32話 旅人必見!シラバ城国観光ガイド・天使と食すシラバ名物!
栄養を十分に摂り血行が良くなったモーリエは美人だった。
地球で言うと東洋系なので彫りの深い顔のミルミルより幼く見えても。
そしてドジ。
お茶はよくこぼすし、よく何かに蹴つまずいてるし。
他人に迷惑をかけると小さくなって謝り、バケツにつまずいた時には、
「どうしてこんなところにいるの!?」
バケツに説教していた。
ほっとけないというか、なんだかからかって遊びたくなるような可愛さがあった。
シラバ城国滞在4日目の朝。
モーリエは生成り色のマントのフードを深くかぶり外に出た。
まだ他人の目が、特に男性の視線にさらされるのが怖いらしい。
商店街は朝から人通りが多く活気がある。
「俺とミサキは馬車を取りに行く。
モーリエはマリーを連れて城の北の広場で待っててくれ」
「あの荷馬車に幌を付けてもらっているの。
クッションも買ってくるから少しは乗り心地は良くなるわよ」
いつものグリーンの絹のドレスのミサキと黒の皮のツナギを着たミルミルが、温泉街の広い十字路で僕たちと別れるよう歩き出す。
ツナギの前部分を半分開き、黒の見せブラが大きな胸を強調させている。
「ほろ、って何ですか」
「それは後で見てのお楽しみにしようね」
白が基調のシラバの庶民服のワンピースを着たマリちゃんの質問を軽く流すとミサキに聞く。
「新しい馬車、って選択は無いんかいな」
シラバの一般的な乗馬用馬車には木のバネが車軸につけられ、乗り心地は快適そうだ。
「うるさい。
私達はまだ無収入なのよ。
贅沢言うな」
「モーリエ、マリーを頼む」
白い布を巻いて隠された魔剣を背負うミルミルの後にミサキが続き、雑踏の中に消えていった。
「頼む、って言われても。
守られているのは私の方なんだけどな」
「モーリエ、
他人でも女性なら話せるよな」
「え、うん」
「じゃあ北の広場の場所を道々聞いてな。
僕が話しかけると色々面倒やろ?」
「確かにそうですね」
「そうなんですか?」
「そうなんですよ」
マリちゃんの胸に抱かれた僕は見上げて応える。
マリちゃんが道を聞いてもいいけど、今の状態だと絶対それ以外の質問をして話が進まなくなるだろう。
僕たちは北を目指してのんびり歩く。
途中に屋台があると寄って買い物しては食べ歩く。
「マリちゃん、お腹はあまり空かないの?」
「そりゃこれだけ食べてたらお腹いっぱいですよー。
名物シラバ焼き、美味しーっ」
シラバ焼きは丸太に見立てた円柱のハンバーグに棒をブッ挿した食べ物。
緑のソースをかけて食べる。
味にクセのあるジューシーな肉と甘みのある緑のソースが口の中で混じりあうとハフハフ。
ハフハフ熱いけどハフ、形容しがたい深みのある旨味へとハフー。
ごくん。
何とかって名前の動物と植物で作ったご当地フードやね。
説明されてもわからん。
「いつもより食べるスピードが遅いね」
2本買ったマリちゃん用のシラバ焼きがまだ一本手に残っている。
「杖」
「え?」
「これを杖だと思うようにしたら、魔力をあまり使わなくなりました」
袖に隠した金の棒をひょいと器用に出す。
金の棒はマリちゃんが頭にイメージするものに形を変える。
形を変えるには魔力を使用する。
お腹に巻きつけても腕に巻きつけても形を変えている訳だからずっと魔力を消費していたそうだ。
同じ金の棒でも『棒』とイメージするか『杖』とイメージするかで魔力の消費が違う。
『棒は杖』と言った魔剣の言葉に意味はあった。
千年の間に操金術士と会った事があるのだろうか?
なぜ金の棒をお腹に巻いたりしないといけないのか。
「お嬢さん、
その金の棒を良く見せてくれないか!」
近くの商店からおじさんが寄ってきた。
目利きの良い商人には金の杖の輝きはおもちゃのソレではないとわかるらしい。
とはミルミルとミサキの証言。
「マリちゃん、モーリエ。
走って、逃げるよ!」
とにかく目立つので堂々と持って歩けないのだ。
商店街を抜けると人通りの少ない広い道に出た。
道はキレイな白木で舗装され、道の両側の塀が高い。
「ここは高級住宅地ですねえ」
「高級住宅地ってなんですか?」
「エラい人やお金持ちが住んでる所だよー」
「城の重臣の家も多いから見回りの兵も多いですよ」
「ウロウロしてると危険人物扱いかな?」
「そうですねぇ。
私達は外から来た客ですから見つかると面倒ですねえ。
ここを抜けたら北の広場まですぐです。
急いで行きましょうか」
早足で歩き出すとマリちゃんは空を仰ぎ見る。
「あれは何ですか?」
「木のいえ…
じゃなくて城?」
「シラバ城ですね。
立派で大きな城ですねえ」
モーリエが感想まじりに答えてくれた。
円柱の濃い茶色の木製のタワーの上に緑の木製のドームを載せた城は、巨大な「木のいえ」の玩具にも似ている。
「あれが城ですか、ダルマちゃん」
「城らしいねえ。
上ばかり見てると転ぶよー、マリちゃん」
十字路に差し掛かると視界の端に何かを捉えた。
左に首を向けると。
1ブロック先の十字路に、白い髪の少年。
あれは…どっかで見た…
ああ、露天風呂を見上げてたヤツだ!
ここまで追ってきた?
ストーカーか!?
狙いは美少女か、大人の美女かどっちだ?
一応警戒するよう2人に伝えなきゃ!
「ダルマちゃん?」
身を硬くした僕に気付いたマリちゃんは僕の視線を追って左を向く。
少年は身を翻して走り去るところだった。
マリちゃんは一瞬止まると。
すぐに走り出した。
「マリちゃぁぁぁん!!」
モーリエの叫びが後方へ遠のいていく。
「マリちゃん!?」
下から見上げるその顔はいつも通り無表情に見えるが、形容しがたい感情が隠れているように見えた。
人通りの多い広い場所に出た。
露店が並び人で賑わっている。
見回しても白い髪の少年の姿を見つけられなかった。
「ハァハァ…何ですかあれは!?」
僕の身体を持ち上げ反転させて、目の高さで向き合うマリちゃん。
「あれって…白い髪の少年?
マリちゃんはアイツを知ってるから追いかけたんやないの」
「知らないです。
…でも…」
珍しくマリちゃんの目が忙しなく泳いでる。
まるで何かを探しているような。
「でも、なに?」
次第に乱れた呼吸が整うと再び僕を胸に抱き寄せた。
「わからないです…」
マリちゃんの服は薄く濡れて汗のにおいが立ち上る。
密着した胸からは激しい鼓動音が伝わってくる。
ああ、そうか。
もしかして言葉を探していたのだろうか。
でも心の欠けたマリちゃんには今感じてる何かの正体がわからないんだ。
なんて不憫な。
この鼓動のように少女の心の声が聞けたらいいのに。
「あーいたいた!
…ハァハァハァ…もーっ勝手に走り回らないでください!
マリちゃん、めっ!!」
追いついたモーリエが中腰になって息を整えながらマリちゃんの頭の上に手を乗せる。
「置いてってごめんなさい」
「ごめんなさい」
僕が見本に頭を下げると、マリちゃんもお手本通りに頭を下げる。
「良かったわ、もしマリちゃんが迷子になんて事になったら。
ミルドレイズさんに殺されかねないもの」
「まず生皮からはがされたかも、やね」
「ひぃぃぃっ!」
本気でビビるモーリエ。
でもミルミルなら本当にやりそうだ。
「ここが北の広場ね。
大陸中央の交通の要所だから、
東西の品物が集まってここで毎日バザールが開かれているんですって」
モーリエが落ち着くと僕たちは広場を散策する。
店先で大きな声で客引きをする人。
値引き交渉で興奮している人。
店番しながら見た事の無い弦楽器を弾く人。
泣いてる子供に笑う大人達。
多くの種類の人がたくさん行き交っている。
「賑わいすぎて、馬車が通るとこがないね」
「そうですね、
今のうちに私達で通れるところを探しましょうか?」
広場の西側。
最初は悲鳴だった。
随分はしゃいでるヤツがいるなあ、としか思わなかった。
そこから喧噪が波及していく。
「んー、
なんだか騒がしいなー」
「みなさん広場から出ようとしていません?」
「お、確かに」
マリちゃんが急に僕を強く抱きしめてきたので驚いた。
「ど、どうしたの?
マリちゃん」
「出ました」
なにが、と聞く前に金の杖が出てきた。
それで大体察しがついた。
まさか、そんな。
「魔剣を持ったヤツが暴れているって!」
「武器屋のシンさんが魔剣を手に…」
「客が何人も斬られたって!!」
逃げ惑う人々が発する言葉から徐々に騒ぎの詳細が解ってくる。
マジか…
やっぱり、また魔剣。
この世界はそんなにその辺にゴロゴロ魔剣が落ちてんのか?
僕はマリちゃんの左肩に上がってモーリエを振り返る。
「モーリエはみんなと逃げてミサキの馬車を待て!」
「ええ~っ!?
一人にしないでぇ~、一緒にいくよ!」
そういえば砦でボスが魔剣を手に取った時にはモーリエは殆ど意識が無く、魔剣の怖さを知らないのか。
「アホか!
お前がおったら逆に足手まといやねん!
はよ逃げろや!!」
マリちゃんは逃げる人々の波に逆らい、器用に人を避けながら進んでいく。
どんどん遠のくモーリエに声が届いたのか、身体を反転させてみんなと一緒に広場の外へ逃げていく。
よし、それでいい。
「ダルマちゃん、怖くないですか」
「僕とマリちゃんは最強のコンビやで。
怖いモンなんかあらへん!」
正直怖い。
でも僕は温泉宿でのんびりし過ぎて伝え忘れていた。
操金術が強くなる方法を。
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