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色彩の無い怪物は  作者: 深山 希
第一章 元色と熾紅
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第38話 彼女のプライド、彼の諦観

 ハルと呼ばせてほしい。ここでそう言えば、きっと彼は拒めなかっただろう。だが、いや、だからこそ、ルビアはそれを言わなかった。さすがにそこまでは、プライドが許さない。この先は相手につけこむのではなく、自分で勝ち取りたい。男の子に意地があるように、女の子にだって意地があるのだ。


 んん、と咳払いをして、ルビアは呼び名問題で中断されていた発言を再開する。

「では、質問の続きです。病魔の対処法として、どうするのが正しいのですか? それと、使っても大丈夫な『単純ではない治療術』というのはどういったものがあるのでしょう?」


 それは彼女自身の疑問でもあったが、授業の進行をスムーズにするためという意味合いも大きい。ウィル程に常識はずれな知識量は持たないルビアだが、村の子たちの中では……いや、家族を除外すれば大人たちを含めたとしても、破格の知識を有している。

 だからこそ、知識がありすぎるウィルとの仲立ちがルビアにはできた。できた、はずだったのだ。だからマーガレットが火傷を負った時は自分の責任だと思い、事態の収拾に動いた。結局、解決はウィルに委ねることになってしまったが。


 ウィルのことを良く知る以前は、少しばかり煩わしいとさえ思っていたこの立ち位置を、今のルビアはとても気に入っている。いろいろと教えてくれた父――精霊に関する知識では母より父が上だ――に感謝だ。


 自分の与えた知識が、娘が男の子と仲良くなるのに役立っているだなどと知れば、当の父は頭を抱えたであろうが。


「基本的には精霊術に依らず、薬草などに頼るのが最適解でしょう。それで追いつかない程に肉体も消耗しているのであれば、今回そうしたように、サルビア=ウォルフェイト=リザヒルさんに血流を整えてもらうくらいでしょうね。

 それ以外の術的手段も無くはないのですが、此処にできるひとはいないので」


「長いからもう……緋衣草でいーよー?」

 サリィで、と彼女が言わなかったのはルビアとのやりとりを受けて、だろう。


「あ、じゃあボクは蒼翡翠で」「オレは緑翡翠な」

 双翡翠が更に言い、今は閉じている目元をウィルは手で覆って天を仰いだ。はぁ、とため息を一つつき、手を下ろす。


「私が撒いた種、ですものね。諦めます。あと、一応言っておくと『蒼』緋衣と『滄』翡翠ですね。前者は空の色、後者は水の色なので、当てる文字が違います」


 ウィルが木の枝で地面に書いた文字を、子どもたちだけが見に行った。大人たちは遠慮したのか、まだウィルを侮っているのか、微妙なところだ。


「アルムなら病魔をなんとかできるんじゃないのか?」


 アルのことを未だにアルムと呼ぶのは、子どもたちには居ない。挙手もせずに発言する礼儀知らずも、また。発言者に向けるルビアの目は若干厳しいものになったが、訊かれたウィルは笑顔を僅かばかりも崩さなかった。


「家族以外は無理でしょうね。少なくとも、今は」


「そうなの?」

 訊いたのは、まさにアルに救われた姉のヴィオラだった。


「アルが使ったのは攻撃術です。それこそ、魂ごと焼き尽くせるレベルの。

 さて、アルが自分を傷つけるはずがないと、僅かな疑念もなく信じられる人が此処に居ますか? 尚且つ、アル自身が絶対に傷つけなたくないと思える相手でなければ、ノイズが混じって火傷を負います。下手をすると、死に至る程の。それでもなお、自分の命をアルに委ねられる人が居るとは思えませんが」

 と、言ってウィルは肩を竦めたのだが。


「……それ、ウィル君なら何も問題無いんじゃあ?」

 呆れ交じりにルビアが言えば、

「だな。ハルがオレを信じられるなら、だけどな」

 冗談めかしてアルが重ね、

「もし、アルの火が私を傷つけるのなら、間違っているのは私の方ですよ」

 ちょっとあり得ない程の信頼をウィルが見せつけた。


「……コレ、ごちそうさまって言うとこ?」

 呆れ果てた、という顔のフォエミナに、ルビアは全力で頷くのだった。やっぱり最大の恋敵は彼な気がする。


「それじゃ、誰かが病気になったら、先生に視てもらえば良いの?」

 ウィルの呼び名を『先生』で確定したらしいマーガレット問いに、ウィルは首肯し、改めて目を開けた。その金無垢の瞳を初めて見る大人たちと、一昨日居合わせなかった二人の子どもがざわめいた。さっきうずくまっていた時は、後ろに居た大人たちには見えなかったのだろう。


「眼だけは良いので、病魔は視ればわかります」


「それなら何で今まで黙っていた!」

 責めるように……いや、はっきりと責め立てる口調で言ったのは先程の礼儀知らず、ヴィラの父だった。娘も含めて、付き合い方を考え直した方が良いかもしれない。と、ルビアが白けた目を向けていると、ウィルは普段と全く変わらない態度で返した。


「逆に訊きますが、色づいてすらいない子どもが『自分には病魔を見分けることができる』などと言ったとして、貴方はそれを信じられたのでしょうか?」


「試してみもせずに決めつけるな!」


 それは。吐き気を催す醜悪だった。ウィルの問いに否定も肯定もせずに、ただウィルが『諦めた』という一事のみを責め立てる。このヒトは、恥ずかしくはないのだろうか。ルビアはこの日『恥知らず』という言葉の意味を理解した。


 正直、これで笑っていられるウィルは、ルビアの理解を越えている。


「眼が良い――と、言いましたね。自分がどう思われているのかくらい、視ればわかります」


 総てを見透かすような眼を向けられて、とうとう男は沈黙した。


 そして、ルビアも理解する。彼は、その男に何も期待していないのだと。相互理解はおろか、そもそも会話が成立することさえも。自分勝手な解釈をする相手に、一応の形式として事実を告げるだけで、彼にも最初から会話をする意思などない。


 ウィルムハルトは、男のことを人語を解さない獣と同等に扱っている。


 それがうがちすぎだとは、ルビアには思えなかった。


「さて。病魔についてはこんなところです。これ以上の質問が無いようであれば、この先はいつもの授業に戻そうと思いますが……まだ何かありますか?」


 ウィルの眼を頼る者がどれだけ居るのかは不明だが、ひとまずこれで、大人たちは解散となった。一応名目上は『大人』に含まれるサリィだけは残っているが。


「では、約束通り二重彩色デュアルについて説明しましょう。

 文字通り二重の彩色いろ、髪と瞳で異なる色彩を持つ者のことです。更に左右の瞳の色彩も異なる者は三位一体トリニティと呼ばれますが、こちらは大陸でも数名が確認されているだけだそうです」


 三位一体トリニティ、というのはルビアも初耳だった。


「ウィル兄ちゃんは、デュアル?」青の色彩を得たアンバーが訊く。


「はい。肝心の髪色がこのありさまなので、自分では精霊術を一切使えない、視るだけが取り柄の二重彩色デュアルですが」


 二重彩色デュアル三位一体トリニティというのは、単に珍しいというだけで、別に優れているわけではないのだと、ウィルは語った。できることは色彩の数だけ増えはするが、器用貧乏となる場合の方が多いのだ、と。「私の場合、そもそも器用にすらなれていないですが」そう言ってウィルは肩を竦めたのだが、


「人の使い方は充分器用だったと思うけどねぇ」「完璧に使いこなしてましたね」「てか、自分一人でやる限界を軽く超えさせてくれたよな?」「そもそもウィル兄ちゃんがいなかったら、この色にはなれなかったし」「認めたかねーけど、認めるしかねーわな」

 教え子たちの意見は、だいぶ違っていた。

大人が混じると平穏無事とは行きませんね。

柔軟な思考の子どもにはだいぶ受け入れられた感のあるハル君ですが、村全体で見るとまだこんな感じです。賛否両論、ってとこでしょうか。

ちなみに最後のセリフラッシュは、フォエミナ、ルビア、アル、アンバー、緑翡翠です。セリフだけで誰の発言かわかるのが理想なのですが、さてうまくいっているかどうか。

あ、蒼緋衣呼びはハル君専用なので、此処ではルビアです。

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