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第1話:極悪の独裁者ダ・サイタマ

「首をはねよ」


特徴的な濁声で、埼玉国の王ダ・サイタマはそう吐き捨てた。

高層ビルの立ち並ぶ埼玉新都心の庁舎、その最上階に位置する王座の間。

ダ・サイタマは、肥えた身体を深々と埋めるように、壇上に設えられた装飾の派手な王専用の椅子に座っていた。


その前、壇の下では一人の職員が土下座して許しを乞うている。

インフラ整備を担う、土木建築部署の職員だった。

彼は必死の形相で、ただすがりつくことしかできない。


『首都である帝都さいたま市に象徴たる宮殿を建てる』


ダ・サイタマによる横暴な提案だった。

そんなものが本当に必要なのか。財源はどうするのか。

埼玉国民には苛烈な増税が課され、その税収はダ・サイタマの私利私欲の為に注ぎ込まれている。


この帝都さいたま市ばかりに財源が投入され、地方の各市町村は大変なことになっていた。

全土の民が疲弊にあえぐ中、帝都に宮殿を建設する資金など。

そんな余裕があるわけがない!


無茶な要望に応えようと奔走していた土木建築職員の限界は、とうに訪れていた。

本格的な着手もできないまま時間だけが過ぎ、迎えた進捗報告。

ヒアリングを終えたダ・サイタマは激高して、

『首をはねよ』と、無慈悲に下したのだった。



「どうかお許しください! どう考えても計画の見通しが立たなかったのです!」


職員の悲痛な弁解も、ダ・サイタマには取り付く島もない。


「言い訳はきかぬ」


無論、この職員は手ぶらで釈明したわけではない。

宮殿建築に関する膨大な資料、詳細な調査表、業者への発注見積。

それらから弾き出した抽出案。

客観的かつ現実的に、無茶であるという証拠をまとめ、献上した。

どうあがいても宮殿建設の予算が足りず、準備も整わない。

それをダ・サイタマは理解しようとしなかった。

理不尽な言葉を吐き捨てる。


「すべて貴様の怠惰が招いた結果だ」


「そんな……! お許し下さい、ダサイタマ様!」


「貴様、吾輩を今、“ダサい”と、言ったな? 無礼者が! その失言、死で償え」


「いえっ! 決してそのようなことは! 聞き間違いにございます、ダ・サイタマ様!」


職員が床を舐めるように懇願する。

その悲痛な声は暴君には届かない。


「命乞いなど受け付けぬ。この者を断頭台へ運べ!」


ダ・サイタマの後方に控えていた近衛兵二人が、音もなく前に出た。


「そんな! ダ・サイタマ様! どうかお許しを!!」


「首をはね、庁舎のエントランスホールに丸一日さらけ出し、庁舎職員どもへの見せしめにする」


衛兵が、乱暴に職員の両脇を掴んで引き上げた。


「ああ! 許してください! どうか! どうか御慈悲を!!」


職員は顔をボロボロにして嘆願した。

この場に居合わせた他の役人たちは皆、沈痛な面持ちを浮かべている。

同情の顔すら、その職員に向けることは叶わない。

口を挟むのなんて、言語道断。

異を唱えるような仕草を、ダ・サイタマが捉えた瞬間、我が身である。

恐怖に支配され、誰もがただ黙って下を向くしかなかった。



泣き叫ぶ職員が連行されていく、その時だった。


「おやめ下さい」


透き通る声。

誰しもダ・サイタマに怯えて沈黙する中、毅然とした態度の男が前に出た。


大宮おおみやか」


ダ・サイタマが目を細める。

大宮。

帝都さいたま市の重鎮、埼玉王直属の臣下。

ダ・サイタマの右腕、埼玉国の懐刀と言われるほどの傑物である。


大宮は静かにダ・サイタマの前まで歩み寄り、頭を下げた。


「野蛮でございます。そのような処置をしては、誰もが萎縮して仕事に取り組めません」


通常であれば、ダ・サイタマは反論する者など生かしてはおかない。

しかし、大宮は例外の一人だった。

やれやれといった具合に、ため息混じりに言う。


「逆だ、大宮よ。無能な役人の末路を見せしめとして晒すことにより、他の者は気が引き締まり、本気で職務に勤しむようになる」


「そんな容易く処刑してしまっては、いずれこの国の役人はいなくなってしまいます。どうか寛大な処置を」


大宮は引かなかった。

頭を下げたまま、身動きひとつしない。

ダ・サイタマはつまらなそうにそっぽを向き、舌打ちする。


「……わかった。では、この無能にチャンスを与えてやろう。一ヶ月だ。その間に宮殿建設の見通しを立ててみせろ。できなければ、今度こそ首をはねる」


「ああ! ありがとうございます! ありがとうございます!」


命拾いした職員は衛兵から解放されると、ダ・サイタマに向けて何度も頭を垂れた。

しかし、その視線と真の感謝が向けられていたのは、救いの手を差し伸べてくれた大宮に対してだった。


とはいえ、ここで助かったからといって窮地を脱したわけではない。

職員は逃げるようにしてその場を退出した。

一刻も早く、宮殿建設に向けた見通しを立てなければ!



必死の形相で去っていく職員の後ろ姿を見送りながら、ダ・サイタマは鼻を鳴らした。


「無能な職員ばかりだ。前王・コバトンのもとで、すっかり甘やかされてしまったらしい」


部屋の端でひっそりと身を隠すように控えていた文科省の教育担当職員へと視線を向け言い放つ。


「直ちに全職員に“北辰テスト”を受けさせろ! 点数の悪かった者は即刻、懲戒免職だ」


役人たちの間にどよめきが走るのだった。




※北辰テストとは、埼玉県でしか実施されていない高校受験の模擬テストです。


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