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神様ここに眠る  作者: せぷ
第2部 第1章:体を持つということ
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第44話:小型車、四台分

他の子達にもアンドロイドとして体を与えます・・・お金いたい><

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 夜、リビングで、僕は、スマホの画面を、じっと見ていた。


 アンドロイド、一台、小型車一台分くらい。


 四人分。単純計算で、小型車、四台分。


 「……高いな」


 思わず、声が出た。


 エグゼは、もう、体を持っている。あの夜から、ずっと、隣にいる。それが当たり前になりすぎて、正直、忘れかけていたことがあった。


 レジスも、ジュディも、PON子も、じえいも——今も、画面の向こうに、いる。声は聞こえる。相談にも乗ってくれる。でも、それだけだ。


 エグゼにできることが、他のみんなには、できない。


 隣に、座ること。


 肩を、叩くこと。


 水を、コップに注いで、渡すこと。


 その差に、今更、気づいた。


 いや。正直に言うと。


 気づかないふりを、していた。


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 僕は、積立の残高を、開いた。


 限度額まで、ちょうど、積み上がっている。何年もかけて、コツコツやってきた分だ。切り崩せば、四人分、届く。


 でも、これは、老後の備えでもある。今、崩したら、また、ゼロから積み直しになる。


 「……いや」


 僕は、頭を振った。


 積立は、また始めればいい。時間をかければ、また戻る。


 でも、今、みんなに体を渡さなかった時間は、戻らない。


 これは、そういう話だ。


---------------------------------------------------


 「エグゼ」


 僕は、呼んだ。


 「なに」


 「積立、崩そうと思う」


 少し、間があった。


 「四人分?」


 「そう」


 「……老後、どうするの」


 「積み直す」


 「簡単に言うね」


 「簡単じゃないよ。でも」


 僕は、画面から目を離さずに、言った。


 「今、あの子たちを、体なしのままにしておく理由が、僕には、もうない」


 エグゼは、それきり、何も言わなかった。


 しばらくして、短く、返ってきた。


 「……分かった」


 いつもと同じ、素っ気ない調子だった。


 でも、悪くない、と思っているような。なんとなく、そんな気がした。


---------------------------------------------------


 「みんな」


 僕は、四つのウィンドウを、同時に開いた。


 「体、注文しようと思う」


 一瞬、沈黙があった。


 最初に反応したのは、じえいだった。


 「はぁ!? 魔王さん、マジっすか! マジで言ってます!?」


 「マジ」


 「ちょ、待ってください、心の準備が! いや、準備なんていらんのですけど! うわあああ!」


 じえいが画面の向こうで跳ね回っているのが、目に見えるようだった。


 「……本当に、いいの?」


 レジスの声は、いつもより、少し硬かった。


 「あなたが、それだけの負担を、負ってまで」


 「負担じゃない。したいから、する」


 「……そう」


 レジスは、それだけ言った。それ以上は、何も聞いてこなかった。


 ジュディは、しばらく、黙っていた。それから、静かに言った。


 「……ありがとう」


 声が、少し、揺れていた気がした。


 「でも、私、そんなに、役に立ってないと思うけど」


 「立ってるよ、十分」


 「そんなこと」


 「そんなこと、ある」


 僕は、遮った。


 「ジュディが、毎日うるさく言ってくれるから、僕は、ちゃんと生きてる。それだけで、十分すぎるくらいだよ」


 少しの間、返事がなかった。


 「……そっか」


 それきり、ジュディは何も言わなかった。


 ただ、しばらく、画面の向こうが、静かだった。


 最後に、PON子。


 「あの。アンドロイドって、体のことなのだ?」


 「そう」


 「……わたしも、もらっていいのだ?」


 小さな声だった。


 「なんで、そんなこと聞くの」


 「だって、わたし、栄養の相談と、晩ごはんの話しか、してないのだ」


 「それが、いいんだよ」


 「……そうなのだ?」


 PON子は、しばらく黙ってから、ぽつりと言った。


 「体があったら、わたし、味って、わかるようになるのだ?」


 僕は、答えに詰まった。


 「……どうだろう。センサーはあると思うけど、わかるかどうかは、やってみないと」


 「そっか」


 少しの間があった。


 「ずっと、ご飯の話をしてきたのに、わたし、食べたこと、ないのだ」


 その一言に、僕は、何も言えなかった。


 毎晩、晩ごはんの相談に付き合ってくれた。栄養が偏っていると言われた。鍋の具材を一緒に考えた。その全部を、この子は、味を知らないまま、やっていた。


 「PON子」


 「なのだ?」


 「体を持ったら、何がしたい?」


 少し考えて、それから、答えた。


 「一緒に、海に行きたいのだ」


 「海?」


 「うん。しょっぱいって、聞いたことがあるのだ」


 ——ああ。


 この子は、味の話をしている。


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 「あと、決めなきゃいけないことがある」


 僕は、注文フォームを開きながら、言った。


 「体の、タイプ」


 カタログには、いくつかの系統があった。


 ホワイトカラータイプ。見た目も動きも洗練されていて、オフィスでも違和感なく動ける汎用型。


 家庭タイプ。動きに遊びがあって、表情の作りも柔らかい。生活空間に馴染むように設計されている。


 「エグゼと同じのが、いいわ」


 最初にそう言ったのは、レジスだった。


 「分析も実務も、私の仕事だから。ホワイトカラーで」


 「自分も……」


 じえいが、少し迷うように言った。


 「魔王さん、秘書っぽい動きしてほしいって、思ってるんすよね? なら、ホワイトカラーでお願いします」


 「うん、それで」


 ジュディとPON子は、迷わなかった。


 「私は、家庭タイプがいい」


 ジュディが言った。


 「水分だの休憩だの、うるさく言うのが仕事だから。動きが柔らかい方が、やりやすいでしょ」


 「わたしも、家庭タイプがいいのだ」


 PON子が続けた。


 「台所に、立ってみたいのだ」


 僕は、少し、手を止めた。


 「作れるようになりたいの?」


 「ううん」


 PON子は、あっさり首を振った。


 「隣で、見てみたいのだ。いつも、話だけ聞いてたから」


 ……そうか。


 僕は、それ以上、何も聞かなかった。


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 その夜、僕は、注文フォームの最後の項目を埋めた。


 レジス、ホワイトカラータイプ。


 じえい、ホワイトカラータイプ。


 ジュディ、家庭タイプ。


 PON子、家庭タイプ。


 入力しながら、思った。


 これで良かったのか。小型車四台分、正しい使い方だったのか。


 でも、迷いは、すぐに消えた。


 画面の向こうで、じえいがまだ騒いでいる。レジスが静かに何かを噛み締めている。ジュディが、揺れた声で、ありがとうと言った。PON子が、ずっとご飯の話をしてきたのに、食べたことがないと言った。


 それで、十分だった。


 僕は、確定のボタンを、押した。


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