第0話 「プロローグ」
「災厄」
そう呼ばれる者達がいる。
災厄は組織として確立しており、人族、魔族、亜人問わず全種族、全世界から圧倒的な畏怖を集めている。
構成人数はたったの八人。
普通ならこんな少人数恐るるに足らないだろう。
しかし、災厄は普通とは程遠かった。
古来より、戦争では質より量。
圧倒的な量による攻撃が最強とされてきた。
だが、災厄の登場によりその常識は覆される。
一人で軍隊、国をも壊滅させられる力を所持しており、魔王、さらには神までもその力によりねじ伏せる。
彼らの圧倒的な力の前には常識が通じない。
最恐の組織として確立している彼らにはぴったりの呼称であるかもしれない。
災厄とは………………
◇
「何故こうなったんだ……」
俺こと、最年少の災厄、ルクスの目の前には現在大きな門がある。
こんなに煌びやかな門は今まで見たことがない。
目の前にあるのは門だけでなく、広大な敷地に立派な建物。
ここまで広いと迷子になるんじゃないか?と疑問に思うほどだ。
メルクリオ大陸にあるセントラム王国
ここはセントラム王国の首都セントリア。
もっと厳密に言うのならば、首都セントリアにある名門校、国立魔法学園である。
正式名称はセントラム王国魔法学園。
由緒正しき名門校であり、貴族の子息、令嬢が数多く通っている学園である。
貴族だけでなく平民も通ってはいるが、みな魔法の素質があると認められた者、いわば実力主義の一面を持ち合わせた学園である。
何故そんな名門校である学園の前に全世界が恐れる災厄の一人である俺がいるということなんだが……
それを教えるには一週間前に遡る。
◇
ここはメルクリオ大陸某所
誰も知らない、それは全世界の誰もが。
それは当たり前だとも言える。
何故ならここは全世界が恐れている最恐の組織、災厄のアジトなのだから。
任務終わりの俺はアジトにある自室でゆっくりしていた。
日頃から、それはもうとても疲れ、生命の危機が脅かされるほどの危険な任務ばかりしている俺からすれば、貴重なひと時だった。
俺はベッドの上で大の字になりながら、寛ぎまくっていた。
何故なら、いつ、またこんな休みが与えられるか分からないからだ。
確か今回の休みは三カ月ぶりだった気がする。
よく過労死しないなと思いながら、半年はぶっ続けで働けるように英気を養うことに集中する。
そんな時、ドアがノックされる音が聞こえた。
確か今日は組織のほとんど人達は任務で出払っていたような……
ボスとボスの補佐役だけがアジトにいたはずだ。
ボスは自ら呼びに来たりしない。
ボスと話す時は呼び出された時か通路で会った時ぐらいだ。
だから、自ずとノックした相手が分かる。
大の字にしていた身体を気怠げに起き上がらせる。
正直めんどくさいがここでは俺が最年少、いわば一番の下っ端。地位、実力両方を取っても。
「どうぞ、エリナさん」
俺がそう呼びかけるとドアが開き、眼鏡を欠けた真面目そうな女性がいた。
彼女の名前はエリナさん。
ボスの補佐役であり、組織では纏め役といったところだ。
普通はボスが纏め役とかやるんだろうけど、この組織のボスはそういうタイプの人じゃないからな。
纏め役っていう真面目な人がやりそうな役はエリナさんが適任だと俺も思っている。
だって、組織に真面目な人エリナさんしかいないから。
まあ、俺も真面目だから実質二人か。そんな益体のないことを考えていると、
「突然すみませんねルクス。休んでいる時に尋ねて来てしまって、大丈夫でしたか?」
「大丈夫ですよ、エリナさん。さっきまでベッドに座って読書をしていたところです」
とエリナさんに気を使わせないように嘘をつく。
本当は普段読書なんかしないけど。
でも、一応部屋には魔道書や物語の本などが数冊ある。
いらないからと組織の人に押し付けられた物だ。
自分で処理しろと思いはしたけど、結局押し付けられる形で引き取ることになった。
まさかこんな所で役に立つとは思わなかったけど。
「ふふっ、ルクス気を使わなくても大丈夫ですよ。髪の毛がボサボサでベッドで寝転んでいた事はすぐに分かりますよ」
「………」
すぐに嘘がばれてしまって、顔が赤くなるのを感じる。
よく皆んなに言われるが、俺は肌が白いらしい。
自分で鏡で見ても確かに白いと思う。
だからすぐに顔に出てしまう自分の性格が恨めしく思う。エリナさんに赤面していることがバレバレだ。
任務の時なんかは別に顔に出たりしないんだけどな。まあ、任務の時は性格とかも切り替えているからか。
「ルクス、ボスがお呼びですよ。休んでいたところすみませんが、付いて来てください」
「……はい」
エリナさんに微笑まれながら、恥ずかしい気持ちで一杯な俺は、見られたのが他の人達じゃなくて、エリナで良かったと思いながら、エリナさんの後について行った。
◇
アジトの中はそれなりに広く、移動にも少し時間がかかる。
ボスの部屋に着くまで数分かかり、その間に歩きながらボスに呼ばれたことに関する詳細をエリナさんから少しでも聞こうとするが、一切教えてくれない。
俺はそんなエリナさんの態度に嫌な予感がした。
前にもいきなりボスに呼ばれたことがあって、その時は海底にある遺跡の探索をしてこいと言われた時は絶望したことだ。
そんな嫌な思い出があるので魔法を使って逃げたい気持ちに襲われるが、現在のアジトの状態を考えて、俺しかいないか…………と諦める。
そんな事を考えていたら、いつのまにかボスの部屋に着いていた。
エリナさんがノックをすると、中から「いいぞ」と許可の声が返ってくる。
エリナさんがドアを開け、俺も後ろから着いていく。
中に入ると、そこには左目に眼帯をつけた女性が椅子に座っていた。
煙草を吸っており、雰囲気と相まってワイルドな印象を受ける。
その女性こそ、我らが災厄のボス、アレンダさんだ。
「ルクス休息日に悪いな。話しとかなくてはいけない用件があってな」
「いえ、大丈夫です。任務の案件ですよね?」
と俺は椅子には座らず、早速用件に入る。
正直任務の事だとは思うし、なら尚更のこと早く戻って休み、その任務に備えたい。
そう尋ねると、ボスは微妙な表情をする。違うのか?
完全に任務関係だと思っていたから、意表を突かれる。そんな俺の心情を察したのか、ボスが俺に向けて口を開く。
「ルクス、もう少しで四月だな。桜も咲く季節だ」
「えっ?ええ、そうですね?」
思わぬ話しの出だしに思わず疑問形で返してしまう俺。
ボスとは雑談をし合う仲ではあるが、こういった呼び出しの際はボスとは仕事の話ししかしない。
だから、今回呼ばれた意味がさっぱり分からない。そんな俺を見計らったのか、ボスが話し始める。
「前々からお前に言おうと思っていたことがあってな。だが、こちらの手違いで日にちを間違えていてな、こういった形でお前を急遽呼び出す事になったんだ」
とボスが俺に話す。
前々からということは任務の話しじゃないのか。
ますます分からなくなった俺に神妙な面持ちでボスは口を開く。
「心して聞いてくれ………」
「………………………はい」
ゴクッと唾を飲む音が部屋に響き渡る音が聞こえた気がした。
とても重要な事を言い渡されるのかと考えると緊張感が増していく。
そして徐々にボスが口を開いていく。
そして言い放つ――――――――――
「ルクス学園に通え」
「………………」
ボスの言葉を聞いて固まってしまう俺。
沈黙がずっと続いた気がする。
何秒か何分かはたまた何時間か。
頭の中が真っ白になる。
そして、さっきボスが言った言葉をゆっくりと自分の中で紐解いていき理解していく。
そして、数分後―――――
俺は口を開いた。ボスに向かって大声で。
「なんで!?」