18.アンネリーゼとお義母様
なんやかんや、お祖父様とお祖母様が滞在中の一週間、ダメおやじは休暇を取ってずっと家にいた。
執事いわく、私が生まれた直後以来の長期休暇らしい。
「まったく、ちゃんと愛しているのに拗らせる人よね」と、リーゼロッテが楽しそうに笑い、周りの使用人さんたちもつられて笑顔だ。
私はちょっとこそばゆいけど……うん、そりゃ嬉しいよ。そこは3歳じゃなくたって、そうだろう。
ずっと使われていない部屋に仕舞われていた、エリーゼママの肖像画も、今はリビングに飾られている。ダメおやじは遠慮していたが、リーゼロッテが是非にと食い下がり。私に、エレーナママの顔も忘れてほしくないんだって。これにはまた、お祖父様たちは泣きそうになってた。それに私も嬉しい。
リーゼロッテを含めたみんなで家族で、お茶をしながらエレーナママにも話しかけて……って、穏やかで優しい一週間を過ごせた。
そしてお二人は辺境へ帰られ。
ダメおやじは仕事に戻り、いつもの日常だ。
「いやいやいや、いちゅもにもどってどうしゅるのよ……?」
「どうしたの?リーゼ。いつも、って、明らかに以前よりパパの愛情表現はすごいじゃない」
そう、ほっぺにちゅーを要求された上に、したらしたで「仕事に行きたくない……」とボヤかれた。本当に同一人物かも怪しいレベルだ。
「そりぇはしょう、なんだけど……じゃにゃくて!りじゅままが!なんもしんてんが!」
「え、わたし?あったじゃない。ずっとリーゼのママでいられる確約をもらえたもの」
「えぇ……」
それはそうだけど、そうではなく。でも。
「りじゅままは、やっぱりパパいやなの?」
「だから、嫌じゃないわよ。リーゼを愛でる仲間になったし。ただ、ね。こういう家族で充分で、充分幸せなだけよ。これ以上は望まないの」
にっこりはっきりと言うリーゼロッテに、それ以上は食い下がれず。
でも確かにまだ成人前の16歳だし。
貴族の結婚は早いけど、歳の差も不思議じゃないけど、でも7つ離れてるし。現段階では、特に前を思い出している私たちには、思うところもあるわねぇ。
……普段の生活を見ていると、リーゼロッテの方が上に見えたりするけれど。
氷の仮面が外れたダメおやじは、ただのコミュ障で融通のきかない真面目人間で、……まあね、愛情深い人だ。今のところ、リーゼロッテを妹のように可愛がってる感じだし。姉とも言うが。
周りが騒ぐもんじゃないかあ。
ありがたいことに、原作と違ってイジメられないどころか、こんなに愛されて。前の暗い思い出が、薄れていくのが分かる。
「リーゼと子育てを満喫するんだもーん」
「……でもりじゅまま。じぶんでゆーけど、わたち、だいぶらくだかりゃね?ふつう、こんにゃにものわかりよくにゃいからね?しゅごいたいへんなんだから」
「そうだ!それは盲点だった!」
「まったく……まあ、いじゅれおとーとかいもーとをよろしくね」
「う、う~ん、約束できないかも……」
なんで?と思うけど、そこはまたいずれ、かな。それこそ無理強いもできないことだ。私も前にいろいろあったように、リーゼロッテにもいろいろあったはず。私はリーゼロッテに救われたけど、リーゼロッテも、私といることで少しでも救われていてくれたらいいなと思う。
リーゼロッテとマリアンとエリーと。
いつものように午後のお茶会。まったりゆっくりできる幸せを噛み締め……
「あっ、そうだ!思い出した!リーゼ、聖女よ、聖女」
「あ、わしゅれてた」
リーゼロッテの言葉に、現実に戻る。
「あと10年もあると思ってたけど、物語が結構変わってるし、リーゼの覚醒も確実か分からないでしょう」
「……しょうだね」
何だろう、面倒ごとの予感がする。
「だから、やっぱりわたし学園に復学して魔法の勉強し直そうかと思って!それでリーゼをサポートする!今なら旦那様も許してくれそうじゃない?」
「う、う~ん、どうだろう」
リーゼロッテはあまり感じていないようだけど、あのコミュ障が仮面を被らずに近しく話すということは、ちょっとした執着にも見えるのよね。妹のようとはいえ。
許可するかなあ。
「反対されたらリーゼも加勢してよ。エリーとマリアンもね!リーゼの未来の為よ!」
「だから、りじゅままのみらいもかんがえてよ」
「わたしの幸せは、リーゼの幸せよ!」
そんな輝く笑顔で言わないでほしい。
「……もう、しょうがないなあ」
ほら、私は簡単に絆されちゃうんだから。
「わたちのしあわせも、りじゅままのしあわせだよ。がくえん、じぶんのためにもたのしんでね?じゃなきゃ、おうえんしにゃい」
「する、します!やっぱりウチの子天使!」
マリアンもエリーも、この猪突猛進な奥様を苦笑しながらも温かく受け入れて(諦めているとも言う)。
「さくさくっと瘴気を払っちゃえばいい訳だし!やるわよ~!」
「ま、まま!むちゃもしちゃだめにゃんだからね!」
「分かってる、分かってる、ママなんだから」
どうだか。と、思わずジト目になりつつも、リーゼロッテが何とかなると言ったら、本当に何とかなるような気もして。
この後、毎日帰ってくるようになったダメおやじが、リーゼロッテの復学に顔を青くしたり、離縁目的じゃないことに安心したり、なぜ瘴気をそんなに気にするのかとか、怪訝な顔をする訳だが。もちろん、口の立つリーゼロッテに敵うわけもなく。
渋々復学を許可し、恋愛に疎いリーゼロッテの周りに集う当て馬たちに嫉妬したりして、いろいろ自覚をし始めて、私と家のみんなで楽しく見守る日は近かったりする。
私はそんな日々の中で、きっと聖女も何とかなると思い始めている。
だってきっと、聖女に必要なのは愛って鉄板だもんね!
だからきっと、大丈夫だ。




