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巫女様の力。

 素顔を見せた神託の巫女……アユミの発言。それは驚くべき内容だった。


 一度は考察の末否定した、巫女自身が異界人であったという事実。そして、さらにもう一人、術士のローブを纏う眼鏡の青年。彼もまた異界人だという。


「御紹介に預かったハナバラ・トモエだ。アーリティア神の権能のスキルを持っている。現在はこの王城で宮廷魔術師をしている」


 トモエは椅子から腰をあげ立ち上がり、こちらに恭しく御辞儀してみせた。少々芝居がかった口調だったが、それはアユミの発言を肯定する内容だった。


「あ、ボクはシュヘルムヴィアー神の権能ね。ついでだし、みんなも何の神様の権能を持っているのか教えてよ。わかってるのエリスちゃんだけだからさ」


 アユミはトモエの自己紹介を聞き、思い出したように自身の持つスキルを教えた。


 アーリティア神は知識と探求の神と言われ、魔術の祖とされている。故に魔術師達から深く信仰されているのだとか。もっとも、大半の魔術師は魔術の研究に心血を注いでいる為、純粋な信仰心というよりもその叡智にあやかりたいという程度らしいが。


 シュヘルムヴィアー神は神話上においてあまり語られていない謎の多い神様だが、その司る事象、時間と空間の神と呼ばれている事からエリスが最も凄い存在なのではないかと語っていた神様だ。その神様の権能が神託の巫女のものだったとは。


 さて、こちら側も自己紹介を求められているが……。


 二人の様子を見ると、エリスは……こいつ、笑ってるのか? 口元を抑えて肩を震わせている。マサヤは未だに唖然としているようだ。そろそろ戻ってこーい。


「まっ、ちょっと待って……何この巫女様、最高過ぎるんですけど……」


 やっとエリスが喋り始めたと思ったらこれだ。爆笑してしまいそうな程巫女様の変貌が可笑しかったらしい。そんなにか。


「はー、マジで騙されたわ。今まで猫被ってたのかよ。いやまあ、堅苦しいのよりこっちのが全然いいけどよ」


 そしてマサヤはその驚愕を語る。こいつはこいつで今までのあの二人の話を聞いていたのか疑わしいな。


「はー、ふぅ、えっと、自己紹介ですね? シノミヤ・エリスです。もう知ってるみたいですけど、ルキュシリア神の権能のスキルを持ってます」


「あ、俺もか。俺はトウドウ・マサヤだ。俺のスキルは……えっと、何て言ったっけか?」


「イルア神の権能な。自分のスキルの名前くらいは覚えておこうぜ」


「おお、それだそれ! イルア神だってよ」


 マサヤのフォローをしながら、二人の自己紹介を終える。それにしても、まさかこの場に異界人が四人も集まっているとは。こうもなるとシオンはここにいて良いのか疑問に思えてくる。


「へえ、君がイルア神なんだ。で、シオン君は?」


「は?」


「そろそろフルネームも教えてよ。ボク達の前でなら警戒する事もないでしょ? 事情を知ってる者同士なんだしさ」


 ……まさか巫女様、勘違いしてるのか?


「あー、待った。オレは異界人じゃないぜ?」


「はい?」


「冒険者のシオンだ。たまたまエリスがこの世界に来た時に出くわして、それ以来面倒を見てやってるだけだぜ」


 シオンはそれまでのエリスと出会ってからの過程を教える。まさかシオンまで異界人だと思われていたとは、予想外だ。


「そんなわけないでしょ。だってイーヴィティア神の権能の影響を受けなかったんでしょ?」


「あー、それか。それはエリスから貰ったスキルのおかげだぜ」


「貰った? スキルを? どういう事?」


 言われた内容が理解できないらしい巫女様、アユミ。その横で突然、宮廷魔術師のトモエがおもむろに空中に小さな魔法陣を浮かべる。その魔法陣から、文章らしきものが浮かび上がる。


「シオン殿、失礼だが鑑定結果をアユミに見せても?」


「ああ、構わないぜ」


 トモエは先程シオン達が部屋に入ってきた時に行っていた鑑定魔術の結果から、既にシオンの内情を察していたようだ。その鑑定結果をアユミにも見るように促す。アユミは訝しげにしながらもそれを覗き込み、そして。


「……はぁ!? 何これ!? 寵愛!?」


「いやはや、実に興味深い。恐らくは我々異界人の持つ権能以外の、唯一の神の力を伴ったスキルなのだろう。やはりこの世界は奥が深い。そうは思わんか、アユミ?」


「いやいやいやいや! 聞いてないってこんなの! ちょっとあの恋愛脳に問い質してくる!」


 トモエの妙に研究者染みた意見を流し、アユミは突如横の何もない空間に手のひらを向ける。そこに、穴、と呼ぶべきだろうか? 向こう側の景色が見えない円形の空間が生み出された。


「おいアユミ、まだ話の……」


「すぐに戻って来るから気にしないで!」


 早口でトモエの制止する声に被せて言い放ったアユミは、その穴を潜り姿を消してしまった。その穴もすぐに消失する。


「やれやれ、気が早いと言うか何というか……」


「えっと、今のってワープみたいな感じですか?」


 肩を竦めるトモエに尋ねるエリス。ワープって何だ?


「察しがいいな、エリス嬢。いかにも今のがアユミの持つシュヘルムヴィアー神の権能により授けられし唯一無二の魔法、時空間魔術の力。空間転移による瞬間移動なのだよ!」


 それに答えるトモエは、まるで自分の事のように大袈裟に自慢して語った。何でお前が偉そうなんだ。

 空間転移、瞬間移動……つまりアユミは、この一瞬でどこか遠くへ移動してしまったという事か?


「聞いた事のない魔術だな。時空間魔術か……」


「当然だろう。何せその魔術は本来、人間の身では習得不可能な魔術なのだからな。シュヘルムヴィアー神の権能があって初めて使用が可能となる魔術だそうだ。羨ましい限りだな」


「へ〜、私、時間の神様って聞いてたからてっきり時間を止めたりするような能力だと思ってました。なるほど、瞬間移動か〜」


「うむ、要するに四次元概念へ干渉する能力だからな。恐らくそれも可能だろう」


「できちゃうの!? 瞬間移動だけでもすっごいチートだと思うんですけど!?」


「どのような制約があるのかはわからんがな。因みに空間転移だが、自分以外の生きている存在は移動させる事ができないらしい。というか、させると生命活動に支障をきたす可能性があるとかなんとか。術者であるアユミ自身は平気なようだが、思っているよりも万能ではないのかもしれん」


 アユミの能力を語るトモエ。いやその、それよりも。


「てか、あいつ何処に行ったんだ?」


「あ、そうですよね。誰かに何か聞いてくるって言ってましたけど……」


「うむ、ルキュシリア神様に直接シオン殿のスキルについて聞きに行ったようだな」


「……は?」


 ちょっとまて。こいつ今、何て言った?


「……ルキュシリア神様? え、嘘、神様に会いに行ったって事ですか?」


「うむ。この世界とは異なる次元に在わすらしいが、時空間魔術ならば行き来が可能らしい。アユミが神託の巫女と呼ばれているのは神の声が聴けるからという話は知っているだろう? それは紛れもない真実だぞ」


 待て待て、冗談じゃないのか? 神様に直接会う事ができるって、規格外どころじゃないぞ。


「あははははは! 嘘でしょ!? 「ちょっとコンビニ行ってくる」みたいなノリで神様に会えるとか! チートにも程があるでしょ!?」


「いやいやいやいや! 神様の声が聴けるどころか、自分から会いに行けるのかよ!? 神託じゃないだろそれ!」


 ついに爆笑してしまうエリスはともかく、想像していた神託と全然違うではないか。実際は神託以上の事をやってのけているではないか。


「事実、神様の意見を聞いている事に変わりはなかろう? まあ、あいつが言うにはその神様はあまり人の役に立つ意見は述べないので、人々を動かす際に神託という言い訳をして利用しているらしいがな」


「詐欺じゃねーかそれ!?」


「ハッハッハ! だとしても真偽を確かめる術は我々にはないから何も言えんがな!」


 おいおい、思っていた以上にとんでもない奴だぞ神託の巫女。立場を悪用してんじゃないのかそれ。


「とはいえ、今のところアユミの行動はその神様からの頼みに起因する事柄なのだから、神託と告げている事は完全な嘘というわけではないらしいぞ? あれで色々と厄介事を押し付けられている身なのだ。理解してやってくれ」


 それまでの演技染みた口調とは違い、少し真剣にアユミをフォローする言葉で締めるトモエ。実際に神様と交流できるのがアユミだけなのだから、確かめようがない為信じるしかない、か。


 そうこうしているうちに、アユミが消えていった空間に再び穴が現れた。その穴からすぐにアユミが姿を見せる。


「お待たせ。マジだった。信じられない。他人に高性能スキルを授けられるとか、意味わかんないんですけど」


 戻ってきたアユミは溜息混じりにそう告げる。空間に空いていた穴はもう消えてしまったようだ。


「それにしても……ふ〜ん……確かに顔は結構イイのかな? ちょっと童顔だけど」


 そしてアユミは、何故かシオンに近寄りまじまじとその顔を覗き込む。何なんだいったい?


「えっと、何すかいきなり」


「や、ルキュシリアが言うには、物凄く深く愛している相手じゃないと寵愛のスキルを授ける事はできないんだってさ。あの恋愛脳、話を聞いた途端キャーキャー喜んじゃってうるさいのなんの。よっぽどエリスちゃんに愛されてるんだね?」


「なっ……」


「え、や、や〜、それ程でもありますけど? そんなきっぱり言われると恥ずかしいですね〜。えへへへへ〜」


 アユミの話を聞き顔を真っ赤にしてしまうシオンと、デレデレくねくねと嬉しそうにするエリス。

 恋愛脳というのはルキュシリア神様の事なのだろう。曲がりなりにも偉大なる神様にあんまりな言いようだが、今だけは心の底から同意する。なんて事言いやがるんだその神様。


「それから、そんな芸当ができるスキルはルキュシリア神の権能のみで、恐らく今後一生、他の誰かに寵愛のスキルを授ける事は不可能だってさ。強力なスキルを持っている人を量産みたいな事をするのは無理だって」


「ふむ、それは当然だろうな。そんな事ができてしまえば容易くこの世の理が崩壊してしまう。一度だけでも充分に偉業であろう」


 ルキュシリア神様から聞いてきた寵愛スキルの詳細を語り考察するアユミとトモエだが、今のシオンはそれが頭に入ってこない。落ち着け、冷静になれ。


「えへへ〜、どうですシオン君、私の愛が証明されましたよ?」


「……うるせー、こっち見んな」


「やだもーシオン君ったら恥ずかしがっちゃって可愛いんだからー!」


 いつも以上に騒がしくするエリス。こいつめ調子に乗りやがって。


「なんか、ルキュシリアが君を選んだ理由に納得したよ」


「バカップル爆発しねーかなー」


 呆れた様子のアユミとマサヤ。おいそんな物騒な事言うんじゃない。てか、これはエリスからの一方的な愛であって別にカップルというわけでは……てかバカップルって何だ酷い造語だなおい!?


「あー、とにかく、オレは異界人じゃねーって事は納得したみたいだな」


 少々強引にアユミが神様の居る次元とやらに飛んで行く理由になった話題に戻す。そういえばそんな話からこの流れになったんだっけか。自分で言っておいて今まで頭からすっぽり抜け落ちていた。主な原因はアユミの能力の規格外さが理由なのだが。


「ん、まあね。せっかく異界人全員の所在を把握できたと思ったのに……まあ、結局マサヤ君が来てくれたおかげで予定通りの収穫だけどさ」


「そう残念がる事もないと思うぞ? 我々の持つ権能スキルに匹敵するスキルを持つ者が協力者にいるというのは単純に大きな戦力補強になるだろう。むしろ、そんな人材を見つけられた事を喜ぶべきではないか?」


「ん〜……まあ、それもそっか」


 シオンが異界人でなかった事にがっかりしていたらしいアユミだが、トモエの言葉に頷きすぐに元の明るい笑顔を見せる。


「巻き込んじゃったついでに、もう少しボク達異界人に付き合ってくれないかな? 寵愛スキルまで貰っちゃってるんだし、君も無関係ではいられないしね」


「オレは別にいいけど……とにかく色々聞かなきゃいけない事があるっぽいな。まずは話を聞いてからだろ」


 戦力がどうのと、何やら物騒な事を言っていたトモエ。先程、アユミは神様から面倒事を押し付けられていると言っていた。

 そして、他の異界人を集めているらしい発言。

 何か、異界人達の力で解決しなければならない事態が起こっているらしい。規格外な能力を持っている異界人達、一人や二人では解決できない程の何かが。


「ありがと。じゃ、まずは君達からの質問に答えよっか」


 アユミがソファーに身体を沈めるのを皮切りに、各々が改めて椅子に座りテーブルを囲む。


 異界人達の存在、その数多の真相が、やっと判明する。

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