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ex03:祝賀参加

「誕生祝賀会に、出ようと思う」


 まったりしたお茶の時間、のはずが、シルス様の発言で一変した。


「陛下からなにか言われたんですか?」


 今まで出たことはなかったはずだし、国王はシルス様の触手を知っている。

 無理強いするとは思えないんだけど……


「いや。ただ、一度くらいは公式の場に出たほうがいいだろうと、このところ考えていた」


 このところ、っていうことは、原因は私……よね。


「テンタリッサのせいではない、むしろ、あなたのおかげだ」


 私が落ちこみかけていたのを察したらしく、指の触手が絡んできた。

 それを見たシルス様が、隣あってすわっていたソファの隙間を詰めてくる。

 声も優しいし穏やかな表情だから、無理はしてなさそうかしら。


「最近、茶会の誘いが多くて困っていると言っていただろう?」

「あぁ……はい、全然減らないですね」


 シルス様と両思いになってから、仲のいい数名のお茶会には参加した。

 彼女たちは全員私より年上で、分別もある大人たち。

 同世代の友人が少ないのは、父のせいだけじゃなく、私の中に昔の記憶があるせいだけど、それは置いておいて。

 とにかく、そういうひとたちばかりだったから、お茶会もごく少人数で、噂を喧伝することもなかった。

 私にはとてもありがたかったけど、ゴシップ好きの皆さまには不満だったらしく。

 今まで交流のなかったところからも、なにかしら理由をつけて誘ってくるようになった。


 勿論、友人と会う前に、シルス様と喋っていいことなどは綿密に打ちあわせをした。

 設定はばっちりだから、私がうっかりしないかぎり、ボロは出ない。

 ……けど、あることないこと喋りそうな、親しくもない相手主催のお茶会なんて、そもそも出たくない。

 片っ端から断ってるのだけど、相手もしつこい現状だ。


「それなら当の本人──私が表に出れば解決だろう」


 それはそう、だけど……

 眉を寄せてしまった私に、シルス様はやんわり微笑んだ。


「テンタリッサのおかげで、こちらがどうにかなりそうだから、決断できた」


 こちら──というのは触手のことで、声をかけられた子は、渋々といった様子で私から離れ──

 ──しゅるしゅると、太い毛糸くらいの細さまで細くなった。

 そう、最近の触手たちは、かなり細くなれるようになったのだ。

 私が頼むと上手に細くなってくれるから、シルス様は私のおかげって言うけど、私はきっかけにすぎないと思う。

 シルス様自身が、触手に対しての心境が変わったから、が大きいんじゃないしら、って。

 共生相手ではあっても、疎ましく思う気持ちがあったから、触手たちもムキになるというか、認めろというか、そんな感じだったんじゃないかな。

 わだかまりがなくなってきたから、目立たなくしてやってもいい、みたいに。

 ……決して私が喜ぶからだけじゃないはず。だって個人的には、存在感を主張してくれるほうが嬉しいし。

 とにかく、生えているものだから完全になくすことはできないけど、衣装で十分に誤魔化せる細さにまでなってくれた。


「生誕祝いなら、人数も少ないし、他に面倒もない。ちょうどいいと思う」

「たしかに、そうですね」


 生誕祝いはその名のとおり、国王の誕生日祝いに関する諸々のイベントをさす。

 我々が関係するのは、登城して言祝ぐ部分、ちょっと参勤交代みたいよね。

 貴族だけといっても人数が多いから、数日に分けられている。

 そのあと国王主催のパーティーも開催されるが、祝詞だけの参加も多い。

 シルス様が出向くには、うってつけではある。

 日数もまだあるから、今から衣装を仕立てても、多分まにあうだろうし。


 本当に大丈夫か心配だけど、あんまり言うのもだし、私は実家で出席したこともある。

 じゃあ、そういう方向で、となり、早速オーゴさんに話を通した。




「──シルス・ブラムリィ、並びにテンタリッサ夫人」


 よく通る声の官吏が名を呼んだ瞬間、会場がさざめいた。

 国王の前なのであからさまではないけれど、視線が一気に集中する。

 ……こんなに見つめられるのははじめてなので、緊張してきた。

 シルス様は私の腕を軽くなでてくれて、少し息をつく。

 この場では触手は出てこられないから、がんばらなきゃ。

 私はシルス様を支えるフリをしながら、ゆっくり国王の前へとカーペットを進んでいく。


「陛下の御前でこの言葉を申し上げられる日が来たことを、嬉しく思います。正式な礼が取れぬ不作法、お許し下さい」


 シルス様は右手に杖を持ち、左側は私に支えられている状態だ。

 だから私もきちんとした礼をとれないけど、これは陛下にも折り込みずみ。


「構わぬ。久方ぶりに会えたのだ。細かいことは気にするな」


 鷹揚に手をふる陛下は、シルス様の杖その他が偽装だと知っているけれど、そんなことはおくびにも出さない。


「妻のおかげでここまで回復し、参じることができました」

「うむ、奥方、これからもシルスを頼む」

「はい、かしこましました」


 予定どおりのやりとりをすませて、下がる。

 下がる途中「あんなに美形だなんて」とか「もっと醜いのでは」とか聞こえた。

 やっぱり根も葉もない噂が多かったのね。


 体調が不安なので、終わったら邸に帰りますと言ってあるので、すぐ馬車も用意してもらえた。

 誰が見ているかわからないので、ゆっくり、大変そうに馬車に乗りこみ、城門を出るまでは静かにしておく。


「……うまくいきました?」

「ああ、大丈夫だろう」


 詰めていた息を吐くと、シルス様は顔の右半分を被っていた仮面を外したところだった。

 触手が目立たないよう誂えた、一般的な礼装より少しゆったりした服。

 傷があると思いこんでもらうための仮面、身体が不自由だとみせかけるための杖。

 使用人みんなと相談してつくりあげたシルス様は完璧だ。

 今後のお茶会で話をふられても、これで話しやすくなる。

 まあ、そもそもあんまり受ける気もないけど。

 ブラムリィ家に関わる間柄のかたならともかく、そうでない相手に気を遣うくらいなら、温室でみんなの世話をしたいし。

 あれからラフレシアの研究も進んできて、シルス様の育てるラフレシアから液が採取できそうなところまできた。

 薬学的には薬がとれる、私は開花して触手みたいな茎がいっぱい出るところを見られると、いいことずくめなんだから。


「……ダンスの練習も、続けようと思っている」


 もうすぐ咲きそうなラフレシアに思いをはせていたら、シルス様の発言。

 そういえば、今回は不要なのに、ダンスの練習もはじめていた。

 私も得意じゃないので、二人で練習している。

 でも、正直ダンスパーティーは出たくないけど……

 私が渋い顔をしたせいか、シルス様は楽しそうに笑ってから、


「夜会に出なくても、着飾ったあなたと、邸で踊れたらと思っている。誘われてくれないか?」


 大好きな低い声で囁きながら、触手がすっと手をさしだしてくる。

 これで断れる触手好きがいたらお目にかかりたいわ。


「……じゃあ、練習、頑張りましょうね」


 ──でも、よろけると足の触手が支えてくれて、それはそれで嬉しいから、あんまり進歩しないかもしれない。

ひとまずここまでで完結です。


女性むけの触手モノが書きたい、あわよくば増えてほしい!

という不純な動機でした。


少しでも楽しんでいただけたなら、幸いです。

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