残されたカード
後期最後の試験が終わった。身体に酸素を入れるように、深呼吸をする。
「いちー、今日夜空いてる?」
「あ、あー、ごめん、明後日なら!」
「おっけ、じゃあ明後日ねえ」
試験が終わったあと、面談が終わったあと、時々ぶち込まれる延長講義のあと……、知らぬ内に精神が削れたときは、コーヒー屋さんでブラックのコーヒーを飲む。
「エスプレッソをひとつ」
窓際の席でゆっくりカフェインを体に入れる。半分ほど飲んだころ、ふと目の前の国道に目をやると、自転車に乗ったお兄ちゃんが目の前を通りすぎた。こうちゃんに見えたのは気のせい。
「あれ、いっちゃん早いね」
「今日は授業が早く終わったんで」
「よかったー、仕込み間に合ってなくてさあ」
「昨日遅かったんですか」
「そう、家着いたの二時過ぎ」
「それはそれは、おつかれさまです」
手を洗って、エプロンをして、キッチンに入る。
「今日はちゃんと受けたの?」
「いや、後半寝てました」
「でも単位大丈夫なんでしょ」
「たぶん」
「すげーな」
「いやいや」
店長は、ときどき天然をかましてくるけれど、人から愛されるタイプの人間だ。何事も一生懸命だし、うまくいかないことがあっても、それを外には出さない。だから、店長の周りのみんなが優しくなれる。
「あれ、昨日おばあちゃん来たんじゃないんですか」
「来たよ」
「またかあ」
「どしたの」
仕込みを終えて、元金をレジに入れているとき、一週間分のレシートの控えを見つけた。
「レシートです」
「あー、メールしとくよ」
「いや、わたしがあとでします」
「そう?じゃあ頼むね」
おばあちゃんは、ここから少し離れたところでスナックを経営している。私が出勤できないときは、おばあちゃんが来てくれている。
おじいちゃんが天国に行ってしまってから、お母さんの妹チヒロちゃんが、七福神のお金のことを担当してくれていて、おばあちゃんはチヒロちゃんと同居しているから、控えのレシートを回収するのはおばあちゃんの担当。チヒロちゃんも普通に働いているわけだし、そろそろ私が担当してもいいのかなあと思いながら、おばあちゃんに帰り際取りに来るようにメールを打った。
「昨日ね、俺の後輩が来てさ」
「打ち上げですか」
「そうそう。そいつマジックが得意になっててさ、トランプ忘れていったんだよね」
そう話す店長の目線の先には、ハートの7が描かれた革製のトランプケースがひとつ。
「メールしたのに返信来なくてさ、終いには捨ててくれって」
「でも、もったいない」
カウンターの掃除を一旦止めて、ケースからトランプを出してみる。星空がバックプリントされた、どこかで見覚えのあるカードだった。ペラペラとめくっていると、束の最後にあったババに、落書きがされていた。
「こうちゃん……」
「幸太郎、知ってるの?」
無意識に声が出ていて、目の膜がどんどん厚くなっていくのがわかった。
「あ、まあ」
「じゃあ、また来るまで取っておこうか」
「そうですね」
カードをしまって、掃除を再開した。きっと、こうちゃんは取りに来ないと思いながら。
おばあちゃんは閉店になっても来なくて、電話をかけたら「今から行くわ!」なんて言うから、店長とおばあちゃんを待つ。荷物をまとめてカウンターに座っていると、お茶が出てきた。
「どーぞ」
「ありがとうございます、すみません気が利かなくて」
「いいの、俺女子力とかそういうの嫌いだし」
こうちゃんも同じことを言っていたなあと、思い出す。
「幸太郎とは、同じ学校だったの?」
「いや、家が近くて」
こうちゃんは、わたしの家の近くに住んでいた二つ上のお兄ちゃん。ずっと、ずっと憧れていて、大好きで。だけど、高校生になったこうちゃんに彼女ができたと聞いたとき、わたしはショックを受けた。だから、わたしも告白された同級生の男子と付き合ったりなんかしちゃって。街で彼氏と一緒に歩いているところを目撃して、嫉妬してくれたら嬉しいなんて、こうちゃんじゃない男の子と手を繋ぎながら考えていた。振り返ると最低な彼女だったな。
「じゃあ、幼なじみみたいな感じ?」
「そうですね」
こうちゃんが彼女と別れたと聞いても、告白する勇気なんかなくて。とにかく勉強をした。その間は、こうちゃんのことを考えなくて済むから。
「おはよお」
「おはよ、さっきこうちゃんが来て、それ置いてったよ」
テーブルの上に、小さな紙袋が置いてあった。
「気が利くよねぇ、本当のイケメンはこういうことを言うのよね」
それを手に取って、開けてみると学業守が入っていた。
「ちゃんとお礼しときなさいよ」
「うん」
朝ごはんを食べて、しばらくこたつでごろごろしながら、携帯を開いたけれど、何を書いていいのかわからなくて、そのまま寝てしまった。
[なに(笑)]
中途半端に書いたメールを送信してしまったようだった。
[途中で送っちゃいました、ごめんなさい]
[お守りありがとうございます]
[なんで敬語なの(笑)]
[なんか、話すの久々だし]
[暇してんの?]
[今日は特に予定ないよ]
[じゃあ、つつじ公園来て]
急いで寝間着から外用の服に着替えて、コートを羽織ってつつじ公園に向かった。そこは、住宅の中にある小さな公園。早歩きで来たのに、誰もいなかった。落ち込みながらブランコに座った。
こうちゃんと会ったのはいつだったっけ。この公園で遊んでもらったな。家に来ておままごともしてもらったっけ。
「ごめん、遅くなった」
顔を上げると、ダッフルコートを着たこうちゃんがいた。下はスウェットなのがこうちゃんらしい。こうちゃんは、ポケットにつっこんでいた右手から、350mlのホットココアを出した。
「あげる」
「ありがと」
これを買ってきたから遅くなったのかなあと思うと、ちょっと嬉しかった。
「どうなの、勉強は」
「まあまあ」
「それじゃ困るな。合格圏内ではあんでしょ?」
「うん、槍が降らない限り」
「いち、俺と違って頭いいからなあ」
「そんなことないよ」
こうちゃんは頭が良いのに、進学校には行かなかった。それに、今も進学クラスではないみたい。
「じゃあ、彼氏は?」
「今は、いないよ」
「今は?マジでいたのかよ……」
「いたよ」
「女の子は早いって本当だね」
「こうちゃんだって、いるんでしょ」
知っていたけれど、わざと確認するように訊くわたしは子どもだったのかな。
「俺もいないよ、今」
キィ、キィ、とブランコが揺れる音だけが耳に入る。
「……キレイになったよな」
「こうちゃんこそ、かっこよくなっちゃって」
「ごめんな、急に呼び出しちゃって」
「ううん」
こうちゃんはスッと立ち上がった。続くようにわたしも立ち上がって、こうちゃんについていった。
「じゃあ、勉強がんばれよ」
「うん、ありがとう」
斜向かいの家なのに、こうちゃんはわたしが玄関に入るまで、見守ってくれていた。
それから、なんだかんだで受験が終わって、わたしは無事志望校に合格した。新しい自転車を買ってもらって、制服の採寸も終わって、暇な春休みが始まった。
こうちゃんにお礼をしなくちゃいけないと、近くのデパートで買ったペンケースを家に持って行った。でも、こうちゃんは、家にいなくて。おばさんにペンケースを渡して帰ってきた。
[ペンケース、ありがと]
[ううん、高校受かったから]
[こうちゃんがくれたお守りのおかげだよ]
[いちの実力でしょ]
[そんなことないよ]
[あのさ、今暇でしょ?]
[うん]
[空いてる時間あったら、お礼しに行こう]
[お礼?]
[うん。神様にさ]
こうちゃんは、次の日曜日の朝に、わたしを迎えに来た。
「こうちゃんがいるなら安心ね」
「もちろん」
こうちゃんはわたしの母の心をがっしり掴んでいる。お父さんも「お土産よろしく」なんて言っているもんだから、懐に入るのが上手いのだと、その時は思っていた。
その日のこうちゃんは、チャコールグレーのコートを羽織っていた。一緒に電車に乗るだけなのに、妙に緊張した。
「ちょっと長いけど、大丈夫?」
「うん」
地下鉄のなかでいろんな話をした。今、わたしは好きな人も気になる人もいないって言ったけれど、こうちゃんは気になる人がいると言った。ショックだった。湯島で降りて、ちょっと歩いて湯島天満宮に行って、神様にお礼をして、お守りを返してきた。ただそれだけのことなのに、途中で間違いが起こって手を繋げないかとか、このまま家に帰りたくないなとか、不純な気持ちが頭の大半を占めていた。
「めし、どうする」
「どこでもいいよ」
「昨日の夜何食ったの」
「カレー」
「ありきたりだなー」
「こうちゃんは?」
「お好み焼き」
「いいなあ」
「じゃあさ、俺が気になってるとこ行っていい?」
「うん」
こうちゃんについて行って、下北沢で降りる。駅からちょっと歩いたところにあるカフェに着いた。雑誌で見たことのある、パンケーキが有名なお店だった。周りは女子ばかり。パスタとミニパンケーキのセットを二人で食べた。
「甘いの好きだったっけ」
「ん、まあ、食えないことはない」
そして奇跡は起こらないまま、そのまま帰った。
高校に入学して、クラスも決まって。共学だったけれど、気になる先輩もクラスメートもできなかった。「かっこいいね、サッカー部の先輩!」「そうだね」と話を合わせる程度で。こうちゃんに対する思いがラブなのかライクなのかリスペクトなのかいまいちわからないまま、春は過ぎて。
夏季課外が終わって、いつも通り自転車に乗った。途中で、空から地響きのような音がして、今日は隣町の花火大会だったことを思い出した。空を見つめながら、たまには歩いて帰るのもいいかと自転車を押して歩いていると、後ろから声がした。
「いち!」
振り向かなくてもわかる。こうちゃんだ。
「楽しみだな」
「何が?」
「おっまえ、今日が何の日か忘れたのかよ」
「ん?」
「今日はバーベキュー!」
こうちゃんが中学生になる前くらいまで、夏になると、安原家と峯山家ではバーベキューをしていた。大人は酒を飲み、子どもは花火をして、スイカを食べて。そういえば、母から「今日は早く帰ってきなさい」と連絡があった。
「そうだったんだ」
「早く着替えて来いよ」
「うん」
家には既に、父も母もいなかった。下はジャージ、上はTシャツに着替えて、峯山家に入った。
「おじゃまします」
靴を揃えて入ると、笑い声が聞こえるキッチンに向かった。
「今日は、飲んじゃおっかなあ」
「うんうん、今日くらいね」
母親二人が既にビールを飲んでいた。
「あ、おかえり」
「ただいま」
「いっちゃんおかえりなさい!」
母親たちの手伝いを終えて庭に向かうと、父親二人とこうちゃんが火おこしを終えて、話をしていた。いよいよ、バーベキュー開始。夜空に映る小さな花火を見ながら、お肉を食べた。
こうちゃん父は、サマーベッドで。いちは父は、ベンチで。母二人は、リビングで寝ていた。こうちゃんとわたしは、何も言わず片付けをし始めた。缶を集めたり、箸や皿をまとめていると、こうちゃんは父二人にブランケットをかけた。
「こうやって、子は親を越すのかあ」
「そうだねえ」
「なんか、せつねえ」
「そうだね」
ざっと片付けた後、二人で線香花火に火をつけた。
「何年ぶりだろうね」
「んー、5年くらい?」
「そっか」
「いち、好きな人できた?」
「ううん。こうちゃんは?うまくいってるの?」
「いや……」
線香花火の小さな音だけが聞こえて、切なくなった。
小さな風に煽られて、熱く溶けたガラスが、地面に落ちた。
「とりあえず、父ちゃんたち中に入れるか」
「うん」
外で寝ている酔っ払い二人を起こして、リビングに適当に寝かせた。わたしがお皿を洗っていると、こうちゃんがそれを拭いてくれた。片付けが終わると、冷蔵庫からノンアルコールビールを出して、こうちゃんの部屋でこっそり飲んだ。大人4人分のアルコール臭が充満するリビングにはいられなかったから。
オセロをしたり、トランプをしたり。いらなくなったプリントを探して、その裏に絵を描いたり。
「なっに書いてんだよー」
「お絵かきい」
わたしはトランプのババの帽子に、丸い点をたくさんつけた。
「柄ものになっちまったじゃねえか」
「いいじゃん、おしゃれおしゃれ」
こうちゃんの手が缶に当たって、それが倒れた。
「あ」
缶を立てようとすると、こうちゃんの腕がスッと伸びてきて、わたしの手に重なった。
「こうちゃん?」
こうちゃんの手は、わたしよりちょっとあったかくて。
「一葉」
初めて、下の名前で呼ばれた。ドキッとして、その手を振り払えなくて。
「どしたの」
「一人で男の部屋に入るなよ」
「どういうこと?」
「俺以外の男の部屋に行くなってこと」
「行かないよ、好きな人いないし」
指が、そっと、絡んで。
「我慢できなくなりそう」
指先に力をグッと入れられて、こうちゃんの気持ちがわかってしまった。こうちゃんの優しい目の奥に、野生を感じた。少し怖くなって、返す。
「……なにを?」
その返事はなくて。ごく、自然に顔が近づいて、互いの唇が触れた。
「いい?」
「ん、でも」
真下には大人4人がいるのだ、しかも親。わたしの気持ちに気づいたのか、こうちゃんは
「寝よっか」
と言って手を離した。そしてわたしをベッドで寝かせると、こうちゃんはラグの上に横になった。タオルケットから、こうちゃんの匂いがした。
「ねえ、こうちゃん」
「ん?」
「一緒に、寝よ」
「……バカなのおまえ」
わたしが帰ればいい話だった。でも、こうちゃんと一緒にいたかった。この時間を、大事にしたかった。
朝、目が覚めるとこうちゃんは部屋にいなかった。
それから、一度もこうちゃんに会うことはなかった。夏が過ぎて、秋が来て。お母さんは、こうちゃんが神奈川県にある会社に就職したと言った。
高校生になって二度目の春。夕飯を食べた後、ソファで横になっていると、なんだか眠気に襲われて、30分くらい寝てしまった。起きたのは、父と母の声がしたから。
「わざわざ神奈川まで行かなくてよかったのにな」
「そうね」
どういうことかわからなかった。目を閉じたまま、必死に内容を聞き取る。
「ねえ、本当に手を出したのかなあ」
「それは二人にしかわからないだろうよ」
「そうだけど……どっちもオトナの顔になってない気がする」
「……そうだな」
「責任感じてたのかな」
「若いんだから、付き合ったって別れたって、こっちは気にしないのに」
「……そうね」
そこで、わたしは悟った。この町から、こうちゃんを追い出してしまったのは、わたしなのだと。
こんなにも高そうなトランプケースを「捨ててくれ」なんて言うのは、よっぽどのことがあったからだと思う。こうちゃんは、芸人さんと一緒に撮ったわたしの写真を見て、ここには来られないと思ったのかな。
「店長、こうちゃんにわたしが休みの時をシフトを教えてあげてください」
「なんで?」
「……たぶん、来づらいだろうから」
「ん、わかった」
店長は、やけに空気が読める。ありがとうございます。
休みを挟んだ次の出勤日には、トランプケースはなくなっていた。店長に聞くと、こうちゃんが取りに来たそうだ。ちょっと寂しいなと思いながら、こうちゃんとの恋は終わったと自分に言い聞かせた。
「いっちゃん、マヨネーズ切れちゃった。買ってきてもらえる?」
「はーい」
マヨネーズ以外にも、店長に頼まれたものを買い出しに行き、帰ってくると、お客さんがまばらになっていた。
「ちゃんと言いな」
「いや、無理だわ」
「いっちゃんがかわいそう。お前じゃなくて」
予備の冷蔵庫に食材を入れていると、声が聞こえた。
「何を話せばいいんだよ」
「気持ちだよ、お前の気持ち。そうしないとババは返してやんねえ」
「わかったよ」
「いっちゃーん、ちょっと来てえ」
「はーい」
店長に呼ばれていくと、カウンターにはこうちゃんがいた。でも、もうどうしていいかわからなくて、とりあえず接客モードをオンにする。
「いらっしゃいませ」
「あ、どうも」
気まずくて、わたしはテーブル席の片付けに行った。
「ほら、なんか言うことあんじゃないの」
閉店間際に、店長とわたしに挟まれて、こうちゃんは追い詰められていた。
「まず、黙って出て行ってごめん」
「うん」
店長が偉そうに腕組みをしながら、わたしの代わりに相槌を打っている。
「一葉がここにいるってわかって、怖くて来れなかった」
「うんうん」
「あの夜は、ごめん」
わたしがこうちゃんと夜を過ごしたのは、あの晩しかない。
「今、俺のことどう思った?」
「どう思ったって……」
もう、どうも思わない。と返したかった。でも、わたしの心にスイッチが入ってしまった。
「ずっと、ずっと待ってたのに」
「こうちゃんとデートしたかったのに」
「こうちゃん、いなくなっちゃうから」
「好きだったのに……」
「ごめん」
「謝ってほしくなんかないよ!」
「店長、わたし帰っていいですか」
「んー、もうちょっと待ってやってよ」
静かに椅子に座りなおす。店長は席を立って、お手洗いに行ってしまった。
「今の一葉には、彼氏がいるかもしれないし、片思いしている人だっているかもしれないけど」
「俺、まだ一葉のことが好きだ」
「好き」
身体も目線もこちらに向けて、嘘のない瞳がわたしの心を揺らした。
「……ばか」
涙が止まらなくなった。ああ、こうちゃん、こんなに肩幅あったんだ。
「会いたかった」
「ごめん」
「あとは二人でやって」
後ろから声が聞こえて振り返ると、腰に手を当てて仁王立ちしている店長が。
「ほい、もう離すなよ」
そう言うと、店長はこうちゃんにトランプのカードを渡した。
「よし、いっちゃん、片付けしよ」
こうちゃんは、相模原の会社に就職して、なるべくわたしに会わないように帰省も避けていた。わたしに手を出そうとした自分に失望して、わざと距離を置いたって。バカだな、こうちゃんも、わたしも。
「今日空いてる」
「え、人多いじゃん」
「ううん、隣の公園工事しててさ、最近土日はにぎやかだよ」
「そうなんだ」
「うん」
ブランコはもちろん、ベンチも空いてなくて。こうちゃんと一緒に、フェンスに背中を預ける。
「いちさあ、ケガしたの覚えてる?」
「ケガ?覚えてないよ」
「小さい頃、俺が友だちと一緒に遊んでたら、いちがケガしてさ。いちのお父さんに謝りに行ったんだよ」
「なにそれ」
つい、笑ってしまう。
「いちのお父さん、なんて言ったと思う?」
「一葉と結婚しろ、とか?」
「うん、近いね。婿に来てくれたらいいよって」
「婿、冗談でしょ」
「今考えればね。でも、婿に行ってもいいと思ってる」
「やめてよ……嫁に行かせてよ」
こうちゃんを見ると、目が合って、二人で笑ってしまう。今の時代に、嫁も婿もないとわかっている。今が、永遠に続けばいいな。
最終更新日 17/03/12




