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シュトルムの町と孤児

 スープは600ルークと、現在の懐事情的には厳しい値段だったけれど、冒険者向けのたっぷりとしたボリュームには助けられた。

 硬めのパンを浸してはガツガツと流し込む勢いで食べてしまった。


 その後は、何気ない顔でアニカに教えてもらった部屋に入り込み、毛布の間に挟まる様にして眠り込んだ。



▽▲▽▲▽▲▽



 一瞬、自分がどこにいるかわからずに戸惑ったが、温かい毛布のおかげでスッキリと気持ちよく目覚めることができた。

 使わせてもらった毛布を綺麗にたたみ直して、そっと部屋の扉を開ける。

 24時間営業だからか、未だにギルドで酒盛りをしているのか、男達の楽し気な声が響いてくる。

 カウンターを確認したけれど、アニカの姿はなかったので、そのまま素通りして表へ出た。


 おもいのほか早く目覚めたようで、外はまだ薄暗いが、すでに多くの住民が動き出していた。路地を覗くと、奥様方が井戸水を汲みながら何やら会話している姿が見えた。


 あの井戸は誰が使ってもいいのだろうか。せめて顔を洗ったり、口をすすぐ程度のことはしておきたい。

 そう思って近づいてみると、声を掛ける前にあちらが先に気づいてくれた。


「あら、この辺じゃ見かけない子ね。親御さんはどうしたのかい?」

「まさか捨て子かい?」

「なら一人ってこともないさね。西門の仲間と一緒だろ?」

「あぁ、そういやそうだね。じゃあ、新しい子かい?」


 次々に話し出すから返事をしないで済むのは楽だけど、これって、西門の方には孤児のグループがあるってことだよね?

 西門は私が入ってきたのとは別の門で、この町の西側にある。昨日、私が潜ったのは北門だ。

 西門の方に足を延ばすべきか考えていると


「まぁなんでもいいさね。ほら、水が欲しいんだろ。この桶に汲んだのを使うといいさ。ほら、おいでよ」

「おいで、おいで」


 招かれるままに近づき、桶の水で顔を洗い、口を漱ぐ。

 奥様方も暇ではないだろうに、何故か私の髪を手串で整えてくれまでした。


「女の子は綺麗にしておかないとね」


 そんな言葉を言いながら優しく触れるものだから、涙がこぼれそうになったところで、


「かあちゃん、腹減ったよ、メーシーはーやーくー」


と、どこかの家から子供の声が聞こえてくる。「まったくうちの子はこんな時だけ」とか「そうだった、のんびりしている時間はないさね」「赤ちゃんが泣きだす前にご飯済をませないとね」などと言い訳をするように帰って行った。


 ガランとした井戸の周りは静かになったけれど、周囲の家々からは人の営みが聞こえてくる。前世の寂しい子供時代が過ったが、すぐにこの町の温かさが胸にじんわりと広がって、不思議と孤独を感じさせなかった。



▽▲▽▲▽▲▽

 


 その後は、残り2080ルークという心もとない所持金を前に悩みつつも、今日しっかりと稼ぐためにと屋台で400ルークした麦がゆのようなものでお腹を満たした。


 そのまま、消化を考えてゆったりと町を散策しながら北門へ向かう。途中、孤児なのか、そんなに年の変わらなそうな少女が2人、下ごしらえで出た野菜くずを貰っている姿を見かけた。

 手にした野菜くずの量はほんのわずかなのに、何度も何度も頭を下げていたのが印象的だった。


 そこまで食糧事情が悪いのだろうか。この町なら親切な人が多いようだし、どうにかなるのでは、と思うが、すぐに自分の考え違いに思い至る。

 冒険者ギルドという、この世界では給料の良さそうな職に就いているアニカでさえ、子供は養えないというのだから、孤児の人数は多いのだろう。それに、観光名所でもないし、特産品らしきものも見当たらないこの町は、どう考えても裕福ではない。僅かでも野菜くずを得られる機会そのものが少ないのかもしれない。


 自分の厳しい現状を忘れてやるせない気持ちになっていたら、いつのまにか北門に到着していた。今朝の門番は、無言の男・イエルクと、20代に手が届くかどうかの若い男だった。

 

「おはようございます。通行証を返すので手続きしてもらえますか?」


 ゴードンに指摘されたあざとい「首コテン」を披露してみる。イエルクは特に反応しなかったけれど、若い門番は二へラっとして通行証を確認、1000ルークを返してくれた。

 これで所持金は2680ルークか。今日は昨日みたいなペースでスライムが見つかるかな。少し不安になるが、やるしかない!


 気合を入れたところで門を出ようとすると、肩を叩かれた。振り返ってみると、イエルクがこちらを見ている。が、無言のまま。え?どうしたらいいの?と困惑していると、もう一人の門番が何かに気づいた。


「あっ、そうか!ちょっと待ってね。ゴードンさんに頼まれたものがあるんだ」


 そういうと、詰め所の入り口に立てかけてある棒を手渡してきた。


「お嬢ちゃん、えっと、ヒカリちゃんだったか。スライムを棒で叩いてやっつけるんだって!?ゴードンさんが、その辺に転がっている枝じゃ危ないから、これを使うようにってさ」


 木の種類はわからないけれど、頑丈そうで、子供の手でも握りやすいように加工されているのはわかった。長さも身長よりちょっと長めで、使い勝手が良さそうだ。

 どこまでもお人好しなゴードンの顔を思い浮かべながら、いざ2日目のスライム狩りへと足を踏み出した。



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