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日曜日のあの時は、大見得切って軽く伺いますなんて言った誠司だったが
いざ西屋敷家まで来てみると今更ながら気圧されていた。
高い塀で、家の中がよくわからないなんて家はそうそうない。門からしてまずとんでもなく大きいのだが、その広大な敷地にただただ驚く。
どっしりとした日本家屋然とした造りに、インターホンなんていう代物は似合わないなと思いながら、誠司は制服のネクタイを正した。
「やっぱり大きいわねー。インターホン、どこにあるのよ。これ?」
今でこそ大きなお屋敷を前にはしゃいでいるあんずだったが、百花が帰ってからの荒れようは凄まじかった。
地団駄を踏んでぎゃふんと言いだしかねない荒ぶりようで、勝手に百花からのアルバイトを引き受けた誠司に対する暴言も3割増しだったぐらいに。
「あんまりはしゃぐなよ、みっともない。」
あんずが誠司への悪態をつこうとした時、大きな門の隅にある扉が開いた。
「いらっしゃい!来てくれて嬉しいわ。中に案内するわね。」
そう言って百花は、2人を中へと招き入れる。
がしゃんと重厚な木の扉がしまると、何だか気軽に帰りますと言えないようなそんな気持ちになる。
外の高い塀からは伺い知ることは出来なかったが、敷地の中はとんでもない種類の草花や樹木が綺麗に植えられていた。
さながら植物園のようなーーー
奥には温室らしきものすら見える。
広大な敷地は、建物以外は殆どが植物で占められそのすべてが綺麗に整えられていた。
よほど手をかけられている事がわかる。
「意外ね!中は洋風なんだ!」
関心したような声を漏らすのはあんず。学校では緑化委員を務めているせいか、誠司よりもこの庭に興味津々だった。
「ふふっ、我が家自慢の庭なのよ。
ほら、あそこの木はあんずよ。実がなったらいつもジャムにしてるのよ。」
「…私食べられちゃうんだ。」
嬉しそうに草花の説明をする百花に聞こえない様な小声で、あんずが呟く。
「…いいだろ、ガサツなお前でも花が咲くんだから。」
「ガサツで悪かったわね。」
「あれはローズマリー。それにツツジでしょ、あそこの池には蓮。それに最近は」
百花の説明を聞き流し、今にも悪態を付き合おうという矢先、
「お嬢様!もうお見えになられるそうです。」
「あ、はーい。分かりました、照子さん」
縁側から呼びかける割烹着姿のおばあさんに促され、あんずと誠司は百花について建物の中へと続いた。