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2人の切実な願いが通じたのか、ものの10分もしないうちに1人の女性が現れた。
「夜分遅くに申し訳ありません。」
そう言って、女性は深々と頭を下げた。
「そんなにかしこまっていただかなくても大丈夫ですので、気楽になさってくださいね。」
百花は笑顔で、女性に座布団を勧める。
女性は見たところ40代半ばといったような出で立ちのごく普通の人だった。
少し怯えた表情で、ちらとあんずと誠司を見るとすぐに俯いてしまった。
「早速ですが、お話を伺ってもよろしいですか?」
給仕の照子さんが入れてくれたお茶と茶菓子が全員に行き渡ると、
女性は遠慮がちに話を始めたーーー
女性の名前は佐倉 裕子というらしい。山間に向かう旧道脇にたつ児童養護施設で働いているようだった。
その相談と言うのが、施設にいるというある男の子の事。
「今年8歳になる西田 智樹君と言う子なんですが…」
大人しく、他の子達ともあまり喋らず、本ばかり読んでいるようなそんな内向的な男の子らしい。
「施設には智樹くんの様な内向的な子も珍しくはないですし、年下の子の面倒をよく見てくれるいい子です。」
それがここ最近、周りから智樹君に関する妙な話を聞く様になった。
「学校の先生やお友達から、智樹君が大人の女性と行動を共にしているのを見たと。それも学校がある時間帯や施設の遠足の日のような、絶対にありえない日時に。」
「それは智樹君のお母様ではないんですか?」
「…いえ、智樹君は両親が亡くなられた事が原因でうちの施設に来ていますからそれはないと思います。」
なんとも的を得ない話だった、
仮にそれが智樹君じゃないなら他人の空似と言う事ではないのか?
あんずも誠司も顔を見合わせた。
それなのに、この佐倉さんの様子は尋常じゃなかった。怯えているというかなんというか………
「佐倉さんはどう考えてらっしゃるんですか?智樹くんに似た子がたまたま見かけられただけだとは?」
「いえ、その智樹君がうちに来た理由が理由だけに…」
「ご両親が亡くなられたからと言う事ですよね」
「その、亡くなり方というのが…自殺なんです。」
言いづらそうに佐倉さんは続ける。
「それも部屋一面に、血でこの世への怨み言を書き殴ったなかで首を吊っていたようで、
智樹君はそれをずっと見ていたようなんです。
そんな経緯もあって、あの子は呪われてるとか不吉な子だとか、だから両親の気がふれてしまったと根も葉もない噂のせいで、智樹君もは県をまたいだこの施設に来ました。
彼の住んでいた所では引き取りが難しかったようで」
呪われてる
不吉な子
そんな言葉が、誠司の頭に残る。
「そんな事は非現実的な事だとは分かってはいるんですが、あの、その…」
わかってる。
全部その呪われた子のせいだと言いたいんだろ。周りで起こる不吉な事は全部その子のせいだと。
結局、どこで引き取られようが何か言われてるんだなと、どことなくぼんやりした頭で誠司は考えていた。
あんずはこのただならめ話に、ただ黙っている事しか出来なかった。
この佐倉さんという女性が嘘をついているようにはとても見えないし、その智樹君という男の子に何か不吉なものを感じるのも無理はないと思う。
隣の誠司をちらりと見てみたが、俯いたまま動じないし。
「分かりました。また後日、施設の方にお伺いさせていただく事になりますがよろしいですか?」
「はい、それは大丈夫です。施設長が此処にくるのを勧めてくださったので、私からまた話を通しておきます。
「ありがとうございます。では、こちらの2人がお伺いさせていただきますので。」
「「!?」」
いきなり話をふられた2人だったが、怯えた様子の佐倉さんの手前、反論することもできず相談を終えるしかなかった。
「というわけで、今週土曜日にその施設まで行って智樹君の様子を見て来てね。」
庭の花に水やりをして欲しいというような気軽さで、相談者がいなくなっただだっ広い和室で百花は言う。
「な、なんで私達がそこに行くのよ!」
なんの断りもなく話が進められた事に、まず最初にあんずが憤った。
「子供たち相手だから、年の近いあなた達が適任かと思ったの」
それを意にも返さず、唄うように百花は返す。
「何を企んでるんですか?いきなり俺達にアルバイトだなんて嘯いて。」
誠司も警戒感を露わに、百花に詰め寄る。
「いえいえ、私は2人がいいコンビだからお願いしてるのよ。こんなものを作れちゃうぐらいなんだもの。」
そう言って百花が取り出したのはあの調査書もどきだった。
「な、なんでそれを?」
どこから漏れたのか、
コンビニでプリントアウトした時?
それとも家のパソコンから?
「どうしてかしら?私、この町にはお友達が多いから。
今までだって2人で、蓮さんに秘密で色々と解決してきてるじゃない?だから今回もきっと大丈夫よ。」
「…脅してるんですか?俺達の事。」
「違うわ。人助けだと思って協力して欲しいだけよ。」
微笑むばかりの百花。
それは余裕の笑みなのか、年上のお姉さんとしてのお小言なのかは2人にはわからなかった。
「土曜日は他のアルバイトをいれないでね?」




