妖刀 ムラサメ
「……ていう訳なんだ! 気が付いたら足元に出来たての刀が転がっててさ、何が起こったのかさっぱり分からないんだ! 」
僕は工場で不思議なことがあった翌朝、学校の通学路でそのことをシゲに大声で説明していた。
「でもユージーン、そんなことはあり得ない。多分それはそのヤコーって人がお前の為に前もってその短刀を作っておいてくれたんだと俺は思うよ。」
「いや、俺もそう思って何回もヤコーさんに確認したんだ! でも違うって言うんだ! 」
「じゃあ……心霊現象? 」
「そっち系しかないだろ? 俺凄く怖くなっちゃってさ! 」
僕は一人で昨日の怪現象について喋りながら興奮していた。シゲはふんふんと聞きながらもたまにそこに冷静な言葉を挟んでくる。だけど結局結論など出る訳がない。ふと沈黙になった時にシゲが言った。
「でもお前が気を失っている間に刀を作っておいてくれるなんて……親切なお化けじゃないか? 」
「へ? 」
「だってそうだろう? お前のイメージ通りの刀を作ってくれたんだぜ。怖がるどころか『ありがとう』ってお礼を言わなきゃ駄目なんじゃないのか? 」
シゲはちょっと冗談めかしてそう言ったのかもしれない。顔は半笑いに見えたし。でもそれを聞いた僕はどういう訳か妙に納得してしまい「なるほど! 」と思ってしまった。ひょっとしたら霊の中にも人を怖がらす奴だけではなく人に親切な奴もいるのかもしれない。それにもしかしたら僕の守護霊のような奴がいて僕にあの刀をプレゼントしてくれたのかもしれないし。そう考えると僕の心はすこし和らいだ。
「……そうかもしれないな。」
「だろ? 今どこにあるんだ、その刀は? 」
「……気味が悪かったから工場の棚に置きっぱなしにしてある。」
「そんなところに置いておいたら余計そのお化けに怒られるかもよ。」
「……うーん、そうかもな。取り敢えず今日工場から家に移動させようかな。」
学校に着くと僕らはそれぞれの席に座りこの話は一旦終わりとなった。僕は早く帰って取り敢えずもう一度短刀をよく見てみようと思った。
学校から帰ると僕は工場に入っていった。ヤコーさん達が忙しそうに働いている。僕は工場の入り口にある材料置場用の棚のところへ行ってそこに昨日置いておいた例の短刀を恐る恐る見てみた。
「おや、坊っちゃま! やっとその素晴らしい作品を持って帰る気になられましたか? 」
ヤコーさんがそう声を掛けてきた。ヤコーさんはその短刀を僕が作ったと頑なに信じている。
「あ、うん、まぁね。」
僕はそう曖昧に返事をすると短刀に顔をしっかり近づけた。よくみて見るとその短刀はとっても綺麗だった、まるでヤコーさんが作った刀のように。
「き、綺麗だ。」
僕はそう思わず呟いていた。やや反った刀身は長さが20cm程で窓から射し込んだ太陽の西日を受け青白く輝いていた。その妖しげな光からは素人の僕ですら言葉にならない魅力を感じていた。僕は思わずその刀に触れてみようと手を伸ばした。その時僕は刃の根本に描かれた十字架がキラッと一瞬自ら光を発したように見えた。僕はそこでハッとした。気が付いたことがあったのだ!
「に、似てるぞ! 」
僕はそう言うと胸元からお婆ちゃんに貰った青い十字の形をしたお守りのネックレスを取り出してそれを短刀の根本に描かれた十字架と見比べた。やっぱりだ! その二つの十字架の形はそっくりだった。
「ひょっとしたらこれは死んだお婆ちゃんが僕にプレゼントしてくれたのかもしれないな……。」
二つの十字架の奇妙な合致はそういうことではないかと僕は推察した。そして僕は今朝まで恐怖を感じていたその妖しげな短刀を大事な護身用の懐刀として持ち歩くことに決めた。
「ヤコーさん! これ、持っていくね! 」
僕が笑顔でそう言うとヤコーさんもニコッとして答えた。
「それがいいです! その刀も自分を作ってくれた主人に持ち歩いてもらった方が喜ぶでしょう! 」
ヤコーさんは流石だな。刀一本一本に愛情を持ってるからそういう台詞が出てくるんだ。僕もこの刀を大事にしよう! そうだ、それに名前も付けてやろう! 僕は最近読んだ外国の小説に出てきた刀の名前をふと思い出した。よし、それを真似るか。
「お前の名前は『ムラサメ』だ! 」
僕はそう刀に囁きかけると青白く輝く妖しいそのムラサメを自分の鞄にしまいこんだ。




