表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/170

宮廷魔術師の彼は変態さん。

 アーヴァタウタ大国王城内には、大規模な魔術研究施設がある。宮廷魔術師達が主に利用するこの施設は、日々新たな魔術の研究、開発が進められ、同時に魔術師達が技術向上の為に切磋琢磨する環境でもある。やはり王城内の施設だけあって、国内でも最先端の魔術研究環境と言える。


 その王城内の研究施設は、最近一人の青年によって近年稀に見る魔術の発展を遂げていた。


「これで良いはずだ……では早速! 『氷結魔術フリーズ』!」


 青年は施設の中央の実験場で、床に描かれた魔法陣に魔力を込め、呪文を唱える。すると輝きを放ち始めた魔法陣の上に、大きな水の球が出現し、その水球が一瞬にして凍りついた。


「おお……」


「本当に氷を生み出す魔術を開発するとは……」


 その様子を見ていた周囲の魔術師達は口々に驚きの声をあげる。氷を作り出す魔術は、一部の魔物が本能的に使用する事があるという一例のみで、それまで人間が習得したという話はなかったのだ。


「トモエ殿、その魔術はいったいどのように……」


「簡単な事ですとも! 水属性魔術によって作り出した水を、火属性魔術の温度操作によって温度を奪い氷結させたのです!」


 トモエと呼ばれた、氷結魔術を使ってみせた青年は眼鏡を動かしながら詳細を明かした。


「火属性魔術? 温度を下げる行為は火属性魔術で再現できるのか」


「しかし、という事は氷結魔術は火属性と水属性の複合魔術なのか……とても我々には真似できそうにない」


 簡単に説明した理論に魔術師達は感嘆するが、同時にその魔術の難易度の高さも理解する。

 魔術の属性には相殺関係にある属性がある。火と水、地と風、光と闇がそれぞれその関係にあり、その属性を宿した魔力同士が干渉すると、互いに相殺し打ち消しあってしまう。

 その性質は魔術として発動する以前に、生物の身に宿る魔力の適性から根本的に関わっており、基本的には片方の属性魔術適性を有する者はもう片方の適性は持っていないとされている。

 そのうえ、相殺関係にあるのだからその魔術同士を複合させるとなると、本来ならば性質を打ち消し合い何の効果も発揮しない結果が容易に想像できる。実際目の当たりにしなければ、そんな魔術は信じられない現象だった。


「いえ、温度操作の魔術だけでも水を凍らせる事は可能でしょう。コツは水そのものに魔力を当てないように、その周囲の温度を下げる事ですな。温度を下げる、即ち温度を奪う術式は……」


 しかし青年は、トモエは他の魔術師達にも近しい魔術が行使できるよう解説を始める。魔術師達は誰もが熱心にそれを聴き、自らの糧にせんと記憶する。


 青年の名はトモエ・ハナバラ。一月程前からある人物の紹介により宮廷魔術師に抜粋された異界人だ。

 魔術の祖と言われている神、アーリティア神の権能というスキルを持つ彼は、そのスキルの影響らしく、あらゆる魔術の高い適性を持っている。特に基本となる火、水、地、風の四属性は最高評価のAランク。本来相殺関係にある属性同士の適性を持っているだけでも稀有とされているはずが、彼はその適性を高いランクでその身に宿している。恐らく彼に敵う才能を持つ魔術師は存在しないだろう。


 それだけでなく、トモエはそれまでの魔術師が思いつかないような発想で、次々と新たな魔術やその論理を発表した。そしてその知識を秘匿せず、全て宮廷魔術師達に披露してみせた。結果、宮廷魔術師達の技術は日を増す毎に進歩し続けているのであった。


「この術式を応用すれば、新たな魔術を生み出せるやもしれん……」


「おお! それは素晴らしい! 開発に成功した暁には是非このトモエめにもご教授頂きたい!」


「勿論だとも……さて、この氷塊は片付けますかな?」


 一人の魔術師の言葉に、皆がトモエが魔術によって生み出した氷塊に目を向ける。


「あいや待たれよ! せっかくなので少しばかり、試してみたい事が御座います故!」


 しかし、トモエはその提案に待ったをかけた。勿論彼の言葉に反対する者はいない。また新たな魔術論理を見せてくれるのではないかと期待が高まる。


 ……若しくは、


「『風刃魔術エアリアルセイバー』……威力はこれくらいで……むむむむ……」


 トモエは風属性魔術の基礎である、風の刃を放つ魔術を唱え、氷塊に向け放ち始めた。

 しかし、ただ無作為に放っているわけではない。威力を抑え、何度も持続させて放ち、氷塊の表面を少しずつ削っているようだ。

 魔術をここまで繊細に操ってみせる技術は彼ならではだが、彼のそれまでの功績を見てきた魔術師達にとっては特別真新しい事ではない。

 これはもしかしたら……。


 削られ続ける氷塊は、少しずつ形を変えて行く。どうやらトモエは、氷塊を何らかの形にしようとしているらしい。


「……ふむ、こんなところか」


 そして完成したらしい氷塊は、人の姿を形取っていた。色こそ透明だが、その造形はその場の誰もが一目で誰をモデルにしたのか理解した。


「これは……巫女様ですか?」


「うむ! 我等が神託の巫女殿である! どうです、中々の出来でありましょう?」


 氷塊は、アーヴァタウタ大国を救った偉人、神託の巫女の身に纏うローブや覆面を再現していた。服の皺や躍動感等、中々の拘りを感じられるものだった。


 凡そ半年以上前、神の声を聴く事ができる巫女と呼ばれ表舞台に現れた神託の巫女。その神託を以て国内に蔓延る魔族の陰謀を暴き、騎士団や冒険者達と共に一網打尽にし一躍有名となった人物だ。

 現在彼女は王宮で客人として丁重に扱われているが、どういう訳か彼女は神出鬼没で、その姿を目にする機会は同じ王宮に住む者でも少ないらしい。

 普段から素顔をベールに隠しており、謎の多い人物だ。


 そんな巫女の姿を形取った氷像を作り出したトモエだが、それは別に新たな魔術の開発や論理等とは程遠い。言わば彼の趣味の産物だ。

 トモエは時折、誰もが目を見張る素晴らしい魔術で、このような仕様もない趣味に走る事がある。凄い事は凄いのだが、新たな魔術なのではと期待する魔術師達にとっては落胆もいいところだ。


「これは会心の出来だな! 温度を下げる魔術を固定させれば記念に残せるやも……」


 トモエがまた趣味の為に魔術の考察を始めた時、施設の出入り口がゆっくり開かれた。


 入室してきたのは……作られた氷像と瓜二つの人物。


「トモエ様は居られますか?」


 近くの魔術師に尋ねたのは、神託の巫女その人だった。ゆったりと身体を覆うローブに、自らの顔を隠すベール。その素顔を目にした者は少ないが、背丈や声の質から、年若い少女である事は予想できる。


「おお、巫女殿! 良いところに来られましたな!」


 巫女の入室に気付いたトモエは嬉しそうに呼びかけ、自分の元に招く。


「トモエ様、そろそろお時間ですので…………これは?」


「フッ、よくぞ聞いて下さりました! 新たに開発した氷結魔術によって作り出した氷塊を削り形にした氷像であります! 見事な出来でしょう?」


 自分と同じ形に作られた氷像を目の当たりにし、本人までも氷像のように固まってしまった。


「我ながら素晴らしい再現力だと自負しております! 特に平坦ながらも慎ましやかな胸元など……」


 聞いてもいないのに熱弁を始めるトモエだが、ぱきん、と、氷像から高い音がした。

 そして、巫女を形取った氷像が、真っ二つに割れ倒れてしまう。


「俺の力作が!?」


「トモエ様、約束の時間です」


 巫女は氷像に一切触れていなかったが、氷像を破壊したのは恐らく彼女なのだろう。落胆するトモエに一声かけ、施設の出入り口へと歩き始める。

 ショックから地に手を付け四つん這いになっていたトモエだが、去り行く巫女に慌てて着いて行き、二人は施設を後にした。


「また巫女様を怒らせたな」


「全く……この変な癖がなければ素晴らしい人物なのだが……」


 残された魔術師達は、居なくなった二人の話題を口にしながら研究へと戻り始める。

 トモエと巫女のこのようなやり取りは今に始まった事ではない。というのも、トモエを宮廷魔術師に迎え入れたのは他でもない、神託の巫女からの提案だったからだ。


 巫女が神より授かった神託によって見つけ出された、稀有なる才能の持ち主。それがトモエなのだ。





 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★





 王宮内の通路を歩く二人。前を歩くトモエに、数歩遅れて着いて行く巫女。その二人に気付いた女中達は、すれ違い様に作業する手を止めお辞儀をする。

 やがて二人は、一室の前に着く。トモエがその扉を開け、巫女を先に招き入れ、自分も中に入り扉を閉じる。

 その部屋は高い本棚や長テーブルが場所を取る、中々広い部屋だ。トモエに宛てがわれた部屋らしく、本棚に並ぶ本の多くは魔術書と、机には多くの魔術触媒用の魔具が置かれていた。ある程度は整頓されており、見苦しい程に散らかってはいない。


 そんな部屋に入室した巫女は、おもむろに被っていたベールを掴み脱ぐと、そのベールを机に放り出しソファーに勢い良く腰を下ろした。


「はー、疲れた。トモエー、水ー」


 入室する直前までお淑やかでミステリアスな雰囲気を醸し出していた巫女が、二人きりになると同士に、それまでの印象を崩壊させる態度になる。そんな彼女の様子に苦笑しながら、トモエは言われた通りに部屋の奥の流し台から水を汲み彼女に差し出す。


「氷も必要かな、巫女様?」


「や、別にいい。てか、あれはないわ。何? 変態? キモいんですけど」


「ハッハッハ! 愛の為せる技と言っておこう!」


 辛辣な言葉を並べるのは、先程の氷像に対してだろう。しかしトモエは気を害された様子はなく高笑いしてみせる。

 巫女は肩あたりまで伸びた髪を後ろに纏め縛りながら、「はいはい」と呆れた様子で相槌をうつ。

 外見は十代の半ばだろうか。童顔の為それより幼く見える。巫女としてベールを被っていた時とは対照的に、勝気で男勝りな印象を受ける少女だ。


「さて、お前がサーグラ国に調査しに行っている間に、こちらでも有力な情報が入ったぞ」


「ん、そうなんだ。じゃあ早速情報交換しよっか」


 トモエが戸棚から出した菓子を取りながら、少女は彼の言葉に頷く。








 神託の巫女。彼女の名はアユミ・ミズマチ。


 彼女もまた、シュヘルムヴィアー神の権能という、神の権能のスキルを持つ異界人だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ