Bar“raise“-後半-
前回に引き続き楽しんでいただければと思います。
では物語の始まりです。
BARに入ると、カウンターの中に例の男性を見つけた。
僕はその男性の近くに座り、声をかける。
「すみません、おすすめのカクテルをお願いします」
男性は僕を見て、「お待ちください」
と言い、カクテルを作り始めた。
名札を見る。しかし、このご時世、名札には名前が書かれておらず、「staff」だけだった。
僕は男性に話しかける。
「お兄さん、この仕事長いんですか?」
男性は作る手を止めることなく答える。
「いや、まだ一年くらいなんですよ。今が頑張りどきだと思ってます! お兄さんは初めましてですよね」
僕は男性を見て言った。
「実は一回だけ来たことあるんです。でも、その時はテーブルだったから」
男性は申し訳なさそうな顔をして僕を見た。
「大変申し訳ありません」
僕は笑って答える。
「気にしないでください。むしろ覚えてる方がすごいです」
そう言って男性を見ると、男性は真っ直ぐこちらを見ながら言った。
「もう絶対忘れないです」
そう言って、カクテルを出してきた。
カクテルの名前は“シャンディ・ガフ”。
後味がスッキリしていて、とても飲みやすかった。
その後も店員さんとの会話は弾んでいく。
男性の名前はカグヤさん。カグヤさんは僕の兄と同じ大学に通っていた。しかし、学年は2つ下で、僕と同い年だという。
午前3時を過ぎた頃、僕はすっかりいい気分になっていた。
その時、「随分と楽しんでるみたいだな」
と、後ろから声が聞こえてきた。
振り向くと、そこにはキリさんがいた。そして、その隣にはあの女性が立っていた。
「あれ、タクヤくんだよね。同じサークルの」
この人、僕のことを知っているんだ。
そう思うのと同時に、カグヤさんの驚いた声が響いた。
「タクヤさん、キリさんとあやかさん、お知り合いなんですか?!」
先輩ではあったものの、名前を知らなかった僕にとっては助かった。
その後、僕たちは4人で飲み始めた。
キリさんは話が上手かった。一つの話題からどんどん話を広げ、自然と情報を引き出していた。
僕は限界がきて、そのまま眠りに入ってしまった。
目を覚ますと、そこは自分の部屋ではなかった。
すると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「起きたな。頑張りすぎだ、ばか」
そんなことを言われ、少し嬉しさと腹立たしさを感じながら、僕は疑問を口にする。
「あの、キリさん。ここは?」
キリさんは振り返って言った。
「俺の家だ」
僕はさらに戸惑ってしまった。
“家? あの高架下のテントは?”
そう考えていると、それに気づいたキリさんが説明してくれた。
「河川敷の方はいわゆる事務所みたいなもんだ」
さらに疑問が浮かぶ。
“あのビルの一室は? どうしてわざわざ高架下に?”
しかし、それ以上に昨日のお酒で頭が痛く、考えるのをやめた。
体を起こす。
目の前には、整った綺麗な顔をしたキリさんがいた。
「うわっ、近っ」
思わずのけぞる。
キリさんは少し笑い、
「昨日は色々なことが分かった」
と言いながら、僕の手を引いて寝室から出た。
テーブルの上には朝ごはんが用意されていた。そして、その横にはキリさんがまとめたであろう昨日の資料が置かれていた。
それを手に取り、目を通す。
すごく綺麗にまとめられており、何よりとても見やすかった。
兄につながる情報だと思うと、気づけば頭痛も消え、ご飯のことも忘れていた。
そんな僕から資料を取り上げ、キリさんが言った。
「とりあえず朝飯食べろ」
そう言われ、僕は席に着いた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
引き続き『高架下探偵事務所』をよろしくお願いします。




