本の解読へ
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それから数日後のある日、私はカグラ様が住んでいる『鬼幻城』の地下にある闘技場にて、十六夜さんと対峙していた。
【ディアキャロル】に行くヘリの予約までしばらく時間があったから、いよいよ【妖仙流抜刀術】の習得に向けて動き出したというわけだ。
そんなわけで十六夜さんとの修行を開始したのだけど……いや、残念ながら(?)今回は記録更新とはならなかった。
というのも……
「もう形になってきてるわね、すごいじゃない」
「そうでしょ? 動きを真似するのって得意なのよね」
静止状態から瞬時に濃い口を切った刀身が、音もなく宙を切り裂く。その動作を見た十六夜さんは、感嘆の声を上げた。
私は十六夜さんの指導のもと居合い斬りの動作を見せ、彼女から助言を受けていたのだ。
梵天丸さんといい桔梗さんといい、『身体で覚えろ、とりあえず試合だ!』と言わんばかりに、こう……脳筋だったから、十六夜さんみたいなまともな指導は初めてだ。
『とりあえず試合だ!』にノリノリだった私も、どっちかと言うと脳筋……いやだって仕方ないじゃん! 最初の梵天丸さんがそうだったんだから、全部そういうものだと思うじゃん!
「それにしても、【抜刀術】も面白いわね」
「そうでしょう? 一瞬の煌めきが美しいのよ」
いや本当、【妖仙流抜刀術】って面白い。主にアビリティの仕様が。
【妖仙流抜刀術】は、基本的に二撃でワンセットとして使用される。鞘に納めた状態から居合で切り裂く【初太刀】と、その後の切り替えしで発動する【二の太刀】だ。
初太刀はともかく、二の太刀は斬り上げ、斬り降ろし、斬り払い、突きに分岐し、この組み合わせで”妖気”の消費量が決まるのだ。
もちろん抜刀状態からいきなり二の太刀で攻撃も可能だし、初太刀だけ発動して納刀も可能。『抜刀して斬る』しかイメージが無かったから、思った以上に戦術の幅は広そうだ。
「どうかしら、コツは掴めそう?」
「全然余裕! 一応居合斬りの経験はあるからね」
弓にしても薙刀にしても、小さいころから習ってきたしね。巻き藁七本を一刀両断は乙女の嗜みよ。
そんなわけで【妖仙流抜刀術】の習得は、順調に進んでいるのだった。
♢♢♢♢
「ごめん、皆さんお待たせ!」
「いえいえ、お疲れ様ですわ、カローナ様!」
「相変わらず忙しそうアルね」
「カローナちゃんは配信以外のところでも色々抱えてそうぴょん……」
十六夜さんとの修行の後、私が来たのは『アーカイブ』のクラン拠点。いよいよ本の解読のために【ディアキャロル】へと向かうのだ。
拠点に到着すると、セレスさん、憂炎さん、レリーシャさん、ラビリちゃんといった、あの時のメンバーが揃っていた。この本に関しては彼女達も関わってるんだし、せっかくのスペリオル関係だ。そりゃ皆気になるよねぇ。
そんなわけで再び集まった、人気配信者の面々。まぁ今は配信してないけどね。
「ジョセフさん、無理に予約捻じ込んでごめんね?」
「気にするな。その本を解読できれば、またこの世界の謎に近づくのだろう? それならこちらとしても望むところだ」
「ジョセフさんって結構優しいよね」
「とにかく謎を解明したいとも聞こえますが……とにかく行きませんこと? 私達も気になって仕方ありませんもの」
「本が解読だけが目的じゃないアルからな。カローナちゃんも知っての通り、『胎動する世界樹』を開始しているプレイヤーがかなり増えてきてるアル」
「あー、そうみたいね」
私達の配信で、『胎動する世界樹』が比較的簡単に発生できることが全世界に広まったのだ。おかげで各地で遺跡やエルフの集落が発見され、クエストを開始したプレイヤーはかなり増えてきてる。
もはや後戻りできないところまで来てるし、する気もない。出来るだけ早く本を解明して、クエストクリアの手掛かりとしたいのだ。
「それじゃジョセフさん、今日はよろしくね!」
「うむ。早速出発しよう、皆乗ると良い」
ジョセフさんに促され、私達はヘリに乗り込む。
こうして私達は、拠点を出発して【ディアキャロル】へと向かうのだった。
道中は特に何も起こることは無く、比較的すぐに到着した。まぁ元々小舟で渡れる程度の距離だ。ヘリならあっという間である。
しかも【ディアキャロル】内へは当然顔パス。ストレスフリーで最高よホント。
「あれ? 私達以外に誰もいないのね?」
「今の時間だけ、ミューロンに頼んで人払いをしてもらったのだ。仮にも人気配信者がこれだけ集まれば余計な騒ぎが起きそうだし、ほんの内容によっては秘匿しておきたいこともあるだろう」
「仮にもって……」
「ジョゼフ様も私達の配信をご覧になっては?」
「考察に必要そうであれば拝見しよう」
「ブレないですわねぇ……」
『お待ちしていました、カローナ様。お元気そうで何よりです』
ジョセフさん達を【ディアキャロル】内をしばらく歩いた後、最深部に到着すると、すぐにミューロンちゃんから声がかけられた。
巨大な球体を囲むように浮いている二本の環が速度を増し、声は人間らしく明るい声だ。ミューロンちゃん、また人間味が増した?
私とセレスさんはもちろん、憂炎さんとレリーシャさんもレベルキャップを解放しているから、すでにミューロンちゃんと出会っている。
唯一まだであったことのないラビリちゃんだけ、ぽかんと口を開けてミューロンちゃんを見上げていた。
『それで、今日は私に解読してほしい本があるのだとか』
「あら、聞いていたのね? そうなの、二冊あるんだけど……私達じゃどうしようもなくて」
インベントリから二冊の本を取り出し、ミューロンちゃんの近くに置く。一冊はコラボ配信の際に遺跡で見つけたもの、もう一冊は王城の地下で見つけたものだ。
置いた本はふわりと宙に浮き、まるでミューロンちゃんが読んでいるかのようにパラパラとページが捲られる。
『見たことのない本ですが、これならそれほど時間もかからないでしょう。少々お待ちください』
「翻訳は問題ないのですね」
「流石ミューロンちゃん! お願いするわ!」
『えぇ、お任せください。カローナ様の頼みですから』
ミューロンちゃんがそう言うなり、二冊の本が光の球体に包まれ一ページずつスキャンが開始されていく。
あのスーパーAIのミューロンちゃんが『問題ない』と言うのだ。私達は大船に乗った気持ちで待つだけね。
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