6月本編 第3話 傘の中って、こんなに近かったっけ (幼馴染/相合傘/長年一緒の相手)
朗読使用者への簡単な設定説明
この台本は、女性VTuberが「昔から一緒にいる幼馴染」として読むシチュエーションボイスです。
突然の雨で相手が傘を持っておらず、彼女の傘に一緒に入って帰る場面です。
昔なら何とも思わなかった距離なのに、今は肩が触れそうな近さや雨音の静けさを意識してしまう。
声は自然体で、最初は軽くからかうように。中盤から少し照れや戸惑いを混ぜ、最後は「昔と同じようで、少し違う」余韻を残してください。
-------------------------------------------------------------------------------------------
……あ。
やっぱり、傘持ってない。
ねえ、ちょっと。
そこで立ち尽くしてる人。
今からどうするつもりだったの?
……いや、空を見ても雨は止まらないと思うけど。
ふふ。
相変わらずだね。
朝、天気予報見なかったでしょ。
……見た?
見たのに持ってこなかったの?
それはもう、見てないのと同じじゃない?
……あ、拗ねた。
ごめんごめん。
でも本当のことだし。
六月の空なんて信用しちゃだめだよ。
朝は降ってなくても、夕方にはこうなるんだから。
ほら、さっきまで曇ってるだけだったのに、急にざあって来たし。
……で。
どうするの?
走って帰る?
……その顔。
走る気ないでしょ。
まあ、そうだよね。
この雨の中走ったら、たぶん家に着くころには靴までびしょびしょだし。
鞄も教科書も危ないし。
しょうがないなあ。
入れば?
……私の傘。
……なに、そのびっくりした顔。
別に、そんな大事件じゃないでしょ。
幼馴染なんだから。
昔だって、何回も一緒に傘入ったじゃん。
小学生のころとか。
急に雨降って、私の小さい傘に二人で無理やり入って。
結局、二人とも肩が濡れて、意味ないじゃんって笑ってたの、覚えてない?
……覚えてるんだ。
ふふ。
なら話が早い。
ほら、入りなよ。
……。
……近いね。
いや、今さらなんだけど。
でも、なんか。
傘って、こんなに狭かったっけ。
……あ。
今、ちょっと笑ったでしょ。
笑わないでよ。
私だって、自分で言ってて変だなって思ってるんだから。
昔は平気だったんだよ。
肩が当たっても、腕がぶつかっても、狭い狭いって文句言うだけで。
別にそれ以上、何も考えなかった。
でも今は、なんか……。
……いや、なんでもない。
とにかく、ちゃんと入って。
そっち側、濡れてる。
もっとこっち寄っていいから。
……そう。
そのくらい。
……うん。
やっぱり近い。
でも、離れたら濡れるし。
これは仕方ない。
雨のせい。
全部、雨のせい。
……なに。
そんな顔して。
私が言い訳してるみたい?
……うるさい。
ほら、歩くよ。
ゆっくりね。
傘の中で歩幅がずれると、どっちかが濡れるから。
昔みたいに競歩みたいな速度で歩かないこと。
……そうそう。
そのくらい。
雨の音、すごいね。
傘に当たる音って、近くで聞くとけっこう大きい。
なのに、まわりの声は少し遠くなる。
こうして一つの傘に入ってると、外と中で世界が分かれるみたい。
……私たちだけ、少し別の場所にいる感じ。
……あ。
今の、ちょっと恥ずかしいこと言った?
まあ、いいや。
雨の日だし。
傘の中って、そういう変なことを言っても、雨音が少し隠してくれる気がする。
……ねえ。
肩、濡れてない?
……見せて。
ああ、少し濡れてる。
だからもっと内側に入ってって言ったのに。
……いいから。
こっち。
……ん。
はい。
これなら大丈夫。
……近すぎ?
仕方ないでしょ。
濡れるよりはいいじゃん。
それに……。
……いや。
今のは、言わない。
……なに。
気になる?
気にしなくていいよ。
どうせ大したことじゃないし。
ただ、昔ならこの距離でも何も思わなかったのに、って思っただけ。
それだけ。
……うん。
それだけ。
でもさ。
変だよね。
同じ道で、同じ雨で、同じ傘に入ってるだけなのに。
昔と全然違う気がする。
君の背が伸びたからかな。
傘の位置も、前と違うし。
歩く速さも少し変わったし。
声も、昔より低くなったし。
昔は、私のほうが早く歩いて、君が後ろから「待って」って言ってたのに。
今は、私が歩幅を合わせてもらってる。
……いや、別に悔しくはないけど。
ちょっとだけ、不思議。
気づかないうちに、ちゃんと時間が進んでたんだなって思う。
……あ。
水たまり。
気をつけて。
……ほら、危ない。
もう。
今の、踏みかけたでしょ。
相変わらず足元見てないんだから。
……え?
私が急に近づいたから?
それは、転びそうだったからでしょ。
……まあ、ちょっとだけ、腕つかんだけど。
だって、危なかったし。
……なに、その顔。
昔もこうやって手、引っぱったことあったじゃん。
雨の日に走ろうとして滑りかけたときとか。
遠足の日に、ぬかるみに足突っ込みそうになったときとか。
……あったよ。
忘れたの?
私は覚えてる。
わりと、いろいろ。
雨の日の帰り道も。
水たまりを避けるくせに、結局どっちかが踏むことも。
傘が小さくて、半分ずつ濡れて帰ったことも。
家に着いたら、どっちの肩がより濡れてるかで言い合いになったことも。
……なんか、懐かしいね。
でも、懐かしいだけじゃないんだよね、今は。
昔と同じことをしてるはずなのに、同じじゃない。
肩が近いだけで、少し落ち着かない。
傘を持つ手が少しぶつかるだけで、変に意識する。
雨の匂いとか、濡れた制服の感じとか、君の体温が近いこととか。
そういうのが、前よりちゃんとわかる。
……ねえ。
傘の中って、こんなに近かったっけ。
……。
……答えなくていいよ。
たぶん、傘の中が変わったんじゃなくて、私たちが変わっただけだから。
……あ。
今、こっち見た。
そういう顔するの、ずるい。
なんか、君も同じこと考えてるみたいに見えるじゃん。
……考えてた?
……そっか。
じゃあ、私だけじゃないんだ。
……うん。
それなら、少し安心した。
でも、だからって急に何かが変わるわけじゃないよね。
私たちは幼馴染で。
同じ道を何度も歩いてきて。
雨の日に同じ傘に入るのだって、初めてじゃない。
ただ、今日は少しだけ、前より静かに歩いてる。
前より、近いことに気づいてる。
それだけ。
……でも、その“それだけ”が、たぶん大きいのかも。
……あ。
また雨、強くなってきた。
傘、もう少しこっちに傾けるね。
君、右肩濡れやすいから。
……いいの。
私のほうは大丈夫。
……え?
私が濡れる?
……ふふ。
やっと気づいた?
でも平気。
少しだけだから。
……あ、こっちに寄せてくれるんだ。
ありがと。
……。
やっぱり、近いね。
でも、今はそんなに嫌じゃない。
むしろ、ちょっとだけ……。
……ううん。
やっぱり言わない。
今日全部言っちゃうと、雨が止んだあと、ちょっと困るから。
だから、今はこのままでいい。
一つの傘に入って。
昔の話をして。
でも、昔とは少し違うって気づいて。
それを二人とも、言い切らないまま歩く。
……そういう帰り道も、悪くないでしょ。
……うん。
あ、もうすぐ分かれ道だね。
今日は、少し早く着いた気がする。
雨の日の帰り道って、もっと長いと思ってたのに。
……たぶん、一人じゃなかったからかな。
……あ。
今のは、普通に本音。
一人で濡れないように歩くより、君と少し狭い傘の中で歩くほうが、私は好き。
……言っちゃった。
でも、まあいいか。
雨の日だし。
傘の中だし。
……ねえ。
次に雨が降ったときも、もし傘を忘れたら。
……いや、忘れないほうがいいんだけど。
でも、もし忘れたら。
また、入れてあげてもいいよ。
その代わり、ちゃんと私の歩幅に合わせて。
肩が濡れないくらい、ちゃんと近くにいて。
……ふふ。
約束ね。
じゃあ、そこまで送る。
今日は雨が止むまで、幼馴染特権ってことで。
……うん。
そういうことにしておこう。
傘の中がこんなに近いって気づいたことは。
まだ、雨の秘密にしておこうね。




