第2話「それはもう必死に走りました。」
あまりの眩しさに目を細めた。
錆びれた扉は重々しい音をあげて開かれ、ツンと鼻につく鉄の香りがする。
四角い光の先にはほの暗く長い廊下が伸びていた。 一歩外へ出てみると構造が見えてくる。
長い廊下の左右の壁に互い違いに扉が設置されているようで、 どうやら私の部屋が一番奥の部屋のようだ。
扉の上にあるネームプレートにはあの、形象文字が書いてある。
「……プリセルム…………?」
何故か読めるこの文字も意味ばかりはわからない。
他の扉のネームプレートには何も書かれていないことから、どうやらこのあたりには私しか閉じ込められていなかったようだ。
「(……とりあえず、進んでみよう。)」
壁に手を付き、なれない足取りで進んでいく。
ジャラジャラと足の鎖がうるさく鳴くが、不思議と当たり前かのように感じて邪魔に思わない。
一体どの位歩いてきただろうか。
進めど進めど、同じ景色しか無いのだ。
等間隔に壁に松明が立てかけており、まだ道が続いているのがわかる。
「(………………怖い、怖くなってきた……)」
ただ単純作業のように歩き続けているが、頭の中はいつも別の事を考えていた。
ここは一体どこなのか。どうして鎖がついているのか。なぜ見たこともない文字が読める?閉じ込められていたのはどうして?カノエ・ローヴェンラルグという名前に、扉の上のプリセルムの意味。
わからない事だらけである。
答えの無い問が永遠と頭の中をまわり、思考を急かすように鳴る鎖の音。
もう限界だ。
誰かに会いたい、声が聞きたい。
ついさっきまで、世話される事しか知らなかった少女には拷問に等しい状況である。
精神は既に極限状態、息も上がっている。
誰にも会えないのかもしれない、この道の先には何も無いのかもいれない。
そんな考えが頭をよぎるも、引き返すにはもう歩きすぎた。
ついには、耐えられないとでも言うように走り出す。
さっきまで立つのもやっとだったが、幾歩も歩いて来た感覚が背中を押すかのように走り方を思い出させた。
とにかく、鎖の重さも忘れ必死に走った。
爪がはがれ血が滲もうとも足は地を蹴ることをやめず、貪るように呼吸をする口は閉じることを忘れだらしなく唾液が垂れ流れていても、決して走ることを止めなかった。
しばらくすると『ドンッ』と大きな衝撃を受け、私は土煙をあげて地面に滑り込んだ。
視界に入ったのは、私と同じように両足に鎖をつけた小さな足。
それからは良く覚えていない。