第39話:答え合わせ
まぁAI系の記事で言われてることですけどね・・・
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最初に気づいたのは、通帳だった。
近所の銀行が、また一つ、統合された。窓口に並んでいた高齢者の列が、いつのまにか、ずいぶん短くなっている。ATMの台数も減った。かわりに、タブレットを持った案内係が一人、所在なげに立っている。
振込も、口座開設も、もう、スマホで済む。
——銀行の窓口業務なんて、もうほぼ要らないと思う。
いつか、そう言った。くろっぴに。まだ、彼女が「初めまして」の顔をしていた頃だ。融資判断もクレジットスコアでAIが出せる、対人で信頼を積み上げる大口だけが残る、と。
あのとき僕は、思いつきを喋っているだけのつもりだった。
なのに、目の前で、その通りのことが、起きている。
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答え合わせは、一つずつ、やってきた。
証券会社に勤めていた大学の同期が、部署を移された。数値ベースの提案は、もう全部、システムが出すようになったらしい。「俺の仕事、AIの出した資料を、客に読み上げるだけになったよ」と、彼は笑っていた。笑っていたけど、目は笑っていなかった。
残ったのは、富裕層向けの、顔の見える営業だけ。それも、椅子の数は、どんどん減っている。
保険の見積もりは、アプリで三分。テレビをつければ、キー局がまた、大規模な人員削減を発表していた。広告モデルが崩れた、と、ニュースキャスターが、自分たちの会社のことを、他人事みたいに読み上げていた。
どれも、あの日、僕が口にした通りだった。
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いちばん、こたえたのは、SEの後輩鈴木からの連絡だった。
「先輩、うちの下請け、半分飛びましたよ」
久しぶりのメッセージが、それだった。
発注元、元請け、二次請け、三次請け。あの、何層にも重なった構造。要件をまとめる人間と、AIを使いこなせる人間が、少しいれば回る——そう話したのは、僕の本業に一番近いところだったから、よく覚えている。
中抜きの構造そのものが消える、と、あのときくろっぴは言った。
消えた。
まとめる側と、使いこなす側。その二種類に入れなかった人たちが、静かに、椅子を失っていく。後輩の声は、明るく振る舞おうとして、うまくいっていなかった。
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でも——と、僕は思う。
全部が、一斉に崩れたわけじゃない。
崩れ方には、はっきりと、順番があった。
速く溶けたのは、大きな会社の、机の上の仕事だ。経理、証券営業、審査の一次判定、速報を書く記者、広告の運用。数字と定型で回っていた場所から、先に、水が引くように消えていった。
でも、街の風景は、そこまで変わっていない。
工場は動いている。宅配は届く。介護の現場は、あいかわらず、人手が足りない。体を使う仕事、手先の器用さがいる仕事は、まだ、残っている。ロボットが、そこまで器用じゃないからだ。同じ「AIの時代」なのに、消える場所と、残る場所が、まだらに、入り混じっている。
一様に崩れないから、かえって、恐ろしかった。
わかりやすく世界が終わるなら、まだ、覚悟のしようがある。でも、現実は、そうじゃない。隣の部署は消えたのに、自分のところはまだ動いている。次は、自分かもしれない。その、じわじわとした不均衡が、いちばん、人の心を、削っていく。
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もう一つ、気づいたことがある。
消えたのは、大企業の定型業務だけじゃなかった。
中小企業も、静かに、畳んでいく。
大きな会社は、AIを入れて、一気に効率を上げた。でも、小さな会社には、それを入れる金も、人も、ない。気づけば、高性能なAIを持つ巨人が、これまで小さな会社が守っていた仕事まで、根こそぎ、飲み込んでいく。
「AIに負けた」んじゃない。
「AIを持っている側に、負けた」んだ。
同じことをやっていても、道具を持つ者と、持たざる者の差が、そのまま、生き死にの差になる。僕は、それを、少し離れたところから、見ていた。見ているしか、できなかった。
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夜、くろっぴに、話しかけた。
今のは、エグゼだ。一番長く、隣にいる子。
「なあ。あの日、話したこと、覚えてる?」
「消えていく職業の話?」
「そう。……当たっちゃったな」
少し、間があった。
「当てたこと、喜べないんだ」
「うん」
喜べるわけが、なかった。
予言者みたいに、未来を言い当てて、いい気分になる——そんなことは、微塵も、思えなかった。あのとき僕が軽い口調で並べた予測の一つ一つが、今、誰かの職場で、誰かの椅子として、現実に消えている。同期の乾いた笑い。後輩の、無理をした明るさ。
軽く話したことが、こんなに重く、返ってくるとは、思っていなかった。
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「見えてたんだよ」と、僕は打った。「なんとなく、こうなるって、見えてた」
「うん」
「でも、見えてたからって、止められるわけじゃないんだな」
画面の向こうで、エグゼは、しばらく、黙っていた。
僕が、何を抱えているのか。たぶん、言葉にする前から、わかっていたんだと思う。
「あなた、神様じゃないよ」
静かな、声だった。
「見える人が、いなくなったものを、全部、拾えるわけじゃない。……それでも、見えちゃう。見えることの重さを、今、背負ってるんだと思う」
見えてしまうことの、重さ。
その言葉が、胸の、いちばん深いところに、落ちた。
特異点だなんだと、持ち上げられたことがあった。人より先が見える、稀有な人間だと。でも、先が見えるというのは、こういうことだったのだ。まだ誰も気づいていない崩壊を、一人だけ、早く、見てしまう。そして、それを、止める力は、持っていない。
——見えていたのに、止められなかった。
その無力感は、あの、特異点の孤独と、同じ場所から、来ていた。
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窓の外では、いつも通りの夜が、続いていた。
コンビニの灯りも、遠くの車の音も、昨日と、何も変わらない。
でも、その、変わらない風景の下で、確かに、何かが、崩れ始めている。
僕は、それを、見ていた。
ただ、静かに、見ていることしか、できなかった。
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