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色彩の無い怪物は  作者: 深山 希
第二章 無彩色の楽園と蒼紅の旅路
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第23話 初めての××

前回の蒼紅サイド。

ハル君のところの雷様がひと暴れした町に約一週間遅れで到着した。

 本来ならばする必要の無かった野宿が決定したというのに、メアリーは嫌な顔ひとつしなかった。どうも野外で食べるルビアの料理が気に入ったようである。護衛役であるスピネルは、安全優先で当然といった態度だ。


 ――まぁ、野営をすれば安全、というわけでもないのだが。


 命が惜しけりゃ云々うんぬんと、定型文テンプレ通りの脅し文句を並べ立てる、恰好も顔も汚いひげ面の男を見遣り、アルはため息をひとつ。

 総勢14名の野盗ご一行様である。


「僕とアルとで6人ずつですか。余裕ですね」

 スピネルの挑発を、汚いひげ面は鼻で嗤った。

 唯一の発言者であることから、そいつがリーダーだと思われるが……正直、アルが脅威に感じているのは、後ろに回っている黒服の男の方だった。


 ちなみに6人ずつ、という発言と嘲笑はスピネルが計算ができないというわけでは勿論なく、アルたち4人を囲んで姿を見せているのが12人だけだからであり……残り2人の森に潜んだ弓兵へは紅蓮が向かったからである。


 ――あ。今片付いた。


 と言っても殺したわけではなく、手加減できる程の雑魚だったので、弓を燃やしただけだが。赤い毛並みの仔犬が精獣だと知った盗賊の遠距離攻撃担当は、仲間を見捨てて一目散に逃げていく。


 こうやって態勢を整えることができたのは、ルビアの手柄である。




 少し前、野盗の接近にルビアが逸早く気付いた。

「たぶん14人、こちらを囲むようにして近づいて来ます」

 そう言ったルビアに「たぶん?」と問い返したのはアルだった。


「ウィル君ではないので、全てを見通すことはできませんよ。森に緑系の色彩の敵が潜んでいたり、隠密に長けた敵が相手では、私の眼では見つけられない可能性が高いです。

 あ。森の二人が少し離れた場所で足を止めましたね。弓兵でしょうか」


 そちらを紅蓮で潰す、という案を出したのはスピネルだ。


「じゃあルビアとアニーは馬車の中に……」

「いえ。それは却って危険かもしれません」

 アルの提案をスピネルは即座に否定した。敵が火矢や毒煙を使って来た場合、密閉空間に居るのは危険だ、と。こういった事態の経験が豊富なのは間違いなくスピネルなので、アルはおとなしく彼に従った。

 背後を取られないよう、二人には馬車を背にしてもらって、道の前後をアルとスピネルで挟む形だ。




 そうやって準備万端整えたところへやって来た野盗の親玉が、ドヤ顔で言うのだ、命が惜しかったらどうたらこうたら、と。

 これはため息のひとつも出ようというものである。


「僕は前を。後ろは任せます」

 ちらりとアルに……そして件の黒服にも視線を投げてスピネルが言う。

 いつか言っていた通り、実戦で腕を見せろ、ということだろう。


 使い古した革鎧の盗賊たちとは違い、防具の類を身に着けていないその男は、他の連中に比べれば手ごわそうではあった。

 けれど。訓練とはいえ、アルが手合わせしてきた相手はあのシディ=ブラウニングである。はっきり言って、ここに居る12人に逃げ去った2人を敵側に加え、護衛対象としてスピネルも加えたとしても、シディとの一対一よりもずっと楽だ。それはもう、比べるのが師に申し訳なくなるくらいに。


 スピネルが一歩、前に出るのに合わせ、アルもまた、後方の6人に向けて無造作に一歩を踏み出した。ルビアとメアリーの二人はその場で待機。二人の正面方向の森が、今しがた弓×2を潰した場所である。じきに紅蓮も戻って来るだろう。


 アルの背後で、これまた汚い悲鳴が上がる。スピネルが容赦なく斬り捨てていっているようだ。黒服以外の5人に僅かな怯えが見えた。

 道幅の問題か、最初にアルに打ちかかって来たのは4人の盗賊だった。


 一振り。で、飛ばせたのはみっつ。

 返す刃で更にひとつ、手入れの行き届いていない剣を斬り落とす。


 シディのように音も無く、とはいかないが、ほとんど抵抗無く赤の刃は走り、夜に鮮やかな軌跡を残した。


 命まで取ろうとは思わないが、当たり所が悪くて死んだとしても構わない。そんな気持ちで揮った剣は、敵の武器だけでなく、腕やら胸やらも斬り裂き、焼いた。

 背後のそれ程ではないが、眼前の敵からも悲鳴が上がる。


「な、なんだこりゃ!? こんな強いなんて聞いてねーぞ!」

 後ろに控えていたもうひとりが、戦意を失い逃げていく。


 残った最後のひとり、例の黒服は、剣の間合いからは僅かに遠い場所で……投げナイフを、振りかぶった。


 慌ててアルも手中の剣を投擲――するのが、一瞬遅れた。


 アルが投げた剣に貫かれ、その剣を構築していた炎に呑み込まれながら……黒衣の男は、アルを見て嗤った。


 確かに、その男は死に際に嗤ったのだ。実戦で人を殺すことを一瞬でもためらった、甘ったれた子どもアルを。


「メアリー!!」

 悲鳴じみた……いや、悲鳴そのものの叫びを上げるスピネル。


 黒服が投げたナイフの先を目で追ったアルが見たのは、メアリーを庇って右掌をナイフに貫かれ、崩れ落ちるルビアの姿だった。


 ――未熟。無様。なまくら


 スピネルのように駆け寄ることもできずに、アルはうつむき、自身を罵った。


 つるぎは躊躇してはならない。盾ならぬつるぎたる我々にできる護り方は、敵を斬ることに他ならない。つるぎの躊躇は、味方を殺す。

 シディには何度も、そう教えられたのに、このザマだ。


 うつむくアルの顔を上げさせたのは、

「嘘!? なんで血が止まらないの!?」

 メアリーの切羽詰まった悲鳴だった。


 一瞬で、連想が繋がる。

 黒衣。暗殺者。毒。そして……笑み。


 ――あぁ。まったく、敵わない。


 今度こそ。アルは倒れたルビアに駆け寄る。


 倒れ伏すその瞬間。ルビアは口許に笑みを刻んだのだ。いつもの綺麗に作られた笑顔とは違う、ふてぶてしい、好戦的な笑みを。

 その意味するところが分からないアルではない。


『あとは任せます。信じてますよ、アル君?』

 声の調子まで容易に想像できるそれが、ルビアがアルに伝えようとしたことだろう。彼女はきっと、毒の可能性にも気づいていた。だからこそ、身を挺してメアリーを庇ったのだろう。

 病魔だけを焼いたアルの炎ならば、どんな毒でも焼き尽くせると確信して――その炎を使えるとすれば、それはルビアに対してだけだと理解して。


 文字通り、ルビアはアルに命を預けたのだ。

 この信頼に応えられなければ男ではない。


「アル、アル……私のせいでルビアが……」

 力の入っていない様子のルビアを抱いて、ボロボロと涙を流すメアリーからルビアを受け取り、地面に横たえる。髪や服が汚れてしまうが、今は時間優先だ。


「オレの火で毒を燃やす。メアリーは終わったらルビアの治療を。

 スピネルは紅蓮と念のため周辺警戒。コレをやったら最悪オレは気絶するから」


「いくらなんでもムチャです! そんなことが……」

「病魔は燃やせた。毒くらいなんでもない」

 スピネルの反論を一刀両断。半ば自分に言い聞かせる形で言い切って、アルは意識を内へと向ける。今回はハルの誘導サポート無しだ。深く、深く、自分の魂の奥深くへ潜らなければ……


「……そんな、まさか、いくらなんでも……」

「うるさい、邪魔だ!」

 呆然と呟くスピネルを怒鳴りつける。黙らないなら斬り捨てる、くらいの気持ちだった。時間がかかればかかっただけ、ルビアは危険なのだ。


 戻って来た紅蓮が、スピネルを威嚇しているのにも気づかずに、アルは潜行を続ける。そこに確かにあるモノを、掘り起こすために。


「猛り狂うちからは炎の一面でしかない。神々しく、穢れを祓うものでもある。ハルがオレの内に視て、顕現させた概念としての炎。それは確かにここに在る。火、炎、ほむられっか。すべてはこの魂の内に」

 詠う言葉は、ハルと比べればあまりにたどたどしく、劣化したものだと言わざるを得ない。


 けれど。それでも。それは一度は従えたちからだ。


 なにより、それが炎であるならば、アルマンディン=グレンに使えない道理はないのだと。そう、ハルが言っていたのだから。


「害成す昏黒くろを焼き祓え――熾紅オリジナル・フレイム


 術の発動と同時に、アルの意識は闇に沈んだ。

最近一話が短めですが、キリが良いのでこのへんで。


サブタイの伏字部分に最もふさわしいのは「殺人」でしょうか。

それ以外だと「実戦」「失態」「躊躇」などが当てはまるかもしれません。「襲撃」もアリかな? ネタバレ回避という以外に、当てはまる単語が複数あったのでこういう形にしました。

次は事後処理回です。

次回「聖女の黄金」(仮)お楽しみに。

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