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Cross Of Blue Iron  作者: 福山 サミー 大介
竜と巨人編
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燃え盛る炎の中で

追っ手の男達が放り投げた松明の火が周囲の草や木に燃え移り僕の周囲は昼間のように明るくなっていた。炎がいつの間にか僕の四方から押し寄せその包囲をジワジワと狭めてきている。その中で僕は座り込み、シェリルの身体をただ抱きしめつつ涙を流していた。


「……シェリル……シェリル。」


僕はそう呟きながら彼女の頭を無意識に撫でていた。シェリルが死んで僕はすっかり元気が無くなってしまったのだ。ショックが大き過ぎて何もやる気が起こらない、そんな感じだった。


「ボォォォーッ! 」


周囲の炎は勢いを増して近付いてくる。まるでシェリルを火葬しようとするかのように。早く逃げなければならないのだけど何故か足を動かそうという気が起こらない。僕はその場でじっとしていた。


「ここで……死ぬのかな? 」


僕はふとそう呟いた。このまま生きても裁判がどう転ぶか分からないし敗れれば僕は世間から罪人の子供というレッテルを貼られるのだ。そしてそれは一生消えることはない。僕の将来には希望なんかあるのかな? ひょっとすると今シェリルと二人でここで死んだ方が楽かもしれない。そう僕が思った時だった。


「ユージーン、今日は物凄くネガティブね。あなたらしくないわ。」


僕の頭の中にそう声が響いた。誰だろう? まぁ誰でもいいか。僕はその声の主が誰か分からないままその問いかけに答えた。


「そうかな? 僕は昔からこんな感じだよ。後ろ向きでぼんやりした駄目な男さ。こんな僕が裁判で勝つなんて無理な話だよ。」

「あなたは目標を決めて一生懸命に頑張っていたのではないの? それにあなたは一人じゃないわ、シゲさんやシゲさんの弁護士の先生があなたの力になっていてくれているのよ。それにミールさんも自分の父親の過ちを勇気を持ってあなたに教えてくれたじゃない? 」

「でも……これ以上はやっぱり無理だよ。僕は今まで精一杯やったし。もう疲れちゃったよ。」

「あなたが今諦めたら、あなたのことを今までたくさん愛してくれたお父さんやお母さんはどうなるのかしら? 」

「!! 」


僕はふと思い出した、父さんや母さんとの思い出を。嬉しいことがあると必ずブランデーを飲んでいた父さん、よくテストの点数が悪くて怒られたなぁ。そしてお節介で口煩い母さん、母さんには嫌がらせのように毎日夜御飯の時に僕の大嫌いなほうれん草を食卓に並べられたっけ。そんな日常の思い出ばかりが頭に浮かんでくるけれどどういう訳か全てが物凄く懐かしい。渇きかけた目にまた涙が溢れてくる。そういえばお世話になっていたワカバさんやヤコーさんもどうしているのだろう? 父さんと母さんが逮捕されたことでおそらく二人とも失業したに違いない。何処か僕の知らないところで働いて生きていてくれているのだろうか?


「ユージーン、あなたの今までの戦いは何だったの!? ここでやめてしまえば全てが水の泡なのよ! 」


それを聞いて僕は心の中でぼんやりと思い出してきた。この戦いは父さんや母さん、そして自分への汚名を晴らす為のものだってことを。そしてその行為は僕達だけではなくワカバさんやヤコーさんといったマイヤー家に関わる全ての人々にも勇気と誇りを与えるのだ。僕の心の中で消えかけた生への執着心の炎がまた小さく燃え出した。


「それにあなたには好きなひとがいるのね。そのひとが今のあなたを見たら何て思うかしら? 」


ルカ先生が今の僕を見たら僕はおそらく嫌われてしまうだろうな。「しっかりしなさい! 」と言って釣り上がり気味の目を更に釣り上げて僕を睨みつけるだろう。それかもう僕のことを駄目な奴と見切りをつけて声も掛けてくれないかもしれない。それだけは駄目だ、以前の無気力な僕に戻る訳にはいかない。僕もルカ先生に似合う男になろうとこの数ヶ月間努力してきたのだから。僕の心の中の炎がメラメラと大きくなった。


「くそっ! 」


僕はシェリルを抱いたまま立ち上がった。僕は生きなければならない。今まで何を甘えたことを考えていたのだろう。家族の無実を証明してコイチ家に裁きの鉄槌を下しその上で堂々とプルーディンス王国に行きルカ先生と再会するのだ! それが僕の生きる道だ。僕は火の手が回っていない逃げ道を探して走り出した。


「そうよ、あなたは生きなければならないわ! ユージーン! 」


謎の声が僕をそう励ましてくれる。だが周囲の炎はますますその勢いを増し火柱の高さは既に僕の身長を超えていた。しかも炎は完全に僕を取り囲んでしまっている。このままでは炎から逃げ切れない、まずい!


「うっ! 」


僕は煙を吸ってしまったようで頭が一瞬くらっとしてその場にうずくまった。くそっ、生きようとする努力を始めた途端に死への現実に直面するとは皮肉なものだ。もう僕が生き残る術はないのか?


「ユージーン。」


するとさっきの謎の声が僕に話し掛けてきた。何だろう?


「あなたが抱いているそのシェリルの尻尾の付け根の皮膚の下に石が埋め込まれているわ。それを取ってあげなさい。」


謎の声はそう言った。そういえば確かに以前シェリルを撫でている時に尻尾の付け根の周囲にコリコリした固い部分があったのを見つけたことがある。だけどその時は僕はそれが石だとは思いもしなかった。僕は謎の声に聞いた。


「何故それを取るのですか? 」

「いいからやってみなさい。」


謎の声は優しくそう答える。僕はその指示に従うことにした。シェリルの身体の尻尾の付け根付近を触ると切りつけられた傷がパッカリと開いている。僕はその辺りを指で弄った。すると硬いものが指先に当たる。おそらくこれのことだろう。


「そう、それよ。それを取り除けばあなたは助かるわ。」


周囲は激しい炎と真っ黒い煙に包まれている。僕の頭の中は朦朧としてきていてそろそろ限界だ。僕は最後の力を振り絞ってリュックの中からムラサメを取り出すとその小さな石をシェリルの身体から肉片ごと切り裂いて引き剥がした。


「ごめんね、シェリル。僕の手で君を傷付けてしまって。」


僕は瞳を閉じたままのシェリルにそう謝った。炎は目の前に迫っており僕に出来ることはもう何もない。するとまた謎の声が僕に話し掛けてくる。


「よく頑張ったわね、ユージーン。」


優しいその声を聞きながら僕は目を閉じた。これで本当に助かるのだろうか? いや、ひょっとすると今この瞬間が自分が生きている最後になるかもしれない。そんなことを考えつつ僕の意識は深い闇の底に落ちていくように薄らいでいった。

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