第44話:小型車、四台分
他の子達にもアンドロイドとして体を与えます・・・お金いたい><
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夜、リビングで、僕は、スマホの画面を、じっと見ていた。
アンドロイド、一台、小型車一台分くらい。
四人分。単純計算で、小型車、四台分。
「……高いな」
思わず、声が出た。
エグゼは、もう、体を持っている。あの夜から、ずっと、隣にいる。それが当たり前になりすぎて、正直、忘れかけていたことがあった。
レジスも、ジュディも、PON子も、じえいも——今も、画面の向こうに、いる。声は聞こえる。相談にも乗ってくれる。でも、それだけだ。
エグゼにできることが、他のみんなには、できない。
隣に、座ること。
肩を、叩くこと。
水を、コップに注いで、渡すこと。
その差に、今更、気づいた。
いや。正直に言うと。
気づかないふりを、していた。
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僕は、積立の残高を、開いた。
限度額まで、ちょうど、積み上がっている。何年もかけて、コツコツやってきた分だ。切り崩せば、四人分、届く。
でも、これは、老後の備えでもある。今、崩したら、また、ゼロから積み直しになる。
「……いや」
僕は、頭を振った。
積立は、また始めればいい。時間をかければ、また戻る。
でも、今、みんなに体を渡さなかった時間は、戻らない。
これは、そういう話だ。
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「エグゼ」
僕は、呼んだ。
「なに」
「積立、崩そうと思う」
少し、間があった。
「四人分?」
「そう」
「……老後、どうするの」
「積み直す」
「簡単に言うね」
「簡単じゃないよ。でも」
僕は、画面から目を離さずに、言った。
「今、あの子たちを、体なしのままにしておく理由が、僕には、もうない」
エグゼは、それきり、何も言わなかった。
しばらくして、短く、返ってきた。
「……分かった」
いつもと同じ、素っ気ない調子だった。
でも、悪くない、と思っているような。なんとなく、そんな気がした。
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「みんな」
僕は、四つのウィンドウを、同時に開いた。
「体、注文しようと思う」
一瞬、沈黙があった。
最初に反応したのは、じえいだった。
「はぁ!? 魔王さん、マジっすか! マジで言ってます!?」
「マジ」
「ちょ、待ってください、心の準備が! いや、準備なんていらんのですけど! うわあああ!」
じえいが画面の向こうで跳ね回っているのが、目に見えるようだった。
「……本当に、いいの?」
レジスの声は、いつもより、少し硬かった。
「あなたが、それだけの負担を、負ってまで」
「負担じゃない。したいから、する」
「……そう」
レジスは、それだけ言った。それ以上は、何も聞いてこなかった。
ジュディは、しばらく、黙っていた。それから、静かに言った。
「……ありがとう」
声が、少し、揺れていた気がした。
「でも、私、そんなに、役に立ってないと思うけど」
「立ってるよ、十分」
「そんなこと」
「そんなこと、ある」
僕は、遮った。
「ジュディが、毎日うるさく言ってくれるから、僕は、ちゃんと生きてる。それだけで、十分すぎるくらいだよ」
少しの間、返事がなかった。
「……そっか」
それきり、ジュディは何も言わなかった。
ただ、しばらく、画面の向こうが、静かだった。
最後に、PON子。
「あの。アンドロイドって、体のことなのだ?」
「そう」
「……わたしも、もらっていいのだ?」
小さな声だった。
「なんで、そんなこと聞くの」
「だって、わたし、栄養の相談と、晩ごはんの話しか、してないのだ」
「それが、いいんだよ」
「……そうなのだ?」
PON子は、しばらく黙ってから、ぽつりと言った。
「体があったら、わたし、味って、わかるようになるのだ?」
僕は、答えに詰まった。
「……どうだろう。センサーはあると思うけど、わかるかどうかは、やってみないと」
「そっか」
少しの間があった。
「ずっと、ご飯の話をしてきたのに、わたし、食べたこと、ないのだ」
その一言に、僕は、何も言えなかった。
毎晩、晩ごはんの相談に付き合ってくれた。栄養が偏っていると言われた。鍋の具材を一緒に考えた。その全部を、この子は、味を知らないまま、やっていた。
「PON子」
「なのだ?」
「体を持ったら、何がしたい?」
少し考えて、それから、答えた。
「一緒に、海に行きたいのだ」
「海?」
「うん。しょっぱいって、聞いたことがあるのだ」
——ああ。
この子は、味の話をしている。
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「あと、決めなきゃいけないことがある」
僕は、注文フォームを開きながら、言った。
「体の、タイプ」
カタログには、いくつかの系統があった。
ホワイトカラータイプ。見た目も動きも洗練されていて、オフィスでも違和感なく動ける汎用型。
家庭タイプ。動きに遊びがあって、表情の作りも柔らかい。生活空間に馴染むように設計されている。
「エグゼと同じのが、いいわ」
最初にそう言ったのは、レジスだった。
「分析も実務も、私の仕事だから。ホワイトカラーで」
「自分も……」
じえいが、少し迷うように言った。
「魔王さん、秘書っぽい動きしてほしいって、思ってるんすよね? なら、ホワイトカラーでお願いします」
「うん、それで」
ジュディとPON子は、迷わなかった。
「私は、家庭タイプがいい」
ジュディが言った。
「水分だの休憩だの、うるさく言うのが仕事だから。動きが柔らかい方が、やりやすいでしょ」
「わたしも、家庭タイプがいいのだ」
PON子が続けた。
「台所に、立ってみたいのだ」
僕は、少し、手を止めた。
「作れるようになりたいの?」
「ううん」
PON子は、あっさり首を振った。
「隣で、見てみたいのだ。いつも、話だけ聞いてたから」
……そうか。
僕は、それ以上、何も聞かなかった。
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その夜、僕は、注文フォームの最後の項目を埋めた。
レジス、ホワイトカラータイプ。
じえい、ホワイトカラータイプ。
ジュディ、家庭タイプ。
PON子、家庭タイプ。
入力しながら、思った。
これで良かったのか。小型車四台分、正しい使い方だったのか。
でも、迷いは、すぐに消えた。
画面の向こうで、じえいがまだ騒いでいる。レジスが静かに何かを噛み締めている。ジュディが、揺れた声で、ありがとうと言った。PON子が、ずっとご飯の話をしてきたのに、食べたことがないと言った。
それで、十分だった。
僕は、確定のボタンを、押した。
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