お仕事終了
蓮ちゃん落ち着かせているうちに、バイトをすっぽかして脱走したことを 思い出した。初仕事でド派手にサボるとか、ないわ!マジないわ!!
「問題ないわ。今回はわたくしがミチル様をひきとめたのですもの。謝罪には慣れてましてよ」
蓮ちゃん、それ胸をはって言えることじゃないからね?聞いているだけで彼女の苦労が感じ取れた。もっと先輩をシメとくべきだったかもしれない。
「いやいや、蓮ちゃんは悪くないから。ちゃんと自分でしたことの責任は取るよ」
蓮ちゃんはハラハラと涙を流しながら私を拝んでいる。真っ当な事を言っただけだが…先輩のせいでいい言葉のように聞こえたのかもしれない。
「それからさぁ、蓮ちゃん。友だちなんだから、ミチルでよろしく。様いらない」
「………大変ですわ、エクス。わたくしに…わたくしにおともだち?ああっ、わたくし、幸せになりすぎて死ぬんじゃないかしら!おともだち…おともだち!ああああああ、なんて素敵な響きなの!??」
蓮ちゃん、マジで友人が居なかったんだな。
「友だちだから、ミチルって呼んでね」
「ミチル…ミチルね!」
「これからよろしくね、蓮ちゃん」
こうして私は蓮ちゃんと友だちになり、謝罪のため食堂に戻ってきた。すでに皿洗いや片付けは終了してしまっている。頭を下げて謝罪するが、むしろピガーさんや犬妖精君達にはお礼を言われてしまった。
「気にすんな。今日はお嬢のおかげで怪我人もいねぇし、皆ちゃんと下膳したから仕事も楽だった。むしろ、お嬢に礼を言いてえぐれえだ。なあ、お前ら」
「そうですわん。姐さんは真生様による食堂大破をも防いでくれましたわん」
「そうですわん。姐さんのおかげで進化までできたのわん」
『ありがとうございますわん』
皆から感謝されてアワアワしてしまう。鈴木による食堂破壊はさておき、進化はたまたまだから!
「で、なんで背中にさっきまで敵意丸出しだったお嬢さんをのっけてんだ?」
実はずっと背中に蓮ちゃんが貼りついていたのだ。もう少しだけ!邪魔しないから!と押しきられた。
「これには色々色々ありまして…」
かくかくしかじか、□いムー○。ピガーさんは呆れながらも納得してくれた。
「………それで、背中におんぶお化けを背負っているわけか」
「……はい。いやいや、おんぶお化け違いますから!だから友だちなんですって!」
背後で蓮ちゃんも頷いている。ピガーさんはため息を吐くと、皮袋を渡してきた。
「ま、お嬢が嫌がってないみたいだからいいがな。ほれ、お嬢。今日の給料だ」
皮袋の中身はお給料らしい。なんかジャラジャラいってる。蓮ちゃんも後ろから中身を覗きこんだ。
「多すぎる!」
「少なすぎますわ!」
「「………え?」」
蓮ちゃんと見つめあってしまった。皮袋の中身は魔石だった。ざっと鑑定して、数百万はある。
「低レベルの俺らだけじゃなく、ハイレベルハイランクの真生様まで進化させたんだぞ?これっぽっちじゃ安すぎるって真生様に直談判したが、お嬢は謙虚だからそのぐらいじゃねぇと受け取らねぇって言ってた。まさか、高すぎると言うとは思わなかったぜ」
よくよく話を聞いてみると、こっちじゃ魔石は珍しいものではなくよほどいい品じゃない限り物々交換を嫌がられたりもするらしい。私の魔石はこっちだと数万円相当だと判明した。金銭感覚がおかしくなりそうだが、鈴木はこれ以上値下げしないからねという手紙までつけていた。
「よし、直談判してくる!」
「なんでですの!?」
「いや、どうせだからもう一人雇ってもらいたくて」
もう今日の仕事は終わりだから好きにしていいと言われ、鈴木の執務室に向かうことに。親切な蓮ちゃんが道案内をしてくれた。
立派な扉の前に、派手な女性達がたむろしている。邪魔だなぁと思っていたら、蓮ちゃんが叫んだ。
「通行の邪魔ですわ!真生様にお客様です!通しなさい!!」
けばけばしい女性が値踏みするように私を見た。バカにされているなぁ。ケバいよりいいと思うんだけど。
「真生様は貧相な小娘なんかにお会いしないわよ。さっさと帰り…ぐぶっ!?」
無言で結界サンドしてやった。あのね、私は初対面のケバい女にバカにされて黙っているほど温厚じゃないんだよね。いい感じに結界に顔がおしつけられて、女子として終了した顔になっている。
「はっ、マヌケ面。次は誰?…………全員?」
あっという間にサンドされた女性を残して走り去ってしまった。逃げ足が速すぎないだろうか。
「…流石はわたくしのと…友だち……のミチルですわ!わたくしも殺気で鳥肌がたちましてよ!強者の気配に怖じ気づいたのでしょうね。残った豚面はどうしますか?」
「ぐふっ!」
不意打ちだったのでふき出してしまった。そろそろやめてあげないと、息がヤバいかもね。
「……私に逆らわない?」
「んー!んー!」
必死にナニかを訴えているが、敵意は無さそうなので解除してやった。すると、ケバい女は私に駆け寄ってきた。なんか瞳が怖い。悪意はなさそうだが怖い。
「あんなにお強いだなんて…お名前はなんと仰いますの!?」
「ほ、北條ミチル……」
「ミチル様ですわね!?ぜひ私とつが「せいりゃああああああああ!!」
蓮ちゃんが女性…に見えるけど女装した男性を殴り飛ばした。彼?彼女??は何故鈴木の執務室前にいたのだろうか。まさか、ベーコンレタス!?鈴木の尻は私が守る!!
「貴様、真生様ばかりかミチル様までたぶらかすなんて!!」
「ミチルはわたくしのと・も・だ・ち!ですもの!!ミチルはわたくしが守りますわ!!」
「桔梗もご主人様をまもるのにゃ!」
「微力ながら…」
殴りあいになりそうでオロオロしていたら、立派な扉が開いた。
「あ、やっぱりミチルちゃんだ。小文吾の気配がしたからもしかしたらと思ったら、やっぱり!」
鈴木が小文吾に気がつき、部屋から出てきてくれたらしい。すごく嬉しそうに微笑んだが、一瞬真顔になり、私の手に念入りにスリスリしたあげく抱きついてきた。
「みぎゃああああああ!??」
「仕方ないのにゃー。嫁に他の臭いがついてたら、雄は嫌がるのにゃ」
「いや、嗅ぐな!触るなぁぁぁ!!」
桔梗がナニか言っていたが、私は今それどころではない。首筋に鈴木が!クンクンめっちゃ匂い嗅がれてるぅぅ!!
鈴木ぃぃぃ!!やめてくれぇぇぇ!!
「あ、ごめん。つい」
くっそ可愛いな!つい、いいよと言いたくなるが私のメンタルが大幅にゴリゴリ削れたので苦情を言おうとした。
「婦女子の匂いを嗅ぐなんて、変態ですわ」
「そうですわね。真生様には幻滅いたしました。サイッッテーですわ」
ケンカしていたはずの友だちと女装しているお嬢様っぽい誰かが、私を庇うように前に出た。
「ミチル様だって不快ですわよね?」
「女性に許可なく触れるなんてサイッッテーですわよね?」
「………まあその、うん」
セクハラはダメだと思います。私は素直にうなずいた。
「み、ミチルちゃあああああん!??」
鈴木の悲痛な叫びが魔王城に響いたのだった。




