3-1 想い、欲するモノ(その1)
第2部 第12話です。
宜しくお願い致します<(_ _)>
<<登場人物>>
キーリ:本作主人公。転生後、鬼人族の両親に拾われるも英雄達に村を滅ぼされた。
魔法の才能は無いが独自の理論で多少は使えるようになった。冒険者ランクはC。
フィア:キーリ達パーティのリーダー。正義感が強いが、重度のショタコン。
アリエス:帝国出身貴族で金髪縦ロール。剣、魔法、指揮能力と多彩な才能を発揮する。筋肉ラブ。
シオン:小柄な狼人族でパーティの回復役。攻撃魔法が苦手だが、それを補うため最近は指揮能力も鍛え始めた。フィアの被害者。
レイス:パーティの斥候役で、フィアをお嬢様と慕う眼鏡メイドさん。お嬢様ラブさはパない。
ギース:パーティの斥候役。スラム出身。舌打ちが癖でいつも不機嫌そうな顔をしている。
「グオオオォォォッッッッッ!!」
迷宮にオークの雄叫びが響き渡る。発したのは他のオークよりも二回り程大きな体躯を持つ個体。通常のオーク達を統率するBランクモンスター――ジェネラルオークだ。魔力の込められたその叫びがビリビリと震え、立ち向かう者を威嚇する。同時に、取り巻く通常のオーク達を鼓舞しその力を底上げする厄介な能力だ。実際にオーク達も呼応するように雄叫びを上げ、気合十分にキーリ達に向かってきた。
ここは迷宮の最深部。ゲリーがドラゴンを召喚して間もなく新たに発見された区域である。この区域では数は少ないもののBランク下位に位置づけられるモンスターの出現が確認されている。そのため迷宮内の領域ランクではCとされているものの、スフォンでも極限られた冒険者しか脚を踏み入れる事を許されていない。
そしてキーリ達はその数少ないパーティの一つだ。
「シッ!!」
鋭く息を吐き出し、キーリは大剣を振り抜いた。袈裟に振り下ろされたそれはオークの体を斬り裂き一撃で屠る。血を噴き出して倒れるオークの体を蹴り飛ばし、その反動を利用して横から攻撃してきたオークを避ける。そのまま体を反転。自身の身長ほどもある大剣を片手で横薙ぎにし、オークの脚を払い飛ばした。
「ワタクシが頂きますわ!」
脚を払われて倒れたオークにすかさずアリエスが飛びかかった。
目の前にいたオークを水神魔法で氷漬けにすると同時に跳躍。落下エネルギーを利用してエストックをオークの喉に突き刺した。オークの口からゴボリ、と血泡が湧き、その眼から光が消える。
「フィアさんっ!!」
「ああ!」
キーリとアリエスで三体のオークを蹴散らし、ジェネラルオークへの道を拓く。そこをフィアが疾走した。
ジェネラルオークの厄介な点は、どこからかオークを次々に呼び寄せる点だ。その力を使って集めたであろうオークはまだ四体残っている。オーク如きに遅れを取るキーリ達では無いが肉の壁を築かれてしまえば、後は数の暴力に屈しかねない。
故に最初にジェネラルオークを狙うのがセオリー。戦闘前の作戦会議で定石通りの作戦をシオンは支持し、フィアもメンバーにそう指示した。
仲間が切り拓いた活路をフィアが走る。行く手を阻もうとするオークの棍棒を見切り、行き掛けの駄賃とばかりにすれ違い様にフィアにとっては軽く、しかしオークにとっては重大なダメージを与えていく。
そして行き着いた先に待つジェネラルオーク。Bランクモンスターだけあって佇む雰囲気は威風堂々。威圧感は凄まじく、肉体はまるでオーガかと思うくらいに筋肉質だ。
「■オオオ■ォォ■■ッッッッ!!」
濁った声を発し、力任せに手に持った長剣をジェネラルオークは奮った。
当然技術も何もなくただ振り回しただけ。しかし強靭な肉体は生半可な技術など凌駕してしまう。
「……っ!」
想定を超えた踏み込みと振りの速さ。このままでは斬られる。直感に従い、フィアは筋肉と骨格が悲鳴を上げるのを感じながら強引に体の向きを変えた。
避けるのが遅れた真紅の髪がジェネラルオークの剣に薙ぎ払われる。房の一部が切り取られ風に舞う。だが避け切った。
「はあああぁぁぁっ!!」
フィアの剣が炎を纏う。ブーツで地面を抉る程に強く踏みしめ、業火がジェネラルオークの右脇から逆袈裟に斬り裂いた。
「浅いかっ!」
剣は確かにジェネラルオークを斬り裂いた。だがその屈強な体と、体を纏う魔力を十全に断つには不十分だった。脂肪が焼ける臭いがフィアの鼻をつく中、ジェネラルオークは口から苦悶を漏らしながらも彼女をしっかりと捉える。
「ぐぅっ!」
ジェネラルオークの拳がフィアの体を捉える。咄嗟に籠手で防御したため直撃は免れたが、その膂力は籠手を砕き標準的な体重しか無いフィアを容易く弾き飛ばした。
「……っ、くぅ……」
地面を転がるフィア。すぐに体勢を立て直そうとするが、そこを待ち受けていたオーク達が一斉にそれぞれの武器をフィア目掛けて振り下ろさんとしている。
「荒ぶ息吹!」
シオンの声が響き、フィアとオーク達の間で高密度の氷の粒が立ち込めた。オーク達は突如視界を奪われ、一瞬動きが止まる。しかし振り上げた武器が闇雲に振り下ろされた。
だがオーク達の武器は地面を抉るだけだった。
「ボサッとしてんじゃねぇよ」
「すまない、ギース!」
オーク達よりも一瞬早くギースがフィアの体を抱え上げ、密集地帯を脱出する。それを確認したシオンもホッと安心する。だが直ぐ側からした濃密な気配に顔を向ければ、いつの間にか目の前にジェネラルオークが迫っていた。
「グ■オ■■ォォ■■ッッッッ――!!」
「しまっ……」
完全に不意を突かれた。悔やむ間もシオンに与えず、ジェネラルオークの剣が振り下ろされる。しかしそれよりも早くシオンの体に軽い衝撃が走り、斬撃が前髪だけを斬り裂いていった。
「レイスさんっ!?」
「全体に気を配るのも大切ですが、まずはご自身を大切になさってください」
レイスに抱えられながらすぐに気持ちを切り替え、シオンは先程まで自分が立っていた場所を見据える。ジェネラルオークは、手応えが無かった事に苛立ったようにもう一度雄叫びを上げ、そして猛然とレイスとシオンを追いかけ始めた。
「双精霊の戯れ!」
だがシオンとてみすみすと追わせはしない。魔法名のみを叫ぶと同時にジェネラルオークの足元がぬかるむ。ジェネラルオークの速度が一度落ちるが、頑丈な足腰はしっかりと地面を踏みしめて進んでいく。
しかしそれで十分。
「キーリさん! お願いしますっ!」
「任せとけっ!」
シオンとの間にキーリが割って入り、ジェネラルオーク目掛けて袈裟に大剣を振り下ろした。
ジェネラルオークの剣とぶつかり合い、金属音が鳴り響く。そのまま鍔迫り合いに移行し、力比べが始まるかと思われた。
だがキーリは剣同士がぶつかると同時に自身の大剣を手放した。力任せの一振りが受け流され、ジェネラルオークの体が前のめりに傾いた。
その顔を、キーリの素手が掴んだ。
「これでも食らっとけよっ!!」
掌と顔の僅かな隙間でパチリ、と火花が飛んだ。そして次の瞬間、キーリの掌から眩い光が発せられた。
「■■■、■■■……っ!!」
閃光が薄暗い迷宮内を昼間の様に照らし、その強烈な光に瞳を焼かれたジェネラルオークは悲鳴の様なくぐもった声を上げた。真っ白になった視界は何も映さず、ただ闇雲に剣を振り回す。不幸にも近くに居たオークが一体、背中から斬りつけられて倒れ伏した。だが彼らが襲うべき人間は近くに居ない。ジェネラルオークが率いていたオーク達も、味方に斬られるのを恐れて離れるばかりだ。
だが、そこにまっすぐに近づく影が居た。フィアだ。
「おおぉぉぉぉああぁぁぁぁっ!!」
低く地面を這うかのようにしてフィアは加速する。
高い集中力でジェネラルオークのでたらめな剣筋を冷静に見極める。低い体勢のまま、古びた剣の更にその下をくぐり抜ける。そして、フィアは剣を振り上げた。
肉が斬れる感触。ジェネラルオークの腕を斬り落とし、剣を握ったままのそれが宙を待う。
がら空きになった懐。そこに潜り込むと、そのまま悲鳴を上げるジェネラルオークの口目掛けて灼熱を纏う剣を突き刺した。
一瞬、全ての時が止まったような気がした。静寂を破り、フィアがゆっくりと突き出した剣を引くと、ジェネラルオークの体が後ろに倒れていく。地響きに似た音を立て、そして倒れたジェネラルオークが動き出すことは無かった。
「お見事」
流れる様な動きで格上を倒したフィアに、キーリは思わず感嘆の声を上げた。
フィアは、しかし油断なくすぐに背後を振り返った。ジェネラルオークは倒したがまだ通常のオークが残っている。気を抜くのはそれらを倒してからだ。
だが周囲を見回しても立っているオークは居なかった。
「雑魚はもう倒してしまいましたわ」
「アリエス」
氷杭で壁に縫い付けられた最後のオークに止めを刺したアリエスが、エストックに付いた血を拭いながら報告する。それを聞いたフィアは構えた剣を下ろすと、ふぅと息を吐き出してその場に座り込んだ。
「つ、疲れた……」
その途端にフィアの全身から汗が吹き出した。先程まで息を止めていたかの様に呼吸が乱れ、腕や脚が空気を求めて肺が激しく動く。乱れた赤い髪が垂れ、額にまとわり付いて鬱陶しいが、それを払う気力も無い。
自分一人では無かったとはいえ、一歩間違えば死に繋がりかねない緊張感はフィアの精神を著しく疲労させていた。加えて魔力を全身に纏わせて身体能力を底上げする自己制御も繊細な魔素制御を要求してくる。格上に挑むにあたってこれまでに無い程に魔素を注ぎ込んだため、フィアの魔力は既に空っぽに近かった。
「お嬢様、こちらを」
レイスがフィアにタオルを手渡してくる。だが口を動かすのも億劫なので、悪いと思いながら視線だけで礼を告げた。
「シオン、フィアを治療してやってくれ。たぶんさっき攻撃をかわす時に膝を痛めたはずだ」
「分かりました」
「ならワタクシ達は素材を剥ぎ取るとしましょう。せっかくジェネラルオークなんて大物が出てきたのですもの」
「だな」
フィアの治療をシオンに任せ、キーリ達四人は慣れた手つきで素材を剥ぎ取っていく。
しばらく治療を受けながら様子を眺めていたフィアだが、疲れが少し取れたか、しみじみと呟いた。
「……まだまだBランクの壁は厚いな」
「仕方ありませんよ」思わずシオンは苦笑した。「Bランクのモンスターには中々遭遇しませんし。それにフィアさんだってもうC-ランクなんですから、普通に比べれば十分過ぎるくらいです。僕なんてこの間やっとD-になったばかりなんですよ?」
「シオンは自分を過小評価し過ぎだと思うがな」フィアは溜息を一つ吐いた。「焦っても仕方ないか……Bランクよりもまずは無印のCランクだな。治癒魔法、ありがとう。もう大丈夫だ」
気怠さは残っているし、酷使した肉体には端々に痛みはあるが動けない程ではない。フィアは礼を述べて立ち上がり、キーリ達の方へと向かっていった。
今回は戦闘回。たまには迷宮に潜らねば。
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