーが選んだのは意外にも自身の丈ほどある棍棒であった。


「あれ、それでいいの?」

「はい。これで、お願いします」


 本来、大剣相手であれば小回りがきき、攻撃を流すことが比較的容易な短剣が好ましい。しかし、エンバーは短剣術というのは習ったことのない技術だ。ならば、剣よりリーチが長く、かつ攻撃を流しやすい棍棒を選んだのだ。

 エンバーの戦闘準備が終わったのを見届けたゴードンは、背にある大剣を取り、口を開いた。

 

「よし。行くぞ」


 ゴードンはその場で構えた。ただ構えただけのはずなのに、ゴードンからは何か、異質なオーラを纏ったような幻覚に陥る。


「……分かりました。胸借ります!」


 エンバーは、手に持つ棍棒を構えた。


 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。ブックマーク登録や評価、感想をいただけるとモチベが爆上がりします。また、「ここおかしくない?」、「ストーリー矛盾してない?」ということがありましたら感想で指摘していただければ幸いです。

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