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64 守られるのもありかもですね

気づけば上下あると思いますが1000ptに達成していました。ありがとうございます。

アルファポリスにて加筆修正を加えながら再掲載開始につき、「イケメンになりたい人生でした」からタイトルを変更しました。

「どうして貴女がエスコートされているのよ!」

「えっと…婚約者だから?でしょうか」

「そんなこと聞いているんじゃないわよ!」


婚約者だからってこれ以上にない尤もな理由だと思うんだけどな…と思うけど、もしかしたらこういう常識がむしろ悪役になってしまうのかもしれない。

たしかに少し申し訳ない気持ちもあるのだ。いくらアリスちゃんとの恋が進むまでの仮とはいえ、ミシェルと当たり前のように隣にいるのは。だって私は、言われなくてもわかっているのだ。成績も凡人、中身もごく平凡。友達すらほとんど作れない。私は残念なところも知っているけどミシェルは確かに、すごい人間なのだ。釣り合いがつかないし、そもそもミシェルを好きという訳でもない。

そんなことわかっている。だからいくらでも譲ってあげたいくらいなのだ。アリスちゃんと上手くいくまでのごく短い時間だけでも、夢を見せてあげたい、とか。…まあ、口ではなんとでも言えるけれど。


「とはいえ、婚約者である以上は変えようがありません。わたしだけじゃなく、殿下にまでご迷惑をおかけすることになってしまいます。殿下を想うのは構いませんが、想うからこそ賢明な判断が必要なんじゃないでしょうか?」


あれ。おかしいな。どんどんと言葉が溢れていく。まるで1度言った言葉であるかのように。みるみる怒りで顔が歪んでいくアマンダ様。まずい。これはまずいぞ。

でも、なんか、止まらない。鬱憤が溜まっていたのかもしれない。視線を感じる。トラブルが起きていることで目立ってしまっているのだろう。…これは、お母様のお説教かもしれない。


「…という訳ですので。正論は耳に痛いかもしれませんが殿下を想うのであれば自重を忘れないでいただけると幸いです。殿下は尊きお方です。確かにわたしはスノウバーク様に比べても未熟で、殿下に釣り合う存在ではないことはわかっております。しかし、」

「煩いのよッ」


苛立ったアマンダ様が、その場にあったワイングラスを手に取ると、ばしゃりと私の方へかけてくる。ああ、せっかく着せてもらった綺麗なドレスが汚れてしまうな。コゼットや両親に謝らないと。

そんな風にぼんやりと考えている私のドレスは、汚れることは無かった。代わりに、目の前に現れた何かが、ひたひたとワインを滴らせている。

…ああ、イケメンは水に濡れてもイケメンなんだなあ。そう思いながらいつの間にか大きくなった背中を眺めていた。


「な、なんで…ッ」

「……お前が、アマンダか?」


本当にこのバカ王子は。涼し気な顔でぬけぬけと名前を今更確認するなんて、王族じゃなかったら許されないぞ。動揺したアマンダ様は口をぱくぱくとさせている。


「何を勘違いしていたのか知らないが、俺はお前に全く持って興味が無い」

「ミシェル、殿下…なんで、ですの…。あんな女より、私の方が余程優秀ですわ…!!」

「どれだけ優秀だろうが興味が無い。それどころかエミリアに害を加える女など、誰が好きになる」


ミシェルはそう言って冷たい視線で睨みつけ、明確な線を引いた。…普段の単純でお子様なミシェルはどこに行ったのだろう。これだとまるで、本当の皇帝(ヒーロー)みたいだ。

不覚にも、少しほっとしてしまった。


「へえ?何かと思ってきてみれば。懲りない人ですね、貴女は」

「淑女としてのマナー…いや、最低限の人としての常識すらない人間が、よくも吐かすものだ」

「…妹も関わっていたから前回は見逃したが、…いい加減にしてもらおうか」

「エミリ。…もう、いいよね…?」


駆けつけてきたお兄様や友人が殺気を放っているのは気のせいだろうか。アマンダ様は可哀想になるほど顔を青くて、ぶるぶると震えている。

被害を受けたとはいえ、女の子がこんなに脅えているのを見るのは、正直良心が痛む。後でお兄様たちを説得しないと、下手をすれば家ごと潰しかねない。…いや、家が潰れるだけなら、まだマシかもしれない。お兄様やアレンの表情が本当に怖い。吹雪いているようにすら感じる。

…でも、なんだろう。…守られる、というのも、悪くは無いのかもしれない。前世から助けを求めた経験もないから、少しくすぐったく感じた。


警備の人が騒ぎを収めてくれているあいだに私は上位貴族専用の控え室へと通された。


「…ふぅ、これから忙しくなりそうですね」

「僕の可愛い妹に手を出そうなんて、何をされても文句を言えない大罪だからね」

「えと、お兄様もアレンもお手柔らかにね…?可愛い女の子にそんなひどいことしたらわたしが嫌だよ」

「エミリ、ちょっとぽきってするのは、だめ…?」

「んんん可愛く強請っても物騒な予感しかしないよ…」

「ぽきってなんだ…?」


控え室で友人たちを宥めていると、アレンが少し不満そうに私の目の前までつかつかと歩いてきた。むくれているようだけど、正直可愛くてあまり怖さを感じない。


「僕は貴女にも怒っているのですよ?エミリア」

「え?」


あっ、やっぱり人前であんなにはしたない騒ぎを起こしたこととか、女性に対して言い過ぎだとか反省点しかないよね…。私が反省して表情を曇らせると、アレンは大袈裟なほどに大きくため息をついて見せた。


「貴女はいつもそうです。人に助けを求めてくれない、全部自分で解決しようとする。人には優しいのに、自分にはその優しさを向けてくれないのです。だから…」

「アレン?」


途中から言葉が聞こえず聞き返すと、なんでもないです。と答えられた。なんなんだろう。私が首を傾げていると、「とにかく、」とアレンが仕切った。


「もっと頼ってください、ということです。エミリアには僕や、…少し不本意ですが今は他にも貴女に頼って欲しい人間がたくさんいるのですから」

「え」


アレンは耳元でこっそりと囁いた。頼って欲しい人…?聞き返そうとしたタイミングでアレンはそっと離れ、なにやらお兄様と話していた。少し不穏な空気だ。ばちばちいっている。怖い。

後で聞けばいいかなあ…。お兄様たちから顔をそらすと、さっきから静かだったミシェルが私の名前を呼ぶ声が聞こえた。


「すまなかった」

「えっ、ミシェル…?」


唐突に頭を下げられる。きっちりした最敬礼。…いや、そういう問題じゃない。これはダメだ。何がダメだって、


「王族が簡単に頭を下げちゃだめだよ…!」

「いや、でも俺のせいでエミリアは面倒なことが起きたんだ、謝らないわけには行かないだろう」


珍しく真剣な声色だ。どうやらミシェルは本気で反省したらしい。とはいえ、王族が頭を下げるほどのことではない。第1私は結局ワインを被るどころかミシェルに被らせてしまったのだ。

肩を掴んで姿勢を正す。ミシェルは汚れてしまったためにパーティのための服から急遽着替えている。


「わたしは大丈夫だよ。それよりも、こちらこそありがとう」

「だが、」

「守ってくれて、嬉しかった」

「…!」


私がそう言ってにこりと微笑むと、何故か耳まで真っ赤になっている。…もしかして風邪でも引いていたのかな?または酔った…?まあでも、それであれば殊勝な態度もなんとなく納得した。


「……まあ、親友だしな…」

「うん、親友だもんね」


ミシェルの言葉に笑顔で同意すると、ミシェルは何故か複雑そうな表情を浮かべていた。

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