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色彩の無い怪物は  作者: 深山 希
第一章 元色と熾紅
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第27.5話 ある獣の最期

 温厚で賢明――そのように評される獣の意識には、今はただ殺意のみがあった。殺す。我が子を殺したあの二足歩行のイキモノを必ず殺す。その後で自分が狩られる側になろうと構わない、アイツだけは絶対に……殺す。

 その獣は知る由もないし、知ったところで何を思うでもないが、ハルの予想は正鵠を射ていた、ということだ。


 一直線に仇のニオイに向けて突き進んでいた獣の前に、『火』が姿を現した。仇であるイキモノの同族であれば、どれだけの数が群れていようと傷を追う程度で切り抜ける自信があったが、これ・・はいけない。仇を討つ前に死んでしまっては意味が無い。

 幸いにして、その『火』は行く手を完全に塞ごうとしているのではない。大きく迂回して、もっと仇までの距離が近づけば、強引に突っ切っても良い。たとえ全身を火に焼かれようとも、燃え尽きる前にこの爪を、この牙を、仇の命に届かせることができればそれが勝利だ。


 二本脚のイキモノの集落をぐるりと半周して、仇のニオイに最接近したことを知る。


 ごうっ、と一声吠えて、獣は全力で駆けた。もう余力を考える必要は無い。追い立てて来た『火』よりも早く、最低でも同時に、仇へと到達しなければならない。

 仇の作った巣が見えた。木を組み上げた、それなりに頑丈だと思われるそれに、構うものかと全力で体をぶつける。


 一度では壊れない。ならば、壊れるまで繰り返すまでだ。


 二度。『火』が近づいてくる様子は無い。理由はわからないが、獣にとっては好都合だった。


 三度。軋む音がそれまでよりも大きくなった気がする。


 四度。みしり、と木で作られた蓋が歪んだ。


 五度目の突進で、ついに蓋が破壊された。


 ひぃっ、と怯えるような声で仇が鳴いた。その仇との間を塞ぐように、それと同族の二本脚が立ち、少し離れたところに、姿だけは同じ得体の知れないナニカが居る。普段ならば一も二も無く逃げ出すところだが……


 邪魔だ! と吠える獣に対し、立ち塞がった二本脚は、獣には理解できない複雑な鳴き声を上げ、腰から長大な爪を抜き放った。明確な敵対行動に、しかし獣はそいつを無視すると決める。そいつの一撃は致命傷となるかもしれない。けれど即死でさえなければ、この爪は仇に届く。仇でもない、ただ邪魔をするだけの者に時間をかけていては、もう一人の得体の知れないヤツが何をしてくるかわからない。一撃は甘んじて受け、押しのけて殺すべきを殺す。


 覚悟を決め、駆け出した獣の耳に、


「ファイア・エッジ」


 立ち塞がるイキモノの鳴き声が、妙にはっきりと届いた。


 それが。獣が最期に聞いた声。


 自分の爪が、果たして仇に届いたのかどうか。それを知る余裕さえもなく、獣の意識は闇へと融けた。

獣視点ということで、少々わかりにくい部分があったかもしれませんが、次話で補完させていただくのでご安心を。次は「ただしさの在処ありか」です。仮タイトルなので変更があるかもしれませんが。

ちなみに本作における水のイメージはフーケのウンディーネです。

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