2.こんなことがありました。
ご覧いただきありがとうございます。
ノラであった時の記憶と、私の記憶が統合され、母親が出て行った経緯を思い出す。
決して育児放棄をした母親をかばう訳ではないが、精神的に参っていたのだと思う。
ノラの父親は、もともとは良いところのお坊ちゃんだったようで、お金使いが荒く、しかも女にもだらしない性格だった。
母親と駆け落ちして、家を飛び出してからは何か悪い事をして稼いでいたようだ。
両親共ノラには優しかったが、父親が女性からもらった手紙を母親がコートのポケットから見つけてしまい、烈火のごとく怒っていた姿とその時の父親のふてくされた姿は忘れられません。
そんな事が幾度もあって、ノラが3歳の時、とうとう父親は帰ってこなくなった。
父親が置いて行ったお金があったので、生活には苦労していなかったと思うけど、母親は近所の雑貨屋で働き始めた。
自分の食べたい物は滅多に買わず、ノラの好きな果物やお菓子をよく買ってきてくれていたと思う。
そして、ノラはすごくわがままだった。
真っ直ぐでサラサラな栗色の髪の毛
色白な肌と、大きな深緑色の瞳
よく走り回るので、健康的に引き締まった5歳児にして端正の取れた身体つき
両親が揃っていた時はベタベタに可愛がられ
近所の同い年の子供達からも憧れの存在で、少し、いや、かなり調子にのっていたのかもしれない。
普段は天使のように愛らしいのだが
注意を受けたり、叱られると母親にも覚えたての暴言を使う
気にくわないと、泣き叫ぶ
近所の人が見に来てしまうほどの大声を張り上げる
ノラは落ち着いたらケロっとしたもので、お母さん大好き!と抱きついては愛嬌を振りまいた。
母親は近所の人からは、父親がいないせいで子供がかわいそうだといつも言われていた。
そのうち、近所の子はノラと遊ばなくなり、ノラは一人で母親の帰りを待つようになった。
父親がいなくなり、外での仕事が増えた母親にはかなり負担だったのだろう。
母親から笑顔が少なくなった。
いつもノラが笑って、一緒に寝れば仲直りのはずだったのに。
ノラが笑顔をふりまいても、視線は冷めたものになっていた。
他にも原因はあったのかもしれない。
ノラが暴れる度に、もう限界…親子だけど気が合わない…とつぶやかれる。
この日はいつものちょっとした事が原因でノラは「お父さんのがよかった!お母さんがいなくなってよ!お父さん連れて帰ってきてよ!」と叫んだ。
母親は大きく目を見開いたのち、何度目か解らない「もう限界…」を呟き、大きく口を開けて叫んでいるノラの口の中にテーブルの上に置いてあった布(多分未使用のふきん)を丸めていれた後、母親は大きいカバンを持ち出してバタバタと忙しく動き回り、しばらくして扉が大きい音をたてて閉まる音がした。
失踪前に、叔母の家のドアに手紙を挟んでピンポンダッシュしたらしい。ピンポンはないのでドンドンダッシュか。
そして叔母が家に来て、私を回収した。
母よ、ノラを許してほしい。
言い訳かもしれないが、両親不仲で気づかない内に精神不安定だったのだと思う。
泣き叫んでる記憶を喚び起すと、本当に反省しかないし、自分の事だと思うといたたまれないが、私が日本人だった幼少期はもっとひどかったような気がする。
前世の両親には感謝しかない。