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ファミリーシステムのメモランダム  作者: (・∀・)
2欧州(宗教が家族システムを活性化させた地域
18/18

高等教育化が創る階級社会・最先端にあるアメリカ

アメリカの黒人蔑視は、南北戦争後の奴隷解放を経ても継続した。


アメリカの黒人差別がその他の差別と違うのは、入れ替わらないことである。

どの国にも差別があるがその対象は、入国順に入れ替わる。

南北戦争後、イタリア系の大量移民が発生した。

通例であればここで、先にいるアフリカ人が一等持ち上がる。

そして後から来たイタリア人んが最下層に置き換わるのが常道である。


だがアメリカ人は、黒人とイタリア人を比較し、イタリア人を受容した。

これを白人同士だから、というのは若干無理がある。

この際に入国したイタリア人は中東系と相似していたのだから。


またこの後、日本人・中国人・韓国人が大量流入し、アメリカ人に受容された。

その間、先輩とも言える黒人はアメリカ人に受容されなかった。


この「受容」についての指標はずばり異種間の結婚率である。

2000年代、後から来たアジア系と白人系は20−40%の混交率を見せる。

同時期の白人黒人間の混交率は、特に白人男性と黒人女性のそれはわずか3%だった。


それでありながら、アフリカ系アメリカ人の遺伝情報を調べると1/4が欧州系となる。

これは奴隷制時代、欧州系が黒人奴隷を大規模に性的使用したことを示す。

映画やドラマがいくら美しい物語を描いても、アメリカには根強い黒人差別がある。


この際、興味深いのは白人民主制の変容である。

アメリカの白人民主制は、中東に近いイタリア系やアジア人を受容した。

これは白人民主制は非常に柔軟性が高いことを示す。

現在では南米系の受容も順調に進んでいるという。


1865年の南北戦争以後、アメリカのユニークな点はここになる。

黒人を犠牲にして居住民に平等性を感じさせ統治を楽にする差別的民主制を近代革命以降も継続した事だ。


この時期のアメリカは、この点が風変わりだが他は他国とあまり変わらなかった。

つまり後のスーパーパワーの片鱗は見えない、欧州とそれほど変わりのない国だった。

しかしアメリカは徐々に他国とは別の分野を加速度的に伸ばしていく。


南北戦争後のアメリカが、他国とまったく変わっていくのは教育分野だった。

具体的にいうと進学率が猛烈に伸びていく。


進学率は各国の学校制度がバラバラのため完全な比較は難しいが、それでもアメリカは他を圧倒していた。

1950年代の英仏独で高校進学率は15−20%の模様だ。

アメリカは1940年のww2時までに高校進学率が70%を超えていた。


20世紀に入り、アメリカは突如強大な国家になったように思われる。

そしてその源泉は広大な国土にある資源や人口、産業の交流のためと言われる。

これらは事実だろうが、それらのバックボーンでありそれらを有効活用できたのは、高い教育水準があったからだ。


アメリカ人から言わせればww2は、いわば高卒vs中卒の戦いだっただろう。

この教育水準の高さによって、アメリカは瞬く間に世界のスーパーパワーとなった。


1940年代から1970年代は、まさにアメリカの黄金期だった。

教育水準は年毎に高まり、また人々の賃金水準も順調に伸びていった。


被差別階級であるアフリカ系アメリカ人の暮らしが最も安定したのもこの時期だった。

アフリカ系アメリカ人の家族型は性的使用もあり無茶苦茶になっていた。

だがこの黄金期に彼らの生活も安定し、核家族型が主流となった。

84%の子供のいるアフリカ系アメリカ人女性に夫がいた。

言い換えるなら16%が離婚していたが、この比率は今現在まで含めても最高だった。


これはアメリカ人自身も差別的な統治制度を捨てようとして、黒人へ多数の福祉政策を打ったためだ。

アメリカは建国以来頼った統治のための差別システムと、ついに別れられそうだった。


だが2つの新たな要素の登場により、アメリカは苦難の道に入る。


アメリカの被った苦難の1つは、1980年代に始まる新自由主義である。

1980-1998の間に、アメリカの世帯収入中央値は、4.85から5.8万ドルまで上がった。

だがこれは、個人の給与が上がったのではなく、共働きが増えたためと言われる。


1999から2015までの推移は凄まじい。

なんと5.8から5.65万ドルへと下がっている。


この時期、日本では失われた10年、20年、30年と日本で騒がれていた。

事情はアメリカも同様のようで、16、7年の停滞があったようだ。


もちろんこの時期もアメリカは順調に成長を続けている。

では得られた富はどこへいったのかと言えば、上層部に吸い取られた。


1980年以降、それまで低率だった富の偏在が、急上昇する。

1980年、ほとんどの先進国で上位1%の富裕層は総所得の10%以下しか持たなかった。

アメリカのそれは8.2%だったのが、2000年には16.9%へ急拡大した。


これは製造業の中国等への移転のためである。

海外の安い労働力の犠牲になるのは中間層とそれ以下となる。

逆に中国の安い労働力で富を得るのは富裕層になる。


事情は日本も同様だが、アメリカは最もそれが顕著に現れた。

中年の白人アメリカ人男性の死亡率が急上昇したのだ。


このような人口動態は世界のどこでも見られなかったものであるという。

増えた死因は自殺、麻薬中毒、肝臓疾患(アルコール原因)である。

アメリカの氷河期世代は、文字通り凍ついて自殺したのだ。


またそして黒人への福祉も、新自由主義の名の下に大削減される。

ようやく家族形成ができそうだった黒人層は再び家族破壊を被った。

それはイギリスでサッチャーが福祉をやめたら絶対核家族が壊れたのと同じ現象だった。

現在のアフリカ系アメリカ人の最も一般的な家族型はシングルマザーとなる。


また白人であっても、経済困窮から家を出られない若者が急増した。

現在、欧米で絶対核家族をとっていた国々は、一時同居の未分化核家族へ後退してしまった。


新自由主義者は仕切りに現状を誉めそやすが、現実のアメリカには絶望が出現した。


だが、アメリカは核家族であり進化する国であり、変化する国だった。

いささか風変わりであったが、ドナルド・トランプが出てきた。


メイクアメリカグレートアゲイン、というのは、裏返せば現状がクソだということだ。


対するクリントン陣営は、自己賛美・現状賛美をした。

アメリカは多様性にあふれ、現在も未来も明るいと。

実際の現状は、寿命が縮むほど自殺が増えていた。


事実を突いていたのはトランプだったのだ。


トランプが差別的であるというのは事実だ。

だが前項で見た通り、民主制とはもともと差別的なものなのだ。


自己を確立し、居住民を統制するためには敵が必要になる。

それはウクライナがロシアを敵にして民主制が機能し始めた道理でもある。


トランプが新しいのはそれまでの被差別階級、黒人ではなくメキシコを敵にした点だ。

またイギリスのブレグジットも、増えすぎたポーランド移民が問題となっているらしい。

民主主義は外国嫌いによって復活するというのがトッド先生の見立てである。

(この外国嫌いの段は長いため一旦省略)


トランプ誕生後、アメリカは持ち直したように見える。

収入の中央値は16年の足踏みを終えて上昇を続けている。


ただしこれはトランプだけの手柄ではない。

前代のオバマがバイアメリカンという政策をすすめ、国内産業への回帰を促した。

トランプはそれに乗ったと言える。


しかしもう一つ、アメリカが今現在も抱える問題がある。

それはアメリカの黄金時代を築いた「高学歴化」そのものである。


1940年代、7割を超えた高校進学率はすぐにほぼ全進学に変わる。

そして大学進学率も急上昇し、男女共に30%に達した。

そしてその後、大学進学率は3割で並行していく。


トッド先生が指摘する高学歴化最大問題は、学歴が階級社会を作ったことだ。


最初の兆候は1960年代のベトナム戦争だった。

アメリカ建国から1990年代のパパブッシュまで、米大統領に共通することがある。

それは華麗な軍歴である。


パパブッシュは戦闘機パイロットで小笠原沖で撃墜された。

付近の父島駐屯日本軍は食人をしていた。

運良く救助されたが、日本軍に捕まっていたら喰われていたという。

レーガン、ニクソンも幹部にまでなった軍歴がある。

ケネディ兄弟などは一番出来の良い長男がドイツで戦死している。

アイゼンハワーは誰もが知る大将軍だったし、リンカーンやワシントンもそうだ。


このように1990年まで、アメリカには同質性があった。

トップだろうと土方だろうと、昔は軍で生命をかけて戦っていた。


これがベトナム戦争の際に様変わりをする。

大学生に徴兵猶予が施されたのだ。

大卒であれば兵役を免除され、それ以下の学歴は戦うことよ余儀なくされる。

これによりアメリカの同質性が完全に壊された。

そしてこれは特権的な階級以外の何者でもない。


ベトナム戦争反対、とは大学生のスローガンだったと多くの人々が証言する。


それはアメリカに出現したあらたな階級社会の始まりだった。


大卒とそれ以下の給与格差も年を追うごとに鮮明になっていく。


大学は、何かを学んだり研究をする場所ではなくなった。


大学は上の階級への切符、または上流に残留するために必要な階級制作装置になった。


この捉え方は現実を的確に表現している。

それは現代日本であっても否定することはできないだろう。


アカデミア(教育機関)は、学問を学べばより自由になれるという。

またアカデミアは、自由で平等な社会を目指すともいう。


だが実際にやっているのは、階級創作であり、醜悪な建前に思える。


そして上流階級に行くための切符を買うために、学生は高額な学費をローンする。

その返済のために多くの人が四苦八苦する

それは建国時、アメリカに行くために多額の借金をする年季奉公人そのものだった。


アカデミアには左派が多く住居し根城となっている。

左派とは、もともと労働者と連帯をする人々の事であった。

それが今では、階級を作り、下の階級を見下す側にまわってしまっている。


日本であっても、心当たりはあり過ぎるほどあるだろう。

アメリカでも同様の状況がある模様だ。


アメリカ民主党は、選挙対策として、大卒と中退者を厳密にカテゴライズする。

そして中退者、それ以下の学歴の人々がトランプを応援するのを見てこう言った。


「嘆かわしい人たち」


ここに差別的な階級社会があるのは間違いない。


実際に寿命が縮んだ白人は、大卒以下の男性である。

中退者、低学歴の人々がトランプを応援したのは人種差別に共感したからではない。

彼らは黒人と同様福祉の削除にも打ちのめされていた。

大卒以上に生活に追い詰められて、自殺を強いられたのが彼らだからだ。


これらの現象が1970年代にごろ発生したと言い切れるのは殺人率の高まりである。

1960年代まで10万人あたり5程度だったアメリカの殺人率が10を超えるようになる。

2013年に4.7を記録するまで、先進国では稀なほどの他殺がアメリカで生じた。

一応、2010年代以降は落着したようだが、良い地点に落着したとはあまり言えないかもしれない。


というのは現在のアメリカは、他殺率こそ下がったが、刑務所収容率が異常なままなのだ。

アメリカというと自由の国というイメージがあるが間違いである。


アメリカはあのロシアよりも刑務所に収容される確率の高い国になる。

それは10万人あたり700人という500人のロシアのはるか前をいく。


ここでも率先して犠牲になるのは黒人であり、黒人収容者数はありえない比率まで高まる、

実際の麻薬使用率は黒人より白人が高率であるのに、圧倒的多数の黒人が逮捕される。

どうも黒人をさらに貶めて、刑務所を黒人ゲットーにして国家の安定を保ったのではないか。

これがトッド先生の推論である。

正しいかはわからないが、黒人男性に限れば、1/3が一生のうちに一度は刑務所に行く現場があるという。

アメリカはいまだ人種差別的な統治を維持している模様である。


希望が見えないわけではない。

2000年代、3%だった白人男性・黒人女性の結婚率が、最新では9%に上昇した。

20%に向上すれば、一応の蔑視解消と見られており後数十年あれば叶うかもしれない。

根強い偏見も、根気強い啓蒙活動により徐々に解消するのかもしれない。

問題は教育・アカデミアが新たな階級制度を作り始めている点だ。


ただしこれらは、アメリカだけの問題ではない。

この問題がアメリカで大きく見えるのは、世界で最初に高学歴化したからだ。

その波は、1940年代の高校進学率にまで遡る。

つまり、アメリカの今の姿は、我々の数十年後の姿なのだ。


今でもそうだが、今以上に学歴により階級が分かれた社会がもうすぐ来る。

下手をすればアメリカの非大卒白人のように、生命さえ縮まる階級社会がくる。


アカデミアの拡張・進化こそは人類の進歩につながる。

それが新たな階級を産むなどと、なんという皮肉だろうか。

そしてこれをどう解消すればいいのか、誰にもわからない。


とくに日独や中露にはこの問題は解決できないだろう。

直系家族や共同体家族の記憶がある国は、新たな階級をそのまま受け入れるかもしれない。


だが未分化な家族システムをもとに進化をくり返すアメリカなら、新たな階級を打破する何かを思いついてくれるかもしれない。



以上が、トッド先生の新刊のメモランダムとなる。

後で大幅補講や間違いの修正が必要で、できは3、4割といったところ。

原本を読んでも、すべてが正解とはおもえない。間違いも多そうだし理解違いもあると思う。

また原本は話がやたらあちこちに行ったり、特定の教授への攻撃も非常に多い。

だがその問題の炙りだしと推論組み立ての鮮やかさに呆然としてしまう。


この本はスタンガンみたいな本だ。

ページをめくるごとに、頭に押しつけられたスタンガンから電流を流されるような衝撃と苦痛と消耗があった。

だが書いてあるのは重要な事だ。

何度か再読してメモを完成させたい。




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