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色彩の無い怪物は  作者: 深山 希
第二章 無彩色の楽園と蒼紅の旅路
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第7話 寄り道の理由

「とりあえず、二人が恋人同士でないことは良くわかったわ」


 メアリーが言って、アルはルビアと顔を見合わせる。


「無いな」

「無いですね」


 二人の意見は見事に一致を見た。


「そんな断言するほど!? ルビアは美人だし、ルビアだってアルのことカッコイイって言ってたのに?」

 愕然とメアリーは声を上げるが、そんな断言するほどだ。


「いや、だってコイツ、最初っからハルしか目に入ってねーもんよ。さっきのアレ、聞いただろ?」

 苦笑と共にアルが言えば、メアリーはアルのそれにも似た笑いを浮かべ、ルビアは不満そうな声を漏らした。

「う。さっきのはまぁ、アレですけど。え、そんなにわかりやすかったですか?」

「気付いてなかったのはハルぐらい、って言えれば良かったんだけど……ぶっちゃけアイツも察してたぞ?」


「いたたまれない!」ルビアが頭を抱えて絶叫した。


「察した上で、見た目に騙されてるだけだって思ってたみたいだけどな」

「あー、それで装身具とか言ってたんですね……まったく、あのひとは」

 本当に、しょうがない。と言ってルビアは呆れたように笑った。


「へぇ、そんな顔で笑うんだ」メアリーが目を丸くする。

「変ですか?」と、ルビアは軽く頬を揉んでいる。

「いいえ、変じゃないわ。優しくて、温かみがあって、とても素敵よ。

 ――うん、やっぱり貴女たちに決めたわ」


 と、お嬢様が何かを決めたというタイミングで紅茶が運ばれて来た。さっきも言おうとしたタイミングで店に着いたらしいし、どうにもこのお嬢様、間が悪いのかもしれない。


 オータムナルという紅茶をアルは初めて飲んだが、以前ルビアに淹れてもらったものよりも地味な味だな、というのが正直な感想だった。ルビアが満足そうに飲んでいるのでそういうものなのだろうが、アルとしてはファーストフラッシュの方が好みだ。複数の木の実を使ったタルトは食べた瞬間に気に入ったが。


「そーいやさっきの水の色と空の色って話で気付いたんだが、石屋でルビアが不機嫌になってたのって、それが理由か?」

「あれ、気付かれちゃいました?」

 ちょっと驚いた様子で目を瞬くルビア。


「表情に出たのは一瞬だったけどな」

「まぁ、あの店では滄と蒼は区別されていませんでしたから。自分の色彩が雑に扱われているというのは、どうにも……」

 苦笑するルビアに、苦笑と呼ぶには少々乾いた笑いを浮かべたスピネルが言う。

「……あの、それを区別できる方は、国内でも数えるほどだと思うのですが……」


「――ウチの村にはもう一人いたけど?」

「はぁ!?」スピネルの声が裏返る「……辺境の村に埋もれさせて良い才能じゃないですよ、それ……」


「ねぇ、それってさっき言ってたハルって、」

「――ウィル君、です」有無を言わせぬ強さで、言いかけたメアリーを遮ったのはルビアだ「その呼び方をして良いのは、まだアル君だけです」


「……あー、ルビア? 自分が許してもらえてない呼び方を、アイツのこと知らないヤツにされて面白くないのはわかるけどさ。お嬢様涙目になってんぞー」


「なっ、泣いてないもん!」反射的に、という感じで叫んだメアリーは、取り繕うように――取り繕えてはいなかったが――咳払いをして「お嬢様、と呼ばれるのは好きではないのでやめてちょうだい。そんな呼び方をするのはスピネルだけで充分よ。それで、そのウィルってひとは今何処にいるの?」


 訊かれて顔を見合わせるアルとルビア。


「それがわからないから」と、アルが肩を竦め、

「こうして旅をしてるんですよねー」ルビアは言って苦笑い。


「そう。ならちょうど良いわね」メアリーは得意げに笑って言った「貴女たち、私の旅の護衛と話し相手にならない?」護衛、のところで右手でアルを、話し相手、のところで左手でルビアを示して。


「お嬢様!」スピネルが諫めるように声を上げた。


「なによ。護衛が一人だけ、というのに不満を言っていたのは貴方でしょう。アルなら実力も確かじゃない」

「それはそうですが、このような行きずりの相手に……」

「行きずりの相手だからこそ、よ。元々此処は来る予定の無かった場所だし、この二人なら面倒な思惑も無いでしょう。

 何より。偶然行き遇って、気が合った。それ以上の理由が必要?」


「……なぁ。むしろこっちが面倒に巻き込まれそうな気がするの、オレだけか?」

 アルの笑顔が若干引き攣った。


「絶対無い、とは言い切れないのが貴族社会の面倒なところね。けれど私や、私の味方をする者が、意図的に貴方たちをこちらの事情に巻き込もうとしないことは約束するわ。前もってそのような取り決めもしていない。

 だからもし良かったら、向かう先が同じ間だけでも、一緒に旅をしない?」


 メアリーが差し出した手を、迷わずルビアが取ったので、アルは少しばかり驚いた。彼女はもっと慎重だと思っていたのだ。


「――良いの?」提案したメアリーですら、きょとんとしている。

「貴女の言いようはとても素敵でしたから。誠実さにも好感が持てますし……アル君が頷けば、ぜひ。」


 あぁ、そういえば感情で行動するヤツでもあったな、と。苦笑と共に、ではあったものの、アルはひとつ頷いてみせた。


「良かったー。スピネルは真面目だけど、度を越していて退屈なのよねー」

「……それを本人の前で言うのは、どうなんでしょうか、お嬢様。」

「言えば少しは改めてくれるかな、って。」


「お前らもワリと仲良いよな」

 主従と呼ぶには距離感の近いやり取りに、アルはそう漏らす。


「まぁ、幼い頃から知っているから、気の置けない相手ではあるわね」

「えぇ。幼い頃からこうなので、気が気でない相手です」

「ちょとっ!?」

 声を上げるメアリーにも、スピネルはつんと澄ました態度のままで、それがアルとルビアの笑いを誘った。


「楽しい旅になりそう、なのは良いんですが。貴女たちの目的地は何処なのでしょう? それによっては、すぐにお別れということも……」

 とのルビアの問いに、メアリーは存外豊かな胸を張って答える。


「こちらは少しくらい寄り道してもかまわないわ。今現在がそうだしね。最終目的地は精都エルドラド――一応、巡礼の旅というやつね」


 アルとルビアは、予定調和のように顔を見合わせた。


「なんか、できすぎ、っつーか」

「でもまぁ、あり得ない一致ではないですよね。聖地ですし。

 そんなわけでメアリー、どうやら最後まで一緒みたいです」


 そういうことになった。


 スピネルが微妙な顔をするかと思えばそうでもなく、メアリーが嬉しそうに、ぱん、と手を打ち鳴らす。


「じゃあ、寄り道から、付き合ってもらっても良いかな?」


「――寄り道? この町がそうだったんじゃなくて?」

 ん? と首をひねるアルに、メアリーは破壊力満点の言葉を放つ。


「えぇ。本来の目的地は此処からもう少し西に行ったところよ。そのあたりでひと月ほど前、花火が打ち上がったでしょう?」


 むせた。


 アルだけでなくルビアも、けほけほとせき込んでいる。『花火』なる言葉に心当たりは無かったが、それ以外の総てに心当たりがありすぎた。


「あ、あの、メアリー? 花火、というのは?」

 アルよりも立ち直りの早かったルビアが問う。


「お嬢様の造語です」と、スピネルが答えた。

「なによ、完璧な命名でしょう? 空に咲く大輪の火の花――火花じゃあもう言葉としてあるから、花火よ」


 アレをもう一度見たくて、と微笑むメアリーを見て、アルは決意する。


「ルビア、任せる」


 ――自分より頭の良い彼女に丸投げすることを。


 一瞬じとりとした視線を投げて来たルビアだが、アルが下手にしゃべってボロを出すよりはマシだと考えたのか、ため息ひとつで切り替えた。


「西に行っても見られませんよ」視線で疑問を伝えるメアリーに、ルビアは言葉を重ねた「貴女の言う『花火』は、ウィル君とアル君の合作ですから」


 嘘は言っていない。それはアルでは到底思いつけなかったであろう言い訳だ。


「ふぅん。やっぱりウィルってひとも凄いのね」


「けれどもっとずっと小規模なものなら、アル君だけでもどうにかできるかもしれません。視ての通り、火は彼の専門なので」

「ちょっ!」

「まぁまぁ、これも訓練の一環だと思って」

 にっこり笑うルビアが、丸投げの罰だと言っている気がしたアルだった。


「アル。旅の間、期待してるわね」メアリーが笑顔で言って、

「おっ、おぅ……」

 と、何やら見世物の術を研究することが決定した。


「じゃあ、もう寄り道の必要は無くなったし、北東の精都へ向かいましょうか。ルビアたちは馬? 徒歩なら私たちの馬車に乗ると良いわ。今日はもう半端な時間だし、出発は明日ね。

 でもこの後はどうしよっか? 特に見るようなところも無いのよねぇ」


 この町の住人も居る場所でこういうことを言ってしまうあたり、このお嬢様は他人に対する配慮というものを知らない。スピネルが眉間にしわを刻んでいた。


「私たちは旅支度を整えます。服とか、食料品とか、諸々の」

 ルビアが当初の予定を口にすると、メアリーが眉根を寄せた。

「そんなの私のところで一括で良くない? 服だって私のを貸すわよ?」

「まぁ、実際にはそうなるんですが。これも勉強の一環として、相場なんかを見て回ろうと思っています。あと、なにかトラブルがあった時のために、必要最低限はこちらでも用意しておこうかと。

 服は……さすがにメアリーのは借りられませんよ」


 最後に付け加えられた言葉を、アルは服の品質的な意味だと受け取った。


 ルビアの視線がメアリーのある特定部位に向けられていたことは、彼女の名誉のために伏せておく。

この世界で花火文化が始まるかどうかはアル君にかかっています。がんばれ。

そんなわけで、旅の仲間が増えました。最初は精都で会う予定だったんですがねー。

というか、おかしいですね。ハル君も旅の連れに好感は持っているはずなのに、この空気感の違い。あ、ハル君だからか。

さて次はそんなハル君の方へと視点を戻します。


次回「楽園の魔王」


魔王とは、いったい……?


(どちゃっと増える予定の新キャラが、まだ数名分しか確定していないため、ちょっと時間かかるかもです)

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