第一話 必殺技を叫ばないほうの宝石ヒーローたちの話
ひずみが生じるのもまた、世界の仕組みの一つだ。
空間に何かしらの力が加わると、時空が乱れたりバランスが崩れたりする。放置すればそれは次第に広がり、干渉するモノたちへの影響も大きくなってしまう。
ひずみは自力では戻らない。故に、修復が必要。
そこで俺たち、『シンボシラピス』――心星の宝石――の出番って訳だ。
自己紹介が遅れたな。
俺はシンボシラピスのメンバーの一人、ベニトアイトだ。
普段は人間の持ち主のもとで貴金属に嵌まってる、ごく普通の宝石なんだが。
ある時ひょっこり、夜空にきらめく北極星に声をかけられたんだ。地球に生じる数多のひずみを直してくれ、ってな。
そう言われても俺は宝石だし、それなりに魔力はあるものの、どうすりゃいいのか見当もつかない。……なんて話したら、なんと北極星自身のエネルギーを供給してくれるって言うじゃねえか。試しにやってみてもらったら、凄かったぜ。魂の隅々まで光のエネルギーが満ちて、何でもできる感覚になった。これなら期待に応えられそうだってことで、俺は『シンボシラピス』としての活動を了承する。心星は北極星の和名だな。
元々持ってる自分のエネルギーと北極星に与えられたエネルギーを使い、空間に生じたひずみを修復すること。それが役目だ。
「もう来とったんか、ベニト。相変わらず早いがや」
そう言いながら待機空間に入ってきたのは、マリアライト。彼もシンボシラピスのメンバーの一人で、柔らかい黄色をした瞳に濃い茶色の短い髪をしている。因みに俺は、紫がかった青の瞳と灰色の短い髪だ。
「お前もいつも早いだろ。招集が午前中の時は、だけどな」
「朝は早くても平気だでよ。昼過ぎは何か知らんけど、やる気が出ーせん」
そんな会話をしていると、また待機空間の扉が開いた気配がする。
「おはよぉ、ベニトにマリア。今日は全員集合なんだねぇ」
のんびりとした笑顔を覗かせたのは、ダンビュライト。薄いピンク色の瞳とやや長めの金髪を持つ彼も、同じくシンボシラピスだ。
「ま、念には念をってことだろうな。任務内容はいつもとそう変わらないぜ」
俺はダンビュライトに応えながら、何となく周囲を見回す。
いま俺たちが居るこの場所は、北極星が創り出した亜空間だ。拠点であり待機場所でもある空間内は、広い部屋みたいになっている。北極星の加護を受けたシンボシラピスは全員、念じるだけでここに自由に出入りできるんだ。
現世で生きるモノからすれば不思議な話だが、この亜空間からはどこへでも瞬時に移動が可能なんだぜ。お陰様で俺たちは、連絡を受けてすぐに現場に向かえるという訳だ。
さて。
メンバーはあと一人いるんだけどな。そろそろ来るか?
「おや? 皆さん、もうお集まりでしたか」
俺がふと部屋の扉を見つめた瞬間、最後のシンボシラピスが微笑んで登場する。落ち着いた緑色の瞳で薄茶色の長い髪を揺らす彼は、シリマナイトだ。
「おみゃあさん、それ毎回言っとるがね」
「ふふふ、そうでしたか? それは申し訳ありません」
急ぐ様子もないシリマナイトにマリアライトが呆れた顔で突っ込むが、シリマナイトは平然としている。
うん、いつも通りの流れだな。
「よし、じゃあ行くぞ」
「おー、行こまいか」
「行っちゃうよぉ」
「参りましょう。ひずみの修復へ」
そんなこんなで皆と亜空間から出た先は、とある高層ビルの屋上だ。眩しい太陽光が降り注ぎ、爽やかな風が吹き抜けている。
そしてその穏やかな景色の中の一箇所に、大きな亀裂が入っているのが目に映った。
「でら派手やがね。よう気づかんかったな、これ」
「ひずみの口が開いてきています。しかもスピードが早い」
「うーん……異次元って何でああいう、不気味な雰囲気なんだろうねぇ」
空間に生じたひずみは時空をこじ開け、通常関わりないはずの異世界が見えている。しかし三者三様の感想を述べる彼らは、全員至って冷静だった。
「それじゃあ、心星の期待に応えるとするか」
俺はそう言ってひずみに手をかざし、星の如く四方に輝く光を掌から放射する。何をしているかと言えば、ひずみの在る場所の状態安定だ。これ以上、周囲にひずみの影響が出ないように。
俺は分散率が高い宝石でな、『ファイア』って呼ばれる虹色の光を放つことができるんだ。だから様々な『色』を把握するのが得意で、空間などがどんな色の状態でも落ち着かせることが可能な能力を持っている。これは、一種の時間操作でもあるかな。
ひずみの変化が止まったところで、マリアライトが前に出た。
「ほしたら、次は俺だがや」
俺の時と同じように両手を向け、マリアライトもひずみに黄色い星の光を浴びせる。するといびつな形をしていたひずみは、すうっと真っ直ぐな線になった。次元の向こう側も、ほんの隙間程度しか見えなくなっている。
「道は直線が一番だでよ」
そんなことを言うマリアライトは、固溶体鉱物だ。要するに成分が混ざり合った宝石なんだが、その影響で彼はバランス感覚が非常に優れている。ひずみのように歪んでしまったモノを整えることは、お手の物なんだよな。
「ふふ、いつも縫いやすくて助かります。マリア」
続いてひずみに片手をかざしたのは、シリマナイト。風が彼の長い髪を巻き上げ、何だか魔王みたいに見えるが、まあ気にしない。
シリマナイトは繊維状結晶のものが多いからか、そこに関連して繊細な能力操作が得意だ。具体的に言うと、空間などの縫合だな。さっきマリアライトが平らにしたひずみの口を、瞬く間にシリマナイトが縫い合わせて閉じる。
「いつもながら、縫い目が消えてまっさらになるのは壮観だな」
「お褒めに預かり光栄です。でもこれは私たちの作業中、ベニトがずっと空間の軸を定めてくれているからですよ」
「ほんとだわ。ようやっとる」
「そんなことないぜ。皆と一緒だ」
俺がシリマナイトとマリアライトに応えていると、後ろからダンビュライトの声がした。
「じゃあ、仕上げするねぇ」
ダンビュライトの視線の先は、すっかり穏やかになったように映る景色。しかし俺たちは勿論、まだひずみの修復が終わっていないことを知っている。
「いくよぉ」
見えなくとも、ひずみの存在を感じる場所に手を向け、ダンビュライトがうっすらピンク色をした光を放つ。その光はひずみを優しく癒して浄化し、空間の乱れは修復された。
ダンビュライトは透明度が高く、ダイヤモンドの代用品として扱われるほど、光沢の強い美しい宝石だ。故に浄化能力が抜群で、こうした最後の仕上げには最も適している。彼の本体が薄くピンク色をしていることもあって、癒しの力も備えているんだ。
「ダンビのエネルギーは、いつも綺麗ですね」
「えへへ。ありがとぉ、シリマ」
「周囲との整合も取れとるし、もう大丈夫だがや。帰ろまい」
マリアライトの言葉を受けて、俺は辺りを見回し最終確認をする。
空は高く、そして青く美しい。
「ああ、良さそうだな。皆、お疲れ様」
俺がそう労えば、彼らは微笑んで応えてくれた。
ひとまずは待機空間に帰って、ゆっくりするとしよう。
俺たちシンボシラピスの活動は、これからも続いていくのだから。




