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異世界憑依で運命をかえろ  作者: のこべや
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王妃様とご面会

ブックマークと評価、ありがとうございます。励みになります。


 王妃様への面会はその日の内に実現できるようになった。昼のお茶の時間に会ってもらえるそうだ。ボクはロザリアをつれて王族のプライベート空間である後宮の入り口前までやってきた。入り口を守る衛兵にステラが用件を伝えると衛士の一人が確認のため中へと入っていく。

 ボクはというとステラ サリーの後ろ。ロザリアと隣だって立っている。しかも、ボクの周りには王城のメイドさんが囲んでいてこちらからもあちらからも見えない位置にいた。動きづらいことこのうえない状態だが、ボクの周りに男の気配がないようにとの配慮に無碍にはできないのが痛い。

 しばらくすると閉じられていた扉が音を立てて開かれる。どうやら通ってよしと許可が出たようだ。と思っていたがザワリとボクの周りにいる人達から息をのむ声がする。何事かと見たいのだが人の壁になっていてよく見えない。キョロキョロとのぞき込むのも淑女としてどうかとおとなしくしていると、サッとボクの眼前の人の壁が左右に分かれた。その先にありえない人の姿が見える。


「また会えたな」


 誰であろう、アーヴィンス殿下その人であった。二度見したけど間違いないようだ。


「これは 殿下 このようなところでお会いできるとは」


 ボクは慌ててスカートの裾を軽く持ち上げると頭を下げた。男っぽい反応ではなくとっさにできた自分を誉めてあげたい。それもこれも行儀作法の勉強をしっかりやっておいたたまものであった。日頃の練習程尊いものはないのだ。


「頭をあげてくれ 母上に会いに来たのであろう 案内する」


「ありがとうございます」


 よく考えたらここは王族の方が暮らしている後宮である。殿下がいてもおかしくなかったと結論づけたボクは肝心なところで抜けていた。 いくら殿下が暮らしている場だからといって一侯爵の娘が訪ねてきたのをわざわざ案内をかって出ることなどないということを。それに殿下に会いに来たわけでもないのにだ。

 ボクは殿下に促されるまま彼の後ろについて行くがその後ろを恐る恐るといった感じでロザリアが続いている。その後ろに侍女二人も困惑と驚愕の顔をしていることにボクは気づいていなかった。ボクの周りにいたメイドさん達はそのまま扉の前で頭を下げていた。ここからは控えていた後宮のメイドさんが後ろに続くみたいだ。


「王城での暮らしは不自由ないか?」


 前をゆっくり歩きながら肩越しに殿下がボクの方に視線を送る。


「はい 皆様よくしていただきました その節はありがとうございます」

「いや ないならいい 体の方はもういいのか? なんならもう少しいてもよいのだぞ」


「いいえ これ以上はご迷惑になるかと思いますし いつまでもご厄介になるわけには参りません」


 いる理由もないしね。さすがに王城に長居できるほどボクの神経は図太くない。主にこの絢爛豪華さにだ。


「……そうか」


 前へと視線を戻す殿下の背が少し残念そうに見えるのはきっと人のいい殿下の心意気というものの現れであろう。こんな臣下の娘にも気を配ってくれるなんていい人だよねぇ~。

 そんな殿下に気を取られていてボクの後ろについてきていたロザリアから只ならぬ気配が漂っていたのには気がつかなかった。だから いきなりぐいっと左腕に彼女の手が絡められたのにはびっくりした。


「どうしました ロザリア?」


 驚いているボクの横で腕に体を寄せている彼女から返答はなくニッコリといい笑顔で微笑まれた。やはり女の子の気持ちは女になってもわからん。


 しばらく長い廊下を歩くと一つの意匠の凝った大きな白い扉の前にたどり着いた。殿下の姿を見た衛士がビシッと背筋を伸ばす。


「母上はいるか?」


「はっ 中でお待ちになっておられます」


 そういうと二人の衛士は大きな扉をその手で左右に開けていく。

 扉の中はボクがお世話になった客室なんかよりも遙かに広く、まだこれ以上の豪華な品々があったのかと思われるものがそこらに飾られていた。戦々恐々である。 その中心の両対に置かれているソファにゆったりと座っている王妃様の姿が見て取れた。


「まぁ まぁ よく来てくれたわねレイチェル ロザリア……って なぜアーヴィ あなたがいるのですッ?!」


 ニコニコしていた王妃様はボクらを一人づつみとめるとその隣に立っている人物に胡乱気な言葉をなげかけた。


「母上のお客様を案内してきただけですよ」


 そんな母親の言葉に動じることもなく殿下がにこやかに答える。


「そぉ ありがとう まぁ いいわ 二人ともこっちにいらっしゃい」


 王妃様は殿下から視線をはずすとソファから立ち上がり大きな窓の外のテラスに誘ってくる。いや、聞いてはいたけど王妃様にとって本当に自分の息子よりボク達の方が優先されるんだね。微妙にどうしていいかわからないんだけど気不味い。テラスに誘われたがよくみるとそこには大きな丸テーブルと椅子があり、お菓子だお茶だを用意している侍女さんの姿が見える。

 あれ? わずかな時間を割いてもらってその間にお礼の言葉を述べて帰るつもりでいたのにこれではお茶をおよばれにきたみたいだぞ。いや、まだだ。あれは王妃様のために用意されたものであってボクらはそのまま礼をいって退場だと思っていたのだがしっかり席に着いている自分がいた。そして、ナチュラルに座る殿下。王妃様はボクとロザリアの間に収まっている。


「さぁ 食べて あなた達がくるから特別に料理人に作らせたのよ」


 わぁ~い ケーキだぁ。ってちがぁう。ケーキ食べにきたんじゃないんだから。でも、わざわざ用意してくれたものをこのまま食べずにいくなんて貧乏根性があるボクには申し訳なくて黙っているわけにはいかない。

 そうこれは仕方がないんだ。ケーキにフォークを入れていても仕方がないんだ。うぅぅ~~~ん 甘くておいしぃぃ~。


「お姉様」


 ちょぅとあきれた視線が我が妹から感じる。はっ いかん。生前甘いもの好きなのに男だからと我慢していたつけが今返ってきた。自重しないと……。


「おいしい?」


 隣でニコニコしながらボクの顔をのぞき込んでくる王妃様はなんだか歳より若く感じてしまう。


「はい とっても わざわざご用意していただきありがとうございます」

「いいのよ あなた達とこういうお茶会をしてみたかったのになかなか時間がとれなかったでしょ」


 微笑む彼女には申し訳なかった。王妃様がお忙しいこともあるがたぶん大きな原因はレイチェルにある。あの事で領内から出てこないからね。王妃様はそれは気を使って招待できないだろう。


「ほんとだ おいしい…」


 口元に手を持っていってボソリと漏らすロザリアの感想が聞こえる。その声を聞いて王妃様のテンションもあがったのかそれぞれに抱きついてくると頭をなでてきた。


「んん~~ やっぱり娘はいいわぁ」


 抱きついたボクの髪に顔を埋めながらものすごく感慨深く言われてますが目の前にいる実の息子は苦笑いですよ。


「母上 二人とも困っておりますよ」


「いいのよ あなたは黙ってて」


 なんか申し訳ないです。ボクは、ロザリアと目配せするとあらかじめ決めていたように二人椅子から立ち上がり王妃様と殿下に向かって腰を曲げた。


「この度は王妃様と殿下にもよくしていただき ありがとうございました」


「何か不自由な事はなかった?」


「いえ 皆様よくしていただきました」


「もう体の方は大丈夫なの?」


「はい おかげさまで」


 なんだかデジャビュを感じた所為か少し笑顔が漏れてしまった。


「どうかしたの?」


「いえ 先ほど同じ事を殿下にも言われまして さすが親子なんだなって……」


 そっと殿下の方を見てみるとつられるように王妃様の視線も彼に注がれる。彼は照れくさいのか出された紅茶に口をつけながら視線を逸らしていた。


「この子が人の心配をねぇ~」


 なんだか意地悪そうな瞳で殿下をみつめる王妃様。それを誤魔化すように殿下が口を開いた。


「そっ それよりも二人とも席についたらどうだ 立たれていると落ち着かない」


「はい」


 ボクらが着席するのを見計らって王妃様が大きなため息をもらした。


「もう帰ってしまうのね」


「いつまでもご厄介になっておりますとご迷惑になりますから」


「いいのよそんな気遣い そうだわッ もうめんどくさいからこっちの後宮に住んじゃいましょう」


 いい笑顔だ。いい案だみたいに得意げに言わないでほしい。返事に困ってしまう。ロザリアにいたっては苦笑いだ。


「母上 無茶なことを言わないでください」


 ほんと、ここに殿下が居てくれてよかった。ボクらでは王妃様の暴走を抑えることはできなかったよ。


「あなたは黙ってて」


「お気持ちはうれしいのですが お父様ももうすぐ帰ってきますし 屋敷にいないとお父様が心配されます」


「チッ いい気になるなよダグラス」


 今 王妃様から小さく舌打ちが聞こえてきましたよ。気のせいですよね。


「母上」


「わかってるわよ」


 プイッと顔を逸らす王妃様は可愛いと思う。これが母子の会話というものなのだろうか。少し微笑ましい。


「どうかしたのか レイチェル嬢?」


 ホッコリしていたのがばれてしまったようだ。


「いえ 母親とはこういうものなのだなと思っておりました とてもやさしい感じなのですね」


 ボクは見たまま感じたままをつげたが二人には違った意味で捕らえられたようだ。ふわりとボクを王妃様が抱いてくれた。


「いいのよ 私のことを母だと思ってくれても… 私は大歓迎だわ」


 どうやら母がいないレイチェルに同情されてしまったようだ。そんなつもりはなかったのに彼女の胸の柔らかさに浸っていた自分が恥ずかしくなってきて慌てて彼女から離れた。


「ありがとうございます でも……」


 何て言って良いかわからん。肯定も否定もできん。


「そうよね あなた達の母親は彼女だけよね でもいつでも頼ってくれてもいいのよ あなた達に何かあったら彼女に蹴り飛ばされてしまうわ」


 ボクが言い淀んでいる姿をまた勘違いしたようだ。それにしても蹴り飛ばすのかウチの母親は。アグレッシブというかボクが思っていたシルビア像が崩れそうだ。


「いつまでもお母様を大切に思っていただけてありがとうございます」


「あたり前でしょ」


 彼女達の友情には正直羨ましいものを感じる。そこまで思ってもらえる母は果報者だ。


「それにしても いつの間にアーヴィと知り合ったの? 彼は大丈夫なのレイチェル?」


「えっと これは……」


 おっと そこに気づいちゃいましたか。


「内緒です 母上」


 きれいにウインクを決めるイケメン。絵になるね。


「ふ~~~~~ん まぁ これはこれでいいわね」


 ニヤリと悪い笑顔を見せる王妃様となぜか機嫌が悪くなるロザリア。今の会話で何か不味いことなどありましたか?


 しばらくケーキやお茶に舌鼓を打っているとテラスに入ってくる侍女が来て、王妃様に耳打ちした。


「えっ? ザザ侯爵ですって」


 王妃様の美しいカンバセがひどくゆがむ。ザザ侯爵という名に覚えがあった。この王国の精霊騎士団の団長の名前だ。そんな偉い人が王妃様に面会にきたということは時間切れのようだ。

 ボクらは、自然と立ち上がりおいとましようとするが、その手を王妃様が掴んだ。


「今出て行く事はやめなさい ザザ侯爵の狙いはあなた達よ」


 言っている意味がわからず、同じ気持ちのロザリアと顔を見合わせてしまった。促されるまま、また席に着席する。


「どういうことでしょうか?」


「あなた達に先の襲撃事件の事情聴取がしたいのよ あの男は」


 王妃様は窓から見える締め切られた扉の方を不愉快全快で見つめる。いや、事件が起こったんだから当事者の話を聞きたがるのは当たり前の話じゃないかなと疑問に思い、なんとなしにロザリアはどうなのかと伺うと。


「襲撃… お姉様… 死…… いや… いや……」


 彼女の態度が顕著に変わった。ガタガタと体を震わせ、頭をかきむしるように手を動かしながら焦点の合わない瞳でブツブツとつぶやき始めたのだ。これにはボクもびっくりだ。


「ロザリア 大丈夫よ 思い出すことはないのよ」


 隣で座っていた王妃様が彼女の頭をそっと胸元に抱く。これは絶対無理だ。こんな状態の彼女に事情聴取なんて配慮が足りない。いや、ボクも浅はかだった。受けてもいいと思っていたボクも同罪だ。恥ずかしさに俯くと膝の上に載せていた手が無意識にグッと握りしまる。その手がそっと包まれた。

 驚いて見るといつの間にか殿下がボクの椅子の側に膝をついて手を添えていた。


「殿下」


 ボクの言葉に殿下は無言で首を横に振った。気遣いが痛い。まさか羞恥で歪めた顔を殿下はロザリアと同じニアンスで捕らえていたなど思いもしなかったけど……。

 どうやらザザ侯爵は何度もボクらに出向いてもらおうとしていたようだがその度に王妃様が待ったをかけていた。そうなるとこのまま王城を離れ、王妃様の庇護がなくなると侯爵は無理にでも会いに来るであろう。父親も今は不在だし、誰も止められるものがいない。


「侯爵は焦っている 先の警邏の不備を宰相につかれ なんとか挽回できないかと思っているがとうも息詰まっているようだ 当事者であるキミ達から何らかの情報を得て 打開したいらしいが……」


 殿下の言葉にその気持ちはわかるがという気持ちがありありと読みとれるがロザリアの状態をみると正直頷けない。


「配慮が足りないのよ あの脳筋バカは」


 辛辣な王妃様のお言葉が飛ぶ。とはいってもこのままでは直にロザリアに尋問されてしまう。彼女に二度とあんな思いをさせてはいけない。


「王妃様 ロザリアを匿ってもらえませんか 彼には私が会います」


「レイチェルッ?!」


 驚愕で王妃様の声があがる。気遣いはありがたいが一度受けてしまえば彼らだって何度も訪れはしないだろう。トラウマになりかけている彼女の恐怖の気持ちはこの身でしっかり経験済みだ。あれはよろしくない。ロザリアを守るためにお姉ちゃんがんばるよ。


「私は大丈夫です お願いします 王妃様」


 何かを言いたそうに口をぱくぱく動かすが言葉が出てこないようだ。


「はぁ~~~…… そんな所まで彼女に似ることないのよ」


「ありがとうございます 王妃様」


 母親に似ているなんて光栄です。申し訳ないがボクにとってあの事件は他人事だからね。故に覚えていること何てほとんどない。記憶も飛んじゃってることだしね。それで大した情報もないと知れば相手もあきらめるだろう。

 震えるロザリアは控えていた侍女達に別室に連れて行かれた。ボクも壁際に控えていたサリーに目配せすると理解してくれた彼女は音もなくロザリアについて行ってくれた。


「お嬢様 私も当事者です お側に控えさせてください」


 前に出たステラが頭を下げて口を開く。声をかけるまで控えている彼女から言葉をかけられるなんて珍しい。


「わかりました ステラ お願いします」


「かしこまりました」


 そういって近づくと彼女はボクに小声で話しかける。


「お嬢様 くれぐれもご自身の事はご内密に」


「わかりました」


 後々自分が面倒になることまで話す必要はない。


「私も同席しよう」


 なんと殿下からの声であった。


「例の話もあるしな」


 人攫いの件での話だろうこちらも小声で話す。なんか秘密が多いなぁ~ボク。


「何 皆してコソコソと…… 私をまぜなさい」


 なぜかプリプリと怒っている王妃様。可愛い。


 さて、騎士団長様とご対面だ。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

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