異界人パーティー結成記念。
「……で、報告する事があるとか言ってなかったか?」
シオンの趣向に関する誤解をどうにかするのを諦め、というか全員明らかに悪ノリしているので無視する事に決め、強引に話題を変える。
他の異界人の調査に進展があったと言っていた。トモエにはもう伝えてあるのかどうかはともかく、それ以外の皆が集まっているこの場でそれを伝えると言っていたのはアユミなのだが。
「あはは、下手な逃げ方〜。まあ、シオン君で遊ぶのもこのくらいにして、そうだね。進展っていうのはサーグラ国にいる異界人の事なんだけどね」
アユミもシオンの思惑を察しつつ、促された通りに報告を始めた。はっきり遊ぶって言いやがったぞこんにゃろう。
サーグラ国の異界人。既に所在が把握できているほうか。確か騎士団に入団している、イサミという名の異界人だったか。神の権能はグリア神。アユミが言うには感知能力に長けているとか。
「サーグラ国の騎士団とどうにか接触できないかリーフェルトに聞いてみたら、二ヶ月後にサーグラ国に行く予定があるから、その時に一緒に来ればいいってさ。ちょっと先の話になるけど、正式に神託の巫女としてイサミ君に接触できそうだよ」
「……なあ、今お前、さらっととんでもない人の名を口に出してなかったか?」
「うん? リーフェルト王子くらいシオン君も知ってるでしょ?」
「王子様を呼び捨てにする国民があるか!?」
アユミの発言の中に登場した人物、リーフェルト・アーヴァタウタはこのアーヴァタウタ大国の王子様だ。さも当然のように知人のように語っていたが、その相手の格の違いに頭を抱えてしまう。そうだった。こいつ神託の巫女で物凄く偉いんだった。
「さすがにボクも巫女モードの時は弁えてるよ? 他の人が見てない時はお互いタメ口だけど。あ、これ内緒ね」
「巫女モードってなんか可愛い言い方ですね」
どうでもいいところに食いつかないでくれエリス。何他人事のように振舞ってんだ。
本当に異界人達がマイペース過ぎてまともな思考をしている自分が馬鹿らしくなってきてしまう。こいつらは必ず何かしらズレてたりぶっ飛んでたりしていてついていけない。
「で、その時にイサミ君に接触して協力をお願いしようと思ってるんだけど、リーフェルトにお願いして護衛の冒険者を雇ってもいいって事になったからさ、行く時はみんなも着いて来れるよ。もちろん行くよね?」
「おー、アユミさんナイスです! ちょっとした旅行気分ですね」
「真面目な目的があるんだから観光目的にしようとしてんじゃねぇぞ」
アユミは既にシオン達も同行できるように計らってくれていたようだ。依頼としては、王族の道中の護衛という事になるか。
協力関係を築く相手と顔合わせしておけるのは良い事だ。さすがは神託の巫女、抜かりはなさそうだ。
「ボクも巫女は影武者用意して冒険者として同行したいなー。長い期間巫女モードなんてやってらんないんですけど」
「自分の業務くらい全うしろよ」
しかし本人はこの調子だ。有能なんだが我が儘の多い奴。
「つまり、その二ヶ月後までは特に予定なしって感じか? 暫くは冒険者やってて良さそうだな」
「それなんだが、その間にやっておきたい事があるんだ。丁度アユミもいるし、提案いいか?」
マサヤが話を纏めるが、シオンはここ数日で思い至った事を伝えようと切り出す。
「うん? 何したいの?」
「その前に確認したい事がある。トモエはこの世界に来てから今まで、最近の調子みたいにずっと魔術の研究をしていたのか?」
「トモエ? そうだね。最初の頃はこの世界について色々調べながらだったけど、だいたいずっと同じ調子だよ」
シオンの質問に対する答は予想通りのものだった。そしてその予想は、あまり良い物ではない。
「冒険中に思ったんだが、マサヤは今のところ戦闘慣れしていないんだ。強い事は確かなんだが、ただ自分の身体能力を振り回しているだけって感じで、その能力を使いこなせていない。予想だが、それはトモエにも言える事なんじゃないか?」
「お、おう? そうなのか? 自分じゃよくわかんねぇけど」
三人で冒険をしていてシオンが感じた事。マサヤの戦闘時の様子を見て思ったのだ。
そしてそれは魔術を用いない戦闘方法であるマサヤだから気付けたのであって、もしかしたらエリスにも同じ事が言えるかもしれない。
「戦闘経験、実戦の少なさだね。それは確かにあるだろうね。だいたいの場合、それでも異界人はスペックの高さでどうにかできちゃうけど」
「だが、それはジャバウォックに通用するのか? お前達の能力の元になった神様達でさえ手こずった相手だろ?」
「……つまり、二人に実戦経験を積ませたいってわけね?」
「それだけじゃなく、全員の戦闘時の様子を確認しておきたい。互いにできる事を把握しておけばそれだけ戦術を組み立てやすいだろうし、どんな協力ができるのかもイメージしやすい。全員で戦闘をするっていう実戦経験が欲しいんだ」
正直この提案は、他の異界人も仲間に引き入れた時でも良いと思っていた。全員纏めて実力を把握できるほうが手間もない。
しかし、その他の異界人と協力できるのは少なくとも二ヶ月は先。その間何もしていないよりは、現状の戦力を把握しておけるならそうしておきたい。
「成る程ね。それをサーグラ国に出発する時までにしておきたいってわけね。具体的にはどうしたいの?」
「模擬戦とかですか?」
「いや、しっかり本気で戦える相手がいい。だから、アユミとトモエの二人も参加して、難易度の高いダンジョンに挑むのがいいんじゃないかって思ってんだが、どうだ?」
「ダンジョン攻略か〜。結構時間が必要だよね? でも確かにできるならやっておきたいし……うん、わかった。いつになるかはまだわかんないけど、賛成するよ。トモエにも伝えるね」
アユミはシオンの提案に頷いてくれた。多忙な立場という事はわかっているが、それでも今後の為にパーティーに参加してその実力を見せてほしい。
「じゃあ、アユミもトモエも今から冒険者登録すんのか?」
「ん? ボクならもう冒険者証あるよ? Aランクだし」
「そうなのか…………待て、今なんて?」
「Aランク冒険者ですが何か?」
そう言ってアユミが見せる冒険者証には、確かに彼女の発言通りのランクが記載されていた。
「お、おまっ、嘘だろ!? Aランク冒険者なんて世界に五人もいないって言われてるくらいランクアップ条件が厳しいんだぞ!?」
「知ってます〜。ボクにとってそれくらいできて当然です〜。てか、ボクら異界人ならAランクに行けて当然な強さのはずだけど?」
アユミに言われて改めて思い出した。そうだよ、こいつらアホみたいにハイスペックだった。それが日常だと錯覚してしまっていたが、世間一般からすればとんでもない化け物の集まりだった。
「アユミちゃん凄〜い!」
「マジかー。俺まだCランクだぜ。どれくらい冒険者続けてりゃなれんだ?」
「継続も大事だけど、やっぱり大きな成果を出すのが手っ取り早いよ。エリスちゃんもBランクに上がった時はそんな感じだったんでしょ?」
アユミの冒険者としてのランクを聞き盛り上がる二人。本来ならそんな軽い反応では済まない程に驚愕の事実なのだが。
「トモエは、そうだな〜……いっそのことトモエの依頼って事にして参加させちゃおっか。宮廷魔術師がダンジョンの研究に行きたいからその護衛を募集、って感じで。それなら手間もないしね」
そして唯一冒険者でないトモエについての解決策も思いつくアユミ。成る程、それなら確かに登録の必要なく同行できる。
「難易度の高いダンジョンなら、ヴァリブトル地下迷宮だね。そこでいいよね?」
「お、おう……そのダンジョンもそんな軽いノリで行ける難易度じゃないはずなんだが」
ヴァリブトル地下迷宮は、アーヴァタウタ大国内でも最難関と呼ばれるダンジョンだ。
最下層まで辿り着けた者が存在しない為にどこまで下層があるのか不明で、生還した者の最高記録は六階層、正確な地図はその半分の三階層までしか判明していないとされているのだから余程のものだ。
難関とされる理由はやはり出現する魔物の凶悪さ。他のダンジョンでは最下層に巣食うそのダンジョンの支配者とされる魔物と同等の強さを持つ魔物が当たり前のように一階層を闊歩しているらしい。
ダンジョンは階層が下がる毎に魔物が強力になっていくのが普通なので、そこから先の階層など想像もできない。聞くだけでも恐ろしい場所だ。
「それじゃ、異界人パーティー結成祝いに、ヴァリブトル地下迷宮攻略って感じだね。日時が決まったらすぐに伝えるよ」
「おー、なんか面白そうだな」
「五人パーティーなんて初めてですよ! ワクワクしますね」
その難易度を知る者ならば誰もが恐れるダンジョンの攻略計画に嬉々として盛り上がる異界人達。いや、こいつらなら詳細を知っていてもこんなノリなのだろうが。現にアユミは知っているはずだし。
……自分から提案しておいて何だが、生きて帰れるだろうか?




