新たな始まり
暗い始まりですが、話数が進むにつれ明るい展開になってきます。
白い発光が収まると、木の陰にもたれかかる様に座っていた。
どうやら森の外縁に当たる場所にいるようで、左方向を見ると奥に行くに従って日が陰り木々の間隔が狭まっている様子が見える。一方で右方向は木々もまばらで、街道らしきものを挟んだ向こう側には原っぱが広がっている。
周囲を見渡してひとまず安全を確認したところで、今度は自分の体を点検しなければ。
お尻の部分についたであろう汚れを払い落しながら立ち上がる。
身長はよくわからないが、記憶にあるものより随分と低くなっている感覚がある。今の年齢を考えれば、それも当然かとすぐに納得。
麻よりも少しごわごわした膝丈の生成りのワンピースに、手作り感満載の粗末なサンダル。体は…特に怪我などもなく、体調も問題なさそうだ。
空を見上げてみる。
太陽の高さから察するにまだ朝方のようだ。
今日中にすべきことを優先順位をつけて算段をたてる。
街道まで出て道の先を確認すれば、30分、かかっても1時間程度の場所に街らしきものが見える。
うん、ならばまずはレベルアップだな。
武器になりそうな枝を探しながら、ステータス画面を開いた。
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私は日本に生まれ、そして死んだ。
己のことながら、実に寂しい人生だったと思う。愛情をかけられることなく育ち、それでも人から愛されたくて子供なりに必死に生きた。
その結果、早熟で斜に構える子供になった。
可愛げがないと散々言われた。容姿そのものも中の下といったところだったし、少しでも可愛く見せようとしてくれる親もいなかった。
だから、仕草や表情がいちいち可愛らしく、きらびやかに着飾っているアイドルに憧れた。大勢から愛される姿に、自分もそうなりたいと願った。
同世代の女の子たちは、彼女達の仕草や話し方、ヘアスタイルから私服のセンスまでを模倣し、やがて可愛らしい女性へと成長した。そして新たな家族を得た。
私はと言えば、自分に可愛げがないことを散々インプットされてきたので、それなりにメイクや私服のセンスは磨いたものの、「愛され女子」とは程遠い存在となった。加えて人一倍仕事をしたことがマイナスに作用し、職場でも浮く存在となった。真面目に頑張ることで疎まれるのは辛かった。何度か転職をしたが結果は変わらなかった。
ただアイドルげの憧れは衰えることなく、誰もいない部屋でこっそり歌や踊りを真似て楽しんでいた。空想のなかでは、いつだって誰よりも笑顔の輝く人気者だった。
恋愛に関してもうまくいかなかった。愛されることを知らない私は、人を愛することはできても何かがズレていたのだと思う。歪な関係は結べても、好きになった人に心から愛されることはなかった。
そして私は、何もかもをあきらめた。
疲れ果てていたのだ。何を頑張っても空回り。将来に希望をもつことはできなかった。
46歳の時に仕事を辞め、決して多くない貯金でも購入できる、古くて小さな一軒家を購入、そこに引きこもった。
早く死にたかったが自殺だけは選ぶことができず、他人とのつながりを断って細々と暮らした。
自分が死んだときに必要となるであろう必要最低限の現金と、迷惑をかけて申し訳ないという手紙をテーブルの上に用意し、いつしか病に蝕まれていた体はそのまま治療せず、ただ訪れる死を待った。
やがて痛みと衰弱から意識がもうろうとするなかで思った。
生まれ変われることがあるなら、今度はやりたいことは全てやろう、なりたい自分になろうと。
思い返せば私の人生はあきらめの人生だったのだ。子供の頃に愛されることをあきらめ、可愛い女の子になることをあきらめ、仕事で認められることをあきらめた。
そして46歳の時に、生きることをあきらめたのだ。
他人にどう思われてもいい。どうせずっと一人ぼっちなのだ。ならば、好きなように生き、人生を楽しむのだ。
ありがとうございました。
転生直後のため、主人公の精神が46歳記憶に引っ張られています。
体に慣れてくると、徐々に10歳らしさが出てくる予定です。