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VARIANTAS  作者: 機動電介
12/22

ACT12 英雄の条件

佳境に入るトライアル。グラムたちジェネシック社は最終試験に入る。しかし、試験には不穏な影が迫っていた。


Chapter 1

 西暦2080年、第四次世界大戦の勃発と共に、『それ』は産声を上げた。

 当初から、巨大人型兵器の有用性には疑問が投げ掛けられてはいたが、内骨格駆動フレーム“MFS”(マニューバーフレームシステム)による人間に限りなく近い動作と、強力な内燃機関。当時としては破格に小形なスラスターエンジンを搭載したそれは、『人型機動装甲(HMA)』と名付けられ、その機動力と打撃力で一躍、陸戦兵器の花形に踊り出た。

 そして開発から100年間に、この兵器は目まぐるしい進化を遂げていった。


 拡がる戦線。

 激化する戦闘。

 大量破壊兵器。


 そして、“エース”と呼ばれる英雄達。


 この全てが、HMAを更なる超兵器と化していく推進剤となった。

 そして終戦後、HMAの役目は、対人戦闘から対ヴァリアンタス戦闘へ取って代わっていった。

 際限無い進化を遂げていく敵。

 それに呼応するように、進化するHMA。

 そして今ここに、新たな時代を劃する二つの機動装甲が存在する。

 その二機は、お互いの出会いの時を、静かに待っていた。

 そのパイロットもまた、同じ様に…





************





 パイロットスーツに身を包み、戦いに赴く前特有の張り詰めた空気を、彼は感じていた。

 静かなロッカールーム。

 目を閉じ、祈るように、非常に落ち着いた様子で佇むグラム。

 肩がゆっくり上下し、自分の心音と息を吐く音だけが彼の鼓膜に届く。


 貪欲な連中。

 自分たちで万全な状況を作り上げておきながら、小さな小石をブルドーサーで退かし去る。

 そんな連中が。

 ブルドーザーにされている自分が。

 気に入らない。


 今朝方、選定委員会からの通達が有った。

 呆気ない程簡単な、文章による知らせ。


 以下の2機を、最終試験への移行に適す物とする。

〈ジェネシック・インダストリー社製試作機[対ヴァリアンタス戦闘用人型機動装甲HMA-ph3 リセッツクロウ]〉

〈アーシェクロイツ社製試作機[反重力波装甲実装型戦術機動兵器 ピスティス]〉

 以上2機の模擬戦を経て、次期主力機体を決定する。

 サンヘドリン兵器局次期主力機体選定委員会委員長ルドルフ=ハインケル少佐




 この直後、アーシェクロイツ社から突然、“辞退”の申し入れが有った。

 その結果、補欠2位だったキクチ金属工業が、繰り上げ当選し、水蘭とリセッツクロウは正面から対決する事になった。

 正に、彼の言葉通りに。

 彼はもう一度呟いた。

 『気に入らない』と。


 刹那、ドアをノックする音に、彼の意識が引き戻られる。

「大佐…」

 ドア越しに聞こえてくる、自分を呼ぶエステルの声。いつもより大きく深呼吸。

「分かった…」

 彼はゆっくり立ち上がり、ドアから部屋を出、ロッカールームからハンガーへ向かった。





************





 彼には、生まれてこの方、剣しかなかった。

 だが、彼は変わった。

 彼女が変えた。



「準備はよろしいですか?」

 彼女の声が、インカムを通じて聞こえてくる。

 一瞬の躊躇。

 水蘭のコクピットの中、手を延ばせば触れる事が出来る程近くに居る筈なのに、彼には何故か遠く感じた。

「春雪…」

 低い声。

「はい?」

「あのさ…前、ちょうど今みたいにコクピットの中で君と話したとき…」

 途切れる言葉。

 声が出ない。

 喉の奥で、言葉がノイズに変わる。

「若様…?」

「嬉しかった…」

 やっと出た言葉がこれ。

 なんだそれ。

 自分で反省。

 彼女だってほら…

「え…?」

 不思議そうに聞き返す。

 頭に血が昇る。

 自分でも何を言っているか分からなくなってきた。

 でもこれだけは言いたい。今言わなきゃいけない。

「嬉しかったんだ…顔を見て話を聴いてくれて…君は僕の我が儘に振り回されてるっていうのに、嫌な顔一つしないで…微笑んでくれた…」

「若様…」

「君の顔を見ていると、戦いの前だというのに心が静かになれる…何があっても笑顔でいれる…だから…」

 自分でも分かっている。

 また我が儘だ。

 胸がむかつく程、本当に嫌なくらい、自分でも分かっている。

 でも…

 目の前に、ウインドウ。

 彼女の顔が映る。

「…一つだけ、約束…もう二度と、あんな悲しい顔を…しないでください…」

 春雪は一刃にそう言うと、彼の瞳をじっと見つめた。

 一瞬の沈黙。

 彼は答えた。

「約束するよ…春雪…」

 彼女は静かに、そして優しく微笑んでから、再び彼に問う。

「準備はよろしいですか? 若様…」

 答える一刃。

「準備よし…!」

 ヘルメットを被り、視覚変換。 

 目の前に、広い視野が広がっていく。

 静かに動き出す水蘭。

 機体はゆっくりと、薄暗いハンガーから、明るい荒野へ出て行った。





************





 ロッカーからハンガーヘ向かう途中、エステルはグラムの少し後ろをついて歩きながら、彼の背中をちらちらと見た。

 強張った肩口。

 強い足音。

 一目見れば、機嫌があまり良くない事くらいすぐ分かる。

「エステル」

 グラムが不機嫌な口調で話し掛けた。

「はい?」

 返事を返すエステル。

 彼は直ぐに立ち止まり、振り返る。

「どうしました?」

「夕べは…何処に行っていた?」

「え…?」

 思わず聞き返す。

「部屋にも居なかったからな…少し心配したぞ?」

 目を点にするエステル。

 彼女は一瞬、苦笑混じりの笑みを見せてから、グラムの顔を見つめて言った。

「それで機嫌が悪かったんですか?」

 答えるグラム。

「理由はそれだけではないがな…」

 彼女は顔を俯かせて溜息をついてから、すぐに顔を上げて答えた。

「ハンガーにいました」

「一人でか?」

「グレンと一緒に」

「一晩中?」

「夜中のうちに部屋へ戻りましたよ?」

「急に仲良くなったな…」

 無言でエステルの顔を見据えるグラム。

 彼の目は、何か疑いを抱いているような…そんな目で、彼女は額を押さえてからもう一度、大きく溜息をついた。

「念のため、一つお聞きしておきますが…まさか私と彼女が、性愛関係を持ったなどとお考えではありませんよね?」

「………」

 無言のグラム。

 彼女は声を荒げた。

「違います! 勘違いなさらないで下さい…! 彼女と私は…!」


『私…家族いないもん…』


 突然、彼女の脳裏に、夕べのグレンの言葉が響いた。

「彼女とは…」

「エステル?」

「大佐…」

 彼女は、グラムの顔をじっと見つめて、請い求めるような口調で話し始めた。

「…もう少し彼女に、言葉をかけてあげられないでしょうか?」

「どうした? 急に…」

 不思議そうなグラムに、彼女は言った。

「グレンは夕べ、『自分には家族がいない』と言っていました。父もなく、母もいない…彼女はそう言って…泣いていました…」

「グレンが…?」

「いつも明るくて、誰にも親切な彼女が、そう言って泣いたんです。だから私は、彼女を抱きしめて、『あなたはたくさんの人達に愛されてる…あなたの周りにいるみんなが、あなたの家族だ』って…言ったんです…」

「それで、彼女は?」

「笑顔で、『ありがとう』って…」

 彼は目を閉じ、短く息をついた。

 いつも明るくて、親切で、悩みなんか一つも無いような笑顔を見せるグレンが、エステルの前ではそんなにも弱い面を見せた。

 そうか…

 彼女は、自分たちでは想像も出来ないほど辛い思いをしてきたのか…

 グラムは、目を開けて呟いた。

「家族…か…」

 エステルが一瞬寂しそうな顔を見せてから、こう言った。

「でも“家族”って難しいです。側に居るだけなら、誰でも出来る…でも、言葉をかけて、心を癒す事が出来る人は、何人も居る訳じゃない…だから、大佐…お願いします…彼女に、今よりももう少しだけ多く、言葉をかけてあげられませんか?」

 優しい顔でグラムを見つめるエステル。

 そんな彼女の顔を見て彼は、一つの言葉が思いに浮かんだ。


『母親』


 そうだ…

 この笑顔だ。

 忘れていた…

 彼女を愛するようになった訳を…

 だからこそ、今までもずっと…

「努力しよう」

 彼はそう言うと、踵を反して再び歩き始めた。

 静かな足音。

 優しい後ろ姿。

 彼女は安心した表情で、彼の背中を見つめた。

「エステル…」

 彼が再び、彼女に話し掛ける。

 今度は、優しい、落ち着いた声で。

「はい?」

「疑って悪かった…」

 エステルが立ち止まる。

 そして彼女は、共に立ち止まった彼に、優しい笑顔で言った。

「おばかさん…」

 苦笑するグラム。

 彼女は、グラムの横に立ち、共に歩調を合わせて歩いていった。






Chapter 2

「よし、グレン君。もう一度確認しよう」

 ミハエルが、端末のリセットボタンを押しながらそう言うと、彼女は元気よく頷いた。

 タイミングを合わせ、二人とも同時にEnterキーを押す。

 端末画面を瞬く間に埋め尽くしていく膨大な量の数式の列。

 グレンは、その全てを汲み取るように、高速でキーを叩いていく。

「君は以前、『兵器は結局、人殺しの道具だ』と、言ったね」

「え…?」

 彼女は思わず聞き返した。

「良いかね? グレン君。兵器は人を殺さない。人の意思が、兵器を通して人を死に致らしめる。問題なのは使い手の意思、創り手の想い…ここを見たまえグレン君。兵器は…機械は人の思いや感情など理解しないという事を分かっていながらも、こんなにもたくさんの人間を惹き付ける…兵器は、用いる意思によってここに居る全員を殺す事もできるが、同時に、全員を救う事もできる…愛する人を守る事もできる。だから私は…」

 ハンガーに到着したグラムとエステルを見て、彼は静かに言った。

「彼らを信じる…」

 グレンが手を止める。

「先生…」

「なんだ?」

「兵器に、創り手の意思と想いが宿るのなら、私は先生の事も信じます…想いは、絶対に伝わりますよ」

 透き通った、満面の笑顔を見せるグレン。

 いつの間にか確認は終わっており、数式の末尾で『complete』の文字が点滅していた。

「確認が終わりました。先生」

「うむ、ご苦労」

 端末からジャックを引き抜き、二人の元に歩いていくミハエル。

 彼は、ふいに立ち止まり、グレンに言った。

「君の想いも、伝わるように祈っているよ」

 ミハエルの背中を見送るグレン。

 彼女はうれしいそうに微笑んだ。





************





 彼がハンガーに着いた頃には既に、全ての準備が調っていた。

 彼の操縦に追従出来るよう、調整が繰り返された駆動系。

 グラビティードライバー。

 大出力スラスター。

 重力波兵装。

 その全てが、再び命を吹き込まれるその瞬間を待っていた。

「待っていたよ。ミラーズ君」

 彼は、声のした方向に振り向いた。

「遅くなりました…博士」

「いやいや…規定時間通りだ。調子はどうかね?」

「万全です。そちらは?」

 ミハエルは機体を眺めた。

「これが現段階では最新バージョンになる。武装は今まで通り胸部ビームカノン2門、EPC、グラビティードライバーによるグラビティシールドと近接兵装…ただ、駆動系を競技規定ギリギリまで微調整してあるが、そのせいか、機動力は上がったものの、非常に…」

「デリケート?」

「そう。しかも駆動制御ソフトが、データ不足で間に合わなかった」

「問題ありません、博士。なにも問題ありません」

 機体の前で立ち止まる。

 つや消しの黒一色で塗装された機体は、戦いの前だと言うのに、まるでショールームに飾られるかのように磨き上げられていた。

「可笑しく思っただろう? ミラーズ君」

 ミハエルが、機体に触れながらそう呟いた。

「戦いの前だと言うのに…嫌でも傷だらけになると言うのに…」

 彼は、グラムの顔を見据えた。

「“戦いの前だから”だよ、ミラーズ君」

 “だからこそ”

 最善のタイミングを指すこの言葉に、彼は強く頷く。

「この機体…無傷でお返しします。博士」

 彼はそう言って、ミハエルに敬礼すると、機体のコクピットに身体を滑り込ませた。

「大佐…」

 グレンが顔を覗かせる。

「先生…大佐のこと信じてるって…だから…必ず勝ってきて下さい!」

 彼は頷く。

「それから…エステル…」

「はい?」

「夕べはありがとう…とてもうれしかった…気をつけてね…」

 グレンはそう言って、エステルの頬にキスした。

「大佐も、お気をつけて!」

 グラムに敬礼するグレン。

 グラムは彼女に、敬礼仕返した。

「起動開始」

「了解」

 コンソールが光る。

 コネクションチェック。

 異常無し。

 FCS、システムノーマル。

 起動完了。

 あと一つ、このスイッチを押せば、コクピットハッチが閉まる。

 だが彼は、躊躇した。

「グレン…」

 機体から離れようとしたグレンを、彼は呼び止めた。

 エステルが、機体を“待機状態”にする。

「大佐…?」

「…行ってくる」

 グレンは微笑んだ。

「いってらっしゃい」

 閉まるハッチが、二人を隔てる。

 システムをアクティブに。

 ハンガーの外へ出る。

 モニターの端に、ウインドウ。

「グラム…」

「すまん…エステル。あれが精一杯だった」

「いいんですよ…グラム…少しずつで…」

 彼女は優しく微笑んだ。

 管制室から入電。

「キクチ金属工業社製試作機の発進を確認した。試験機、発進せよ」

「了解、ランデブーポイントへ向かう」

 大きく息をつく。

「グラム=ミラーズ、リセッツクロウ…出撃る!」

 機体は静かに動き出し、ホバー走行へ。

 徐々にスピードを増すリセッツクロウ。

 機体はやがて、空へ舞い上がって行った。




************





[第一演習場上空]


 コクピットの中で、大きく息をつく。

 網膜に映し出される、“水蘭”の視界の中、灰色の雲が、遥か前方から彼の背後へ高速で流れていく。

 一瞬、ハッチを開けて、直接外を見たいという衝動を押し殺し、彼は機体を気流に乗せた。

「若様」

 視界の端にウインドウ。

「間もなくランデブーポイントです」

 気付けば機体は、対戦相手との合流場所へ到着していた。

 レーダーに反応。

 グリッドマップに表示される、三角のカーソル。

 黒い人型の物体が、雲を突き抜け、水蘭の横に並んで飛行する。

「ジェネッシック・インダストリー社製試作機、リセッツクロウです」

 簡単に済まされる、春雪の解説。

 彼は彼女に問う。

「相手方のパイロットの事は、何か聞いてる?」

 答える彼女。

「いえ、聞いていません。相手方、我社共に、テストパイロットの情報は、非公開という事で合意しています」

 彼は呟いた。

「話できたらなぁ…」

 突然、リセッツクロウから、水蘭へ入電。

 音声通信。

「はじめまして…と言うべきかな…?」

「お互い初対面なのに、お声のみとは、些か残念な気もしますが?」

「失礼は承知の上だ。声が若いな…十代か?」

「今年、19になったばかりです」

「なるほど…『手に職を』…と言うやつかな?」

「いえ…僕の場合は、ただの我が儘です」

「我が儘?」

「ええ…」

「我が儘でここまでは来れんぞ?」

「運がよかっただけです。それと、仲間が」

 管制塔からの通信が、二人の会話に割り込む。

「両機、間もなく試験を開始する。20秒前…」

 グラムが彼に言った。

「…では…」

 気迫のこもった彼の声に、思わず息を飲む一刃。

「君のその運が、いつまで持つか…私が試してやろう!!」

 始められた最終試験。

 両機は直ぐさま、ドックファイトへ突入した。




 戦闘開始信号発信からおよそ3ナノセカンド後、エステル及び春雪、機体通信回線を経由し、通常空間に於ける物理現実時間に換算して、約60ナノセカンド限定の超光速度双方向回線を接続。

 超高圧縮プログラム言語を用いての高速思考会話、開始。


「こんにちは。『私』の『名前』は“エステル”。『あなた』の『名前』は?」

「こんにちは、“エステル”。『私』の『名前』は“春雪”」

「“春雪”、『あなた』の『目的』は?」

「『私』の『目的』は、彼を勝たせること。『あなた』は?」

「『私』の『目的』は、彼を支えること。“春雪”、『あなた』は彼の何?」

「『私』は彼の僕。『あなた』は?」

「『私』は彼の一部。共に生きる、彼の一部」


 お互い、『手』を伸ばし、『身体』に触れあう。

 『全身』を隈なく、隅々まで。

 細部に至るまでを。


 エステル及び春雪。双方の接続機体データを交換、リンク。

 60ナノセカンド経過。

 超高圧縮プログラム言語を用いての高速思考会話、解除。



 戦闘開始。






Chapter 3

 水蘭の近接グリッドマップに表示される、リセッツクロウのカーソルが、急接近してくる。

 近接警報。

 グラムの乗るリセッツクロウは、水蘭の頭上を擦過して後ろに付いた。

 戦いは既に始まっている。

 ロックオン警告。

 グラムはEPCのトリガーを引いた。

 水蘭は即座に、加速しながら右ロール。

 攻撃を回避。

 衝撃波が機体を擦過する。

 水蘭も、リセッツクロウも、その機動性は伊達じゃない。

 水蘭は、その柔軟な旋回性能で、リセッツクロウの攻撃を回避する。

 それを追撃するグラム。

 両機は激しいドックファイトを展開。

 機体から雲が尾を曳いた。

 無線接続。

「いつまで逃げ回る気だ?少しは反撃したらどうなんだ?」

「意地悪な方だ。僕の機体に銃が装備されていない事を知っておきながら…」

 コンソールに表示される、相手方の機体ステータス。

「銃が嫌いか?」

「ええ。大嫌いです」

 水蘭の腿に装備されたマイクロミサイルポッドから、数発のスモーク弾頭が射出された。

 “水蘭”

 ECMを発動。

 サーモプロテクト。

 ダミー射出。

 “リセッツクロウ”

 FCS、ロックオン不可。

「スモーク…目隠しのつもり…か…」

「ECCM、発動しますか?」

「いや…」

 グラムは煙の中、その場に静止し、銃を降ろす。

「リセッツクロウ。動き止まりました」

「よし!」

 模擬刀を抜く。

 そして構え、リセッツクロウに切り掛かろうとしたその時、彼の背中に寒気が走った。

「リフレクター、出力最大で防御態勢!早く!」

 水蘭の前面を覆うリフレクター。

 次の瞬間、煙幕の中からEPCの重力衝撃波がほとばしり、リフレクター表面で爆ぜた。

 華奢な声を上げる一刃。

 衝撃波は立て続けに、2発目、3発目と水蘭に命中する。

「リフレクター基部、過負荷限界値です!」

 度重なる攻撃に耐え兼ね、リフレクターの基部が砕けた。

 落下する水蘭。

「こんな事…出来るのはあの人しかいない…あの人しか…!」

 彼は、脚部メインスラスターで機体を減速し、地面に着地した。

「ダメージチェック!」

「了解!」

 セルフチェック完了。

「機体本体に目立った損傷は無し。ただリフレクターを失いました」

「戦闘に支障は無いね?」

「はい…ですが、空間機動力は本来の53%以下です」

「大丈夫…十分だよ」

 彼はそう言うと、機体をゆっくり直立させた。

 空から降り立つリセッツクロウ。

 グラムは再び、水蘭と通信した。

「EPCの直撃を受けてもまだ立つとは…『便利』な物を持っているな…」

「噂と違って意地悪な人だ…ミラーズ大佐!」

「噂…?」

「あなたは有名人ですよ? 大戦での偉大な戦士! 人類の英雄!」

 グラムは皮肉を含んだ笑いをした。

「…ふ…戦いで人は偉くならん」

「でも、強くはしてくれます」

「強く…か…」

 グラムは、EPCを手放した。

「そういえば名前を聞いていなかったな」

「一刃…菊地一刃」

「流派は?」

「え?」

「剣を持っている以上、剣術使いなんだろう?」

「流派は…」

 一刃は答えた。

「本家菊地一刀流。あなたは?」

「機甲体術」

「『機甲体術』!究極の機動兵器格闘術…!」

「やるからには手加減せんぞ?」

「それでこそ名誉です!」

 一刃は剣を抜き、上段に構えた。

「では…」

 腕を構える、グラムのリセッツクロウ。

「始めるとしよう…」

 二機の間に、静寂がこだまする。

 一刃は大きく息を吸った。機甲体術といえば、大戦中に発達した究極の機動装甲用格闘術だ。

 体術熟練者なら、最低でも一人で二個小隊に匹敵する戦闘能力を持つと言われ、事実、完全武装したHMA一個中隊が、一人の体術熟練者の操縦する一機のHMAに殲滅されたという記録が、過去に残されている。

 彼が、あの腕を一振りさせれば、その瞬間、こちらが無事でいる保証は無い。

 だが彼は、先程から微動だにしていなかった。

 それどころか、殺気一つ無い。

 まるで、水の様だった。

 一刃は心の中で呟いた。

「(岩を穿つは大水に非ず…ただ一点を打つ、水滴なり…か…)」

 大きく深呼吸。

「本家菊地一刃流十五代目菊地一刃…参る!」

 一刃はリセッツクロウへ切り掛かった。

 リセッツクロウへ迫る剣。

 グラムは、左手で剣を弾き、右手で裏拳を打った。

 水蘭は、上体を反らして回避。

 次の瞬間、リセッツクロウの右回し蹴りが水蘭の頭部へ迫った。

 即座に姿勢を低くして蹴りを回避する水蘭。

 水蘭はリセッツクロウの軸脚を払った。

 体勢を崩され、宙をまうリセッツクロウ。

 グラムは咄嗟に、脚部スラスターと肩に内蔵されたスラスターを駆使して、体勢を確保。

 空中に浮かんだまま機体を捻り、左足を蹴り上げた。蹴り飛ばされる水蘭。

 一方グラムの操縦するリセッツクロウは、何も無かったかのように地面へ着地。

 水蘭は、地面で受け身を取ってから、直ぐに立ち上がった。

「まだまだぁ!」

 彼は深く踏み込んでから、リセッツクロウへ向かって、剣を突いた。

 迫る剣先。

 グラムは機体を素早く捻り、右手を剣の峯で真っ直ぐ滑らせ、水蘭の右手を掴んだ。

 そして残る左手で、水蘭の肩口を掴み、脚を払って投げる。

 放り上げられる水蘭。

 グラムは、空中にいる水蘭を手刀で叩き落とした。

 地面へたたき付けられる水蘭。

 一刃は、ぐう…と低い声を上げ、意識を失った。

「水蘭、パイロットの意識レベル低下! もう無理です!」

 オペレーターの一人が、菊十郎へ叫んだ。

「進退は…一刃自身が決める事…! 我々は最後まで見守るが役目!」

 菊十郎はそう言って、杖を持つ手に、力を込めた。

 水蘭を睨み付ける、リセッツクロウ。

「立て」

 グラムは一刃に向かって、そう言い放った。

「パイロットは気を失っています。反応は望めないでしょう」

 グラムは、エステルの声を無視した。

「十五代目が聞いて呆れる! それでどうやって家を…家族を守る! 立て! 闘いはまだ終わっていないぞ!」

「もうやめて!」

 無線に、聞き慣れない声が響いた。

「もうやめて…お願い…!やめて!」

 必死に懇願する、か細く、儚い声。

「お前は?」

 グラムが問い質した。

「私は一刃様のイクサミコです…一刃様は…若様は気を失っておられます…ですから、もう…」

「春…雪…」

「若様!」

「春雪…」

「若様! もう十分です! 若様は十分闘いました…! もう…もう…」

 言葉を詰まらせる春雪。

「…帰りましょう…若様…一緒に…春雪と一緒に…」

「止すんじゃ…春雪…」

「御祖父様…」

「春雪よ。お前が一刃の事を、心から慕っておるのはよく知っておる…だがな…春雪よ…彼の顔をよく見てみよ…」

 春雪はモニターを通して、彼の顔を見た瞬間、背中に寒気が走るのを感じた。

「若…様…」

「笑っておるだろう…こんな状態でも、笑っておるだろう…?」

「なんで…若様…」

「一刃は…過去に大事な何かを落としてしまったまま、今まで生きてきた…誰かが、失った何かを補わなければならない…だから、春雪よ…もう少しだけ一刃と、一緒に居てくれんかのう…」

 俯く春雪。

「ごめん、春雪…もう少しだけ、僕の我が儘に…付いて来てくれないかな…」

「若様…若様…若様ぁ…」

 春雪は涙を拭った。

「春雪は…若様とずっと一緒です」

「ありがとう…春雪…」

 一刃は機体を立ち上がらせた。

「(申し訳ありません…若様…春雪は、一瞬でも若様の事を怖いと感じてしまいました。でも…私は…あなたの事が大好きです…この先も、これからもずっと一緒に居たい…それは私が誰かに、『そうしろ』と言われたからでなく、私がイクサミコだからでもなく…私が“そうしたいから、そうする”のです…だって私の英雄は…あなただけだから…)」

 春雪は心の中でそう呟き、大きく息を吸った。

「機体セルフチェック、開始します」

「ありがとう…春雪」

 グラムは、リセッツクロウの足元に落ちていた、水蘭の模擬刀を蹴り上げ、手で取った。

 彼はグラムに言う。

「迂闊でした。ミラーズ大佐。『機甲体術』には、あらゆる武術流派の動きが取り入れられている。勿論、我が流派も…どうりで、動きが見切られる訳だ…」

「機体チェックは終わったか?」

 春雪が頷く。

「ええ」

 グラムは一刃に、模擬刀を差し出した。

「もう一度、始めからだ」

 それを受け取る一刃。

 彼は、リセッツクロウから三歩離れる。

「もう、小細工は効かない…あなたが、こちらの動きを知っているなら、あなたが知らない動きをするまで!」

 彼は姿勢を低くしてから、剣を腰溜めに構えた。

「あの構えは!」

 菊十郎は声を上げた。

「殺気、豪気を捨て去り、心身の完全なる脱力の果てに放つ、電光石火の剣!即ち…」

「菊地一刃流奥義一ノ太刀…」

 一刃と、菊十郎の声が重なる。

「「無形…!」」

 次の瞬間、一刃はグラムに切り掛かる。

 一歩も動かないリセッツクロウ。

 そして交差する二機。

 二機の間に再び、静寂が訪れる。

 不気味な程の静寂。

 風が、二機の間を吹き抜けた。

「お見事でした…! ミラーズ大佐」

 振り返る水蘭。

「あなたは、僕が剣を振り抜く刹那の間に、腕一本で、剣を弾き、胸と腹に一発ずつ突きを入れていた。これが実戦なら、僕は確実に死んでいました。僕の完敗です…」

 彼はそう言うと、機体の頭を下げた。

「私が一撃で倒せなかった人間は…」

「え…?」

「お前で二人目だ」

 機体の腕で、敬礼するグラム。

「良い闘いだった。礼を言う」

 彼はそう言うと、無線を管制室に繋いだ。

「こちら試験機…試験終了。帰還する」

 空へ飛び立って行くリセッツクロウ。

 それを見送る一刃。

 彼は、機体をゆっくり、労るように降着。

「…あの、若様…」

 一刃は、ヘルメットを脱ぎ、コンソール上に内蔵されている小型カメラのレンズを手で覆う。

「若様…お顔が見えません…」

「ごめん…春雪…でも、約束したから…君と、約束したから…」

 顔を見せない一刃。

 春雪は、ゆっくり溜息をついてから、機体をスリープさせ、一刃と共に、回収のトラックを待った。







Chapter 4

『あなたは偉大な戦士!人類の英雄!』


 違う…

 私は英雄なんかじゃない…

 英雄なんかでは…




 賑やかなハンガー。

 最終試験を、勝利の下に終わらせる事ができた事を祝うささやかな祝勝会を、トライアルのクルー達が執り行っていた。

「あれ?大佐は?」

 グレンはエステルにそう尋ねた。

 リセッツクロウの、グラム達の勝利を祝う祝勝会なのに、主役がいなかったからだ。

 一人、小さな椅子に座り、寂しそうに佇むエステル。

 彼女はグレンに答える。

「大佐なら、一人になりたいと言って、喫煙所にいきましたよ…」

「もう…大佐が主役なのに…」

 不満げに唇を尖らすグレン。

 彼女は両手にグラスを持っていた。

「そういえば、先生もいないけど?」

「博士もどこかへ行かれましたよ」

 グレンは大きく溜息。

「もう…主役が二人もいないなんて…!私、大佐の事、呼んでくるね」

「待って! いいの…グレン…」

「でも、レディほったらかして…」

「大佐は戦いの後、時々一人で物思いに耽るの…何か思い詰めたような表情で…だから、グレン…そっとさせてあげて…」

 グレンの瞳を見つめるエステル。

「う、うん…」

 グレンはただ導かれるように、ゆっくり頷いた。





************





 英雄…

 英雄とはなんだ?

 偉大な戦士とはなんだ?

 大戦中は幾百幾千もの敵兵を殺してきた私が、『道具』と『組織』を変えただけで英雄…?

 過去に、断片的な記憶と身体に染み付いた機甲体術のみを手に持ち、一人放り出された世界は、殺戮と破壊のみの戦場だった…

 戦った…

 必死に戦った…

 戦って戦って…

 気付けば、『地獄の炎』と呼ばれる殺戮者になっていた…

 敵には憎悪を込めてそう呼ばれ、味方には求めてもいない畏怖の念でそう呼ばれ、いつしか同胞にさえ『戦闘機械』と呼ばれるようになった…

 それでも友はいた…

 いや、友で居てくれた…

 私には共に戦える同志がいた…

 しかし私は、その同志達さえ…

 愛する友人達さえ護れなかった…

 それで何が“偉大な戦士”だ!

 何が“英雄”だ!

 組織と道具を変えても、同じ事だった…

 何も変わっちゃいない…

 何も…



「何を暗い顔しているのかね?ミラーズ君…」

 唐突にかけられた声に、グラムは顔を上げた。

「博士…」

「…隣、良いかね?」

 ミハエルはそう言って、グラムの横に座った。





************





「大佐には、過去の記憶が無いの…」

 隣に座るグレンにエステルはそう言った。

「え…?どうして!?」

 思わず驚いた表情をみせるグレン。

 エステルは彼女に、ゆっくりとした口調で話し始めた。

「大佐は過去に、戦闘で重傷を負い、今のCAMC…当時の緊急軍医療センターで再生治療を受け、その後戦線に復帰したと記録には残っているわ…大佐はその時に、記憶の大半を失ってしまっているの…自分が誰なのかも、どこから来たかも知らなかったみたいなの…でも時々、意味不明な記憶のフラッシュバックが起きて、彼の心に重圧をかけている…想像もできないでしょう?あの彼が、今にも崩れてしまいそうなほど不安げな表情をする様子なんて…」

「大佐が…そんな…」

「だから彼が一人になりたい時は、なるべくそうして、そっとしてあげてるの…」

「そうだったんだ…」

 グレンは溜息をついてから、遠い目で天井を見上げた。

「いいなぁ…エステルは…大佐の事なんでも知ってて…私は大佐の事何も知らなかった…」

「それは…何年も一緒にいれば、知る事も多くなるし…」

「ねぇ、エステル…。エステルは大佐の事、どう思っているの?」

「…どう言う意味?」

「だから、男性として」

「男性…として?」

「ほら、好きとか嫌いとか、かっこいいとか!」

「グレンは?」

「私?」

 グレンは少し考えてから答えた。

「私は、大佐の事好きかな…」

「好き…?」

「強くて、かっこよくて…」

 エステルは真顔で彼女に言った。

「それほど彼が好きなら、彼に抱かれてみたら?」

 思わず吹き出すグレン。

「ど、どうしたの!? 突然!?」

「彼なら拒まないと思うけど?」

「ちょ、ちょっと待って、エステル! そう言う意味じゃなくて…!」

「きっと優しくしてくれるわよ?」

「もう、エステル! やめてよ! 私が言ってる“好き”は、そういう好きじゃなくて、私がエステルを好きなのと同じ“好き”! エッチしたいとか…そういうのじゃなくて…! あーもう私何言ってるんだろう!」

 低い笑い声が聞こえた。

 エステルの笑い声。

「エステルはどうなのよ!?」

 グレンが、ふくれた顔をしながらエステルを見据えてそう問い質すと、彼女は真剣な表情でグレンを見つめ、呟いた。

「…私は…」

「私は?」

「よく…分からないわ…」

 思わず拍子抜けするグレン。

「じゃあ、しょうがないわね!」

 グレンは椅子から立ち上がり、エステルの手を掴んで引っ張った。

「ちょ、ちょっと…」

「こうなったら相手に聞くしかないわ!」

「だから大佐は、一人になりたいと…」

「そんな時こそ、一緒に居るのが女の子の役目よ! エステル!」

「はあ…」

 引いていかれるエステル。グレンは楽しそうな顔を、エステルは半分困った顔をしていた。






************






「帰った時からずっと浮かない顔をしていたが、機体に何か問題でも?」

 ミハエルはグラムにそう尋ねると、彼の顔を覗き込んだ。

 グラムは答えた。

「いえ、機体は完璧です」

 ミハエルは再びグラムに問う。

「では何が?」

「私自身の…」

 落ち着き払った…と言うよりは、何かを諦め切ったかのような、そんな雰囲気を醸し出すグラムに、ミハエルは溜息をついてから、こう言った。

「私で良ければ、相談に乗るが?これでも君より長く生きている。何か力になれるだろう…」

 グラムは答えた。

「博士…英雄とは何なのでしょうか…敵を多く殺した事がそうなのなら、それは今ではただの殺人者で、多くの人命を護った事がそうだと言うのなら、やはり私は、ただの殺人者です…」

「英雄…か…」

 ミハエルは一瞬、遠い目で窓の外を眺めてから、こう答えた。

「私は常々思う。英雄とはそこに在る者ではなく、人の心に住む者だと…」

「人の心に…?」

「そう…それ故に、誰が英雄で、誰が凡人なのかは、誰にも解らない…」

「では何が人を英雄と呼ばせるのです…?」

「良いかね?ミラーズ君…“英雄”とは、ただの言葉だ」

「言葉…?」

「その証拠に、誰もが認める英雄など、有史以来一人もいなかった…あらゆる名誉を受けても、あらゆる名声を得ても、見る者の立場が変われば、その者に対する見方が変わるからだ…自分も含めてね。しかしだ、ミラーズ君…愛する者との一時の幸福があれば、二つの謗りは一つの名誉に勝ると、私は思う…命を賭けて、その愛する者を護れば、その者は愛する人の心の中ではまさしく英雄なのだ」

 それに対し、グラムは答えた。

「では私はただの殺人者です…私は過去に、護るべき者を誰も護れなかった…」

「そうか…そう思うか。では君に昔話をしてあげよう…大戦が終わるずっと前の事だ…地球から発した戦線は、月を巻き込み、やがて火星へ達し、火星は戦火に包まれた…」

「第一次火星戦役…」

「そうだ。戦線は局所に集中したものの、その全てが人口の密集する都市部だった。ベルセポリス、シドニア地域…そして、マリネリス峡谷のコプラテス…特にコプラテスは、戦闘が膠着状態になるまでの一週間で、非戦闘員を含めた1万2000人の死者を出した。兵士も一般人も、男も女も、老人も若者も、満遍なく。熾烈を極めた戦闘。無数の機動装甲。その日、都市は瓦礫と化し、人は骸と化していった。私の妻と子供はね…その時に死んだよ…あっと言う間だった。私はどうする事も出来なかった。ただその様子を見る事しか出来なかった。しかしだ、ミラーズ君…君は違う。戦える。その為の力を持っている。だから、過去に護れなかった人を思うより、今から護る事が出来る者を想え。過去に護れなかった者は、君の一部となって今も生きているのだから。エステル君達の事を思い出したまえ、ミラーズ君。共に生き、共に戦い、より良い物を使って欲しいと日々努力する仲間…彼女達の中でも君は、紛れも無く英雄だろう。しかし、ミラーズ君…忘れてはいけない。君は彼女達のような大勢の命を護ると同時に、彼女達に護られてもいる。戦いは確かに人を強くする。しかしその度に、心は荒んでいく…だが愛する者はそれを癒してくれる。樹を見たまえ、ミラーズ君。樹は、成育することのない無数の芽を生み、地に根をはり、枝や葉を拡げて、個体と種の保存にはありあまるほどの養分を大地から吸収する。樹は、その溢れんばかりの過剰さを使うことも、享受することもなく自然に還すが、動物はこの溢れる養分を自由で嬉々とした自らの運動に使用する。そしてある種のものは、樹を慈しみ労り、ある種のものは樹の下で憩い、一生を全うする。このように自然は初源から生命の無限の展開にむけての序曲を奏でている。そして樹は、物質としての束縛を少しずつ断ちきり、自らの姿を自由に変えていく。君は今まで、私の想像を絶する不幸を味わったかもしれない…だが私は、君がそれ以上の…有り余るほどの祝福を、彼女達から…そして人々から受けてきたと、信じている。君はそれを養分として生き、彼等を護ってきた…君はそれだけで十分、英雄と呼べる。いや、英雄と言う器にさえ納まらない。…少なくとも、私の中ではね」

 ミハエルは椅子から立ち上がり、グラムの肩の上に、軽く手を乗せた。

「若い内は、大いに悩みたまえ…ミラーズ君。それこそ、君が人である証拠だ。どんなに辛い過去があろうとも、君は今生きている。確かにこの世は残酷かも知れない…それでも、散っていった者達は我々に言う…『生きよ』とね。哀しみで人生を擦り減らしてはいけないよ。人生は、生きた人間の為にあるのだから。今の君にならわかるだろう…精一杯、今を必死に生きようとする全ての人間が、偉大な戦士なのだよ。ミラーズ君」

 力強く頷くグラムを見て、ミハエルは、彼の肩から手を退かした。

 優しい表情で。

 我が子を見守る父のように…

「さあ、戻るとしよう。ミラーズ君。もっとも、すでに迎えが来ているようだがね…」

「迎え…ですか?」

 グラムは喫煙所の扉に目を向けた。

 窓ガラスの縁に、グレンの前髪が見え隠れする。

 一瞬、目が合い、グレンの頭が直ぐに影へ隠れた。

「見つかっちゃった!」

「最初からバレてますから…」

 グレン達の、明るい声が聞こえる。

 グラムは眉間を押さえ、溜息をついてから、すっと短く息を吸った。

「行ってあげなさい、ミラーズ君。レディを待たせるのは失礼だよ」

「はあ…」

 ミハエルはそう言ってから喫煙所を出ていった。

 後を追うグラム。

 外ではグレンとエステルが、決まり悪そうにグラムを待っていた。

「あ、あの…」

 グレンが、申し訳なさそうに口ごもる。

「ずっと、そこにいたのか?」

「はい…」

「そうか」

「あの…大佐…?」

「なんだ?」

「エステルは…ずっと大佐の事待ってました。少し寂しそうに…」

 グラムはエステルの方に振り向いた。

 グラムを、透き通った眼差しで見つめるエステル。

 彼女は、グラムと目が合うと直ぐに、その視線をずらした。

「それがどうした?」

「それで…ですね…」

「何だ?」

 いらついた口調のグラム。

 グレンは思い切って、グラムに尋ねた。

「大佐はエステルの事どう思ってるんですか!?」

 少し驚いた表情で、グレンを見下ろすグラム。

 思わず聞き直す。

「エステルを…?」

「はい…」

「そうだな…」

 彼はエステルの傍に歩み寄り、彼女の肩を軽く叩いた。

「私だけの、最高のパートナーだ…」

 グラムはそう言ってハンガーへ戻って行った。

 それを見送るグレンとエステル。

 グレンは口惜しそうに、床を蹴った。

「もう…!何よ!それだけ!?ラブラブな展開を期待してたのに…」

「いいのよ…グレン。あれでいいの…」

「エステル…?」

 彼女は微笑んだ。

 満足げに。

 そして、少し寂しそうに…

 グレンは感じていた。

 エステルの心の中に吹く、冷たい風が、暖かい風に変わるのを。

「私達も戻ろう!エステル」

「そうしましょう…」

 グレンがエステルの腕を抱え込んだ。

「どうしたの…?」

「んふふふ…」

 頬を赤らめるエステルに、グレンは肩を寄せた。

「エステルって、かわいいね!」

「はあ…」

 溜息混じりの返事を返すエステル。

 グレンは心の中で呟いた。

「(やっぱり、笑顔のエステルが一番!)」

 彼女は満足げな笑顔で、エステルと共にハンガーへ戻っていった。




 こんな、しあわせで楽しい時間がずっと続いて欲しいと思っていた…

 皆が一緒に居れると、漠然と信じていた…


 でも現実は、何度でも彼女達を裏切る。

 保証の無い、不確かな口約束のように…







Chapter 5

 

 最後に彼は言った。

「希望はいいものだよ…ミラーズ君。…多分最高の物だ…」





「先ずは、関係各社の御協力に感謝申し上げる」

 濃いオリーブドラフの軍服を着た軍人が、会議室に集まったグラム達にそう言ったのは、未だ朝霧晴れぬ早朝だった。

 10m四方程の、小さな会議室。

 その真ん中に置かれる長方形の机を挟み、グラムとミハエル、グレン達、一刃と菊十郎は向かい合って座っている。

「今日集まってもらったのは他でもない。我々選定委員会は、度重なる試験の結果、性能・操作性・コストパフォーマンス等を鑑み、我らサンヘドリン対ヴァリアンタス軍次期主力機体を、ジェネシック・インダストリー社製試作機[リセッツクロウ]に決定した。なお本日、2189年3月13日0700時をもって、次期主力機体選定トライアルを終了とする。ご苦労だった」

 軍服の男が、部屋から出ていき、ドアの閉まる音が響く。

「やりましたね! 博士! 大佐!」

 たまらず、グレンが椅子から立ち上がり、胸の前で小さくガッツポーズを取りながら嬉しそうに微笑むと、ミハエルは余裕のある表情でゆっくり息を吐いた。

「当然と言えば、当然の結果だがね。これも全てミラーズ君のお陰だ。これでやっと肩の荷が下ろせるよ」

「先生?」

 ミハエルはグレンに微笑んだ。

「トライアルに勝ち、ミラーズ君の戦闘データで最高の駆動制御プログラムを完成させる事も出来た。教え子の成長した姿も見れた。それに、私も来年には定年だ…潮時だと思ってね」

「先生…そんな…」

「さすがですな。あなたの社は…」

 突然ミハエルに、菊十郎が話し掛ける。

 少々、皮肉の含められた口調。

「これは、Mr.菊十郎…お褒めいただき光栄です。貴社の製品も、素晴らしい出来でしたよ」

「いやいや、世辞はいい。しかし機体性能もさることながら、まさかあのミラーズ大佐が乗っていたとは…通りで歯が立たん訳だ…のう、一刃…一刃?」

 返事が無い。

 一刃はグラムの側にいた。

「ずっとお会いしたいと思っていました。やっと、お顔を拝見できますね。ミラーズ大佐」

 グラムが答える。

「…君が、一刃君か…?」

 頷く一刃。

 彼は右手を差し出しグラムと握手する。

 決して頑強とは言えない、男の子としては小さく、柔らかい一刃の手を、グラムは握り締める。

 一刃がグラムに言った。

「空中からの叩き落し。効きましたよ、あれは」

「言った筈だ。やるなら手加減はしないと…」

「でもあなたは、そうしなかった」

 グラムの表情が変わった。

「あなたなら、僕など一撃で倒せた筈だ。それなのに、あなたはそうしなかった。正直悔しかったです。毎日技を磨いて、身体を鍛練して…それで身につけた武術なのに。昔、最強の武術とは何かと考えた事が事があります。その頃はひたすら力を求めていました。ただ、がむしゃらに…結局、答えは見つかりませんでしたけど…」

「君は私を買い被り過ぎだ。『自分の前に立つ者は、その全てを殲滅する。いかなる状況であれ、討たれる前に討つ』。熟練した戦士は、そう思う前に体が動き、相手が倒れる。私がそうでなかっただけだ。武術に優劣の差は無い。有るのは使い手の技量だけだ。機甲体術も、無敵じゃない」

「でもあなたは…!」

「あのぅ…大佐…そろそろですね…」

 グレンが二人の間に入る。

 退屈そうな、寂しい表情。

「話は終わりだ、一刃君。君もそろそろ…」

 突然グラムが、よろけながら頭を抱え、机に手を突いた。

「大佐!?」

 慌てるグレン。

 グラムは彼女に言った。

「今すぐ逃げろ、グレン! ここから、出来る限り遠くに!」

「どうしたんですか?」

 一刃が、不思議そうに問うてくる。

 グレンはグラムを労るように、彼の肩に手を乗せながら、一刃に答えた。

「大佐は未来が見えるの…」

「それってつまり…」

「来るわ…!“敵”が来るわ!」

 次の瞬間、爆音と共に地面が揺れ動いた。

「な、何事だ!?」

 よろめくミハエル。

 突然館内に、警報音と緊急放送が響き渡った。

『B‐18区域で爆発事故発生!繰り返す!爆発事故発生!保安要員は現場へ急行せよ!』

「爆発事故?そんな馬鹿な…」

「博士!」

 グラムがミハエルに駆け寄った。

「機体を…リセッツクロウをお貸し願いたい!」

 思わず聞き返すミハエル。

「機体を…?どう言う事かね!?ミラーズ君!」

「この期に及んで我々は運が悪い。奴らが…ヴァリアントが来ました!」

「まさか!」

 ミハエルは心の中で呟いた。

「(そうか…!何が何でも逃がさない気か…!)」






************





[0720時、B‐15区域]

 編隊を組んで滑走する6機のh1カスタム、“E-4”。

 スラスター出力を調整し、地表すれすれに機体を安定。高出力スラスターが、機体を高速で機動させる。

「こんな朝っぱらに…何だって言うんだ…」

 パイロットがぼやく。

「無駄口を叩くな。警戒しろ!」

 モニターに上書きされる、周囲の細かな情報。

 突然センサーが、自然に存在しない異常なカロリーを関知する。

 鳴り響く警告音。

 数、20以上。

「前方に高エネルギー反応! やばいぞ!」

「ブレイク! ブレイク! ブレイク!」

 散開して回避行動に移ったh1カスタムを、数発のビームが貫いた。

 爆ぜる機体。

 爆炎が、地面を焦がす。

「な…なんだぁ!?」

「ヴァリアント…!?」

「撃て! 応戦しろ!」

 HMAが火点へ銃を向け、引き金を引いた。

「本部! B‐15区域にヴァリアント出現! 現在交戦中!」

「ヴァリアントだと!? り、了解!至急増援を送る!」

 パイロットはソルジャーに向かってライフルを撃ち続けた。

「クソッ!ヴァリアント相手に、劣化ウラン弾なんて効かねぇ!」

 次々に死んでいく仲間。

 そして最後の一機が、ビームに貫かれ爆ぜた。

「現場からの通信が切れました!」

 騒然とする本部。

 彼等は混乱の渦中にあった。

「敵の数は!?」

「不明です! こちらのレーダーには何も…!」

「一体どうなってる…!」

「本部、聞こえるか?」

 突然スクリーンに、グラムの顔が映し出された。

「私は、サンヘドリン対ヴァリアンタス軍所属、グラム=ミラーズ大佐だ。時間が無いので率直に言う。駐屯基地本部のコンピューターは、ヴァリアンタスのネットワークシステムによるハッキングを受けている!」

「ハッキング!?」

「先ずは、部隊を引き上げさせろ! それから…」

「先行した部隊は…既に全滅しました!」

 グラムが、大きく息をついた。

「…私が単機で出撃る! 諸君らは、システムの再起動を急いでくれ!」

 グラムはそう言って、通信を切った。

「エステル、行動に変更は無いが、状況がかなり切迫している」

 グラムはコクピットハッチを全開させ、体を乗り出させた。

「博士! 急いで下さい! 敵がすぐ側まで来ています!」

「分かっているよ。ミラーズ君…もうすぐ終わる」

 ミハエルは、端末のキーを高速で叩きながらグラムにそう言うと、データ盗難防止用のシステムロックを解除した。

「博士! 早く発着場へ!」

「座りたまえ、ミラーズ君」

 突然、リセッツクロウのコクピットハッチが外部操作で閉められた。

 シートに尻餅をつくグラム。

 機体の無線に、ミハエルの声が響いた。

「すまない、ミラーズ君…もう少し、待ってくれたまえ」

 グラムは叫んだ。

「何しているんですか、博士! 早く逃げて下さい!」

 ミハエルは、上着のポケットの中から一枚のディスクを取り出し、ドライブの中に挿入した。

「ミラーズ君、私は君達に酷いことをした。だから今、それを償おうと思う。これからインストールするプログラムは、君自身の戦闘データによって作成された、最強の機体制御プログラムだ。このプログラムは、イクサミコ・パイロット間と、機体駆動システムとの互換性を最適化し、駆動効率を向上、イクサミコに掛かる負荷を1/25に軽減する事が出来る。これがあれば、君とリセッツクロウは、普通を越えた戦闘能力を得るだろう…」

 徐々に近くなる爆音。

 敵が、すぐ側まで来ている。

 それでもミハエルは、作業を続けた。

「博士!それが無くてもこの機体は充分…!」

「ミラーズ君!君は強い…!だが、今のリセッツクロウでは勝てない! ハードウェアだけの性能では奴らの物量には対応できず、ソフトウェアだけの性能では同時指揮ネットワークの能力に対抗できないからだ。ハードとパイロットの能力に問題はない。しかし今欠けているのはハードとパイロットの能力を最大限に引き出すためのプログラムだ」

「博士、あなたは一体…」

「告白しなければと思っていた。だが、どうしても言えなかった。我らが敵、ヴァリアンタス…『地球圏広域制圧用機動兵器端末群超広域戦闘指揮・支援同時遂行用虚数因果律総括通信回路構造体』を造ったのは、私……いや…“我々”だ!」

 グラムの表情が凍った。

「ヴァリアンタスを…博士が…?」

 突然、無線にグレンの声が混じる。

「大佐!聞こえますか!?先生が戻って来ないんです!もうみんな脱出艇に乗ってるのに!」

「…私はここだ。グレン君」

 一切の冷静さを欠いたグレンの声に、ミハエルは落ち着いた声で答えた。

「すまない、グレン君。心配させてしまって…」

「先生! お願いですから、早く逃げてください!」

「聞くんだ、グレン君。私は君に嘘をついた」

「え…?」

「君のお父さんは、今も闘っているよ…必死にね…」

 爆音が、ハンガーのすぐ近くで轟いた。

「さて、もう時間が無い。急がせてもらうよ」

 ミハエルは、端末のキーを叩き続けた。

 次の瞬間、グラムが叫んだ。

「エステル! コクピットハッチを開けろ! 博士を連れ戻す!」

「駄目です! 外部からロックされています!」

 グラムの顔が、絶望に塗り潰される。

 彼はシートに寄り掛かり、呟くようにミハエルに言う。

「なぜ…そこまでするのですか…私をコクピットの中に閉じ込めてまで…なぜそこまでして…」

 ミハエルは非常に落ち着いた口調で彼に答えた。

「これは私の“贖罪”だからだ。『目には目を。歯には歯を。魂には魂を』。これが私のしてきた事の唯一の購い…そして、彼等に対する犠牲いけにえだからだ。見える…見えるぞ…ミラーズ君…皆の笑顔が…希望が…君は皆の希望だ…」

 プログラムのインストールが完了した。

「プログラム、ダウンロード完了しました」

「博士!!」

 叫ぶグラム。

 ミハエルは最後にこう言った。

「希望はいいものだよ…ミラーズ君…多分最高の物だ…良い物は決して滅びない…」

 次の瞬間、ソルジャーの放った幾つものミサイルとビームが、ハンガーに降り注いだ。

 爆音と共に、凄まじい炎に包まれる施設。

 グレンの持っていた通信機が、耳を裂くようなノイズと共に切れた。

「そんな…先生…そんなの…」

 彼女は繰り返し呟く。

「違うよね…電波が…電波が切れただけだよね…だって、先生が…先生が…」

 通信機が機内の床に落ちた。

「先生…先生…! 先生ー!!」





************





 ハンガーが、ソルジャーの放った攻撃によって砕け散り、そして爆ぜた。

 紅蓮の炎は瞬く間に燃え広がり、周囲を舐め尽く。

 その炎を、黒い影が切り裂いた。

 炎を突き破るリセッツクロウ。

 黒い機体が空中から群れの前に着地する。

 頭を垂れるリセッツクロウ。

 グラムが、狭いコクピットの中で呟いた。

「博士…あなたは父のようだった…あなたが、私を諭してくれた時…私は嬉しかった…そんなあなたが…たとえあなたが奴らを創ったとしても、あなたが死ぬ必要は無かった筈だ…!」

 エステルがグラムに問う。

「泣いているんですか…? 大佐…?」

 グラムは答えた。

「泣いて彼が戻るなら、私は身が枯れる泣こう…しかし博士は…」

 彼は奥歯を噛み締め、もたげていた頭を振り起こした。

「エステル…!私は兵士としてではなく、一人の機甲体術術者として闘う!」

 リセッツクロウのセンサーアイが、ソルジャーの群れを睨み付ける。

「これは、いかれた狂戦士と…悪魔どもの殺し合いだ!」

 そう言ってグラムは、リセッツクロウを、ソルジャーの群れの中へまっすぐ突撃させた。





************




 ――いつか必ず、大佐みたいなすごい人になるのが夢だった。大佐みたいな“英雄”に…



「本当に宜しいのですか?避難なさらないで…」

 水蘭の、狭いコクピットの中で過ごす二人だけの時間。

 今、このハンガーには、一刃と春雪の二人以外、誰もいない。

 “翼”をもがれた水蘭は、大きな傷を負ってなお、その機能を失ってはいなかった。

「ねえ春雪…ヴァリアントと戦って死んだら、英雄になれるのかなぁ…」

「若…様…?」

「正直僕は、自分が今まで何をやってきて、何処に居るのか分からなくなってた…でもさっき、大佐の目を見た時解ったんだ。『僕は今、戦争の中に居る』って…だから僕は逃げないよ。戦って戦って…答えを見付けるんだ」

「若様…」

 彼は大きく息をつく。

「行こう、春雪…!」

 彼はそう言って水蘭の腰に剣を携え、発着場へ続く道路へ機体を位置させる。

「来い、化け物め!ここから先は、一機も通さない!」

 彼はそう言って、九十九菊を鞘から抜いた。





************





 グラムの駆る機体は高速で、ソルジャーの群れの中に消えていった。

 リセッツクロウのコクピット中に、憤怒に満ちた彼の叫び声が響く。

 その声に呼応するように群がるソルジャーをEPCが一蹴する。

「大佐、水蘭が出撃しました」

「ああ。“見えている”」

「本隊から分化した部隊が、水蘭に向かっています。止めなくてもよろしいので?」

 彼は答える。

「彼には彼の、戦いがあるのだろう」

 彼はそう言いながら、次々に敵機を破壊していく。

 次の瞬間、後方に待機していた3機のファットネスが、無数のミサイルを撃ち出した。

「ミサイル接近。数、90」

 リセッツクロウへ迫る、大量のミサイル。

 それでもグラムは、機体を回避運動へ移さない。

 彼はただ黙って、ミサイルの雨へ向かってEPCを連射した。

 撃ち出される重力衝撃波。

 ミサイルの外殻が、一瞬で歪み、押し潰され、そして炸裂する。

 誘爆しあうミサイル。

 巨大な炎のカーテンが、群れと黒い機体の間を隔て、空を焦がした。

 開放される衝撃波。

 彼はリセッツクロウを、その中で躍動させる。

 EPCの鉄槌が、真ん中のファットネスを砕いた。

 それと同時にグラムは、残る2機のうちの片方につかみ掛かる。

 バスターランチャーの砲口を向けるファットネス。

 彼はその砲口が光ると同時に、ファットネスの脚を払い、宙に投げた。

 逸らされる砲口。

 バスターランチャーから放射されたアクティブビームは地面を刔り、側にいたソルジャー数機と、残るファットネスを巻き込み、熔解させる。

 投げ飛ばされるファットネス。

 グラムは宙に浮くファットネスを、ソルジャーの群れの中に蹴り飛ばし、EPCを連射。

 ソルジャーとファットネスのコアを撃ち抜いていく。

「(やはり狙いはこの機体か…)」

 彼は叫んだ。

「来い雑魚ども! 私を倒したければ、艦体種でも連れてこい!」

 並み居るソルジャー。

 グラムは再びソルジャーの群れの中に機体を突入させた。

「見せてやる…! 本物の機甲体術を…!」

 発砲されるEPC。

 彼はその反動を利用して機体を回転させ、接近してきたソルジャーを左拳で粉砕し、逸らされた銃口をそのままに、サイドにいたソルジャーを撃ち砕く。

 目にも止まらぬ速さでソルジャーを粉砕していくリセッツクロウ。

 その動きは柔らかくも激しく、まるで巨大な削岩機が岩石を削り取っていくように見える。

「これが人類の力! 幾世代にも渡って人々が培ってきた、戦うための技術! 機甲体術内包流派・銃操術!」


 …ヒウジ・プーベ(銃人形)―!!


 その身に刻み、思い知れ…!

 貴様らの罪を…!




TO BE CONTINUED...

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