初めて
「…あれ誰?」
「エルドレッド公爵令息様だね。」
隣りに居た幼馴染のエイリーンを揺さぶりながら聞くと、難攻不落の公爵家嫡男のセドリック様だよって教えてくれる。目にかかるくらいのサラサラとした金髪に、サファイアの様に綺麗な瞳。勤務先の入所式で前を歩く好みど真ん中の男前を見つけた。セドリック·エルドレッド様…心を一発で貫かれた。
「婚約者いるのかな?」
「いないよ。令嬢を誰も寄せ付けないからこその難攻不落なんだよね。」
「格好良すぎる。」
「メイ…まさか惚れた?」
そのまさかだ。あんな格好良い方見たことがない。領地に引きこもっていて見目麗しい男性に免疫が無かった私は一瞬で心を持っていかれてしまった。
「ちょっと行ってくる。」
「どこに?!メイ?ねぇ待って!」
私の本能が行けと言っている。今行かないでいつ行くのだと。
「あの…すいません!」
「ん?私?どうしましたか?」
「私メアリー·マレットと申します!大好きです!」
「あぁ…ありがとう。」
じゃ、失礼するねと笑顔で去って行った。素敵な声…喋るセドリック様は脳天を突き抜ける程格好良すぎる。
「メイ!何してるの!?」
「エイリーン…あの神々しさは何?神に使える天使様みたい。」
「諦めなさい!高嶺の花過ぎる。どれだけの人が蹴散らされてきたか…あの方はレベル高すぎるよ!!」
「只々見つめていたい。毎日見れたら幸せ過ぎない?」
エイリーンは呆れて先に歩いて行ってしまう。見捨てて行かれた私は慌ててエイリーンを追いかける。セドリック様は第一研究室の管理者をしていて、私は第二研究室への配属だった。隣…惜しい。セドリック様が直接の上司だったら合法的に毎日見れたのに。
「…頑張れば毎日拝めるな。」
「メイ…貴方ストーカーみたいよ。諦めなさいって。」
「好きになって貰えるなんて思って無いよ?只々毎日拝んで毎日見たい。私にとって心の癒しだよ!あんな格好良い人は他にいない!」
「もう知らないわ。訴えられないようにね。」
エイリーンの目を見ながら頷く。私頑張るね!エイリーンは絶対わかってない…と、ため息をついているが私は全く聞いていなかった。
「セドリック様おはようございます!大好きです。今日も素敵ですね。」
「ありがとう。今日は暖かい陽射しだね。では失礼するね。」
毎日毎日繰り返す私に、セドリック様は返事を返してくれる。優しい人だな。蹴散らしてきたと聞いたが、職場だからそこまで無下にされないのかな?朝から見目麗しいご尊顔を拝見できて幸せ。今日も仕事頑張ろう。浮かれながら研究室へ向かう。
「今日も振られたのか?」
「振られてないよ!今日のセドリック様も素敵だったわ。」
研究室では私がセドリック様にモーションをかけているのが周知されている。拝みたいだけで振った振られたでは無い。婚約者がいない今は話しかけれるが、もし婚約が成されたら話しかけたりできなくなってしまう…それは寂しい。私の日々の癒しが無くなってしまう。
「セドリック様…婚約者ってできそうですか?」
ん?と首を傾げて不思議そうな顔をされる。セドリック様は無視されてもおかしくない私の話をいつも聞いてくれる。神すぎる。いつも首を傾けながら受け入れてくれるセドリック様は可愛くて大好き過ぎる。
「できる予定は無いけど。」
「良かった!ありがとうございます。お疲れ様でした。また明日!」
予定は無いって!まだまだ話しかけでも大丈夫そう。あんな優しくて見目麗しいセドリック様だから油断は出来ないけど、婚約する時は必ず教えてくれそうな気がする。
「メイ職場はどうだ?慣れたか?」
我が家で夕食を一緒に取るお兄様に質問され毎日楽しいです!と答えると、そうかと微笑んでいる。お兄様は学生時代からずっとタウンハウスにいて、領地に居た私と暮らすのは久しぶりで毎日気を使ってくれる。
「伴侶は見つけられそう?」
「あ…無理かも。」
「そうなの?諦めて政略結婚するの?」
「んー…私誰とも結婚出来ないかも。素敵な人に会っちゃってその人以外は拝みたくないな。」
結婚相手は拝むものじゃないよ?とお兄様が焦っている。入所する前は誰が良さそうな人と出会えたらと考えていたが、セドリック様を見ると誰もが劣って見えてしまう。誰かと幸せに笑うセドリック様を遠くから見つめる人生になるのか…。
「だ、誰なんだ?その方との未来は無いのか?」
「絶対無い。セドリック·エルドレッド様ですもの。研究室は違うのだけど入所した日から毎日ご尊顔を拝んでいて、いつ見ても美術品のように綺麗なの。」
「まさかの高嶺の花過ぎる。メイには幸せになって欲しいのに…独身決定では無いか…。」
可哀想にと泣くお兄様…いくらなんでも失礼すぎない?そんな否定しなくても。まぁ無理だよね。
「セドリック様いつも違うお召し物も素敵ですね。さらに大好きになってしまいます。」
「おはよう。今日は研究室から出ての仕事があるから。じゃまたね。」
いってらっしゃいませと見送る。ジャケットを着るセドリック様も素敵だったわー。いつもの制服も素敵だし、どれも捨てがたい。
「まだ追っかけてるの?」
「まだとか無いから。推しは永遠だよ。今日はお外に行かれるみたいで、先程出ていってしまったわ。帰りご挨拶出来るかな。」
エイリーンが飽きないねと呆れ果てている。入所して以来3カ月毎日話しかけていて、周りは諦めなよ派と頑張れ派にわかれている。少しずつ話してくれる事も増え、益々大好きになっている。
「もうこんな時間。なんで残業なんか…はぁ帰りはご挨拶出来なかったわ。」
先輩のミスが重なり昼以降第二研究室はバタついていて、新人も駆り出され結構な人が残業になってしまった。疲れたな。明日休みで良かった。
「…!!?セドリック様お疲れ様です!まだ居られたのですか?」
研究室を出て廊下を歩いていたら、前からセドリック様が歩いてきた。嘘でしょ。会えるなんて最高過ぎる。
「あぁお疲れ様。さっき戻ってきたんだ。今帰り?第二研究室大変だったみたいだね。」
「はい。なかなか大変でした。」
これあげるって紙袋を渡される。見ると今凄く話題のお菓子で、並ばないと買えないと聞いていて諦めていた。
「え?いいのですか?」
「仕事先で貰った。私食べないしメアリー嬢食べてよ。いらないならいいけど。」
「いります!家宝にします!」
いや、食べなってフッと笑うセドリック様は堪らなく可愛い。遅くなると危ないから早く帰りなって見送られ、ありがとうございますとお礼を言って家へと帰る。
「ちょっと待って!!!セドリック様私の名前呼んでた?!え?初めてじゃない?覚えてくれてるって事?」
「メイ様急にどうされました?」
部屋で寛ぎお菓子の箱を見つめて、あのやり取りを反芻していた時に気づいた。初めて名前を呼んでくれたのに、今気づくなんて…一生の不覚。




