3-2 想い、欲するモノ(その2)
お待たせしました。第2部 第13話です。
金曜更新できなかった分、今日は夕方にももう一話更新しました。
宜しくお願い致します<(_ _)>
<<登場人物>>
キーリ:本作主人公。転生後、鬼人族の両親に拾われるも英雄達に村を滅ぼされた。
魔法の才能は無いが独自の理論で多少は使えるようになった。冒険者ランクはC。
フィア:キーリ達パーティのリーダー。正義感が強いが、重度のショタコン。
アリエス:帝国出身貴族で金髪縦ロール。剣、魔法、指揮能力と多彩な才能を発揮する。筋肉ラブ。
シオン:小柄な狼人族でパーティの回復役。攻撃魔法が苦手だが、それを補うため最近は指揮能力も鍛え始めた。フィアの被害者。
レイス:パーティの斥候役で、フィアをお嬢様と慕う眼鏡メイドさん。お嬢様ラブさはパない。
ギース:パーティの斥候役。スラム出身。舌打ちが癖でいつも不機嫌そうな顔をしている。
エーベル:貧民街でフィアが出会った少年。十歳程だが、生活のために窃盗を繰り返している。
ユーフェ:エーベルと共にいる猫人族の血を引く少女。表情に乏しいが、エーベルを心配している様子を見せる。
オットマー:養成学校時代のキーリ達の担任教師。筋肉論者。
クルエ:養成学校時代の副担任教師。かつての英雄の一人。キーリとは一応の和解を得た。
迷宮の薄暗さが徐々に薄れていく。変わって入り口からは陽の光が挿し込んできてその眩さにフィアは目を細めた。だが明るさにもすぐに慣れ、中の淀んだようなものから一転して澄んだ空気が体を撫で、フィアは人心地ついた。
「んー……やっぱり迷宮の中よりも街の空気の方が美味しいですわね」
彼女の隣でアリエスが大きく背伸びをした。フィアの一歩後ろを歩いていたキーリも首をグルリと回して凝りを解している。空を見上げれば陽が傾いて茜色に染まり始めている。予定ではもう少し早い時間に戻ってくるつもりだったが、やはり最深部付近まで行くと思った以上に時間が掛かる。次に潜る時はもう少し時間を長めに見積もるべきだな、と反省しながらフィアは今日潜ったメンバーに向き直った。
「さて、それじゃあ今日はここで解散とするか。剥ぎ取った素材は明日の午前中にギルドに持っていくとしよう」
「んじゃ朝からギルドに集合だな」
「このメンバーだと遅刻する人間が居ないから良いですわね」
「全くだ」
今日は参加していないイーシュをアリエスがからかい、小さな笑いが起こる。そのまま談笑しながら迷宮前の門をくぐっていくと、一気に街の活気溢れる声が響き渡る。
「少し前までは迷宮から帰った後は色々と億劫でしたけれども、エーベルとユーフェが来てくれるようになって助かりますわ」
「ああ。迷宮から戻ると部屋が綺麗になってるからな。真面目に働いてくれるし、戻ると軽い食事を準備してくれてるし。マジで紹介してくれたフィアには感謝だな」
「そう言ってくれるとこちらとしても紹介した甲斐があったというものだ」
アリエスとキーリの褒め言葉に、フィアは我が事のように嬉しくなった。
エーベルとユーフェを雇ってから一ヶ月近くが経っていた。
この間に二人、特にエーベルはレイスから厳しい指導を受けて家事スキルをグングンと上昇させていった。言葉遣いの矯正から始まり、一ヶ月で掃除の仕方、洗濯と無表情なレイスから叩き込まれ、最近では簡単な料理まで作れるようになった。レイスに言わせれば「まだまだです」との事だが、彼らの年齢を考えれば十分すぎるレベルに達している。
エーベルも最初はレイスへの反抗的な態度を隠さなかったものの、彼女の腕前を見てからは徐々に尊敬の念も出てきていた。また仕事以外ではレイスも優しい人間だとフィアは思っている。表情の変化こそ乏しいが意外とお茶目なところもあるレイスの人となりにも慣れたか、エーベルの態度にも気安さも現れ始めていた。
基本的にはエーベルが動いて、それをユーフェが手伝うというスタイルだが、真面目に働くエーベルとちょこちょこと小動物みたいに彼に付いていくユーフェの姿は可愛らしい。その点もアリエスと、ここには居ないカレンには好評だった。
「明日は朝からギルドだったな。どれくらいに行きゃあいい?」
そんなエーベル達の話に花を咲かせるフィア達を他所に、ギースは彼女たちから一歩引いて歩いていた。いつも通り不機嫌そうな眼で彼女らの話に一切興味を示しておらず、分かれ道に辿り着いたところで明日の事を尋ねる。
「そうだな……探索は休みにするからゆっくりでいいだろう。十鐘(≒午前十時)が鳴るくらいだろうな」
「了解だ。んじゃな」
素材が詰め込まれた袋を肩に担ぎ、そっけない態度でギースは四人と別れ雑踏に消えていった。
「……キーリと同じで相変わらず愛想の無い殿方ですわね」
「おいおい、そりゃ聞き捨てならねぇな。ギースよりは愛想は良いつもりだぜ?」
「一度辞書で愛想というものを調べてみるべきですわ」
「エーベルも初めてキーリ様と会った時には震えておりました」
アリエスとレイスから口撃されてキーリは轟沈した。
言われてみれば、確かにエーベルは自分を見て眼が泳いでいたような気がする。ガタガタと震えているのは緊張しているからかと思っていたが、どうやらそうでは無かったらしい。思い返せば、声を掛ける度に体をビクッと竦ませていたような。
やれ殺人鬼だ、やれ極悪人だとからかわれる目つきだが、やはりそれが原因だろうか。自分ではかなり、特に子供相手には愛想よく笑っているつもりなのだが、前世の記憶を辿っても子供とすれ違う時には避けられていたな、とかつての出来事を思い出す。
本気で愛想よく笑う練習をした方が良いのだろうか、とキーリは一人本気で悩み始めた。とりあえず、帰ったらまずは鏡に向かってみようと思った。
「ところでなんだが、二人共この後少し時間はあるか?」
アリエスと、一人百面相をするキーリにフィアが尋ねた。だがアリエスは少し申し訳なさそうに眉根を下げた。
「申し訳ないですけれど、ワタクシはこの後用事がありますの」
「そうか、いや、だったら大丈夫だ。キーリはどうだ?」
「俺は問題ねぇ。どうせ帰って軽く飯食って鍛錬するだけだしな」
「ならこの後付き合ってくれ」
キーリの回答にフィアは頷く。アリエスはむむむ、と名残惜しそうに唸るが軽く溜息を吐くと二人から離れた。
「心残りですが……それではワタクシはこれで失礼致しますわ」
「ああ、んじゃな」
「また明日」
アリエスが去り、人が多く行き交う中に三人が残った。彼女の姿が見えなくなるのを見送るとキーリはフィアと並び立って再び歩き始めた。その後ろで静かにレイスが付いていく。
「それで、俺は何をすりゃいいんだ?」
「ん……別に今日は特に何かしてもらう事は無いんだが、頼みたいことがあってな」
「頼み事? まあ、無茶な事じゃなきゃ構わねぇけどな。何だ? エーベル絡みか?」
「察しが良いな」
フィアは思わず苦笑いを浮かべるが、キーリとしては今の彼女からされる頼みなどそれくらいしか思いつかなかっただけだ。
どういう経緯であの二人を雇う事になったのかキーリは知らない。だがエーベルの芯の強そうな眼とやせ細った体を見るにかなり貧しい生活をしていただろうことは察しがつく。正義感が強くて子供好きのフィアの事だ。きっと食事も満足も取れずに居たところを見かね、そしてそんな二人を見て見ぬふりができずに仕事を与えたのだろうとほぼ正確に経緯を察していた。
エーベル、ユーフェの二人を彼女が気に入っているのはここ最近の彼女の言動からもよく分かる。会話の話題として上がることも多く、その時の彼女の様子から二人を大切に思っている事も感じ取れる。
(ちょっと入れ込み過ぎな感じがしねぇでもねぇが)
キーリはその点に不安を覚えた。前世のように安全な世界ならいざ知らず、この世界は常に暴力と隣り合わせだ。子供を保護するような公的機関もない。エーベル達に何かあった時のフィアが心配になる。
とはいえ、彼女の行動は好ましい。批難される事ではないし、このように真っ直ぐだからこそ彼女は魅力的なのだ。それに、二人に危険が迫ればフィアの事だから身を挺しても守ろうとするだろう。その時には自分が彼女の盾になればいい。
軽く眼を瞑り、開くとフィアが不思議そうにキーリを覗き込んでいた。
「どうした? 黙りこくって」
「なんでもねぇよ」小さくキーリは頭を振った。「で? エーベル絡みの頼みってのはなんだよ?」
「ああ、実はな、エーベルが最近になって冒険者に興味を持ち始めたみたいでな」
「へぇ? まあ分からないでもない話だな」
それまでが日々の食事にも困るような生活をしていたのならば冒険者はさぞ魅力的な職業に映るだろう。養成学校に入学する必要はあるが、平民やスラム出身であっても能力があれば冒険者になれるし、自分の努力と才能次第ではどこまでも上り詰める事が可能だ。仮に上まで行けなくても一般的なレベルになれば、引退まで食うのに困ることはない。反面、危険が常に付きまとうし、怪我の次第によっては歩くことも難しくなる事もある。死ぬことだってある。
「危険だから止めた方が良いと言ったんだが……」
「逆に意固地にさせたか? 見てる限りだと頑固そうだしな」
「ご明察。そういうわけで、そのために自分を鍛えて欲しいとせがんできてな」
話しながら困ったようにフィアは笑った。だが言いながらも何処か嬉しそうだ。
「年齢を考えれば早すぎる気もしないでもないが、ユーフェの事もあるし少なくとも身を守れる技術を持つのも悪くは無いと思うんだ」
「ついにフィアも教職に鞍替えか?」
「よしてくれ。オットマー先生やクルエ先生の事は尊敬しているが、私には到底務まらんさ。するとしても当分は未来の話だな。
話を戻すと、最低限の剣や動き方、逃げ方を教えようと思うんだができればもう一人教える人間が欲しくてな」
「それで俺に声を掛けたわけか」
「そういう事だ。キーリの家を掃除に行った時に時間があれば面倒を見てやって欲しい。もし今日みたいに私と潜る日が重なったら、エーベルと軽く試合でもしてやってくれ。私が外から指摘する、いつも私達がやっているようなやり方だな。もちろんあくまで時間があれば、だ。無理に時間を割いてもらう必要はない」
「そういう事なら構わねぇよ。ついでにフィアの悪いところも指摘してやるよ」
「ふふ、弟子から指摘をもらうか。それも悪くないな。ちょうど、ランクを上げるために何をすべきか自分を見つめ直すつもりだったからな。遠慮なく頼む。
それでは行こうか。今日は仕事が終わっても待っているように伝えておいたから、私の部屋に二人共居るはずだ」
キーリの快諾を貰ったフィアは、今度こそ楽しそうに笑った。
キーリとフィア、そしてレイスは彼女が暮らすアパートへと戻った。建物のエントランスから階段を登り、レイスが鍵を開けようとするが、そこにキーリが待ったを掛ける。
「剣を教えるなら最初にプレゼントが要るからな」
そう言いながらキーリは自分の袋に手を突っ込む。そして引き抜かれたのは一本の木剣だった。
「相変わらずお前のそれはデタラメだな」
「便利だろ? まあ、おおっぴらにできねぇのがつれぇところだけどな」
キーリの袋は見た目はただの荷物入れ。そして中を覗いてみてもただの袋だ。幾つかの荷物が入ってはいるが、実はキーリの荷物の大部分は彼が作り出した「影」の中に保管されている。
かつてドラゴンを倒すために使った竜殺しの剣も「影」の中にずっと保管されていて、内部はほぼ無限の広さを誇る。そしてキーリが影の中に手を突っ込めば欲しいものが取り出せる仕組みになっているのだが、あまりに特殊な魔法であるため普段は袋から取り出しているように偽装しているのだ。
もっとも、今みたいに明らかに袋より長い木剣も取り出したりするため、正体を知るフィアからは呆れ半分で見られたりするのだが。
「まあいい。エーベルもきっと喜んでくれるだろう。エーベルには少々剣が長すぎるのが瑕だが」
そう言いながらフィアはドアを開けた。
途端、中から良い香りが漂ってきた。香ばしい焼けた肉の匂いとスープの香り。非常食ばかりを数食食べ続け、かつ空きっ腹になっている三人の胃袋を刺激する。
思わず立ち止まって香りを堪能していた三人だったが、ちょうどその時キッチンの方から執事服に身を包んだエーベルが鍋を持って出てきた。
「おっ、フィア姉ちゃ……」
つい普段の言葉遣いが出てしまい、レイスに冷たく睨まれる。エーベルは一瞬身を竦ませると慌てて、だがその素振りを見せずに言い直す。
「フィアお嬢様、お帰りなさいませ。それからキーリ様もいらっしゃいませ」
「……お帰りなさいませ」
エーベルはテーブルに鍋を置き、ミトンを手早く脱ぐと恭しく一礼して三人を出迎えた。その後ろでお皿に盛られた料理を持ったユーフェも現れ、トコトコと歩いて並び、ペコリ、と頭を下げた。
「ああ、ただいま。いい匂いだな。二人が作ってくれたのか?」
「はい。ちょうどお時間も良い頃合いでしたので。お口に合うと宜しいのですが」
「そうか。ならば早速頂くとしよう」
「畏まりました。ではすぐに準備を終えてしまいますので少々お待ち下さい。ああ、お荷物も私が片付けてしまいますのでお嬢様方はソファに据わってお待ち頂けますか?」
「分かったよ。その前にエーベル、この前の話だが」
キッチンへと戻ろうとするエーベルを呼び止め、フィアはキーリに目配せした。ほらよ、とキーリから木剣を手渡され、手の中のそれを見てエーベルの瞳に期待が満ちていく。
「もしかして……!」
「そうだ、訓練用の剣だ。それでしっかり鍛錬をするんだぞ」
「ビシビシしごいてやっからな。覚悟しとけ?」
エーベルはそれを聞いて破顔した。
「……ぃぃよっしっ!」
思わず素に戻ってガッツポーズをするエーベル。だがレイスからコホン、と咳払いが聞こえると急いで背筋を伸ばした。
「……失礼致しました。取り乱してしまいました」
「そんなに訓練してもらえるのが嬉しいのかよ?」
「はい! だから精一杯頑張りますので、ご指導宜しくお願い致します!」
「ならばこちらもその期待に応えないとな。
ああ、すまない。仕事の邪魔をしたな」
「いえ、もう殆ど終わっておりましたから。それではおくつろぎください」
フィアとキーリに向かって丁寧に一礼するとエーベルはキッチンへと消えていった。その後姿を見ながらキーリは肩の力を抜いて嘆息した。
「なんだかなぁ……」
淀み無く落ち着いた口調でテキパキと仕事を進めるエーベル。顔つきこそ強張りが残ってまだぎこちなく、出迎えの時も気を抜いていたのか普段の口調であったが、仕事モードに切り替わった今の仕事ぶりは既に完全に執事のそれである。一月前にフィアから紹介された時は真新しい衣装に着られていた感が否めなかったが、今は完全に馴染んでしまっている。ユーフェの方は相変わらず愛らしく、しかし仕事は真面目だ。できることは少ないが、できることを一生懸命やっているのがキーリから見てもよく分かる。
なのだが。
「……分かっちゃいたが、何だかレイスが二人になったみてぇだな」
「言うな……私も少しやり過ぎじゃないかと思っているんだ」
小声で話す二人。レイスにもエーベルにも、仕事ぶりに文句は無い。ケチの付け様は無いのだが、こうも下にもおかない対応をされるのは何処か居心地が悪い。まして、まだ年端もいかない少年にここまでのスキルを身に着けさせるとは、レイスは一体どんな教育をしたのだろか、と恐ろしい想像が頭を過るが、二人は揃って頭を振って考えを振り払った。
(まあ……いいか)
エーベルもユーフェも表情を見る限りは嫌そうだったり不満を持っていたりする様子はない。逆に充実感さえ漂わせているし、本人に文句が無いのならば良いだろう。
「……お嬢様、キーリ様。お食事の準備、が整いましたので……こちらへどうぞ……」
そんな事を考えながら待っていると、メイド服のユーフェがやってきて辿々しい言葉遣いで二人を誘う。隣のダイニングに向かうと、いつもレイスがしているのと変わらぬ感じで整えられた食事の席が準備されていた。
「凄いな、エーベル。完璧じゃないか」
「美味そうだな。いつの間にこんな料理作れるようになったんだ?」
つい先日キーリの家に来た時にはまだ簡単な料理しか作れなかったはず。だが今、テーブルに並んでいるのはどれもかなり手の込んだものばかりだ。
「ありがとうございます。レイス様から色々とご指導頂きまして」
「そうか。ここ最近、レイスがあまり迷宮に潜ろうとしなかったのはそういう理由か」
いつだってフィアにべったりだったレイスが、ここ何回かメンバーから外れていた理由を知り、合点がいったとフィアはレイスを見た。
「掃除や洗濯は一通りできるようになったと判断致しましたので。お嬢様には暖かいお料理で疲れを癒やして頂きたいと常々考えておりましたのでエーベルに指導致しました」
「頑張ってくれたんだな。二人共ありがとう」
エーベルの頭を撫でる。最初は嫌がっていたエーベルだったが、今は何処となく照れくさそうにするだけだ。
「ですが、まだまだ至らない点がございます。あまり褒めすぎないようお願い致します」
「なに、まだ練習を始めて一ヶ月だというのにこれだけできるんだ。頑張ったならキチンと褒めてやるべきだ」
「そうそう。厳しいばっかりじゃダメだぜ、レイス。上手く行ったら評価してやるのも上司の仕事だぜ?」
「……そうですね。心に留めておきます」
「よしっ、なら早速食おうぜ。こんな美味そうな料理を前にお預けされちゃ俺の胃袋がたまんねぇよ。そうだ、せっかくだし、エーベルとユーフェも一緒に食おうぜ!」
「うむ、そうすべきだな。今日は五人で卓を囲むとしよう」
掌をパチンと叩き、キーリの提案にフィアも同意する。
だが困ったのはエーベルだ。この一ヶ月というもの、使用人としての心構えを徹底的に教え込まれてきたのだ。当然、使用人が主と卓を共にすることなど有り得ない。一方で主人の希望は可能な限り応じるべきだとも教えられている。
こんな時にどうすべきか。困ったエーベルはチラリとレイスへと助けを求めた。
「……では今日はお言葉に甘えさせて頂きましょう」
「宜しいのですか?」
恐る恐るといった様子でエーベルが確認すると、レイスはしっかりと頷き返す。
「お二人が仰られる通りエーベルもユーフェも努力を重ねています。お嬢様もキーリ様もそれを望んでおられますし、二人も晩餐を楽しみなさい」
「あ、ついでに言っておくが」続いてフィアが付け加えた。「今からは仕事外だ。私が雇っているエーベルとユーフェじゃなくて家族としてのエーベルとユーフェだ」
「家族……?」
「そうだ。だから話し方もいつも通りでいいし、食べ終わった後の片付けも皆で一緒にしよう」
戸惑い、困惑するエーベル。隣のユーフェが袖を引っ張って顔を見上げるが、やっぱり困った顔を向けるだけだ。
「ほら、座れよ」
「あ」
苦笑いをしながらキーリがエーベルを、フィアがユーフェを抱えてそれぞれの隣の椅子に座らせる。そこに、レイスによって温かい料理がよそわれた皿が並べられた。
「んじゃ、いただきまーす!」
並べられると同時にがっつくキーリ。空腹のせいもあってか、向かいのフィアも何時にも増して勢い良く料理をかきこんでいく。エーベルはそれをただ眺め、だが正面に座ったユーフェはスプーンを手にしてスープを飲み始めた。
「どうしたんだよ? とっとと食わねぇと俺が全部食っちまうぞ?」
「そうだぞ。美味しい料理は冷める前に食べないとな。あ、そうだ。お姉ちゃんが食べさせて――」
「い、いいよ! 自分で食えるっての!」
慌ててエーベルは自分の皿の料理を口に運ぶ。自分で作った料理の味が口の中に広がり、スープの温もりが喉から胃にかけて流れ落ちていく。その熱を感じながらエーベルはチラリとフィアを見た。そこには、優しく微笑んでエーベルを見守るフィアが居た。見られているのが恥ずかしくて、しかし何故か反発する気もおきなくてエーベルは顔を逸してもう一度スープを飲む。
そこから感じる暖かさ。エーベルは腹の底から湧き上がるそれを、きっとスープのせいだと思った。
ただ、いつも何かを睨んでいるような目つきが、少しだけ穏やかになっている事にフィアだけが気づいていた。
今回もお読み頂きまして誠にありがとうございました<(_ _)>
ポイント評価やご感想等頂けますと嬉しいです。




