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神託の巫女さんの受難。

「それじゃ、今日もお勤めに行きますか」


 朝食を終え、アユミはメイドが用意してくれた荷物と巫女衣装を受け取り伸びをしながら言う。

 今更だが、この屋敷の使用人達はアユミが神託の巫女である事を知っているみたいだ。衣装の手入れも任せている様子だからな。


「みんなはこれから冒険に行くの?」


「いえ、昨日行ってきたので今日はお買い物とかしようと思ってました」


「そっか。いいな〜気ままな冒険者ライフ」


「ここに住まわせて貰ってるから確かに気ままだけど、そうでなかったらんな軽い生活じゃないんだけどな。その辺りは感謝してるぜ」


 シオン達の生活を羨ましがるアユミ。巫女仕事や異界人の探索なんかで多忙らしいからそう思うのも当然か。


「ボクから誘ったんだしこれくらい大した事ないよ。でもま、感謝されるのは悪くないかな〜。じゃ、行ってきま〜す」


「お仕事頑張って下さいね〜」


 三人と使用人達で先に屋敷を出るアユミを見送る。嫌々言いつつも務めはしっかり果たしている。ご苦労様だな。


「……あいつAランク冒険者だったのか。全然見えねー」


 アユミを見送りその姿が見えなくなってから、シオンは先程の彼女が提示した自身のランクを思い出し呟いた。


「やっぱりAランクって凄いんですか?」


「そりゃあな。さっきも言ったが世界にひと握りしかいないとまで言われてるんだ。生ける伝説だ。異界人の強さなら不可能じゃないんだろうけど、それでもなぁ……」


 普段のアユミの態度や性格を思い出すと、どうしてもそんな素晴らしい人物だとは思えない。本人を前に言うつもりはないが。怒られそうだし。


「もしかしたら巫女さんの実績もランクアップに貢献してるんじゃないですか? すっごい活躍したって話なんですよね?」


「ああ、それなら確かに納得だ。もしくは、神託の巫女の立場を利用して権力にモノを言わせて……」


「んな事するような奴じゃねーだろ」


 シオンの良からぬ想像はすぐにマサヤに否定された。む、まさかオレがツッコミを入れられるとは。


「オレもそう思うけど、ま、可能性としてな。てか、あいつってそんなに強いのか?」


「え? 異界人なんですからそりゃ強いに決まってますよ。しかも私の予想ではアユミさんが断トツでチートですね! 時空間魔法とか最強過ぎます!」


「その時空間魔法って、今のところ移動手段に使ってるところしか見てないんだが。あれでどう戦うんだ?」


 アユミが見せた神の権能の力、時空間魔法は瞬間移動が可能だという事以外に何も解っていない。それだけでも確かに強力である事は確かだ。

 しかしそれを戦闘に応用するとなると、せいぜい不意打ちの暗殺程度にしか利用できなさそうな気がしてならない。能力の凄さはわかるのだが、それが強さに直結しているのかどうかは疑問に思えてしまう。


「ん〜、想像だけなら色々できますけど、実際お目にかかるのが早いですよね。ていうかほら、確かフラムさんだって神託の巫女さんちょー強かったって言ってたじゃないですか」


「あ、そういや言ってたな」


 エリスの語る通り、過去にフラムさんから神託の巫女の実力を少しだが聞いた覚えがある。魔族相手に無双してみせたとか何とか。

 あのフラムさんが絶賛する程強いとなると、実力は疑いようがないか。シオンには全く想像できないが。


「ま、あいつの実力もダンジョン攻略の時に確認すればいいか……さて、オレ達も出掛けるか。マサヤは確か、加工依頼をしていた武器がそろそろ出来上がる頃だっけか」


 今日の予定らしい予定と言えば、マサヤの武器を鍛冶屋から受け取るくらいか。マサヤが参加して初めて行った冒険で倒したバンダースナッチの爪を武器に加工して貰っている。拠点の変更等で忙しくてなかなか加工を頼みに行く機会がなくて時間がかかってしまったのだ。


「おう、そうだったな。けど、武器を受け取りに行くくらいなら俺一人で行って来れるぜ。お前さんら二人でゆっくり遊んで来たらどうだ?」


 唯一明確な用事があるマサヤだったが、皆で向かうではなく一人で済ませると言ってきた。


「あらやだ、マサヤさんってば気を利かせちゃってたりします?」


「別にこいつと二人で出掛けるなんて今に始まった事じゃないんだがな」


 エリスは何やら嬉しそうにしているが、マサヤがパーティーに参加する以前はそんな事当たり前だったのだから今更な気がするのだが。


「つっても、この街に来てからはんな機会なかっただろ? たまには女の為に甲斐性見せてやるのがイイ男ってもんだぜ?」


 ニヤつきながらそんな事を宣うマサヤ。だからオレとエリスはそんな関係じゃないんだっての。


「まあまあシオン君、マサヤさんもこう言ってくれてる事ですし、せっかくですので久しぶりに二人きりでお出掛けしません?」


「……そんなに用事があるわけでもないんだけどな」


「私にはありますよ〜。デートスポットを幾つか調べておいたんですから今こそそこに行くべきです!」


 それは用事とは言わないだろ。

 とはいえ、マサヤの言う通り武器を受け取るのは一人でも充分だし、二人がそう言うのなら無理に否定する理由もないか。


「はあ、わかったよ。今日一日くらい付き合ってやるよ」


「やった! マサヤさんありがとうございます!」


「いいってことよ」


 感謝を示すエリスに親指を立てて決め顔を見せるマサヤ。うざい。


「そうと決まれば早速行きましょう! 善は急げです! 今日でどれだけ回れますかね?」


「そう急ぐなっての。あ、一応冒険者用の店にも寄るぞ。例のヴァリブトル地下迷宮に行く時に買う消耗品の下調べしておきたいからな」


 落ち着きなく急かすエリスに自分の行きたい場所も伝えておく。いつ出発する事になるかは未定だが、早いうちにできる事はしておきたいところだ。


 そんなこんなで、今日一日はエリスとこの王都を見て回る事になった。

 ……嫌じゃないんだが、なんだかなぁ。





 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★





 はろー。ボクはミズマチ・アユミ、もとい神託の巫女。只今王城にて巫女モードの真っ最中。

 今ボクが居る場所は、リーフェルト王子様の自室の前。ひと仕事を終えたボクは頃合いを見てここに立ち寄ったの。そろそろ王子様も自由な時間になる頃のはずだしね。


 部屋の中に誰もいない事を感知能力で確認してから数分後、目当ての王子様が側近を連れて姿を見せた。

 金髪碧眼の整った爽やかな顔立ちに、細身ながらもしっかりとした体型。これぞザ・王子様って言うべき容姿をした、王子様過ぎるくらいに王子様なリーフェルト王子。

 互いに姿を確認し軽く会釈する。誰も見ていなければすぐにでもフレンドリーに声をかけたいところだけど、さすがに側近がいる目の前でそんな事するわけにはいかない。


「皆、下がってよい。私は巫女様と話がある」


 王子様はついて来ていた側近達に命令し、その場を離れさせてから自室にボクを招き入れる。二人で話をする時のいつもの流れだ。


 ……ちなみに、そんな光景を頻繁に目にしている側近達から、王子様と神託の巫女様がただならぬ関係にあるのではとまことしやかに囁かれているらしいけど、誰なの最初にそんな出鱈目言い出したの。

 そんなんじゃないですー。こちとらいつも真面目な話をしてるんだからね? どうせ他人からすれば胡散臭い内容にしか聞こえないだろうからこうして密会みたいな事をしているけど、国どころか世界の命運を左右する事態だというのに、そんなヨコシマな噂話を流されたんじゃたまったもんじゃないよまったく。


「さて、今日はどんな相談かな? もしかして、やっと僕の妃になってくれる決意ができたのかな?」


「…………ばっかじゃないの?」


 椅子に座り巫女衣装のベールを脱いだボクはリーフェルトのそんな冗談に冷ややかな視線と言葉で応える。まさかとは思うけど、噂の出所はこの王子様ご本人だったりしないよね? そんな事ないよね?

 ボクにあしらわれたリーフェルトは「残念」と小さくこぼしながら肩を竦めてみせる。その細かな動作もまた呆れる程に爽やかで、女の子なら誰もが見惚れてしまいそうな仕草だった。ボクはもう見慣れてるのでそんな感情は抱かないけど。


「いつも言うけど、王子様がボクみたいなどこの出身なのかも定かじゃないような人を婚約相手にしちゃ駄目でしょ。何処かの王妃様をお嫁にしなさいよ。普段はボクに巫女らしい振る舞いを〜とか言っておきながら、そんなんじゃ説得力ないってば」


「やれやれ、一国の王子に求婚されてそんな言葉を返せるのは君くらいだよ。玉の輿になれるのを喜ぶべきではないかい?」


「残念でした。地位も財力もそんなに魅力には感じないタチなんです。知ってるでしょ?」


「そこが君の魅力なのだが……まあいいさ。気が変わったらいつでも言ってくれ。待っているからね」


 もう何度目かも忘れてしまうくらいのいつものやり取りに若干呆れつつ、早々に話題を切り上げたリーフェルトを見やる。いつも「待っている」と言うが、こうして密会をする度に尋ねてくるのは如何なものか。全然待ってないし。めっちゃ催促してくるし。


「それで、今日の要件は何だい?」


「ん。シオン君の提案でね、近いうちに今集まってる五人でヴァリブトル地下迷宮の攻略に行こうって話になったの」


「……へぇ、あの最難関のダンジョンに」


 本題を耳にしたリーフェルトは、驚きつつも楽しそうな表情で頷いた。


「しかしまたどうしてそんな話になったんだい?」


「ボク達異界人の実力を把握してどんな共闘ができるか確認しておきたいっていうのと、実戦慣れしてない人達に経験を積ませるためだって。どっちも必要な事だから賛成したんだけど、問題は時間なんだよね」


「それはサーグラ国に行く時までの期間内で済ませるつもりなのかい?」


「そのつもりだよ。悪いけど暫くはボクには仕事を回しちゃ駄目だからね?」


「まあ、そうなるな……ところで、ヴァリブトル地下迷宮の攻略を提案したのもシオン君なのかい?」


「いんや? シオン君は五人でどこかのダンジョン攻略をしようって言っただけでヴァリブトル地下迷宮を行き先に決めたのはボクだよ?」


「やはりか。やれやれ、君という奴は毎回ながら加減が効かないな」


 彼の疑問に答えたら、その回答に再度肩を竦めてしまうリーフェルト。


「ヴァリブトル地下迷宮と言えば、一流の冒険者パーティーが数日かけてようやく一階層を攻略できるといった程の難易度と聞いている。そんなダンジョンの攻略を期限がある時に挑むとはどんな思考回路をしているんだね?」


 リーフェルトは若干責め立てる口調で場所の提案をしたボクを指摘した。う、ちょっと怒ってる?


「や、や〜、別にそんな本格的に攻略しようってつもりじゃないし、ほら、もちろん約束の日には帰って来れるように切り上げるつもりだし……」


「君は当日に帰還してすぐに出発の準備ができるのかい?」


「ボクなら問題ないでしょ? その気になればいつでも戻って来れるし……」


「なら訂正だ。君以外のメンバーもサーグラ国行きに同行する話だったはずだが、彼等にそんな余裕はあるのかい?」


 むぐ。リーフェルトの正論に思わず唸る。確かにそこまで考えてなかった。

 異界人パーティーの実力があれば世界有数の難関ダンジョンだろうと攻略できるとタカをくくっていたけど、期限付きという事を失念していた。これは要望を却下されても文句は言えないかも……。


「やれやれ……三日前だ。どんなに遅くとも当日の三日前までには帰還するようにしたまえ。それならばダンジョン攻略の許可を出そう」


「やった。さすが王子様! 話がわかる〜」


 でもリーフェルトは何だかんだボクの要望を却下する事はない。王子様ってば優し〜。


「まったく、あまり調子に乗らないで欲しいね。つまり君は相当な長い期間の間城を空ける事になるわけだ。君のその分の仕事は誰に押し付けるべきか……」


「そこは王子様の手腕に任せるよ〜。これも世界救済に必要な事なんだし!」


「やれやれ、体良く業務から逃げてくれたな……まあいいさ。だがひとつ懸念を挙げるとすれば……」


 ボクの仕事したくない思惑も当然のように言い当てるリーフェルト。そして意味深に考え込む。まだ懸念があるの? ボクには何も思い浮かばないけど。


「その道中で君が他の殿方と親密になってしまわないかという点か。由々しき事態だな」


「何言ってんのこの馬鹿王子」


 おっとしまった。あまりにもアホな発言に思わず本音が。


「酷い言いようだな。僕にはそれこそこれ以上ない問題だというのに」


「そんなのありえませんー。てか、いい加減ボクの事そういう目で見るのやめてくれません? セクハラで訴えるぞー」


「せくはら、というのが何なのかはわからないが、訴えるも何もここは僕の国なのだから僕が法律だろう?」


「暴論過ぎるわこのダメ王子!」


 王子様ジョークに二人して思わず吹き出してしまう。まったくもう。そういうノリ嫌いじゃないけど。


「ともかく、君は他の殿方になびく事はないんだね? 先日から少々気になっていたが、シオンという少年あたりは中々評価している様子だが」


「シオン君? あのコは異界人達を客観的な立場から見てくれているから何かと助かってるの。ボクでも気付かないような問題も見つけてくれたりさ……でも彼氏にはならないよ。知ってると思うけど、エリスちゃんとラブラブだし」


 シオン君本人こそそんな関係じゃないって否定してるけど、傍目にはどう見たって恋人同士だよあれ。てか、自覚ないみたいだけどシオン君もエリスちゃんの事マジで好きみたいだし。付け入る隙なんてカケラもないですとも。ボクにそんな気はもちろんないけどさ。


「そういう事なら信用しておこう。君にはもう王子様がいるんだからね。あ、二重の意味でね」


「ばーか。勝手に言ってろ。じゃ、スケジュールができたら呼んでよ。トモエにも伝えてこなくちゃ」


 立ち上がりベールを被り直しながらそう吐き捨て、王子様の自室を出る事にする。空間転移でだけど。リーフェルトだけじゃなくトモエにも言っておかないといけないからね。


「む……そういえば君はトモエ君とも結構仲が良いよな……まさか本命はそっち!?」


「うん、もう一回言うね? ばーか」


 またも残念な発言をする王子様に再度罵声を浴びせて部屋を後にする。転移先は魔術塔の門の前。

 突如現れたボク、神託の巫女に門番達は驚きながらも、すぐに門を開いてくれる。これが初めてじゃないんだし、勝手知ったるってね。

 早速トモエの部屋に向かおうとしたところでふと思い出す。この時間なら広間で開発した魔術を他の魔術師達にお披露目している頃かも。

 少し迷って、結果広間に向かう事にした。二度手間にならなければいいんだけど。




「おお、巫女殿! 丁度良いところに来て下さった!」


 そして到着した広間に、予想通りトモエの姿があった。うん、ボクってばさすが。

 思った通り彼は皆に魔術を披露しているみたいだけど……。


「見て下されこの映像立体化魔術! 他者の脳に働きかける幻術とは違い、確かな光の魔力の組み合わせによって生み出した技術ですぞ!」


 その魔術はどうやら立体映像を作り出すものらしく、その技術は確かに見事なものだった。細部まで細かく映し出されたその映像にその場にいる誰もが息を呑んでいた。


 うん、凄いね。さすがは知識と探求の神の権能。これは褒められて然るべきだよね。






 ……その映像がボクの姿でなければだけど。




「ここをこうすれば角度を調整できましてな? こうすれば……」


「む、おお!? と、トモエ殿! それ以上は……」


「み、見えてしまいますぞ!?」



 はい撤去。



「ぬぁーーっ!? 貴重な金剛魔石が!?」


 いかがわしい事をしようとしたトモエの魔術の触媒にしていた高価な魔石を真っ二つにしてその魔術を強制的に解除させた。お前ほんといい加減にしろよ?

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