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55 少しうんざりしてきました

「……またか」


私は靴箱を見てため息をついた。靴箱の中は荒らされていて、汚れがそこら中に飛んでいる。最近1日に1回2回あるのだ、こういうことが。犯人は分かっている。アマンダ様だ。

そういえばアマンダ様のお家、元々公爵だったのが更に重要なポストについたんだっけ。だから元からヘボくてミシェルに寵愛されてる訳でもないエミリアなんて怖くないってことなんだろうなあ。わかる。私も本来のエミリアならともかく今の私はへっぽこすぎてアマンダ様に勝てる気がしない。勉強もできないし、ダンスは男性パートしか踊れない。体は強いけどそんな力技使うなんて外道のすることだ。ミシェルにどっちがお似合いかっていえば…勿論アマンダ様だ。仲も、いいみたいだし。


「……また防げないとか…使えない…」

「クレア?どうしたの?」

「…ううん、なんでもない」


クレアちゃんがブツブツ呟きながらケーターフォンをいじっていたけれど、私に見せる気はないらしく画面を落としてしまった。なんだったんだ。

とりあえずクレアちゃんに手伝ってもらって靴箱片付けるかあ…。泥は雑巾を使えばいいよね。靴は…私の基準なら使えるけど貴族であるエミリアの立場だとはしたないかなあ…お兄様に怒られそうだ。

別に陰口とか嫌味とか、そのくらいならいいんだけどものへの嫌がらせはやめてほしいよね。いじめってどの世界観でも変わらないなあ。まあ漫画がご都合主義なせいかもしれないんだけどさ。


「……エミリ。私が成敗しようか?」

「物騒だよ。んー、まあ迷惑でもあるけど、やられたからってし返すのって嫌なんだよねえ」

「…そう」


2人で片付けを終えると、このあと先生に呼ばれているらしいクレアちゃんと別れる。クレアちゃんは最後まで「やっぱり少しだけお仕置き…だめ?」とかいって渋っていたけど、結局私は最後まで断った。

アマンダ様のやってることは許されないことだと思うんだけど、かつてのエミリアがやらかしたことを考えれば甘い方だと思うよ。1日1回頻度なんて可愛いものだ。何故か時々むしろ机が磨き切られてキラッキラになっている時もあるし、まあ大人の余裕で流してあげようって気持ちだ。

なにより悪役令嬢という立場だからそういうこと怖いんだよねえ。逆にミシェルとアマンダ様の仲に当て馬として国外追放とかされそうだし…うん、復讐ダメ絶対。


「国外追放…か」

「……エミリア?」

「あ、ロゼ」


1人でぼんやりしていると、ロゼに声をかけられた。ロゼは嬉しそうに笑みを浮かべている。最近ゆっくり話せること少なかったから嬉しいなあ。


「最近忙しいみたいだねえ」

「ああ。最近生徒会の仕事が増えているからな」

「ほへぇ…」

「エミリアも手伝ってくれないか?」

「うーん、私事務処理とか苦手だしなあ…」

「猫の手も借りたいくらいだから、問題ない。エミリアはまさに猫だから」


そういうと真顔で「猫耳をつけるといいんじゃないか?」などと首を傾げる。いやいやいや、猫違います!本気で猫耳を検討しているように見えるロゼを止めると、またまた真顔で「冗談だ」とかえってきた。


…わかり、づらい…っ!


ロゼは本当に表情変わらないなあ。ああでも、時々笑顔になるか。あとはなんとなくわかる時もある。


「…面白く、なかったか?」


こんなふうに尋ねてくる時は少しなんとなく眉尻が下がった気がするのだ。この様子を見るに、私を笑わせようとしたらしい。


「このじょーくとやらは、セシルに聞かせたら大爆笑だったのだが」

「…お兄様の笑いのツボは独特だから…」

「しかし、本気で猫の耳を外注しようとしていたが」


ゾクッとするわ。お兄様、本気で私に猫耳をつける気じゃないよな…ないです、よね…?

私が苦笑いを浮かべていると、ようやくこのジョークがさほど面白くないことに気づいたようで、「すまない」と何故か謝ってきた。


「なんで?」

「エミリアが元気がないようだから励まそうとしたのだが…何分私はうまく感情表現すらできない。難しいな、じょーくは」

「私が元気ない…?」

「ああ。…違うか?」

「……えと、そう、かも」


正確には嫌がらせにいい加減うんざりしていたのと、国外追放について考えていたからなんだけど、一瞬でそんなことに気づいたのか。そして、励まそうとしてくれたのか。


「優しいね、ロゼは」

「そんなことはないが。私なりの欲望に忠実なだけだからな」

「欲望?」

「エミリアの笑顔が好きなんだ」


ふっ、と緩めたロゼの表情はいつにも増して破壊力があって。思わず見とれてしまった。

笑顔が好き、か。なんか少し告白みたいで自惚れそう。…いやいやいや、悪役風情が自惚れてはいけない。悪役面の笑顔って絶対怖くない?特殊な好み?いや、ただのお世辞か。


「おにぎりを学食に入れてくれたら喜んじゃう」

「…検討しよう」


照れ隠しにそう答えると、笑顔のままロゼが頷いた。えっほんと?おにぎり出てくる?具材は鮭と梅とおかか…あっで昆布もいいな。炊き込みのおにぎりも好きだったんだけど炊き込みってそういえば今世では出てない気がする。今度自分で作ってみようか。ああ、お腹すいてきた…。


「元気が出たようでよかった」

「うんっ」


くすっと笑い声が漏れた気がする。わあ、笑顔のバーゲンセールだよ。ロゼのファンが見てたら発狂しそう。

お腹がすいてきたから生徒会室へ向かうロゼと別れて学食に向かおうとしたところで、声が聞こえた。


「ミシェル殿下の婚約者なくせに堂々と他の殿方と仲睦まじく会話だなんて本当に婚約者に相応しくありませんわあ」

「…スノウバーク様」

「ねえ貴方。今度の夏の舞踏会、ミシェル殿下のエスコートは御遠慮してくださる?」

「へ…?」

「貴方はミシェル殿下に相応しくないもの。貴方は自分の身の程くらいわきまえられないのかしら?」

「え、でも」


別に私は譲ってもいいんだけど、婚約者を舞踏会でエスコートすらしないっていうのは外聞的にどうだろう。婚約者をエスコートしないのはこの世界では非常識とされる。普通は婚約者が最優先で、それが無理なら近親、それも無理なら普通に誰か他の人となっている。婚約者がいるのにその人をエスコートしないのもされないのも、他の貴族に顔を顰められかねないのだ。

でもそういえば、悪役令嬢エミリアもそれを理由にアリスちゃんへのエスコートを咎め、自分に無理やりエスコートさせたんだっけ。ちなみに平民のアリスちゃんは平民だけど貴族の学校の生徒だから参加は希望制だ。


「大体、貴方なんかよりわたくしの方がミシェル殿下にも好まれていますし、より令嬢としての素質もありますわ!なのに婚約者に居座るなんて、図々しいわ」

「………そう、ですね」


私よりもアマンダ様の方がずっと好まれている。わかってはいるけどそれを改めて口に出されると結構ショックなものだ。「とにかくミシェル殿下のエスコートは受けないで!」と言い残し去っていくアマンダ様を見ながらポツリと呟いた。


「ミシェルは親友…だったっけ…」

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