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ギフト。

 パピルサグ。人型の上半身に蠍の下半身をした姿の魔物だ。人型の両腕は蠍の鋏のようになっており、人型の部分にも至る所に甲殻が覆っている。


 パピルサグは既に近付いてきていたこちらに気付いていたらしく、鋏を向け臨戦態勢を取っている。


「ギシシリリリ……」


 まるで歯軋りのような声を出し、こちらに近寄る。さて、戦闘開始だ。


「『聖光矢ホーリー・レイ』!」


 先制したのはエリス。パピルサグの頭部に向けて攻撃魔術を放つ。パピルサグは咄嗟に仰け反り、直撃を避ける。ダメージこそ与えられなかったが、その隙にシオンが一気に詰め寄る。逆袈裟に雨鴉を振るい、人型の胴体部分に斬りつける。斬撃は甲殻や皮膚に確かな傷を負わせたが、あまり深くはない。


 すぐに向き直ったパピルサグは、両の鋏でシオンに掴みかかる。それを後退し避け、距離を置く。

 エリスの防護魔術のおかげであの鋏に挟まれようと傷はつかないかもしれないが、問題は捕まって尾の毒針に刺されてしまった時だ。その針ももしかしたら防いでくれるかもしれないが、少なくとも身動きはとれなくなってしまうし、万が一毒を受けてしまえば危険だ。あの鋏に捕まるわけにはいかない。


 シオンはパピルサグの側面に立つよう動く。その行動にパピルサグも意識し目線を送るが、そこに再びエリスの魔法攻撃が来る。今度は人型の胴体に向けて放たれた。シオン側からはそのダメージの程度は確認できずパピルサグの身体を貫く程の成果はなかったようだが、それでも確かな傷を与えたらしい。パピルサグは明らかに逆上しエリスに向き直る。よし、いいパターンに入った。


 シオンへの意識が疎かになった隙に、雨鴉を掲げ全力で振るう。刃の先はパピルサグの身体を支える何本もの蠍型の下半身の足。そのうちの一本に剣を叩きつける。


「ギィイッ!?」


 その斬撃によって、足が一本断ち切られた。悲鳴を上げながら怒りを露わにするパピルサグ。間髪入れず、そこにエリスの魔術の矢が叩き込まれる。パピルサグは半ば狂乱して、近くに居るシオンに鋏と尾を我武者羅に振るい始めた。その勢いと威圧感に圧されそうになるが、落ち着いて一手一手を読み取り避けながら距離を置く……が、


「!? しまっ……」


 後退した先の地面が、予想以上に泥濘んでいて片足を取られてしまった。すぐに足を引き抜こうとするが、既にパピルサグが目の前に迫っている。まずい。このままでは……


「『防壁呪文プロテクション』!」


 迫るパピルサグの鋏はしかし、シオンの身体に到達する事はなかった。シオンとパピルサグの間に、半透明の薄い光壁が出現し、シオンを守ったのだ。

 エリスの防壁呪文。エリスの立つ位置は、当初から変わらずシオンとパピルサグから離れている。防壁呪文を、遠距離に作り出したのか!?


 パピルサグは突如現れた光壁に向け、鋏で殴りつけている。よほどシオンに対して腹が立っていたのだろう。しかし防壁呪文はまだ破壊されそうにない。シオンは泥濘みから足を抜き、自由になってからパピルサグの様子を伺う……が、そこでエリスがパピルサグに近付いて来ている事に気付いた。


「『断罪十字パニッシュメント』!」


 エリスは近距離用の高威力な攻撃呪文をパピルサグに向けて放つ。現れた十字型の光の魔力は、パピルサグの蠍の部分の身体を容赦なく砕く。


「ギィイイイッ!?!?」


 パピルサグは激痛に身を捩らせる。そこで防壁は消え、シオンとパピルサグを隔てる物がなくなった。よく考えてみたら、エリスは防壁呪文を張り続けながら攻撃呪文を放っていたのか。またも中々高等技術らしい事をやってのけてるな。


 エリスの技術はともかく、まだパピルサグは息絶えてはいない。シオンはすぐに地を蹴り、パピルサグの頭部に届く距離まで飛び、雨鴉を振る。横薙ぎに放たれた斬撃が、パピルサグの首を斬り落とした。


 パピルサグ戦、決着だ。





 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★





「……見張り、お疲れ様です、シオンさん」


 二階層。パピルサグを倒しドロップアイテムを回収した一行は、ダンジョンの出口へと向かいながら野宿できる場所を探した。そして隆起した丘の合間、近辺の魔物達から見つかりにくそうな場所を見つけ、シオン達はそこで野宿をする事にした。

 こちらからも周囲の様子は確認しにくいが、シオンには広範囲に感知できる魔力感知能力がある。エリスも近付いて来る魔物の気配ならば確認できるだけの感知能力はある。見張っていれば魔物の接近は察知できるので問題はない。


 時間帯こそ外では夜中だが、ダンジョン内の空は暗くなる気配がない。曇り空でこそあるが、灯りを確保する必要がなかったのは良い事か。


 街から持参してきた食料を食べた後、シオンとエリスで交互に見張りをして休憩を取る事にした。フラムさんも見張りならしてもいいと名乗りを上げたが、せっかくなので二人の力で最後まで冒険を続けたかった。今はエリスが仮眠を取っており、シオンが見張りをしている所だ。


 そのシオンに、エリスが寝た頃にフラムさんがそっと話しかけてきた。


「いえいえ、どうかしたんすか?」


 フラムさんは必要最低限な事しか話さない印象がある。他愛ない雑談を自分から持ちかけるイメージはない。まあ、それはそれで構わないのだが。

 見張りをする経験がなかったシオンに何かアドバイスでもしてくれるのだろうか。そう予想したが、


「……先に、謝らせて下さい。ごめんなさい」


「はい?」


 何故か急に謝罪してきた。何の事だ?


「今回私が貴方達に着いてきた理由は……シオンさん、貴方を見る為でした」


「オレを? エリスじゃなくてっすか?」


 予想だにしない理由を語り始めるフラムさん。エリスの授業の一環という話だったはずなのだが。


「知っての通り、エリスさんには類い稀な才能があります。それこそ、国家や大規模な組織が喉から手が出る程に欲する程の人材です……そんな彼女のパートナーである冒険者が、実力の低い人物であると知って、それで本当に良いものかと思ってしまいまして……」


 ……なるほど。フラムさんはシオンはエリスとパーティーを組むのに相応しくないのではないかと考えていたのか。


「もし貴方がエリスさんの実力を持て余し、才能を埋もれさせてしまうような人物でしたら……エリスさんに強く解散を勧めようかと思っていました。ですが、私の思い違いだったようで……」


「……自分はフラムさんに認められたって感じっすか」


「本当に申し訳ありません。気を悪くされるのも当然だと思いますが……」


「や、言いたい事はわかるっすよ。自分、本当に底辺の冒険者だったっすから。たまたまエリスに出会って、エリスがオレと冒険者になりたいって言ってくれて……然るべき所に行けば、すぐに活躍して有名人になれるはずなのに。ま、あいつ自身はその辺自覚はあんまりしてないっぽいっすけど」


 二人で寝ているエリスを見る。毛布にくるまった彼女は、小さな寝息を立てている。黙っていれば文句なしの美少女なんだがなぁ……。


「あいつの気が変わらないうちは、二人で頑張ってみたいって思ってるっす。まあ、あいつにもあいつの事情があるから、今後はどうなるかわからないっすけどね」


 エリスは、異界人だ。今でこそ冒険者という職業を楽しんでいるようだが、いつか元の世界に戻る為の手段を探したいと考えていてもおかしくない。その時には協力は惜しまないつもりだ。まだ短い間の付き合いだが、シオンは充分エリスに助けられている。恩返し、などと言うにも烏滸がましい程に。




 そして、元の世界に帰る方法が見つかったら……。




「……ま、フラムさんが解散したほうがいいって判断していたなら、オレも反対はしないっすよ。あいつの凄さは身にしみてるっすから、本当に自分なんかと組んでていいのかって思う事は自分でもあるっすからね」


「いえ……シオンさんでしたら大丈夫でしょう。私が保証します。それに……フフッ、エリスさんを説得するのは大変そうですからね」


「あー、まー、そこは、んー」


「とても愛されているようで。見ているこちらが妬けてしまいますよ。フフッ」


「どうせあいつは面白半分っすよ。あんまり本気にしないで下さいよ」


「フフフッ、ではそういう事にしておきましょう……見張りはしっかり交代して下さいね?」


 フラムさんは言いたい事を言うだけ言って離れ、毛布を被る。そういう事も何も、事実だろうに。女性って色恋沙汰が好きだよな。勝手な印象だが、あの寡黙なフラムさんでさえこれなんだから。


 寝静まった二人を起こさないように、シオンは静かに見張りを続けた。





 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★





「……なんだこれ」


 リインドの街に帰還し、報酬と換金したドロップアイテムの金を受け取り、エリスと山分けした後。そのままギルドの鑑定部屋を使わせてもらったシオンだが、その自分の能力の鑑定結果を見て思わず呟いた言葉がそれだった。





 筋力:D

 敏捷性:C

 感知能力:B

 知力:D

 精神力:D


 魔術適性

 風属性魔術適性:E

 光属性魔術適性:D

 気功魔術適性:D

 信仰魔術適性:D


 スキル:ルキュシリア神の寵愛




 なんかめっちゃ上がってる。身体能力のランクが全部一段階伸びてる。魔術適性も元々なかったものが幾つか生えてきてる。なんかスキルがある。てか、このスキル絶対あいつの仕業だ。なんだこれ。


「どうですか? 本当に変化ありましたか?」


 付き添って鑑定魔術の魔法陣を起動したノーイが尋ねて来る。シオンは黙って結果を彼女に見せた。


「……え? えぇぇっ!? 何ですかこれ!? シオンさん、登録時はこんなに凄くなかったですよね!?」


「自分でも驚いているって。魔法陣に不備があったりとかしないよな?」


「当たり前です! 成長するにしてもこんなに急にだなんて……」


 エリスの奴、オレに何しやがった?


 新たに得ているスキルを見る限り、エリスの影響である事は間違いない。しかし、何故……。


 そこで思い出したのが、蘇生魔法。

 あの事件から、感知能力が高まったのは確かだ。だとすると、蘇生した対象はこのスキルが与えられ、能力値が上昇するという事か?


 稀に、神から愛された者がその神からある日突然スキルを与えられる事があるという話は聞いた事がある。そういった現象を「ギフト」と呼ぶのだとか。


 エリスが、人間がギフトを授ける事ができるのか? まあ、こうしてできてしまったのだから納得するしかないが。




 ……改めて思う。とんでもない奴とパーティーを組んでしまった。

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