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王都へ。

「神様が七人で、こっちの世界に来ている異界人も七人、か。んで、俺ら二人以外には帝国に洗脳する能力がある女の子がいるのか」


「そうなんですよ。カミドリ・マツリちゃん。超絶美少女でうわ幼女強いな感じ! 十歳くらいですけど、案外おっぱい大きくてですね……」


「ほほお、将来有望だなそいつ」


 どこに食いついてんだこいつ。


 シオンとエリスが今までの経緯をマサヤに話しているのは、アーヴァタウタ大国王都に向かっている馬車の中での事だ。三人は現在、神託の巫女の誘いに乗り大国へと赴く最中だ。

 大国はリインドの街から馬車でおよそ一日かかる距離だ。街道のどこかで一泊する必要がある。


 その馬車の中で時間を潰す為にこの話題となった。マサヤにとっても自分と同じ異界人の話である以上、無関係ではないはずだ。


「しかし洗脳か……どんなに腕っぷしが強くてもそんなん相手じゃどうしようもないしな。そんな奴がこの国を攻めようとしている帝国にいるって、もしかしてやばくないか?」


「もしかしなくてもやばいぞ。オレとエリスにはその洗脳が効かなかったからどうにかできたけど、あいつは懲りた様子じゃなかったからな。また攻めに来る可能性は充分にある」


「マジかよ。てか、何でそいつもそんなに国を攻めるのに乗り気なんだ? ガキだから帝国の連中に騙されてたりしてないか?」


「あ! それはありえるかも! それならやっぱり説得して助け出すべきですよね!」


「そんな感じはしなかったぜ。てか、十一歳らしいけど頭はかなり切れるぞあいつ。そもそも、オレら以外の全ての人を洗脳できるのに、誰かの言いなりになるわけないだろ。自分で世界征服が目標って言ってたんだぜ?」


「はー、ずいぶん大きく出やがったな……なあ、俺もそいつに会ったら洗脳されちまうのかな?」


「どうだろうな。エリスの神の権能のスキルが特別なのか、権能スキル持ちならそれだけで耐性ができるのか。会ってみないとわからないな」


「マサヤさんが敵になっちゃうのはやばいですね〜。でも、マツリちゃん自身は戦う術はないみたいですから、前みたいに私かシオン君が組み伏せちゃったらどうとでもなりますよね?」


「多分な。あいつもそんな事わかってるんだから、何かしら対策を練っているとは思うけど……ところで、マサヤはマツリの事、どう思う?」


「どうって、何がだ?」


「オレは今度マツリに会ったら、殺そうと思っている。危険過ぎるからだ。けどこいつは……」


「嫌ですよそんな事! せっかくの同じ異界人なんですもの。きっとわかりあえるはずです! マサヤさんもそう思いますよね?」


 マツリへの今後の対応は、シオンとエリスの意見は未だに平行線だった。エリスに近い立場であるマサヤはどんな意見を述べるのか。


「あー……そりゃまあ、そいつが危ない奴だってのはわかるけど、殺すってなるとちょっとなぁ……」


「ですよね! やっぱりそんなのやりすぎですよ!」


「そうか。ま、予想はしてたけどな。お前達のいた世界の価値観は、敵国の人間だろうと人を殺すのはそれだけ忌避するものなんだな」


 無論、この世界だろうと人を殺める事への忌避感はある。基本的には立派な悪事なので法律によって咎められるのも確かだ。

 しかし、敵国の人間の存在やならず者の多さも相まって、理由によっては正当化される事も少なくない。エリスやマサヤのいた世界との差はおそらくここにあるのだろう。


「当たり前だろ。それが一番手っ取り早いのかもしれねぇけどよ、んな事にならずに解決できるならそうするべきだ。殺すのはよくないぜ」


「魔物なら躊躇なく殺せるのに、か?」


「そりゃあ……あー、その、何て言うか、わかるだろ?」


「ああ、わかってる。意地悪言って悪かったな。とにかく、今度マツリと相対した時は勝手にやらせてもらう。お前達の考えもわかるが、オレは自分の意見が正しいと思っているからな。この話はここまでだ」


 マサヤはまだ何か言いたげな顔をしていたが、それ以上言及しては来なかった。頭では理解してはいるが、納得できてはいないのだろうな。


「話題を変えましょう。そうですね〜、神託の巫女さんの事とか。どう思います?」


 エリスがぱん、ぱんと手を叩き、場の空気を変えようと新しい話題を振ってきた。


「神様の声が聴けるんだっけか? 胡散臭くねぇか?」


「その話が本当かどうかはともかく、確かな実績を残した英雄ってのは事実だ。フラムさんが言うには、相当強いって話だしな」


「フラムねーさんが言うなら信じるっきゃねーか」


 待て。信じる理由がなんかおかしいぞ。


「で、オレ達を王城に招いたのもその神託だって話で、お前達異界人の事も知っている。それも神託なのか、それとも……」


「はいはい! 私、その巫女さんも異界人なんじゃないかって思います!」


 エリスは手を挙げながら、シオンが発言しようとしていた予想を述べた。やはりその考えに至るか。


「自分が同じ異界人なら、私達が異界人だって予想を立てるのもおかしくないし、凄く強いのだって神様の権能のスキルがあれば当然ですよ! 神託だって言ってるのも権能スキルでそんな風に振舞っているんじゃないですかね?」


「オレも一度はそう思ったんだが、巫女とお前達とのはっきりとした違いがあるから、断言はできないんだよな」


「え? 何かありましたっけ?」


 エリスは思い至る違いがわからないらしく、可愛らしく首を傾げる。


「お前達がここに来たのは、だいたい一月前だよな? マツリもそんな事言ってたはずだ。けど、神託の巫女が有名になったのは半年以上も前からだ。これまでの異界人達にあった共通点である、この世界に来た時期が一致しない」


「あ、確かにそうですね」


「まあ、巫女だけお前達よりも先にこの世界に来ていたって話だったら理屈は通るが、そんな例外があるのか疑問だしな」


「なら、マジで神様から俺達の事教えられたってのか?」


「かもな。オレも今までは神託なんかじゃなく、情報収集に長けた人物なんだろうって思ってたんだが、今回の事でちょっと信じかけてる。この手紙も……」


 シオンは神託の巫女からシオン達へ送られた手紙を出し二人に見せながら、


「この手紙には、『貴方達異界人』、って記されている。この前の戦争で有名になったのはエリスだってのに、異界人が複数人いる事を知っている書き方だ。マサヤとオレ達は戦争の後に会ったばかりのはずなのに」


「……あ、確かに! え、何それ怖い。じゃあやっぱり神様の声が聴けるんですかね?」


「そうとしか思えないだろ? お前達異界人をこの世界に召喚したのは、権能スキルからして恐らく神様なんだし、その神様の声が聴ける巫女となると、お前達とは関わりが深くなりそうだな」


「そいつに聞けば元の世界に帰る方法もわかるのか?」


「多分な。そんな方法はないなんて言われるかもしれないけど」


「冗談じゃねぇぜ。ここに来る事ができたんだから、帰る事もできるはずだろ?」


「そう思いたいところだがな……どちらにしても、巫女に聞いてみるしかないな」


 手紙に記されている、知りたい事全てを教えるという言葉。きっとマサヤの疑問にも答えられるだろう。


「神託の巫女さん、どんな人なんでしょうね〜。面白い人だったらいいな〜」


 そこは「良い人」と言うところではないのか。エリスの変な願望を最後に巫女に関する話題は終わり、再び馬車の中でとりとめのない雑談が始まった。





 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★





「わー、凄いですね。リインドの街よりも賑やかですよ!」


「そりゃあ王都だしな」


 アーヴァタウタ大国王都に到着し、その活気溢れる街並みを見て感嘆の声をあげるエリス。初めてリインドの街に来た時もこんな風にはしゃいでいたっけか。


「あんまりうろちょろすんなよ。その歳で迷子とか、勘弁してくれよ」


「大丈夫ですよ〜。私、どんなに離れていてもシオン君を見つけ出せる感知能力がありますから!」


「ちょっと待て、何だその能力。初耳だぞ?」


「この前の戦争の時に気付いたんですよ。ほら、私結構早くシオン君と合流できたでしょ?」


 思い返してみたら、確かにエリスがシオンに合流したのは相当な早さだった。おかげでシオンは助かったのだが、まさかそんな妙な能力まであったとは。


「なんかキモいな。ストーカーみたいな?」


「ちょっ!? 酷くないですかそれ! 愛の為せる技って言って下さいよ!」


「多分、こいつから与えられたスキルの影響なのかもしれないが……なんかやだな」


「シオン君まで!?」


 二人からさんざんな言われようを受けたエリスは、打ち拉がれながら「言うんじゃなかった……」と後悔している。黙っていてもいつかは気付きそうだがな。


「ほれ、置いてくぞ……あ、オレの居場所がわかるから置いてっても別にいいのか?」


「違っ、そんな!? 待って下さい! 一緒に行きますよ〜!」


 歩き始めるシオンとマサヤ、そして慌てて着いて来るエリス。早速向かうは、神託の巫女が居るアーヴァタウタ大国王城。

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