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転生犬語 ~杖と剣の物語~  作者: 館主ひろぷぅ
1章 義姉妹の誓い
33/50

33話 俺の言うことを聞いていればいい

 中年太りの角刈りの男が奇妙な形をした青いナタ状の刃物を振り回し、逃げ遅れた人々を斬りまわっていた。

 あれが武器屋のシンさんか。


 周辺は阿鼻叫喚。

 逃げ惑う人、血しぶきをあげて倒れる人。

 武器屋の露店の周りに血を流し倒れている人が10人以上いる。


「痛い、痛いっ!」

「誰か助けてぇぇっっ」


 幸か不幸か傷が浅く生きて地面にうずくまっている者もいる。


「杖を地面に突き立てる、ですか?」

「そう。

 マリちゃんは身体が軽くて、腕力も無いからすぐに吹き飛ばされるんや。

 攻撃する時も杖の反動の方が強くてすぐに身体が浮く!

 だからまず身体を固定させるねん」


 目を覆いたくなるほどの凄惨な現場なのに、僕は冷静にマリちゃんに説明をしてる。

 おかしいな。

 恐怖も憐憫も何も感じない。

 考えるのは現状把握と対処の事だけ。

 この世界での最初の3日で死体を見過ぎて慣れたのか。


「わかりました」


 「うぐるるるるるぅぅぅぅぅっっ!」


 白目を剥いたシンさんはマリちゃんに気が付くとナタを握り直し近づいてくる。

 緑の猿や砦のボスと同じように、腕の筋肉を倍に膨らませながら。


「えいっ!」


 マリちゃんが杖を伸ばして木の床に突き立てる。

 そうなのだ。

 この広場も他の場所と同じように木の板で舗装されていた。


「もっと深く突き刺せへんか?

 土の中で固定させないと…ってマリちゃん、盾!」

「うがああああああああっっ!!」


 モタモタしてる間にシンさんが距離を詰めてナタを振り上げていた。


 マリちゃんは杖の頭を平たい板に変形させてナタを受け止める。

 高い金属音の後にマリちゃんの身体から激しい振動が伝わってくる。

 それでも砦の時のように吹き飛ばされなかった。


 「ぐあああああああっっ!」


 シンさんは腕を荒れ狂う風車のように激しく振り回してナタを盾に叩きつける。

 時折右から左からと横薙ぎに斬りつける。

 その動きに合わせて床に刺さった部分を支点に左右へと盾を振るマリちゃん。

 その度に木の床のひび割れが大きくなっていく。


「反撃はできないの?」

「無理です。

 相手の動きが早すぎて隙がありません!」


 メキッと音をたてて木の床が割れた。

 支えを失い相手の勢いに押されマリちゃんは尻餅をつく。

 その衝撃で肩から落ちそうになった僕は必死にしがみつく。


 白目のシンさんはナタを空高くかかげ今にも振り下ろさんとしている。


 ヤバいヤバいヤバい!

 支えを失ったらマリちゃんは自分の力だけで相手の一撃を支えきれない。

 ナタに斬られなくても地面に強く押しつけられて大怪我は免れない。


 金の杖の今の形状は。

 盾と取っ手とそこから真っ直ぐ下に伸びる尖った棒の構成となっている。

 盾の部分を上に掲げている今、尖った棒の先は。


「マリちゃん、杖のお尻をヤツの腹に差して固定!」


 マリちゃんは躊躇する事無く尖った先を伸ばして相手の腹に差した。

 僕の命令で愚直に人の腹に穴を開けるマリちゃんに不安と恐ろしさを感じたが。

 今はそんな事言ってる場合じゃねえ!


 振り下ろされたナタは盾部分に当たるが、杖の反対側が跳ね上がり相手の腹を大きく引き裂いた。


「ぎひぃぃっぃぃぃぃぃっっっ!!」


 腹に風穴を開けられた痛みで振り下ろしの力は弱まり、マリちゃんは無事。


 シンさんは痛みに悶え血を吐きながらも、さらにナタを振り上げる。

 

 そこへ。

 ガラガラと馬車の音が近づく。


「マリィィィィッッッ!!」


 ミルミルが馬車から飛び降りると、魔剣ヤン・クオンを振り上げ走る。


「んぐぉ?」


 シンさんがミルミルの方を向いた時には、ナタを持った右手は斬り飛ばされていた。

 手首の付いたナタは回転して、10メートル先の木の床に刺さった。


「テメーは!

 俺のマリーに手を出して無事に済むと思ったかっ!」


 武器屋が手首を押さえて膝をついたのを見て。


「マリちゃん、

 立って走って!」


 立ち上がるとミルミルと並走するマリちゃん。

 ミルミルが片手で抱き上げると、さらに並走する幌付き馬車に飛び乗った。


「待って!

 モーリエは…」

「いますよー。

 広場のマリーさんの所まで案内したのも私ですよー」


 モーリエが御者席の隣で振り返って手を振る。


「ちょっと揺れるからみんな落ちないでよ!」


 ミサキが叫ぶと馬車が大きく揺れる。

 バザールの露店の棚やテントを豪快に弾き飛ばして馬車は進む。


 マリちゃんはミルミルがしっかり抱いて床に伏せる。

 モーリエはバランスを崩して落ちそうになるも、背もたれにしがみ付いて事なきを得た。


 幌の後ろのカーテンから見えたのは。

 騒ぎを聞きつけて広場に入ってくる大勢の兵士達だった。


 北の広場の話は瞬く間に城国中に広がり、民衆や兵が混乱してる中を僕たちは北門から飛び出した。


 昼間の城門には検問や入城税を払うための行列が出来る。

 僕らも入場の際は随分待たされた。


 ミサキは北門の番兵にこう叫んで道を開けさせた。


「魔剣に斬られたケガ人を乗せているの!

 急いで通して!!」


 小賢しい女だ!

 良い意味で、良い意味で言ったんだからな。


 よく考えればケガ人を城外に出す意味がないのだ。

 その判断が出来ないほど、城国内に突如魔剣が現れた事にみんな慌てふためいていた。


「この小さくて可愛い子はいつも血に濡れてるわね」


 モーリエに御者を変わってもらったミサキが幌に入るなり言った。


「ケガはしてないの?」

「これが幌ですか、ダルマちゃん」

「うん、そうだよー」

「わー、無視されたー」


 荷台の中をキョロキョロ見回すマリちゃんにはミサキの質問は届いてない。


「ケガは無さそうだ。

 変わった杖の使い方で防御していたな」


 代わりに大小並んだクッションの一つの上に寝転がるミルミルが応えた。

 背中の魔剣はススス…とミルミルの肩を滑って、横になるのに邪魔にならないよう身体の前にまわる。

 あら、意外と気の利く魔剣。


「あれはお前の指示か?」


 ミルミルは僕を睨んだ。


「そうやで」

「まあ、マリーが強くなるのはいいけどな。

 シルトはなるべく起さないよう気を付けてくれ」

「なんでや。

 シルトはマリちゃんが心を取り戻してる証し。

 喜ぶところやん?」

「同情や哀れみの心を取り戻したらどうすんだよ!

 敵に情けをかけてたらこっちが斬られっちまう」

「さっき男の腹を刺せと言ったら躊躇なく腹を刺したんや。

 そんなの普通の女の子がする事やないやろ!」

「それでいいんだよ。

 俺の言うことを聞いてれば死なねえよ」


 まったくこの女ときたら。

 自分の都合のためにマリちゃんを操り人形のままにしろと?


 くぅぅぅ…とお腹の虫が騒ぐ音が響く。


「おなかが空きました」

「そうそう。

 マリちゃんに食べさせたくてアレを買ったの。

 ここの名物だって!」


 もう食べ飽きたシラバ焼きが出てきた。

 マリちゃんも飽きて…めっちゃ食べてるー。


 お腹を満たしたマリちゃんはミルミルの横に寝ころんで身を寄せる。

 腕枕を貸したミルミルは少女を抱き寄せた。


「例えばさぁ」

「ああ?」

「お前が見ていないところで、

 カロンみたいな悪いヤツがマリちゃんを利用しようとしたら。

 十人殺せって命じたら、十人の身体に穴を開けるんだよっ」

「そんな事、

 俺がさせねえよ」

「四六時中見張るなんて出来ひんやん!?

 自分で善悪が判断出来るよう

 心を取り戻さないとダメなんだって!」

「確かにダルマの言う通りね。

 食べ物くれる人の命令なら全部聞きそう」


 珍しくミサキが同調してくれるが。


「うっせえ、うっせええっ!」


 荷台の床を足で叩きつけて叫ぶミルミル。

 駄々っ子かよ。

 頑なに僕の意見を聞かない。


 マリちゃんがなだめるようにミルミルの頭をなで始めた。

 それでも怒りが治まらず足踏みをやめない。


 心を取り戻してミルミルが得することを考える。

 もし強いてひとつあげるとすれば。


「お前、マリちゃんの笑顔は見たくないのか」

「うっ!?」


 ミルミルが大人しくなる。 


「私、見たい!」


 ミサキには聞いてねーよ。

 でもマリちゃんと一緒にいる時間が長くなるほど、『笑顔を見たいか』ってフレーズは深く胸に刺さるはず。


 目を固くつぶり眉を寄せて悶々と苦悩に身をよじるミルミル。

 どう答えるか待っていると。


「なぁ…マリー。

 いつまでも一緒にいるって誓ったよな、な!」


 マリちゃんに泣きついた。


「はい」

「そうだ、そうなんだ!

 俺はこいつを守るために魔剣とも契約したんだ。

 絶対一人にはさせねえ!

 だからシルトなんか必要ねえっっ!!

 この話はこれでお終いだっ」


 これ以上話す気は無いと、ミルミルはマリちゃんを抱きしめてタヌキ寝入り。

 マリちゃんは本気で寝入っていた。


「わー。

 結構エゴい女ねー」

「二人には僕らの知らない2年間の絆がある。

 でも。

 僕は約束したんだ。

 マリちゃんと二人で心を取り戻すって!」


 ミサキが目を丸くして僕を見る。


「へえぇ~」

「何だよ?」

「アンタはもっと薄情な人間…じゃなかったイヌかと思ってた」

「イヌじゃなくて獅子族な。

 マリちゃん以外の人間はみんな死ね!

 って思ってますけど?」

「あー。

 やっぱダメだわ、この駄犬」


 ミサキの目つきが蔑みに変わる。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「つまらねえ!○ね!」


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