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年下なのにお兄ちゃんって、どんな仕打ち??

 少女が爆弾を投下するのを阻止するべく、俺たちはある飲食店へ場所を変えていた。

 雰囲気で言うなら、前世日本でお世話になりまくったバーガーショップを連想させる。今思うと、あの頃は週四くらいで通っていたかもしれない。健康にはあんまりよくないね!

 いやいや! そんなことを思い出してしまうほどに、このお店は王都の街とは別世界って感じなのよ。異世界的な雰囲気をぶち壊しだよ!


 ちなみに言っておくと、ここを選んだのは俺じゃないんだからねっ! お城を抜け出してまで来るところじゃないからねっ。

 けど、幸いにも、客は俺たちしか居ないようだった。


「あ。お兄ちゃんたちはここで待っててね」


 言って、少女の背中はお店の奥の方へ消えていった。彼女は何らかの関係者かな?

 そう。ここに招待したのは、初対面のはずの俺を『お兄ちゃん』と呼ぶ謎だらけの少女。……うーん、会ったことなんてないよ、ね?

 まあ、それを確認するために話を聞くのだけれど。


「レノ、もしかして……。いいえ、貴方に聞くことじゃありませんね。……グレウス様に──国王陛下に、隠し子が居た……?」


 ぼそっと何言ってるのエイリーさん! 聞こえてるから! 最初から最後まで丸聞こえだから! そういう生々しいのはちょっと……子供の前ではやめた方がいいんじゃないかなっ? しかも、その『国王陛下』の実の息子の前で!

 ところで、あのお父さんに隠し子? そんなの、ありえないよ! うん。

 そもそも、うちの家族の主権はお母さんだからね。お母さんが大抵の悪さは見過ごすはずがない。ただし、『親バカ』という二人の間で共感できる悪さは除く。


「そ、それはないんじゃないかな」


 とりあえず、俺はエイリーさんに釘を刺しておく。


「お母さんが居ることだし、そんなことしないよ」


 ……きっとね! 信じてるよ、国王様!


「そそ、そうですよねっ!」


 彼女も俺と同様、突然すぎるシチュエーションに混乱が生じているようだった。そりゃ、お城から出たと思ったら分で正体がバレちゃったからね。しかも……、お兄ちゃん?? 俺も、困惑が深まるばかりだよ。

 すると、時間差で、この現況を作り出した張本人が再び姿を見せた。軽くお辞儀をした。


「いらっしゃいませ! お兄ちゃん! ご注文は私ですか??」


 少女は、ピンクのひらひらな制服をなびかせながら言ってみせた。


「……ちょっとよくわからなかったけど、とりあえず『お兄ちゃん』はやめようか」


 思ったままを口にした。

 っていうか! ご注文が私って、それ危ういやつじゃないっ? このお店のサービス的なやつなのだろうか? それでも危険な気はするよ! この国はそういうの大丈夫だと信じてるけど!


「えーっと。じゃあ、お兄さん?」

「いやっそういう問題じゃないよ!」


 俺の精神年齢を考えると、間違ってはいない気もするけど、俺にそんな趣味はないからね念を押す。

 それに、働いてるってところを見ると、もしかすると彼女の方が年上かもしれない。

 曰く、年下なのにお兄ちゃんって、それもう悪質ないじめだよっ!


「ち、違うの?」

「その驚き方も少し違う気がするんだけど」

「ええ? じゃ、じゃあ、どうやって驚くべきだった?」

「そこはまだ、お兄様とかなんかあるでしょ……って、そうじゃない!」


 頑張って考えたけど、他に『お兄様』しか思いつかなかったのは恥ずかしくて言えない秘密。

 だって、ラノベとかあんまり読んでなかったんだもん!


「じゃあ、隣座るね」


 そうして、俺の頑張りが完全にスルーされ、少女は俺の横の椅子に腰かけた。ちなみに、俺の向かいにはエイリーさんが座っている。顔を合わせる。


「私たちは客のつもりなんだけど」


 冷静に言った。……ん? エイリーさん、それは合ってますけどツッコむべきはそこじゃない!

 エイリーさんは、続けて問う。


「それはともかく、君は迷子とかではなかった、ってことで大丈夫?」

「あ、すみません。お兄ちゃんのこと考えてたら適当に流しちゃってました。はい、その通りです。私はミリア・シャルテットと言います」


 思い出したように、そして冗談めかすように、彼女が敬語で答えると、


「そ、そうでしたか」


 エイリーさんも、敬語に直して納得する。

 つつくのはよしておこう。と俺は思った。……少女もといミリアの中ではエイリーさんは今までは空気と化していたなんてこと。いいや、ちゃんとい認識はしてたし、気のせいだと信じるべきかもしれない。

 前世の子供の頃の俺なんてずっと……どこに居ても空気扱いされていたし、もっとひどい時もあったから、気持ちはわかるよ! あえ? 年齢が違う? た、確かに。身体からだも中身もお子様だったあの頃の俺は何とも思ってなかったけども! エイリーさん、よく考えたら全然状況が違うじゃんっ! 主に精神年齢とか!

 なんとかしてフォローしてあげないとっ。


「えっ、エイリーさんは、俺のお世話係を任されてくれているメイドさんなんだよ」


 あれ? 俺、今なんて言った? 選択肢を間違えたような、空気読めない系男子だと思われてもおかしくないようなこと言ってないですかっ??

 がしかし、彼女は怯まなかった。俺よりも遥かに立派な大人だったのだ。


「はい。従者のエイリーです」


 これがメイドですか! これが異世界ですか! すっげー!

 おっと。次は俺の番かな。


「さっき君の言っていた通り、俺はレノ・ティーベル。あ、でも……このことは」

「ミリア、それくらいわかってるよぉ?」

「うっ。うん。それなら……、いいよ」


 息をのむ。……なんだろう。彼女からものすごい危険を感じるよ! き、気のせいかな……っ?


「そ、それより! 君はなんで俺のこと分かったの? もしかして、バレバレだった?」


 後者はない、とは思いつつ尋ねると、


「ミリア、言ったでしょ? 『お兄ちゃんのことを間違えるわけがない』って。そのまんまだよ。○○お兄ちゃんのことを間違えちゃったら、きっと私は死んじゃうよ」


 今、彼女はなんて言ったのだろう? それは、聞き取れなかったんじゃない。それはきっと、普通の人には理解することができない、未知の言語……もとい名前だったから。

 俺の前世の名前だった。もう誰にも呼ばれることもないだろうと思っていた、前世に置き去っていた、俺の名前。

 けども、なんで彼女が……ミリア(名前を呼べ、と口調で示してくるので言い換えておく)が?


「まさか……だよね?」


 前世で、俺のことを名前の語尾に『お兄ちゃん』と付けて呼んでいた子なんて、一人しか思いつかなかった。けど否定したい。だって彼女は俺が助け……あれ? そういえば、俺も死んじゃったからわかるはずないじゃんっ!

 俺は勇気を振り絞って、『あの時』の少女の名前を呼んでみることにした。


「○○、なの……?」

「うん。うん。……うっ、ううぅえ……」


 コクリコクリと頷くと、ミリアのルビー色の瞳は涙でいっぱいになっていった。そうして、とうとう我慢できなくなった子供のように、泣いていた。


「えっ? っと? れ、レノ? だ、大丈夫?」


 すぐ目の前で、エイリーさんが心配そうな顔で俺とミリアの顔を覗いていた。

 やっぱ大人だ、と思ったのは本日二回目だよ。ありがとう。


「どどど、どうしましょう! もしかして私のせいでしょうか……っ」


 え? ちょ、エイリーさん? めちゃくちゃ動揺しちゃってる? まあ、子供が目の前で泣いてたら混乱するのは普通なんだけども。彼女の場合、何かおかしくない??

 今思うと、俺って小さい頃(今も十分小さいけどね)から今まで、泣くことがあんまりなかったから、あれかな? 経験がなくて戸惑ってるのかな? う、うん……ちょっと考えるところが、なんというかエイリーさんっぽいけど。


「エイリーさん。か、彼女は……」


 俺は『彼女は俺の前世のお友達』と言いかけて、言い淀んだ。

 あれれ? これ、言ってもわからないやつじゃない? むしろ、更にエイリーさんを混乱させる発言じゃない? 絶対に禁句だよね?

 隣を覗いてみると、彼女はまだ泣いていた。


「お兄ちゃんが『お兄ちゃん』って呼ばせてくれないんです。ぐすん」

「えっ。それまだ引きずってたの!」


 こうやって俺が反応してしまったことで、エイリーさんの空気化を促進させてしまっているなんてことは、ここだけの内緒。


「『えっ』じゃないよっ。じゃあ何て呼べばいいの?」

「普通にレノでいいよ」

「じゃあ、私の方が年上だからぁ……、レノ君ね」


 いたずらっぽく笑みを浮かべる。けど、俺はそれに『平和』を連想した。

 って、彼女年上だったの? ……疑問は増えたようだ。


「私は九歳で、レノ君の二つ上なんだよ? 見えない?」

「うっ……ごめん」


 確かに、そんな感じはしていた。けど、俺の中身の年齢のせいかな、彼女は十分に子供に見えた。でも、あれ? 俺と同じくトラックにひかれてしまったのなら、同い年だと思うんだけど……、よくわからないな。この世界に『神様』が存在するのなら、一度その辺の仕組みを訊いてみたいものだね。


「うぅん。大丈夫」


 ミリアは首を横に振った。


「その、レノ? わ、私はお邪魔でしょうか……? さっきから、いい雰囲気でしたのに……まるで月に叢雲花に風のように。って、あ! 今も!」


 ん? いい雰囲気だったのかな? 別にそんなつもりはなかったのだけれど。俺としては、『あの時』の彼女が元気だったことは喜ばしいことだけどね。

 あと、この世界にもことわざみたいなのはあるんだね。


「そんなことないよ。逆に感謝してるし」


 エイリーさんがこの場に居なかったら、俺はこんなに冷静ではいられなかったよ。


「あら! 今日はお休みなのに誰か居ると思ったら、ミリアのお友達? し、しかも男の子っ!」


 店の奥から姿を現したのは、言動からしてミリアのお母さんらしき女性。どことなくうちのお母さんの面影を感じてしまうのは、俺自身がおかしいから、ということにしておこう。

 するとミリアは、涙を手で拭って、


「お、お母さんっ!」

「この子のお母さんでしたか。すみません、今日はお休みだったんですね」

「いえいえ。大丈夫です。ミリアが連れてきたんですから」


 エイリーさんたちは大人同士で軽く挨拶を交わす。


「ミリア、この方たちは?」

「こ、この人は……えいっ。レノ君……レノ・ティーベルだよ」


 擬音を付けるとしたら、確かに「えいっ」となるかもしれない。そうして、彼女が口に出した刹那、俺の被っていたかつらが音を立てずに吹き飛んでいた。いや、ふわっと外れたのかもしれない。少なくとも俺の目では、彼女が手で取っているところを捉えることはできなかったようだ。

 ち、ちがっ、違うよ! 別にこの若さで髪の毛の悩みはないよ! とでも言うべきなのかな??


 俺の素を隠していたかつらが取れ、彼女の言葉通り、レノ・ティーベルが露わになる。


「え? っえぇぇえええええええええええぇ!」


 ……まあ、当然の反応だよね。

 というか! どうやってかつら取ったの? ミリアさん?


「あ、ちなみに私は付き添いのエイリーです」


 忘れ去られないうちに自己紹介を済ませるエイリーさん。さすが!


「もも、申し訳ありません! まさかレノ様とは!」

「だ、大丈夫ですから。顔を上げてください」


 だからっ! 俺は雇う側じゃないんだってば! 急に頭下げられても困りまする!


「そうですよ。自分の子供がお友達同士なのに、改まる人なんて居ないでしょう? ……ぁいえ、別に私の子供では、ないです……けど」

「わ、わかりました。レノ様……いえ、レノ君、急にごめんね。私はミリアの母のリリィよ」

「うん、大丈夫だよ」


 子供っぽくしないといけない気がした。

 しかしそれでも、彼女はかなり動揺しているようで、


「そ、そそれで。ミリアとお友達って、本当なの??」

「だよねー! レノ君!」

「う、うん」


 と、ぎこちなく答えた。


「……そうなのね」


 リリィさんは優しく、ふわりと笑みを見せた。無意識で、何かにひどく安心したように。


「ね、ねえ。レノ君のお家に挨拶に行かない?」

「そうね! そうしましょう!」

「うぇ? な、何言ってるのさっ!」


 ミリアとリリィさんが親子で話し出したところで、俺が割り込む。

 挨拶だって? いや、そこは別にいいんだけどね。無断でお城を出てきたのに、お客さんを勝手に招いてもいいのだろうか?


「待ってくださいレノ。……わかりました。なんとかしましょう」


 え? ま、まじで! その台詞、不安もあるけど、超かっこいいよ!


「よ、よろしくお願いします!」


 そして、すんなりよろしくするリリィさんもすごい! 尊敬するよ!


「良かったね! レノ君!」

「そうだね」


 満面の笑顔で言うミリアに、俺は答えた。



 俺たちは、普通に正門から入ることができた。も、もちろん、かつらは被りなおしたけどね!

 エイリーさんがどうにかしてくれたのかな? メイドさんの本領発揮ということにしておこう。


「こ、国王陛下と王妃様ですか……。緊張します」


 大丈夫。自然の反応ですよリリィさん。


 ということで、俺たちは現在、お城の中にある大きな部屋の扉の前まで来ていた。ちなみにこの部屋は俺たち家族の生活空間だ。まあ、特に何かがあるわけでもないし、客室だと思ってしまうほどに広い。

 恐らく……というかきっと、国王様と王妃様はこの部屋に居るだろう。あの二人、自由すぎるし、結構暇そうにしているからね。


「し、失礼します」


 エイリーさんも緊張しているのかな。おずおずといった感じで扉を開く。


「レノ! お帰りなさい! ずっと待ってたんだからねっ!」


 部屋を見渡すよりも先に、視界が真っ暗になってしまった。

 く、苦しい! 苦しいよお母さん!


「た、ただいま……?」


 なぜか疑問形になってしまった。きっと、俺の予想を簡単に超えてくる自慢のお母さんに、驚いているのだろう。


「すまん。驚かせてしまったようだね」


 絶対に唖然としているであろう後ろの二人に、お父さんは声をかけた。

 やっぱり何も言わないのっ? ちょっと! 逆に怖くなってくるんだけども!


「さあさあ、座ってくれ」

「「はい」」

「緊張しなくても大丈夫だぞ。何せ、レノの友達だからな」

「そうよ。遠慮することなんてないんだから!」


 俺もお母さんから解放され、ミリアとリリィさんと一緒にソファに座る。向かいにはお父さんたちが座り、後ろにはエイリーさんが立っていた。

 やはりまだ二人は緊張しているようだ。まあ、国王陛下に緊張するなって言われても無理があるよね。

 うーん、どうにかしないと。


「そういえば、何も言わないの?」


 俺は直球で疑問をぶつけてみた。

 泣きついてきたり軍隊予防としてたのに、ほんとにどうしちゃったのよっ。


「『そういえば』じゃないわよ。心配したんだから」

「ごめんなさい」

「でも、もういいわよ。エイリーから聞いたわよ、お友達を作りに行ったのでしょ?」

「間違っていたのは俺たちの方だったよ。七歳の子供って言ったら、友達を作って、一緒に遊ぶものだったよな。ごめんなレノ」

「え……?」


 急な流れの変化に対応できない俺。急すぎるよ!

 え? 友達? な、なにその基準! これはもしかしなくても、エイリーさんの説得の効果? 後でお礼を言っておかないと。


「さて。そのお友達を紹介してくれる?」

「う、うん。ありがとう。彼女の名前はミリア…………」


 ん? そういえば俺、ミリアのこと何も知らないじゃないの! 彼女は(この世界の)俺のことかなり知ってる風だったし、何この不公平!

 そ、それより、どうしよう! この先が思いつかない! さすがに、『前世のお友達』なんて言えないし!


「はじめまして。ミリアです。レノ君とは親友の仲です」

「あらまあ! ただのお友達ではなく、親友だったのね!」


 なぜ『親友』と強調したのだろう? うちのお母さんを納得させるためかな?


「お初にお目にかかります。ミリアの母のリリィと申します」

「リリィさんね。いいのよ、そんなに改まらなくても」

「は、はあ……」


 だからお母さん! それは逆効果な気がするよ!


「ささ。お話ししましょう、リリィさん」


 こうして、お母さんたちはお茶会をし出した。と言っても実際は、俺たちのことを語り合っているがけなわけなんだけど。……つまりは、リリィさんもあっち側の人間だったわけで。大いに盛り上がったようだった。

 ちなみに、その間俺たちのことで話題を振られたけど、適当に誤魔化しておいた。ちゃんと、エイリーさんにも怪しまれないようにね。


「そうだ、ミリア。どうやって俺だとわかったの?」


 お母さんたちが勝手に盛り上がっているので、聞こえない程度に声を下げて、俺は尋ねた。


「いいよ、教えてあげる。魔法だよ。レノ君を見つけるためだけの魔法」

「え? ミリアは魔法が使えるのっ?」

「うん、使えるよ? でも、お母さんたちには内緒ね。魔法の学校に入るまでは」

「すごいよ! 情けないことに、俺は使えないからね!」

「えっへへ。でしょ? いっぱい練習したんだから。……レノ君の役に立つために……」


 へ? 最後なんて言ったのっ! 聞かれたくなかったのかな? も、もしかして、魔法を覚えるためのすごい秘密だったり……っ! なんか、ものすごい異世界転生者のチート臭がするよっ!


 結局、このまま日が沈むまで時が流れ、ミリアとリリィさんは帰ることになった。

 お母さんたちが、お城の裏門までは見送ってもいいというので、今は二人で、裏門の前まで来ていた。二人というのはリリィさんと俺自身のことだった。ミリアは、リリィさんに頼まれてお店に何かを取りに行ってもらっているらしい。

 正門ではなく裏門からなら、お店との距離はさほど遠くはない。


「あの。一人で行かせて大丈夫なんですか?」


 俺は問うた。確かに近いけど、一緒に行かない理由がわからなかった。街灯も仕事をし出したし、暗いのは確かだから。


「大丈夫よ。感謝の印にお菓子を持ってきてもらうだけだし。……それに、ミリアは強いもの」

「え?」

「聞いてるかもしれないけど、あの子はあの年で魔法が使えるの。まあ、それだけの理由で行かせるほど私も愚かじゃないけどね」


 バレバレじゃん! さ、さすがはお母さんたちと同じ思考の持ち主だねっ! でも、なんだか俺は秘密がバレてて申し訳ない気分。


「じゃあ、どうして……?」

「それは。レノ君と二人で……いいえ、正確には、あの子が居ない時に話がしたかったから」

「俺に、ですか?」

「そう。まずは、ありがとうね。あの子があんなに楽しそうに笑ってるところ、初めて見たわ」

「い、いえ。俺は別に何も」


 もしかして、前世のこと引きずっちゃってるのだろうか? と、心配になる発言だった。


「あの子は父親を亡くしてから、変わってしまったの。魔法も一人で練習し始めて、毎日何かを探すように、何かを見つけるように落ち着きがなかった」


 予想していた現実を、俺は無言で聞き入れる。


 不幸の連続? そんな言葉を気安く使っている奴は本当に腹立たしい。彼女なんて、そんな言葉じゃ収まりきらないほどに絶望を味わっていたというのに。

 前世の彼女は、俺と同じく両親に捨てられ、最後の最後まで友達にいじめられて、『あの時』を迎えてしまった。結局俺は、何もできなかった。何をしてあげることもできなかったのだ。

 くっ……だから俺はこんな腐っていた俺自身を、完膚なきまでに黙らせたかった。

 けどそれだけじゃ何も変わらなかった。彼女は自分だけで何もかもを背負うってしまうような子だってわかってたのに、俺は勝手に安堵してしまっていた。

 今となっても中身は何一つ変われないような──不甲斐ない俺は嫌いだけれど、この世界に『神様』が存在するなら、俺はそいつを殴ってやりたい。


 休む間もなく、少女に押し付けられ、迫られ、促されたのは……、残酷な『異世界転生』だったのだ。

 ……そんな、大人になることができなかった少女が持つには、『前世の記憶』というアドバンテージは、重すぎている。


「ご、ごめんね。変な話しちゃって」


 リリィさんは心配そうに俺の顔を覗き込んだ。

 おっと。無意識で怖い顔をしてしまっていたようだ。いっ、いけない! ちゃんと話は最後まで聞かなきゃだからね!

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