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透明の心臓【外典】  作者: 水瀬 悠里
Ⅴ【外典】終焉の環

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風が吹くたび、あの人を思い出す。

はじめて会った時、その人は、ひどく静かな人だった。


黒い外套。傷だらけの手。誰にも触れられたくないみたいな目。


子どもだった僕は、正直ちょっと怖かった。


なのに。


瓦礫が崩れた瞬間、その人は迷わず僕を庇った。


痛そうだった。苦しそうだった。


でもその人は、自分の傷より先に、震える僕の頭へ手を置いて言った。


「……もう大丈夫だ」


あの瞬間から、僕の人生は変わってしまったんだと思う。


彼は、不器用だった。


笑うのも苦手。甘えるのも苦手。“生きたい”と言うことさえ、どこか諦めている人だった。


でも。


そんな人が、僕たちのために怒って、守って、何度でも立ち上がる姿を見てしまったら。


離れられるわけがなかった。


僕はずっと、あの人のそばを歩いてきた。


風の強い日も。泣きたくなる夜も。帰る場所を見失いそうな朝も。


隣には、あの静かな背中があった。


ある日、僕は聞いたことがある。


「後悔してない?」


命を削ってまで、僕を守ったことを。


世界を守るために、自分を壊したことを。


すると彼は、少しだけ困った顔をしてから、静かに笑った。


「……後悔する理由がない」


その言葉を、僕はたぶん一生忘れない。


ソウルメイトって、なんだろう。


運命の相手?


魂の片割れ?


難しいことは、よく分からない。


でも、もし。


“その人と出会ったことで、自分の生き方そのものが変わった”


それをソウルメイトと呼ぶなら。


僕にとって、あの人がそうだ。


今でも、風が吹くたび思い出す。


静かな声。大きな手。不器用なくせに、誰より優しかった人。


離れても、もう会えなくても。


あの人は今も、僕の人生の中を吹き続けている。 〈Fin.〉


【→透明の心臓シリーズ】この作品の中に出てきたキャラクターたちで、今回のこの企画のお話を書きました。

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