風が吹くたび、あの人を思い出す。
はじめて会った時、その人は、ひどく静かな人だった。
黒い外套。傷だらけの手。誰にも触れられたくないみたいな目。
子どもだった僕は、正直ちょっと怖かった。
なのに。
瓦礫が崩れた瞬間、その人は迷わず僕を庇った。
痛そうだった。苦しそうだった。
でもその人は、自分の傷より先に、震える僕の頭へ手を置いて言った。
「……もう大丈夫だ」
あの瞬間から、僕の人生は変わってしまったんだと思う。
彼は、不器用だった。
笑うのも苦手。甘えるのも苦手。“生きたい”と言うことさえ、どこか諦めている人だった。
でも。
そんな人が、僕たちのために怒って、守って、何度でも立ち上がる姿を見てしまったら。
離れられるわけがなかった。
僕はずっと、あの人のそばを歩いてきた。
風の強い日も。泣きたくなる夜も。帰る場所を見失いそうな朝も。
隣には、あの静かな背中があった。
ある日、僕は聞いたことがある。
「後悔してない?」
命を削ってまで、僕を守ったことを。
世界を守るために、自分を壊したことを。
すると彼は、少しだけ困った顔をしてから、静かに笑った。
「……後悔する理由がない」
その言葉を、僕はたぶん一生忘れない。
ソウルメイトって、なんだろう。
運命の相手?
魂の片割れ?
難しいことは、よく分からない。
でも、もし。
“その人と出会ったことで、自分の生き方そのものが変わった”
それをソウルメイトと呼ぶなら。
僕にとって、あの人がそうだ。
今でも、風が吹くたび思い出す。
静かな声。大きな手。不器用なくせに、誰より優しかった人。
離れても、もう会えなくても。
あの人は今も、僕の人生の中を吹き続けている。 〈Fin.〉
【→透明の心臓シリーズ】この作品の中に出てきたキャラクターたちで、今回のこの企画のお話を書きました。




